手巻き式は機械式時計の原点であり、象徴であることに異論はないだろう。薄く仕上げるにも適している。ところがオクトは2014年に「フィニッシモ」と名付けた手巻き式ムーブメントを開発し、薄型の先鞭をつけたにも関わらず、世界最薄の手巻きを発表してこなかった。これをベースにスケルトン化し、2019年に発表したモデルがこのオクト フィニッシモ スケルトンだ。
端正なクローズド文字盤から一転し、円と直線で構成されたスケルトン文字盤はバウハウスを思わせ、極めてコンテンポラリーだ。極限まで薄さを極め、さらにオープンワークを施すには繊細かつ高度な技術を要するのはいうまでもない。しかも無機質なメカではなく、温もりさえも感じさせ、イタリア的な人間主義の感性が伝わってくるのだ。美しい時計は一片の芸術作品のようなもの、とブルガリ グループ CEOのジャン-クリストフ・ババン氏は言う。「(時計は)道具として機能的で正確、信頼できなければなりませんが、同時に芸術作品としてエモーションを与えるものなのです。昨今、厳しさを増す世界において、芸術は自分自身を豊かにする聖域のひとつではないでしょうか。それは人類の叡智を表現し、願わくばいかなる災難も凌駕するものであって欲しいと思うのです」。薄さは美であり、それはアートである。あえて手巻きを温存し、まさにウルトラと呼ぶにふさわしい究極の自信作を発表することでその思いを遂げたに違いない。
オクト フィニッシモ スケルトン Ref.103126 325万6000円(税込) 2014年に発表された手巻き式をスケルトナイズし、さらに裏面に位置したパワーリザーブを前面に移すことで、実用性と視覚的効果を演出する。セラミック、自動巻き、ケース径40mm、30m防水、セラミックブレスレット。
ジャン-クリストフ・ババン。1959年生まれ。消費財メーカー、コンサルティング会社を経て、タグ・ホイヤーCEOに就任。時計界に新風を吹き込み、2013年に現職に就任。ブルガリ躍進の原動力になっている
Words:Mitsuru Shibata