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The G-SHOCK

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MRG-B2000SG

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ENGRAVE THE SOUL

 G-SHOCKが1983年にデビューしてから40周年を迎えた今年、カシオではこれを顕彰した数々のスペシャルピースを展開して注目を浴びてきた。そしてこの冬、アニバーサリーのファイナルを飾るモデルとしてMRG-B2000SGが発表された。兜をモチーフとしたジャパンブランドらしい意匠によって、国内はもとより海外でも好評を博したMRG-B2000SHの続編にあたるものだ。今作はG-SHOCKの40周年を記念して特別製作されたオリジナルの兜「衝撃丸─皚(がい)─」をインスピレーションソースに、MR-Gの特別モデルでは初となる白色のストラップを装備。G-SHOCKのチャレンジングな姿勢と、日本の繊細な伝統技法を存分に感じられる作品に仕上がっている

 前作MRG-B2000SHに続き、MRG-B2000SGのデザインにおいてキーパーソンとなるのが、日本を代表する彫金師である小林正雄氏だ。小林氏は滋賀県の大津で祖父の代から続く錺(かざり)師の三代目。

 京都で彫金を学び、神社仏閣に用いられる金具の製作や文化財の修復、宝物や美術工芸品など、幅広い分野の錺金具を手がけてきた。約7年前、カシオがMR-Gのデザインに応用できそうな伝統工芸をリサーチしていたときに小林氏と出会い、その後も交流を重ねていくなかで2020年に初めて両者のコラボレーションが実現。龍が天に昇る姿を小林氏が自らベゼルに彫金した、MRG-B2000SHを完成させた。

 この彫金技術を再び用い、新作MRG-B2000SGでは虎の前立(兜の正面に取り付けられる装飾物)をモチーフとしたベゼルを取り入れた。カシオによれば「前作と並べたときに、図らずも“竜虎相搏つ(あいうつ)“形になった」という本作だが、虎の意匠を確立させるまでには小林氏の苦悩もあったという。長く伸びる体の龍とは対照的に、四つ足の虎を細いベゼルの上でどのように表現するかという問題に直面したのだ。最初はスペースの狭さに困惑したというが、その困難さが小林氏のチャレンジ精神を刺激した。一度小林氏の方で作ったデザインを、カシオのデザイナーが確認し、調整。複数回にわたってサンプルのやり取りを行いながら、少しずつデザインを詰めていった。

 ようやくベースとなるデザインが完成したところで、小林氏はデザインの細部にも目を向けた。特に注力したのは、目と牙の表現だ。睨みつけているような鋭い目つきや力強い牙のあしらいを、一匹一匹のバランスに合わせて調整しながら彫り進めていったという。そうして仕上がったベゼル上の虎は、作業台に向かう小林氏の横顔にも似た緊張感に満ちている。

 そして、この彫金作業をいっそう困難にしたのが、ベゼルの素材に用いられたチタンだという。通常、小林氏が彫金を施すのは銅や銀が中心で、チタンはそれらよりはるかに高い硬度を持つ金属だ。いつもと勝手が違う素材に向かい、小林氏はまずベゼルのサンプルに触れ、鑽(たがね)で切り込む際の力加減や角度を探っていった。また、今回のデザインでは鋭く切り返す箇所も多いため、作業に使う鑽の刃がふとした瞬間に欠けてしまうこともあったという。刃を研ぐ回数も普段の仕事と比べると格段に多くなり、必然的に作業時間も増えていった。しかし、硬質なチタンだからこそエッジが立った鋭い彫り跡が刻まれ、それがMR-Gにふさわしい高級機然とした精悍さを生み出すことにつながっている。

 MRG-B2000SGの見どころはベゼルの彫金だけではない。デザインのなかでとりわけ目立つアクセントになっているのが、ベゼルにセットされたラボグロウンルビーだ。ルビーはG-SHOCKの40周年を記念する意図から4ヵ所に設置されており、同様にアニバーサリーイヤーを顕彰する要素として“G-SHOCK 40TH”と記されたメタルプレートもケースの10時側にビス留めされている。そして、本作を企画する端緒となった白色のストラップには、装着感に優れるだけでなく、汚れが付着しにくいことから際立つ白さが長く楽しめるフッ素ラバー製のデュラソフトを採用した。その表面には、三盛亀甲(みつもりきっこう)をつなげた吉祥文様である“毘沙門亀甲(びしゃもんきっこう)”を刻印。また、ケースにはダークシルバーの再結晶チタンを用いることで、カシオは経年変化した銀色の兜を表現してみせた。

 ダイヤルには、鎧兜をモチーフとした「赤備え」(MRG-B2000B-1A4)を思わせる細かな長方形があしらわれている。だが、今作では長方形のあいだに斜めのラインが挿し込まれた、兜の小札(こざね。甲冑の表面を構成する短冊状の板)を綴じる際に用いる“白糸威(しろいとおどし)”に着想を得たパターンを表現。外装に負けない存在感を表した。

 MRG-B2000SGは世界限定700本生産となる。前作MRG-B2000SHでは400本が用意されたものの瞬く間に完売となってしまい、ファンからは入手できなかったことを悔やむ声も上がっていたという。そのため、今回は生産期間を長く設けることで、製造本数を大幅に増やす形をとった。もっとも、クオリティをキープしながら彫り続けるには途方もない集中力と体力が必要であり、小林氏が1日に手がけられるのも10本分が限界だという。このように伝統技術を量産品の腕時計に落とし込むにあたっての困難こそあったものの、その結果として今作の完成度は非常に高いものとなった。今作は、職人技術に真摯に向き合いながら形にしようとするカシオの熱意と、それに応えるように壁に挑んだ小林氏の挑戦心の賜物ともいえる作品に仕上がっている。