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Homage to Origin ハミルトン ベンチュラより、プレスリーに愛を込めて

ブルーダイヤルなんて、カラーバリエーションのひとつだろう? なんて考えをこのモデルに当てはめるのは大きな間違いだ。なぜなら、ベンチュラの新作はかつてこの時計を深く愛した世界的スター、エルヴィス・プレスリーに対する敬意が注がれた、実にコンセプチュアルな作品なのだから。

ベンチュラは、今から60年以上も前にデザインされたとは思えないフューチャリスティックな左右非対称フォルムを守り続けている、ハミルトンのなかでもアイコン的な存在だ。しかし、決して保守的なリリースに甘んじてきたモデルではない。世界初の電池式腕時計という背景を持ちながらの機械式ムーブメントの搭載、モダンなオールブラックスタイルへの挑戦、大胆なビッグサイズへのアップデートなど、現在に至るまでオリジナルを多種多様に発展させた斬新な取り組みを進めてきた。しかし今年1月末日にリリースされた新作においては、「原点に立ち返り、オリジナルをもとにした新しいモデルを作りたい」という発想が開発のスタートになったとハミルトンは述べている。深みのあるブルーグラデーションダイヤルと、これに調和するブルーのストラップを組み合わせた新しいベンチュラ。一見した限りでは、既存のコレクションにカラーバリエーションを追加したかのようにも映る。しかし、そこにはベンチュラのストーリーの始まりともいえるエルヴィス・プレスリーへのオマージュが強く込められている。

 ハミルトン ベンチュラが登場したのは1957年。キャデラックのデザインを手がけたリチャード・アービブによって考案された斬新な造形が目を引くだけではなく、クォーツ腕時計が誕生する10年以上も前に商品化された世界初の電池式腕時計という肩書きも背負っていた。同シリーズは今もなお、腕時計史に燦然と輝く金字塔として高い支持を獲得し続けている。当時、この時計に心を奪われたのが、50年代から70年代に活躍したアメリカのミュージシャンであり映画俳優のエルヴィス・プレスリーだ。ベンチュラは1961年公開の映画『ブルー・ハワイ(原題:Blue Hawaii)』の劇中でもプレスリーの手首に小道具として巻かれるなど、彼の手元でたびたび目撃されたことで“エルヴィス・ウォッチ”の愛称で多くの人の心に刻まれることになる。そんなベンチュラの新作がインスピレーションソースとしたのが『ブルー・スエード・シューズ』。初期のプレスリーを代表する1曲だ。

映画『ブルー・ハワイ』撮影現場でのワンシーン。左手首に、レザーストラップを装着したベンチュラの姿が確認できる。

 『ブルー・スエード・シューズ』は同時代に生きたロカビリーミュージシャン、カール・パーキンスの曲である。プレスリーがカバーして1956年にシングルとしてリリースし(同曲のレコーディング日は、なんと今作のリリース日である1月30日だったとか)、同年に発売されたデビューアルバム『Elvis Presley(邦題:エルヴィス・プレスリー登場!)』のオープニングに収録された。ストレートなロックンロールサウンドのなかで繰り返される、“Don’t you step on my blue suede shoes(俺のブルー・スエード・シューズを踏むな)”の歌詞。青いスエードシューズに対する愛着やこだわりが表現された内容だが、一方でブルー・スエード・シューズとは“信念”や“アイデンティティ”を意味している──つまりこの曲は「俺のアイデンティティを汚すな」というメッセージと受け取られ、当時の若者たちの共感を呼んだのだ。

エルヴィス・プレスリーが実際に所有していたベンチュラ。彼がフレックスブレスに換装して使用していたという話は、あまりにも有名だ。

 ハミルトンはかねてよりベンチュラのラインナップ拡充を進めてきたが、改めてプレスリーにオマージュを捧げるべく、今作では彼のキャリアにおいて重要な1曲をモチーフとして製作された。この楽曲を表現するために同社が最も重視したのが、ブルーのスエード調素材を取り入れること。そのため、ストラップにはスエードと同様に表面が起毛したアルカンターラ(高級車の内装にも用いられる人口皮革)を用い、同エレメントのカラーを軸にしてダイヤルの色を導くという通常のデザインとは異なるプロセスが取られた。また、ストラップは型押しレザーとの切り替えがアクセントになっているが、これはケースとストラップ表面の接触による摩耗を防ぐ目的に加え、シューズにおけるアッパーとソールの切り替え部分を表したものである。単にスエード調の素材を取り入れるだけではなく、楽曲に登場したブルースエード素材の革靴を思わせるデザインにもハミルトンはこだわった。

1950年代後半に製造された初期のベンチュラ。

 新作のラインナップには、プレスリーが愛用していた電池式ベンチュラの面影を残すクォーツの3針モデルをメインに、バリエーションとしてクロノグラフをセレクト。どちらのモデルにも、ブルーのアルカンターラストラップとフレックスタイプのブレスレットを用意した。その並びにはケースやフレックスブレスにゴールドのPVDコーティングを施したモデルも含まれるが、これはブルーダイヤルとの相性のよさに加え、1957年にリリースされたオリジナルモデルをイメージしたものだという。オートマティックモデルをラインナップに加えなかったのも、プレスリーが生きた時代の空気や、世界初の電池式時計として登場した歴史に敬意を払った結果だ。グラデーションが美しいサンレイダイヤルを回る針先の赤も、初期ベンチュラの秒針を思わせる。

 ラジオに代わってテレビが主要メディアとなり、また遠くへの移動手段も船舶から旅客機へと移行するなど、経済、産業そしてエンターテインメントまでもが急速な発展を遂げた50年代。そんな時代に登場したベンチュラは、世界初の電池式腕時計という当時の技術革新を象徴するモデルとなっただけでなく、エルヴィス・プレスリーが着用したことによってカルチャーアイコンにもなった。そんなオリジナルモデルのコンセプトや造形を踏襲しつつ、そのころのヒットナンバーをモチーフとしたこの新作が、単なるカラーバリエーションでないのは明白だ。ハミルトンはベンチュラについて、時計というよりもアイコン、シンボル的な存在を作り続けているように考えていると語っている。今作もまたプレスリーへのオマージュを通じて、その時代の空気を今に伝えてくれる、メッセージ性を担ったモデルなのである。


ベンチュラ ブルー・スエード・シューズ コレクション ギャラリー

Photos:Yoshinori Eto Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Yuzo Takeishi