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In Partnership

My Grand Seiko: 松本 大

マネックスグループ代表執行役社長CEOを務める松本大氏にとって時間とは使いこなすものなのだろう。激変する業界の荒波にリーダーとして舵を取り、日常の情報発信も欠かさない。そんな多忙な時をグランドセイコーが支えている。

松本大(まつもと おおき)とは?
1963年生まれ。東京大学法学部卒業。ソロモン・ブラザース勤務から、1994年には史上最年少の30歳でゴールドマンサックス・パートナーに就任。アジアにおけるトレーディング、リスク・マネジメントの責任者をはじめ、要職を歴任。1999年にソニーとの共同出資でマネックスを設立し、現在、代表執行役社長CEOを務める。

 会議室に現れた松本氏は、ツイードのジャケットにジーンズというリラックスしたスタイルだった。壁面に飾られた中田有美の現代アートがよく似合い、ビジネスマンというよりまるで美大の教授のようだ。その腕にグランドセイコーが収まる。

 「もともと腕時計に特別関心があったわけではありません。むしろ無頓着で。でも30歳のときにゴールドマンサックスのパートナーになったのを祝って、職場の友人がスイス製の腕時計を贈ってくれました。役員なんだから、と叱咤激励もあったんでしょう。それがまともな腕時計をつけた最初です」と笑う。90年代初頭といえば、映画『ウォール街』でも描かれたように金融マンが羽振りをきかせ、その力を服や腕時計でも誇示したころだ。

 「でも周囲の反応が変わったわけではなく(笑)。スポーツクロノグラフだったのでサイズが大きく、つけた感触も自分には不釣り合いに思いました。もっと気持ちにもフィットした時計がいいなと実感したのです」


SBGX005: マイ ファースト グランドセイコー

 「所有していたスポーツクロノグラフは、欧米人の体格や太い腕には合うと思いますが、私には合いません。それに腕時計には自分を誇示するような役割を求めませんでしたから」そんな気持ちを抱きつつ10年近くが経ち、あらためて自身が選んだ腕時計がグランドセイコーの「SBGX005」だった。搭載するムーブメントは1997年に登場した9F62クォーツで、ツインパルス制御モーター搭載やバックラッシュオートアジャスト機構、瞬間日送りカレンダーなど現行9F系の基礎を築いた。

 松本氏がこれを選んだ理由は、シンプルなデザインに、ケースサイズやクリームっぽいダイヤル色も肌の色に合うと思ったから。クォーツのグランドセイコーを選んだのはつけ心地からだ。

 「実用性で言えばいまならGPSソーラーなどが便利ですが、でもそれだけではないんですね、腕時計って。つけていて高い質感が伝わり、気分がよくなるか。身体にピッタリとフィットして、あまり目立たないけれどじつは高品質というのが好きなんです」そう語り、手にした愛用のグランドセイコーへの眼差しに慈しみが伝わる。

 「たとえばこれはバックルを留めるときの感触がいいんですよ。つけるときに気持ちがよく、安心感がある。それは外れないからとかではなく、きちんとしたものを着けているという自信であり、それでいて不釣り合いではないという心地よさみたいなものです」

 松本氏にとって腕時計とは、他者にどう見られるかではなく、まず自分がどう感じるか。「グランドセイコーを選んだのには、国産が格好いいという気持ちはありました。それは外資系のなかで日本人としてやってきたという気持ちであり、私自身もメイドインジャパンなので」と笑う。

コレクションにつながる1本: SBGA373

 世界を席巻したクォーツ式腕時計に象徴される、国産腕時計の先進性と独創性は現代に受け継がれる。そのひとつがスプリングドライブだ。「SBGA373」は9R65を内蔵し、72時間のパワーリザーブインジケーターを備える。デザインは、1967年にグランドセイコーの基本デザインを完成させた「44GS」の様式美に現代的な磨きをかけた。シンプルな佇まいに、シャンパンゴールドのダイヤルは松本氏が愛用する「SBGX005」にも通じるだろう。「いまはダイヤルの上にグランドセイコーと入り、セイコーのロゴは入らないんですね」と松本氏。2017年の独立ブランド化以降は、1960年の初代グランドセイコー誕生時にその名に託した思いを継ぎ、すべてのグランドセイコーに、セイコーではなく「Grand Seiko」のロゴを冠している。

 機能美を追求したスタイルはまさにビジネスの王道だが、最近ではそうしたドレスコードもなくなりつつある。そんな傾向について尋ねてみた。 

「人それぞれですからね。たとえば靴ならば、自分の足のサイズや形に合った靴を履いた方が遠くまで楽に歩けます。格好いいからといって歩行性能は上がらない。腕時計は趣味や装飾品という点で靴とは違いますが、なかには手首の上にマンションの価値が乗っかっているような人もいます。私はビジネスの文脈では、プロフェッショナルだと思っているんです。プロフェッショナルというのは仕事がすべてで、身だしなみも仕事をするためのものであり、価値は人間のなかにある。だからあまり不釣り合いに目立ち過ぎる腕時計や靴とかはピンとこないんですよ」


SBGM029: 琴線に触れた1本

 グランドセイコーを10年近く愛用し、松本氏が次に入手したのも期せずしてグランドセイコーだった。「腕時計に限らず、同じブランドを2度買ったことなんかなかったのに」という。「SBGM029」は、ブランド初のGMT発表から10周年を記念し、2012年に登場した限定仕様だ。搭載する9S66ムーブメントは現行のGMTにも継続している。

 「選んだ理由はふたつあります。ひとつはちょうどそのころ、息子がアメリカに留学したこと。男なのでほっといたんですが、言葉もできないので最初は心配で、息子の時間帯を追いかけたい。いや、追いかけるというか腕に乗せていたい。第2時間帯が表示できるGMTモデルを選んだのにはにはそんな気持ちを込めました。もうひとつは、すべて日本国内で作っているという広告を見たことです。当時、東日本大震災のあとで原発の問題もあり、これから先、日本は本当にどうなるんだろうと思いました。そんなときだったからこそ純国産というのが琴線に触れたんですね」

 遠く離れた我が子の時間を共有しつつ、国産の自負とともに未来への確かな時を刻み続ける。それは松本氏にとっても大きな心の拠り所になったに違いない。「でも面白いのが、ようやくこの腕時計を扱っているお店を見つけ、自転車で買いに行ったんです。あまり近くなかったのに必死にペダルを漕いで。なんで自転車だったんだろう?」何かに頼るのではなく、自らの脚で進んでいく。そんな気持ちにさせたのかもしれない。そしてすっかり同化し、カジュアルにもフォーマルな席にも使え、タキシードにも違和感ないと松本氏。「ほぼ日常の100%この腕時計をつけていて、今後変える気も必要性もまったく感じません」

コレクションにつながる2本: SBGM245、SBGM247

左からSBGM245とSBGM247。

 松本氏が愛用する「SBGM029」についてこんなエピソードを教えてくれた。「一度ハワイでつけていて、リューズに砂をかませてしまったんです。修理しようと地元の時計店に持ち込んだら、女性店員が目の色を変えて『グランドセイコーだ!』って絶賛してくれて。僕は基本的にあまり人にモノを見せたがらないし、ほっといてくれればいいんです。でも思い掛けないところで褒められたというのは嬉しかったですね」

 その後継となる現行モデルが、「SBGM245」とカラーバリエーションの「SBGM247」だ。松本氏愛用の「SBGM029」と同じムーブメントを搭載しているが、リューズとカレンダーの位置がそれぞれ3時から4時位置に移され、手首にも干渉しない。またケースサイズを39.2㎜から40.5㎜に拡大し、防水性能を10気圧から20気圧へと高めるとともに、ダイヤル外周を昼夜で色分けした。アクティブなダイヤル色にGMT針の色も合わせ、グローバルに活動する現代のライフスタイルを支える。

 「いまのモノって大きくなったり、色がついたりするんですね」と興味深く自身の腕時計と比べる。時代の息吹が吹き込まれ、進化を続けるグランドセイコーへの興味は、あらためて愛用品への愛着にもつながったようだ。


グランドセイコーを見て

 2017年にグランドセイコーはセイコーから独立ブランド化し、世界展開を担う。最高峰の実用時計から国産時計の最高峰へ。今年ジュネーブ時計グランプリ「メンズウオッチ」部門賞を受賞するなどその真価はいま世界からも熱い注目が注がれている。そのブランド戦略について松本氏はこう語る。

 「ブランドの基本はなかからにじみ出るものだと思います。まず社員が会社をどう考えているかがブランドになる。だから社員がウチはこうじゃないと思うようなことをブランド戦略として打ち出しても伝わるわけがない。さらにグローバルブランドになるためには、日本から発信し、世界に通じるようなモノとかサービスを作らなければいけません。グランドセイコーはその数少ないブランドですね」

左からSBGH273とSBGA445。

 現在のグランドセイコーを象徴する2本が「SBGH273」と「SBGA445」だ。前者は1967年に発売されたブランド初の自動巻機械式モデル「62GS」のデザインをモダンにアレンジし、10振動のハイビートキャリバーを内蔵。後者は同じデザインコンセプトに、スプリングドライブを搭載する。共通点は、THE NATURE OF TIMEのブランドフィロソフィーに基づき、藍色のダイヤルは「秋分」、ライトグレーダイヤルは「大雪」という二十四節気をそれぞれ表現する。日本独自の生活文化や美意識は、つねに自然とともにあり、移りゆく季節によって養われた。その思いを刻むモデルである。先進技術と日本ならではの感性が結び付き、スペックを越えて手にする者の心情に触れていく。そんなふたつの個性を前に「格好いいね」と松本氏は相好を崩した。

Photos: Yoshinori Eto Words: Mitsuru Shibata