trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Hands-On H.モーザー ストリームライナー・フライバック クロノグラフ オートマティックを実写レビュー

ブレスレットウォッチ全盛の2020年において、複雑機構を備えたSSモデルという稀有な個性をもつ1本である。

H.モーザーが名乗りを上げた、ステンレススティール製のスポーツウォッチ市場で、このストリームライナー・フライバック クロノグラフ オートマティックは一定のインパクトを残した。アメリカ本国のジャック・フォースターによる記事でその詳細は取り上げたが、日本でも実機を撮影する機会に恵まれたのでそのディテールを見ていきたいと思う。

 冒頭で述べておきたいのが、この時計は100本限定で480万円(税抜)という、非常に限られた人をターゲットとしたものであるということ。しかしながら、そこには絶対的なモーザーらしさと、彼らが考える理想的な自動巻きクロノグラフとしての姿がある。そして、ここ最近、毎年のSIHHで発表してきた、スイス アルプウォッチやスイス チーズ ウォッチなどを見ると、彼らの時計には何かしらユーモアやメッセージが込められていると思って間違いない。
 それを受け止められる人はこの対価を喜んで支払うのだろうが、本機に込められたその魅力が一体何なのか、本稿では明らかにしていきたい。

ストリームライナーを着用したリストショット。

ADVERTISEMENT

複雑なケースと有機的デザインが採用されたブレスレットは、細かく仕上げ分けられている。


アジェノー製フライバック・クロノだけで価格相応の価値

 まず、時計の内部から考察を始めたい。本機に搭載されるのは、フライバック機能が付いたクロノグラフであり、アジェノー社というスイス・ジュネーブの会社と共同開発したもの。この会社は、ハリー・ウィンストンにてオーパスシリーズを手掛けていたジャン・マルク・ヴィダレッシュ氏が率いており、独自のクロノグラフ開発で著名。同社には、秒・分・時のクロノグラフ積算計をセンターに備えた「アジェングラフ」という画期的なクロノグラフがあるが、その60時間積算計の代わりにフライバック機能をもたせたのが、ストリームライナーに搭載されるムーブメントである。同社とは、H.モーザーが一部パーツ製造を請け負っていた関係性から、この開発がスタートしたそうだ。

 さて、構造をほぼ同じとする「アジェングラフ」というムーブメントは、僕も現地取材で見たことがあるが、その革新的な特徴に感動した思い出がある。

 この自動巻きクロノグラフであるがローターが文字盤側に配されているため、ケースバックからその複雑機構の全容を拝むことができる。これは単に時計愛好家の鑑賞のために配慮されたわけではなくて、スペースの関係上水平クラッチが幅をとるために、自動巻き機構がムーブメント上の同じ層では置きづらいという問題に対応した結果だ。
 また、ムーブメント中央に配されているクロノグラフ機構は、その部分のみ取り外しが可能なモジュール構造となっており、何か故障が起きた場合、不具合のある箇所の判別を簡単にする効果があるというわけだ。総パーツ数434にも及ぶ機構だからこそ、機械としてのメンテナンス性が高いことは信頼につながる。

 このクロノグラフの伝達方式はクラシカルな水平クラッチを採用しているが、2つの点で驚くべき工夫がなされている。1つは先にも述べた、文字盤側にローターを配したことで、水平クラッチと共存しずらい自動巻き化を実現したこと。
 2つめとしては、クロノグラフ車にフリクションホイール(歯のない歯車)を採用して針飛びなどを抑えられるようにしたことだ。水平クラッチの弱点として、力が伝達する際に歯車が噛み合わない場合に針(時刻表示)がズレてしまう性質があるが、このクロノグラフでは歯をもたずに摩擦を発生させる素材の車を用いてその問題を解決している。

 シンガーのトラック1がレザーブレスで約450万円、このストリームライナーがSSブレス480万円(全て税抜)となっており、ブレスレットの分を差し引けば(上写真のクオリティだと思えばどうだろう?)、ほぼ同じようなプライスでこのフライバック クロノグラフが提供されていることになる。このムーブメントは、厳密にはモーザーの自社製ではないが、そもそもの生産数が限られた希少なコンプリであり相応の価格になっていると思う。量産品としての自動巻きクロノグラフというより、いまや一部メゾンしか手掛けていない高級な手巻きクロノグラフに近い性質を帯びているのだ。


Less is Moreの精神が息づくダイヤルの表情

 クロノグラフというのは比較的メジャーな複雑機構で、大手メーカーでは必ずといっていいほどラインナップに加えている。ただし、それが自社製・汎用にかかわらず、このストリームライナーのように、センター針でインナーベゼルに配された積算計を指す機構は稀である。一般的には、インダイヤルを2つないしは3つ配置したものが普通だが、H.モーザーは意図的にそれを避けていたのだろう。その理由は、同社のシグネチャーであるフュメダイヤルとLess is Moreのスピリットだ。

 モーザーはこれまでに、スモールセコンドやトゥールビヨン、カレンダーを搭載した時計は発表してきたが、過度にダイヤルスペースを侵食する機構は遠ざけている。表示が多くなるクロノグラフはまさにその代表例だったわけだが、アジェノーと共同開発したこの機構によって、フュメダイヤルの美しいグラデーションを全面で表現しながら、複雑機構の表示も備えることに成功したのだ。必要最小限の意匠で、複雑な機構と文字盤の両方を融合したモーザーのクラフツマンシップには非常に敬服する。

 本機の魅力は既に述べたことが主要な要素となるが、最後に着用感にも触れたい。大きめのクッションケースと、三葉虫のような見た目をしたブレスレットが個性的だが、このブレスレットが良い仕事をしている。434パーツにも及ぶムーブメントはボリュームがあり、42.3mm × 14.2mmという若干厚めのSSケースに収まるとずっしりとした重量感がある。しかし、幅広で蛇腹のように連なったコマが腕へのフィット感を担保してくれるのだ。また、時計単体で見ると生物のような形のブレスレットに抵抗がある人もいるだろうが、着けると意外にも悪目立ちせずモダンな雰囲気をも醸し出す。これは、必要最小限で施されたポリッシュ仕上げと、ケースからブレスレットへ一体感のあるサテン仕上げが絶妙なバランスだからだろう。

 文字通り、細部にまでLess is Moreが息づいたストリームライナーは、H.モーザーの今後の展開も期待させる、同社の思想を体現する時計である。

スペックなどの詳細は、ジャック・フォースターによるIntroducing記事をご覧ください。

さらなる詳細はH.モーザー公式サイトへ。

世界限定100本。480万円(税抜)。