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Reborn Act II 洗練度を増すキングセイコーのディテールとスタイル

2021年に復刻モデルが登場したキングセイコーは、翌2022年にブランドとして正式に復活を遂げ、今ではセイコーブランドのトップレンジに位置する存在として君臨している。順調にバリエーションを増やし続けるキングセイコーだが、どういった戦略を持ち、これからどういったブランドへと成長していくのだろうか?

1961年。東京・亀戸にある第二精工舎で、ひとつの時計が生まれた。キングセイコーと命名されたその時計は、当時の大卒平均初任給とほぼ同額である1万2000円〜1万5000円という価格帯の高級時計であり、躍進する日本のビジネスマンに向けた実用時計として人気を博した。

 グランドセイコーが“時計の理想を追求したもの”だとするなら、キングセイコーは“優れた時計が欲しいという人々の理想を追求したもの”といえるだろう。ブランドの最前線に立つ企画担当者である大宅宏季氏とデザイナーの松本卓也氏は語る。

 「かつてのキングセイコーには日常的につけられる高品質な時計を多くの人に届けたいという思いがありました。そのため、加工の際の制約なども考慮しながら時計のデザインを丁寧につくり上げていったのだと思います」そう語るのは、デザイナーの松本氏だ。

 その復活プロジェクトはキングセイコーの60周年へ向けてスタートし、まずは復刻モデルの製作がスタートした。そして同時にレギュラーモデル化を見据えた研究開発も進められた。

 「ブランドメッセージとして掲げたのは“The Newest Classic”。ベーシックな要素を持ちながら、現代的な新しい感覚を取り入れた存在であること。そうした時代を超える価値あるものを提供するためには、伝統を守りつつブラッシュアップさせなければいけません」と企画担当者の大宅氏は話す。

 「60年代は時計業界の変革期で、各ブランドがさまざまなチャレンジをしていた時代でした。当時の資料を見返すと、かつてのキングセイコーには時代を超えて愛され続けるようなタイムレスな魅力を持った製品がたくさんあったのです。だから現在のキングセイコーも、今の時代背景を意識したタイムレスなデザインを心がけています(松本氏)」

 キングセイコーでは現在、Cal.6Lと6Rというふたつのムーブメントを用いてコレクションを展開しており、そのムーブメントの個性の違いを活かしたバリエーションを広げている。


オリジナルモデルの精神を今に継承する6Lモデル

キングセイコー KSK キャリバー 6L35モデル

左:SDKA007 右:SDKA005 各41万8000 円(税込)

薄型自動巻きムーブメントのCal.6L35を搭載することで、1965年製の2代目キングセイコー“KSK”が持っていたスタイルを巧みに継承したフラッグシップモデル。夜光塗料も使用せず、モノトーンでまとめることで洗練された雰囲気を作り出す。

 

2022年にブランドとして復活を遂げたキングセイコーは、1965年に販売を開始した2代目キングセイコー“KSK”(KSKはリューズを引いて秒針を規正するハック機能を持った当時のモデルの略称)を手本としている。しかし当時のデザインをそのままトレースするのは不可能。なぜなら、当時と現在では使用できるムーブメントが異なるからだ。

 特にプロポーションを左右するのがムーブメントの厚さだ。オリジナルモデルは手巻きムーブメントを使用していたためケースも薄かったが、現在のキングセイコーでは自動巻きムーブメントを使用する。可能な限り薄くするためにCal.6Lが選ばれた。

 「Cal.6L35は、セイコーの現行機種で最も薄い設計の自動巻きムーブメントであるため、よりオリジナルに近いプロポーションを再現できるというメリットがあります。もちろん当時とはムーブメントが違いますし、現行のムーブメントを使いつつオリジナルのプロポーションに近づけるという調整作業はとても大変な部分でした。デザインする際は、オリジナルが持っていたケースの大胆なプロポーションや堂々とした佇まい、雰囲気を生かしたいと考えました。細部を検証してみると、かつてのキングセイコーは今見ても非常に挑戦的なデザインやディテールを取り入れていることに気が付きました(松本氏)」

 特にその造形美を象徴するのがラグ周りだ。細いベゼルとコントラストを描く太めのラグは、その側面に斜面をつくることでキレイな三角形が現れる。

 「美しいディテールをしっかりと強調できるように過去の図面や資料を見返し、デザイン意図を読み解きながら慎重に進めました。ラグに関しては少しでもひとつの面を磨きすぎると、バランスが崩れてしまいますし、稜線を出しながら4つのラグを均等に研磨するのはかなり難しいことです。加えて言うと12時位置の略字インデックスは上面にギザギザのライターカットを施していますが、これもキングセイコーのアイコニックなデザインとなっています(松本氏)」

オリジナルモデルと同じくシルバーダイヤルを採用したRef.SDKA005。一見するとシンプルなマット仕上げに見えるが、実は放射状に繊細な筋目を入れている。そのため光を柔らかに反射し、濃淡を作り出す。

視認性に優れるブラックダイヤルは洗練された雰囲気も強まる色。しかもRef.SDKA007では、ブルーがかったブラックにすることでモダンなデザインとの相性を高めた。12時インデックスのライターカットも印象的なディテールだ。

 さらに6Lモデルでは3面カットの針を使用。光をうけてキラッと輝く様は、まさに高級時計らしい佇まいを感じさせる。ダイヤルカラーもキングセイコーがこだわった点である。6Lモデルでは、KSKに倣ったシルバーダイヤルとシックなブラックダイヤルを用意するが、実はここにも繊細なチューニングが加えられた。

 「定番色に見えますが、実はどちらの色もセイコーとしては初めての試みなのです。シルバーダイヤルでは、サンレイ仕上げの加工方法を新しくすることで繊細な光の濃淡をつくるようにしました。またブラックダイヤルも初めて採用した色です。通常のセイコーのブラックダイヤルは、明るい光の下では少しブラウンに見える色味であることが多いのですが、キングセイコーではそのクールなイメージに合わせるためにわずかにブルーがかったブラックを新たに開発しました(松本氏)」

 さらに驚くべきは、シルバーダイヤルとブラックダイヤルで時・分針とインデックスの仕上げを変えているということだ。前者は時・分針の3面すべてとインデックスの上面を鏡面に仕上げ、黒光りさせることで視認性を確保しているのに対し、後者は時・分針の上面をヘアライン仕上げに、インデックスの上面に筋目加工を施すことでそれぞれの存在を際立たせ、視認性を確保した。こうしたていねいなディテールへの配慮は、60年を経て復活したブランドのものづくりの姿勢を示している。

上位機種である6LモデルのRef.SDKA005(写真)とSDKA007の針は極めてシャープなドーフィン型を採用する。しかも左右の斜面にもカットを加え、トップはダイヤルカラーで仕上げを変えるという手間のかかる3面カット針になっている。

Cal.6R31を搭載するファーストコレクションのひとつであるRef.SDKS003もドーフィン針だが、左右を斜面とし、シャープな稜線を作り出す2面カット針を採用。統一感のあるデザインコードでありながら、ディテールの違いで個性を生み出す。

Cal.6L35。2万8800振動/時で、日差+15秒~-10秒の精度を誇る。

 6Lモデルが搭載するCal.6L35の厚みは3.69mm。これはセイコーの自動巻きムーブメントで最も薄い設計であり、だからこそオリジナルのプロポーションに近しいデザインを探求することができたという。しかしその一方で、かつてのキングセイコーとも異なる、現在の加工技術だからこそ可能な手間のかかるディテールを与えることで、クラシカルで品格が漂うスタイルのなかに、進化したキングセイコーの姿を投影したのだ。


時計をつける楽しみにフォーカスした6Rモデル

キングセイコー KSK キャリバー 6R55モデル

左:SDKS023 中:SDKS021 右:SDKS025 各25万3000 円(税込)

約72時間の連続駆動を実現したCal.6R55を搭載するRef.SDKS023、SDKS021、SDKS025(左から)。ケース径は38.3mmだが、これはオリジナルの雰囲気を崩さず、時代のニーズの読み解きながら定めたものだ。

 

6Lモデルがキングセイコーの過去と現在を繋ぐモデルとするならば、6Rモデルはキングセイコーの魅力を持ちながら、より現代的な要素を加えたモデルといえるだろう。搭載するCal.6R55は、約72時間のロングパワーリザーブを備える。

 「6Rモデルはオリジナルデザインを継承するというよりも、キングセイコーを知らない人にも手に取ってもらえるようなモダンさを表現したかった。現代のファッショントレンドを意識して、これまでキングセイコーを知らなかった人たちに向けて“時計をつける楽しさ”を提案したいと考えました(大宅氏)」

深みのあるブルーダイヤルで人気のRef.SDKS023。表面には縦のヘアライン加工を施してモダンな個性をつくる。時・分針は2面カットタイプのドーフィン針。針に夜光塗料が採用されるのはブランドが復活してからは初の試み。夜光塗料はヴィンテージ風の色に仕上げた。

 その試みのひとつが、豊富に展開されるダイヤルのカラーリングだ。

 「ユーザーとの新しい接点を増やすために、積極的にカラーダイヤルを展開しています。以前発売したモデルには梅の花をイメージした赤色や藤色など、セイコーブランドではこれまであまり導入して来なかった色をあえて選択したこともあります。SDKS021、SDKS023、SDKS025の3モデルについては色の鮮やかさを抑えていますが、これはユーザーのファッションとの親和性を考えたもの。スマートフォンが普及した現代では、時計はファッションアイテムの一部という側面が大きいですし、キングセイコーが自分のスタイルを表現できる時計だと知ってもらいたい。豊富なカラーダイヤルは、そのきっかけになればいいですし、まずはかっこいいなと手に取ってもらえるような時計にしたいと考えました(松本氏)」

素材もカラーも豊富にそろう別売りストラップは1万4300円(税込)から。一部ストラップは別売りの三つ折れバックル(9350円。ともに税込)が必要となる。公式ウェブサイトでは組み合わせのシミュレーションも行えるので、時計を着替えるように楽しむことができる。

 時計をつけることを楽しむために、6Rモデルはブレスレットやストラップにもこだわった。

 「レギュラー化をするにあたっては、メタルブレスレットを採用することを決めていました。60年代にもメタルブレスレットはありましたが、当時の加工技術には制約や限界がありました。そこで当時のものをベースに、腕なじみや使い心地、着用感に優れたブレスレットを作ることにしました(松本氏)」

 当初はスポーティな3連ブレスレットも検討されたが、キングセイコーの雰囲気にはマッチしなかったため、程よくレトロな多列ブレスレットデザインが選ばれた。といっても、既存のものを流用しているわけではなく、ブレスレットのピースの長さをなるべく短くして腕なじみを高め、ブレスレットの上面をフラットにすることで光をキラキラ反射させるようにするなど、キングセイコーのためにデザイン・設計されたものを採用している。さらに6Rモデルのメタルブレスレットは、特別な工具不要で簡単に着脱でき、別売りのレザーストラップと交換できる。これならビジネスシーンはもちろんのこと、ファッションに合わせてカジュアルに時計を着替える楽しさがある。

 6Rモデルは60年代のスタイルを残しながら、ロングパワーリザーブのムーブメントや工具なしで付け替えが可能なブレスレット、カラーダイヤルなどでブラッシュアップすることで現代的なムードを加えた。これはキングセイコーのこれからを示すディテールなのだ。


伝統と最先端が融合するタイムレスな“東京ブランド”

イームズ プラスチックシェルアームチェア(1960〜70年代製)に合わせたRef.SDKS025。写真のチェアは当時の貴重なオリジナルだが、今も新素材や新技術を取り入れてアップデートしたプロダクトが生み出されている。

キングセイコーは、1961年に東京にあった第二精工舎・亀戸工場で生まれた東京発信のブランドだ。それもまた、この時計の個性を語る上で欠かすことのできない大きな要素である。

 「東京という街は古くから伝統とテクノロジーが融合する街でもあります。だからキングセイコーも懐かしさだけでなく新しさを感じられるようにしたいと思っています。フラットなダイヤルやボックス型の風防、直線的なブレスレットがもつモダンさは、東京らしい“粋”の表現でもあるのです(松本氏)」

 キングセイコーの誕生から時を遡ること十年ほど前に生まれ、70年以上の時を超えて今なお人々を魅了し続けるタイムレスなデザインプロダクトにチャールズ&レイ・イームズのシェルチェアがある。彼らはガラス繊維で補強したプラスチック素材(FRP)が開発されると、それを取り入れたチェアをデザインした。曲面が美しいシェルチェアは、色鮮やかなFRP製の座面とスチールパイプで作られた脚部を特徴としており、これらはそれまでのプライウッド成形合板を素材としたものなどよりも軽量でコストもかからず耐久性にも優れていた。こうして素材の特性を活かしたシェルチェアはFRP製チェアとして初の量産品となった。

 シェルチェアが歴史に名を残したのは、その歴史的な意義からだろうか? チャールズ&レイ・イームズが最も大切にしたことはフォルム、機能、そしてコンテクストの調和。そして彼らの言葉を借りるならば、シェルチェアは「最大多数の人々に最高のものを、最低価格で提供する」という信念から生まれたプロダクトだったからこそ、その名を歴史に刻むことになったのではないだろうか。

 現在のキングセイコーは、単にかつてを懐かしむ懐古趣味のブランドではない。ミッドセンチュリーと呼ばれた時代に生まれながら、色あせることのないタイムレスな魅力を持つシェルチェアと同じく、キングセイコーが今に受け継ぐのは、かつてのキングセイコーが持っていたディテールをトレースすることではなく、優れた実用性能と風格あるデザインのバランスを意識し、ずっと寄り添えるような魅力を持った時計を多くの人に届けたいという先達の“思い”なのだ。

 「時代を超えて愛される時計をつくるためには、長期間メンテナンスできなければいけません。メンテナンスしやすいように、風防を分解しやすい構造にするなど、作業効率も意識して設計しています(大宅氏)」

 そのためキングセイコーは、内装修理やオーバーホールに加えて、ケースやブレスレットのライトポリッシュを含めたコンプリートサービスも行う。これはグランドセイコーで実施されているアフターサービスだが、セイコーブランドで実施しているのはキングセイコーのみだ。

 高性能な実用時計として生まれたキングセイコーは、60余年の時を経て、さらに歴史や伝統に敬意を払いながら、優れたディテールとスタイルを楽しむという新たな魅力を得た。クラシックな印象の6Lモデルとモダンな雰囲気の6Rモデルでそれぞれ趣はやや異なるものの、どちらもベーシックなファッションの要素を持ちながら現代的な新しい感覚も取り入れた、時代を超えることのできる時計であることは間違いないだろう。


掲載モデルギャラリー
キングセイコー KSK キャリバー 6L35モデル

<共通スペック>
自動巻き(Cal.6L35、手巻き付き)。2万8800振動/時。日差+15秒~-10秒。約45時間パワーリザーブ(最大巻上時)。秒針停止機能。3時位置に日付表示。ステンレススティールケース&ブレスレット。38.6mm径。厚さ10.7mm。ラグからラグまで45.8mm。日常生活用強化防水(5気圧)。

キングセイコー KSK キャリバー 6R55モデル

<共通スペック>
自動巻き(Cal.6R55、手巻き付き)。2万1600振動/時。日差+25秒~-15秒。約72時間パワーリザーブ(最大巻上時)。秒針停止機能。3時位置に日付表示。ステンレススティールケース&ブレスレット。38.3mm径。厚さ11.7mm。ラグからラグまで46mm。日常生活用強化防水(10気圧)。

 

Photos:Jun Udagawa Styled:​Eiji Ishikawa(TRS) Words:Tetsuo Shinoda  Special Thanks:Gallery1950