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In Partnership

建築家・妹島和世が描く、千変万化のブルガリ オクト フィニッシモ

ブルガリのオクト フィニッシモから、安藤忠雄氏に続いて2人目となる日本人建築家とのコラボレーションモデルが登場した。デザインを委ねられたのは、妹島和世氏。建築的なアプローチで、ブルガリのアイコンは新たなオブジェへと生まれ変わった。

 ブルガリは2012年、ブランドの新たなるアイコンを作り上げた。八角形のケースが、110面ものファセットカットによってかつてない立体感を呈するオクトである。スポーティで力強く、同時に各ファセット面の斜線が、内側へと連続する正方形で結び付けられる幾何学性で普遍的な美を併せ持つ。独創的かつ複雑な造形美によってオクトは、一躍スターダムにのし上がった。

 そして2014年、110面体のケースは超薄型のオクト フィニッシモへと進化する。初作のトゥールビヨンに始まり、8年連続してさまざまな機構において世界最薄を樹立。これは2010年に実現された、時計製造に関するほぼすべての垂直統合による成果である。極薄のケースを110面体に形作り、さらにサテンとポリッシュに仕上げ分けるのは極めて困難である。しかし自社製造ゆえに、納得がいくまでトライ&エラーが繰り返すことが可能だ。こうして技術を研鑽しノウハウを確立したオクト フィニッシモは、カジュアルシックな極薄複雑時計という、かつてないジャンルを切り拓いた。また2017年に登場したオクト フィニッシモ オートマティック(現オクト フィニッシモ)は、わずか5.15mm厚(チタン製の場合)でありながら、ねじ込み式リューズを備え、30m防水を確保するなどデイリーウォッチとしての優れた性能を実現し、極薄時計の概念を変えた。

 近年ブルガリは、さまざまなアーティストやクリエイターとコラボレーションをしている。なかでも重要なアイコンであるオクト フィニッシモをベースとする場合、その人選は特に慎重を期するという。2019年と2021年には建築家・安藤忠雄氏との、そして2022年には現代美術家・宮島達男氏とのコラボレーションも実現された。


妹島和世氏によるオクト フィニッシモの新表現

 ブルガリ ウォッチ プロダクト クリエイション エグゼクティブ ディレクターであるファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏は、「私たちは常に新しいインスピレーションと、象徴的なオクト フィニッシモの時計を再解釈する新しい方法を探しています。ブルガリのクライアントの多くは芸術愛好家であり、これまでのコラボレーションは彼らに高く評価されています」と語る。

 そして2022年9月、ブルガリは才能あふれる日本人とオクト フィニッシモとの新たな出会いを発表した。選ばれたのは、妹島和世氏。個人ではもちろん、西沢立衛氏とのユニット・サナア(SANAA, Sejima and Nishizawa and Associates)名でも活動し、国内外でいくつものプロジェクトが同時進行する、今世界で最も活躍著しい女性建築家である。2010年には、建築界で最も権威のあるプリツカー賞をサナアとして受賞。家具や照明、さらには西武鉄道の特急車両「ラビュー(Laview)」のデザインでも、高く評価されている。

 コラボレーションを打診された妹島氏は、「時計のような小さなオブジェクトに向き合い、建築で表現してきた概念を適用することは、とても興味深く感じました」と前向きに捉えた。一方、ファブリツィオ氏は、「ブルガリ ジャパンから妹島氏とのコラボレーションの可能性があると聞いたとき、非常にうれしく思いました。彼女の建築は、環境に溶け込む清潔で光沢のあるファサードをひとつの特徴としています。また大きな窓を建物に組み込んで、屋内空間と屋外空間を視覚的に結びつけることも好みます。そうしたスタイルは、モダニズムを伴う時計のデザインにも相通ずるもので、私にとって非常に興味深いものだったのです」と、妹島氏を大歓迎した。

ブルガリ ウォッチ プロダクト クリエイション エグゼクティブ ディレクター、ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏

建築家、妹島和世氏 ©Maciej Kucia(AVGVST)

 かくしてプロジェクトはスタートした。いくつか妹島氏が提案したなかでもファブリツィオ氏は、「彼女が2018年に発表した、半透明パネルと鏡面パネルで構成された弾丸型のインビジブルトレイン(見えない列車)のコンセプトに近い時計、との案に非常に引かれました」と、振り返る。

 妹島氏はそれに応え、オクト フィニッシモのケースとブレスレットをフルポリッシュに仕立てた。さらにダイヤルからはインデックスとロゴを無くし、全面にミラー効果を施した。そしてサファイアクリスタル風防には、自身がデザインしたドット模様が加工されている。オクト フィニッシモの形を保ったまま、光を反射し、周囲が写り込む鏡のように設え直したのである。

サファイアクリスタルのシースルバックにはLimited Editionの文字とともに妹島氏のサインもあしらわれる。

ダイヤル、そしてフランジもミラー状のため、斜めから時計をのぞき込むと、ダイヤルが無限鏡のような見え方に。

ダイヤルやケースだけでなく、ブレスレットまですべてがポリッシュ仕上げ。周囲の様子が時計にすべて写り込む。

「妹島さんは、ひとつの素材とひとつの色で作られたケース、ダイヤル、ブレスレットのミラー効果によって、“見えない時計”を作り上げたのです」

– ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏

ダイヤルの中心から外側に向かうにつれて徐々に密になるよう変化していく風防のドットデザイン。

「時計の見え方は、身に着けている人や時間、場所によって流動的に変化していきます。この時計は、身につける人それぞれによって完成されます」

– 建築家、妹島和世氏

 オクト フィニッシモは、サテンとポリッシュに仕上げ分けることで110面体の立体感とニュアンスとを高めていた。それがフルポリッシュ仕上げになったことで、八角形と円が重なるフォルムが純化されることとなった。さらにダイヤルもミラー状として、すべての要素に連続性を育んだ。

 「建築は、周囲の環境とそこを訪れる人との関係性がとても重要です。そしてこの時計も建築のように、周囲や人との関係性が築けるものにしたかった。時計は建築よりもはるかに小さいですが、鏡のように周りの環境が写り込むことで大きな広がりや奥行きが生じます。人が黒い服を着れば、時計は黒を映し出し、人が移動すれば、時計はその場所に近づき、周囲の色や光を映し出すのです。ダイヤルに写り込んだ青空のなかで針が動いているように見えたり、時計の見え方は、身につけている人や時間、場所によって流動的に変化していきます。この時計は、身につける人それぞれによって完成されます」と、妹島氏は、この時計に込めた思いを語る。

 110面とダイヤルすべてに写り込みが生じることで、時計と周囲との境界はあいまいになる。妹島氏は、時計自体だけでなく、それがある環境との連続性までも生み出したのだ。この時計は強烈な光線を浴びると、時計が全反射して光のなかに姿を隠す。ファブリツィオ氏は、これを「妹島さんは、ひとつの素材とひとつの色で作られたケース、ダイヤル、ブレスレットのミラー効果によって、“見えない時計”を作り上げたのです。そして時計とそれを身につける人との関係性は、一層強化されました」と、高く評価する。

 全面ミラーのダイヤルは、サファイアクリスタル風防のドットによって針の視認性が確保される。そのドットは針の中心が最もよく見え、外側に向かうにつれ徐々に密になるようデザインされている。「こうすることで、ケースとダイヤルとの分離を柔らかくしました。またドットは角度によって、針がはっきり見えたり、ふわっと消えるようにもなっています」と妹島氏は言う。

オクト フィニッシモ 妹島和世 限定モデル
Ref.103710 177万1000円(税込)

ケースとブレスレットは、ブラックポリッシュに近いほどの鏡面仕上げで、写真撮影が困難なほど周囲のすべてを写り込ませる。光に煌めき、華やかである一方、光が乏しい場所ではシルバーのワントーンとドットによる外装により静謐な印象を生み出す。
SSケース。ケース径40mm×ケース厚6.4mm。100m防水。自動巻き Cal.BVL138:2万1600振動/時、約60時間パワーリザーブ。世界限定数360本。2022年11月発売予定。

 

光の反射と透過を操作した時計デザインの新境地

 ドットによるガラスの透過率の操作は、妹島氏の作品によく見られる表現手法だ。前述した特急列車Laviewの車窓ガラスも、全面にグラデーションのドットを施し、壁面と窓をスムーズに連続させている。
 またメタライゼーション(コーティング)によるドットは、透明なサファイアクリスタルに反射効果をもたらし、わずかな写り込みが生じてほかの要素との連続性が生まれる。サナアとして手掛けた、パリの老舗百貨店ラ・サマリテーヌの改修プロジェクトでも、新築のリヴォリ棟のファサードを覆う波型のガラスをドット加工した。こうすることで生まれる反射により、通りの対面の街並みを写り込ませ、周囲との共存を図ったのだ。

 妹島氏は、今回のコラボレーションは「オリジナルのデザインを尊重し、同時に新たな視点をもたらすアプローチを見つけ出すこと」だったと振り返る。元のデザインは確かに存在し、一方で時計の見え方は写り込みや反射によって流動的に変化して、まったく別のオブジェクトのようにも見える。光の反射と透過を操作した連続性を時計にもたらすことによって、妹島氏はオクト フィニッシモを見事に生まれ変わらせたのである。

 

Photos:Koji Yano(STIJL) Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Norio Takagi