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In Partnership

IWC インヂュニアが辿るデザインと技術の革新

昨年の発表から熱い注目を集めていたインヂュニア・オートマティック40。エンジニアのために生まれた時計が時を経て、いまあらためて人気を呼ぶ理由を探る。

昨年開催されたWatches & Wonders Geneva 2023のIWCブースは、〈Form und Technik〉(形と技術)のテーマの下、メルセデスベンツのスポーツカー「C111-III」始め、1970年代を代表するドイツのインダストリアルデザインが展示されていた。もちろんその主役がインヂュニアの新作だったのはいうまでもない。1950年代に誕生した初代に新たな息吹を与えたのはジェラルド・ジェンタであり、手がけたインヂュニア SLはブルーノ・サッコやディーター・ラムズによる当時の名作デザインに比肩する。発表されたインヂュニア・オートマティック40は、これをモチーフに現代にリバイバルした。そこに息付くのは、単なるデザイン復刻ではなく、まさに形と技術の融合を追求するIWCの哲学なのである。

 初代インヂュニアは1955年に誕生した。自社開発による初のペラトン式自動巻きムーブメントと磁場から守る軟鉄製インナーケースを備え、その革新性はドイツ語とフランス語で「エンジニア」を意味する「インヂュニア」という名前にも込められている。

左から1976年に登場したインヂュニアSLと2023年に登場したインヂュニア・オートマティック 40。

 登場から約20年を経て、1976年に登場したインヂュニア SLはまさにその名にふさわしいデザインを纏ったといえるだろう。シンプルなカレンダー付き3針だった初代に対し、5個の凹みのあるねじ込み式ベゼルとグリッドパターンの文字盤、H型リンクを組み込んだ一体型ブレスレットは、宇宙開発も進む70年代という時代を反映し、未来への前進を象徴した。そしてそれは以降のインヂュニアのデザインを形付けたのである。だがそれだけではインヂュニアの本質を語るには充分ではない。そこに宿るのはやはり形と技術の融合であり、耐磁性能への挑戦にほかならないのだ。

 IWCにおける耐磁技術はパイロットウォッチを源流にする。磁気を発生する航空計器に囲まれたコックピットでも時計の精度への影響を防ぐため、ムーブメントを軟鉄製のインナーケースで包んだ。この技術転用によって初代インヂュニアは8万A/mの耐磁性を備え、研究開発や医療、製造部門といった強力な磁場にさらされる環境にも対応したのだった。

 こうした耐磁機能はそのままに、インヂュニア SLはその革新性にふさわしい新たなデザインを採用した。大きく厚い武骨なケースも、むしろ目に見えない磁気から守る先進性を可視化し、洗練に磨きをかけたのはジェンタの手腕だろう。存在感あるケースから連なるブレスレットの力強いスタイルは、これまでの控えめな実用時計からアクティブなモダンスポーツへとイメージを一転したのだ。

左から1989年のインヂュニア 500,000A/m(Ref.3508)と2005年のインヂュニア・オートマティックRef.IW322701。

 耐磁技術への挑戦は以降も続く。1989年に発表したインヂュニア500,000A/mは調速脱進機に非鉄素材を用い、耐磁性は50万A/mまで飛躍的に向上した。さらに軟鉄製のインナーケースを省くことで軽量化とケース厚を抑え、心地よい装着感をもたらしたのだ。だが採用した非鉄素材は耐久性に劣ったことで、この画期的モデルは4年の短命で終わり、再びインナーケースを装備することになる。

 2005年に登場したインヂュニア・オートマティックは、当時発表されたばかりの自社キャリバー80110を搭載し、ショックに強い緩急針やサスペンションを加えたローターなどIWCらしい頑強かつ高い信頼性を誇った。一方、耐磁性も8万A/mを備えていたが、インナーケースを内蔵したケースの厚さと重さは増した。はたして2013年にフルモデルチェンジしたインヂュニアでは、薄型のキャリバー30110を搭載し、4万A/mの耐磁性を備えたオートマティック以外はインナーケースが省かれたのだった。耐磁性は依然、二律背反のハードルとしてあり続けたのである。

チタン製のインヂュニア・オートマティック 40。

 インヂュニア・オートマティック40は、インヂュニア SLにインスピレーションを得ながら、人間工学に基づいたプロポーションとより現代的なスタイルを両立する。

 インナーケースの採用により4万A/mの耐磁性を備え、ケース径はジャンボと呼ばれたSLからわずか0.5㎜アップに抑える一方、厚さは12㎜から10.8㎜に薄くしている。さらにラグ トゥ ラグの長さを45.7㎜に短くするとともに、ノーズ型だったラグもミドルリンクの新設で手首のフィット感を向上している。ブレスレットもわずかにテーパーをつけることでこれに貢献し、見た目の高級感も増している。

 SLではベゼルはねじ込み式だったため、凹みの位置には個体差があったが、これを多角形のネジ留めに変更し、定位置にネジを配する。また2013年に初採用したリューズガードはより滑らかにケースに沿うフォルムになった。文字盤にはSLのシンボルだったグリッドパターンが復活。互いに90度ずつずらした水平ストライプと台形のパターンで構成され、エンボス加工で仕上げたベースに亜鉛メッキを施す。オリジナルに比べると、面形状がよりシャープに際立つ。

 ケースとブレスレットにはエンジニアリングスティールを採用し、これは複雑な精製工程を経て、高い純度と硬度を実現するとともに、リサイクル率は85%を誇る。自社のケース製造施設で培ってきた金属加工の技術とノウハウを存分に注ぎこんだ先進素材となっている。またチタンバージョンではグレード5のチタンに製造、研磨、サテン仕上げ、サンドブラストなどの加工技術を駆使した精巧な仕上げを施す。これも1982年にケースとブレスレットにチタンを採用したオーシャン2000を発表したこのブランドの、チタンのパイオニアとしても名高い本領発揮だ。

 インヂュニアは、その名が示す通り、技術者、科学者、パイロット、医師といった強い磁場で従事する職種のために専用開発された時計だ。しかし誕生から約70年を経て、デジタル機器に囲まれた現代の日常に磁気は特別なものではなくなった。たとえばスマートフォンやタブレット、ワイヤレスイヤホンやそのケース、バッグのマグネット式留め具も磁気を発生し、オーディオのターンテーブルやエレキギターのピックアップといった思いもよらないものにもその危険性が潜んでいる。

 一般的な生活環境での磁気なら発生源から5〜10cm離れれば、その影響はほとんどなくなるといわれる。とはいえ、時計の精度に影響を与える原因のトップであることに変わりはない。だからこそ現代のライフスタイルにおけるインヂュニアの存在がより際立つ。そしてそれは形と技術が高次元で融合した、極めてIWCらしさが結実した1本なのである。