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In-Depth マッセナLABとラウル・パジェスが150万円以下のコラボレーションウォッチに手仕上げの独自ムーブメントを搭載できた秘訣

マグラフは、マッセナLABの最も野心的で成功した時計である。


Photos by James K./@waitlisted

「ウィリアム・マッセナ氏は、ジャーナリズムから小売、コンサルティング、オークションまで、時計の様々な側面を見てきた、この業界では数少ない人物であり、彼の時計に対する影響力は無視できない」

 ベンは2015年にマッセナ氏がTalking Watchesに出演した際の人物像として上記のように評したが、丸7年近く経った今でもその評価は健在だ。いわゆる“Web上の時計コミュニティ”で長い時間を過ごしていれば、マッセナの名に出会うまでにそう時間はかからないだろう。しかし、最近の大きな違いは、最初に目にする可能性のあるキーワードに台頭した点だ。

  Timezoneのようなオンラインフォーラム(彼は当サイトのマネージング・ディレクターを務めた)やアンティコルム(Antiquorum)のようなオークションハウス(彼は時計事業部門CEOを3年間務めた)ではなく、マッセナLAB(Massena Lab)として知られる事業の一部として、同氏の名を最初に目にすることが多い。

William Massena

 マッセナLABは、マッセナが既存の時計ブランドや時計メーカー(ウニマティック、ハブリング²、ミンルイ・エラールルカ・ソプラノなど)との限定コラボレーションのほか、ユニバーサル・ジュネーブに影響を受けた2020年のユニ・レーサー(Uni-Racer)などマッセナが長年愛してきたヴィンテージウォッチに影響を受けた自身のブランドのタイムピースも展開するコンセプトスタジオ、デザイン会社として設立された。しかし、最新のマッセナLABの時計は、それらのビジネスを完全に融合させた初めての作品となった。

 そして、これまでで最も興味深く、魅力的なマッセナLABウォッチとなったのだ。

どんな時計なのか?

マッセナLAB マグラフは、マッセナとスイスの独立系時計メーカー、ラウル・パジェス(Raúl Pagès)とのコラボレーションによって誕生した。パジェスは今年2月にデテント脱進機を搭載した腕時計“レギュラトゥール・ア・デタントRP1(Régulateur à détente RP1)”を発表して以来、小誌もその動向に注目している。

Massena LAB Magraph

 38.5mm×10mmの316Lステンレススティール製ケースに、オフホワイトのセクターダイヤルが魅力的なマグラフは、20世紀初頭のパテック フィリップのカラトラバ Ref.96から直接インスピレーションを得たデザインだ。マッセナLABの新作の名前の由来となったこの一点物のパテックは、1935年に今は亡きベルリンの宝石商マグラフ(Magraph)の特別注文で製作されたもので、最近では2008年5月にクリスティーズ・ジュネーブにて23万8600スイスフランで落札されている。

Patek Philippe Margraf, vintage

マッセナLAB マグラフのダイヤルデザインにインスピレーションを与えたパテック フィリップ マグラフのヴィンテージ。伝説的なパテック フィリップ Ref.96のユニークピースバリエーションで、1935年にベルリンの宝石商だったマグラフのために特注製造・販売されたのが初代マグラフ。この時計は、直近では2008年5月11日にクリスティーズ・ジュネーブにて23万8600スイスフランで落札されている。Image: Courtesy of Christie’s

 さらに重要なのは、このマグラフには、パジェスが設計したマッセナLABの時計に初めて採用された自社製ムーブメント、Cal.M660が搭載されていることである。

 しかし、この時計のダイヤルには、ふたりのコラボレーターの名がないことにお気づきだろうか。12時位置の下に、ヴィンテージ風書体でマッセナの名だけが記されているのだ。これには理由がある。この新しい手巻きムーブメントの全体的な構造と仕上げはパジェスのアイデアによるものだが、彼はソバリー・オニキスやRP1といった自分の時計のように、ムーブメントの製造や装飾を自ら手がけたわけではないからである。

 それが、5万ドルを超える価格設定ではなく、8675ドル(約128万円)という価格設定にできた大きな理由である。

Massena LAB Magraph

 先週末、99本の限定生産でデビューしたマグラフは、その後すべて完売してしまったが、このコラボレーションと時計は、もっと近くで見るに値する。数週間前、私はこの新しい時計を手に取り、パジェスとマッセナの両氏にその製造と開発について話を聞くことができた。

 そこで得た知識を共有したい。

コラボレーション

「マッセナLABが誕生したときから、私は常に独自のムーブメントを作りたいという野望を持っていました。それには、明らかに2つの大きな問題がありました。ひとつは資金力、もうひとつは人材です」。とマッセナ氏は語る。

 マッセナのふたつめの問題は、友人によって解決された。

 2012年、パジェスの最初の作品である亀の形をしたオートマトンが発表された後、マッセナとパジェスは一度だけ会ったことがあった。2019年にセリタの現イノベーション・マーケティング責任者であり、『Chronographs For Collectors』の著者、アーノルド&サン、アンジェラス・ウォッチ、ラ・ジュー・ペレのムーブメント設計責任者だったセバスチャン・ショールモンテ博士がふたりを再び引き合わせ、共同作業のアイデアが実現するに至ったのだ。

Massena Lab Magraph

Courtesy of Massena Lab

Massena Lab Magraph

ミドルケースはサテン仕上げで、厚さは10mmと軽快なサイズ感だ。

Massena Lab Magraph

ブラックの鹿革ストラップが追加で付属する。

 パジェス氏は言う。「ウィリアムのことはその名声と評判で知っていました。そのため、このプロジェクトに参加することにしたのです。とてもクールで面白いプロセスでしたね。美しい時計づくりという共通のビジョンを持ち、デザインや仕上げのセンスも同じなので、一緒に仕事しやすかったのです」

 新しいパートナーふたりがプロジェクトを進めるのに時間はかからなかった。マッセナはケースとダイヤルデザインに力を注ぎ、パジェスはCal.M660の設計と製作に取り組んだ。

 「これは、マッセナLABの歴史のなかで最も複雑で難しいコラボレーションでした。しかし、お互いが相手のやっていることを理解し、信頼しているという確信があったので、何も議論する必要はありませんでした。私たちのスタイルや影響はとても似ているので、最終的にCADで全体をまとめたとき、すべてがうまくいっていることに気づいたのです。私たちは、それぞれが独自の貢献をしているという意味で、本当に一緒にこの時計を世に送り出しました。これは、私たちふたりにとってまったく新しいコンセプトなのです」

Massena LAB Magraph

 では、どのようにしてマッセナ氏とパジェス氏は、自分たちだけでなく、潜在的な顧客にも負担をかけずに、両者が誇るスイス製の新ムーブメントを市場に送り出すことができたのだろうか。

 驚くべきことに、その解はイタリアのテーラーリングの世界にあった。

ムーブメント

マッセナLAB独自のCal.M660は、21石、2万8800振動/時(4Hz)、60時間のパワーリザーブを持つ手巻きムーブメントである。このムーブメントはパジェス氏によって完全に設計され、構想が練られた後、量産と非常に伝統的な仕上げのアプローチを組み合わせた多段階の工程を経て、命を吹き込まれた。

 Cal.M660のムーブメント部品は、CNCマシンで製造、カットされたのち、スイスのジュウ渓谷にある仕上げ職人のネットワークに送られ、それぞれがムーブメントの見える部分に手作業で装飾を施していく。その後、パジェス氏のもとで品質チェックが行われ、彼の基準に達していることが確認された後、スイスにある第三の工場で組み立てが行われる。完成したCal.M660はパジェスの工房に戻され、最終的な品質チェックと管理が行われる。

Massena LAB Magraph

 シャツ製造業者が南イタリアの針子のネットワークに依頼して、仕入れた服を自宅で暇なときに縫わせるナポリの仕立屋に見られるシステムにマッセナ氏はインスピレーションを得たという。

 「部品は量産したものです。それを各自の家に持ち帰ってもらい、手仕事で仕上げてもらいます」とマッセナ氏。「ジュウ渓谷のあちこちに、部品を持ち帰り、手作業で仕上げる人たちがいるのです。彼らはムーブメントの仕上げ方を知っている人たちです。正直言って、彼らが誰なのか、どこで働いているのかを知ったら、あなたはショックを受けるでしょうね」

 結果は、それを物語っている。現在、1万ドル(約147万円)以下で手に入るムーブメントのなかで、これ以上の仕上げを施したものはないと思うほどだ。例えば、受け上部のコート・ド・ジュネーブは、明らかに軽いタッチの手作業で施されており、工業的に、あるいは経験の浅い人が施したジュネーブストライプの深い溝とは大きな違いがある。特にアングラージュは一級品で、内外装のアングルのシャープさ、見事さは必見だ。また、コハゼバネの下の露出部分にまでペルラージュが施されているのも、意外性があって面白い。

Massena LAB Magraph

 Cal.M660の成功や魅力は、装飾のクオリティだけでなく、ムーブメントそのものの物理的なレイアウトにもある。幅広のプレートと受けには、美意識の高さを感じさせるような、思慮深い配置になっている。私は特に、コンマを逆さにしたような地板の深い輪郭を評価している-輪列を眺めることができ、ムーブメント全体の設計と完成度の高さを際立たせているからだ。

 「基本的に、時計づくりの醍醐味のすべてを味わうことができます。ラウルは、独立時計師を定義するさまざまな要素、つまり彼が自分の時計に盛り込みたいと思う要素をすべて盛り込むために、このムーブメントを設計しました。ラウル・パジェスの作品と同じレベルではないかもしれませんが、10分の1の値段でそれに近いものができるのです。もっと高価なものを彷彿とさせるムーブメントでありながら、比較的手頃な価格で、他の独立系時計メーカーに手が届かないコレクターにも体験してもらえるようにしたかったのです。そのような考えが根底にありました」とマッセナ氏は語る。

Massena Lab Magraph

 さて、装飾のことは一旦忘れてくれ。脱進機のような極めて高価な部品を含め、マッセナとパジェスはどのようにしてすべての部品を製造したのだろうか? これは非常によい質問である。確かにパジェスはムーブメントを設計したが、よく知られた出発点から重要な成分を引き出したのだ。つまり、Cal.M660は、由緒あるバルジュー7750と同じ輪列を備えているのだ。

 バルジュー7750はクロノグラフムーブメントであり、マッセナLAB マグラフはスモールセコンドを搭載した時刻表示のみのドレスウォッチである。しかし、それを一体どうやって?

 「この価格帯ではゼロから時計づくりを始めることはできません」とマッセナは言う。「そうでなければ、3万ドルの時計になっていたでしょう。私がルカ・ソプラノですでに手がけていたことと同じです。7750をベースにしたのは、いくつかの理由があります。しかし、これは私たちの“最初の”時計にすぎません。今後、このムーブメントをベースとした新しいものが出てくるでしょう。その理由や方法はうまく言えませんが、第二段階をご覧いただければ、なぜ7750を採用したのか、よりよくご理解いただけると思います」

Massena Lab Magraph

 7750のクラシックなアーキテクチャをベースにした時計は、マッセナとパジェスだけではない。日本の飛田直哉氏が主宰する独立系時計メーカーであるNAOYA HIDA & Co.は、2020年に税抜価格210万円で、バルジュー7750を改良した(クローズドケースバック内に配置した)3針ドレスウォッチ「NH Type2A」を発表し、話題を呼んだ。

 マッセナ氏とパジェス氏はCal.M660の輪列の出所について完全にオープンにしているが、実際に現地に行ってバルジュー7750(またはスイス製のセリタ社 SW510のようなクローン)を調達し、歯車だけを取り出しているわけではないことは言及しておく必要があるだろう。マッセナLABの製造パートナーが単に再構築したのである-つまり、数十年前に特許が切れたバルジュー7750の輪列を再現し、それ以外の部分はパジェス氏の設計でカスタムされ、彼の要求仕様で仕上げ、組み立てられるのである。

Massena LAB Magraph

 パジェス氏は、Cal.M660に彼の美学的な特徴をいくつか盛り込むことができた。丸穴車とラチェット車は、このサイズのムーブメントとしては実は通常よりも大きく、丸穴車の中央部は2本のネジで固定され、パジェスのRP1に見られるような明るいソレイユ仕上げで装飾されている。

 そして最後に、テンプの下に隠され、ルーペでやっと見える(残念ながら撮り下ろし画像からは確認できない)poinçon Pagèsは、亀のシルエットの刻印で、品質確認とプロジェクトに対する彼の貢献の両方を表している。

今後の展開と最終的な感想

マッセナLAB マグラフには、私が魅力的だと思うもの、印象的だと思うものがたくさん詰まっている。このデザインを見て、近年発売された他のセクターダイヤルの時計(ロンジンオメガジャガー・ルクルトなど)の模倣だと言う人もいるだろうが、私はその批判はかなり短絡的だと思う。というのも、セクターダイヤルを採用した時計はどれも似たり寄ったりではないだろうか? このダイヤルレイアウトは、かなり厳密に美的定義がなされており、先に挙げたどの時計も、この金額で同じレベルの手仕上げを提供できないことは言うまでもない。

 「私たちは何とかして1万ドル以下に価格を抑えようとしました」。とマッセナ氏は言う。「時計の価格を最大限に下げようとしました。買い手には、お金に見合うだけの価値を得ていると感じて欲しかったからです」

Massena LAB Magraph

マッセナLAB マグラフは、ラバーに裏打ちされたサステイナブルなチョウザメ革で作られた専用ストラップで届けられる。

 また、パジェス氏がこの価格帯の時計につながるプロジェクトに積極的に参加したことは、私にとって特に興味深いことだ。今年発表されたRP1(ハンズオンは近日公開予定)は、間違いなくパジェスにとって最も成功したモデルであり、8万5000スイスフラン(日本円で1240万円以上!)というプライスタグがつけられているのだ。だからこそ、パジェス氏がこのプロジェクトに取り組んだのは、純粋にやりたいと思ったからにほかならないことがわかる。

 「価格帯の異なるコレクター層にリーチできるのはいいことだと思います」とパジェス氏は語る。「このプロジェクトは、この価格でこのレベルの仕上げを維持するという、私にとって興味深い挑戦でもありました」

Massena Lab Magraph

Image: Courtesy Massena Lab

 マッセナ氏はすでにCal.M660の今後の展開を予告しているが、今月初めに彼と話をした際、これらのプロジェクトはほとんどマグラフの成功にかかっていると話していた。「私たちはとても小さな会社なので、ひとつのモデルが全体を台無しにしてしまうこともあるのです」と彼は言う。「このプロジェクトは、私たちが手がけたもののなかで最も野心的なものであり、今後も継続して他のことに拡げていきたいと考えています。このプロジェクトは、3年前に他のことをやろうと思って始めたのです」

 もちろん、私たちは今、マグラフが即完売したことを知っている。この結果は、マッセナLABとCal.M660の将来の応用にとって明るい兆しであることは間違いない。私自身、この製品が次にどのような展開を見せるのか、楽しみでならない。

マッセナLABのマグラフは99本限定、価格は8675ドル(約128万円)。裏面にラバーが配されたサスティナブルなチョウザメ革で作られた専用ストラップは、ジャン・ルソー製。パリのストラップメーカーと共同でデザインした藍色でターコイズのアクセントが施されている。また、ブラックカーフスキンの予備ストラップ、鹿革のポーチが付属し、2年間の保証が付帯する。マッセナLABによると、時計の納品は2022年12月から始まり、月に約15~20本が生産される予定だということだ。

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