オリエントスターは、昨年ブランドの上位コレクションとしてMコレクションズを発表した。Mの名は、18世紀のフランスの天文学者シャルル・メシエが作成した「メシエカタログ」のイニシャルから付けられた。メシエは発見した星雲、星団、銀河について番号を振ることで天文学の発展に貢献するばかりでなく、無限に広がる天体を把握する新たな視線を注いだ。天体の動きはかつて人間に時の概念をもたらし、その美しさは今も心を捉えて止まない。Mコレクションズが目指すのも天体に通づるエモーショナルに訴えるタイムピースであり、独創的な機能とデザインをそこに注ぐ。そしてそれはメシエが差し示した星々の輝きにも呼応するのだ。
Mコレクションズでもとくに個性が際立つM34 F8スケルトン ハンドワインディングは、手巻き式を採用する。リューズを自らの手で巻き上げることで自らの手によって時計に生命が宿り、スケルトン文字盤の上で針が時を刻み始める。指先から伝わる精巧かつ温もりある感触を楽しみ、より一層愛着が湧いてくる。それは時計との対話だ。選りすぐった豆を挽き、丁寧に淹れる目覚めのコーヒーのように、ゆったりとした朝のセレモニーを味わう。その所作が1日のスタートを豊かに飾り、さらに満ち足りた時を演出してくれるのである。
手巻きで紡ぐ宇宙の瞬き
M34 F8 スケルトンハンドワインディングがデザインテーマに掲げるのは“深宇宙に輝く恒星の光”だ。それは、宇宙に輝く光線を時計全体で表現する。最大の特徴であるスケルトンは、時間という概念を可視化する伝統的なメカニズムを表出し、すべてのパーツが精緻に組み合い機能する感動とともに、デジタル機器のようなブラックボックスを含んだものとは異なる安心感と温もりを呼び覚ます。このスケルトンは、オリエントスターでも1991年に初のモデルを発表した、ブランドを代表するスタイルだ。歴代スケルトンが装飾的かつクラシカルでマニア向けのデザインが多かったのに対し、前回モデルからはより直線的でコンテンポラリーなモチーフへと進化を遂げている。そしてこの新作でも、その方向性を受け継ぎ、普段使いしやすいデザインを追求している。醸し出すモダニティは日常にも違和感なくなじみ、手巻き式ならではの味わいとともに小宇宙を腕にするよろこびが広がるのだ。
現代的な手巻きスケルトンを標榜するには、それにふさわしい実用性も欠かせない。そのため、搭載するCal.F8B61 は約70時間という長時間駆動と高精度を確保し、これに寄与するのが国産時計では唯一無二のシリコン製がんぎ車だ。2017年に統合したセイコーエプソンのMEMS技術を応用し、金属製に比べて重量を約3分の1に軽減。耐摩耗性に優れるシリコンの素材特性にバネ性を持たせ、カナと密着した独自形状を開発した。こうした先進技術を注ぐ実用機能を秘めたスケルトンデザインは、オフィスでのビジネスアワーや自宅でのくつろぎの時間などオンとオフの境目のない現代的ライフシーンにも応える。手巻きによる薄型ケースのつけ心地は軽やかで心地よく、日々愛用することでより自分らしさを演出してくれる。
M34 F8 スケルトンハンドワインディングの新作は、“深宇宙に輝く恒星の光”を一層深め、細部にまでこだわったデザインで具現化している。全体はグレー、ブルー、ブラックのカラートーンで統一し、ブラックのベゼルは無限に広がる宇宙空間を表現。文字盤外縁のスロープしたブラックのリングに刻まれたスケールはその漆黒の宇宙に放射状に拡散する光を思わせる。特に新作ではインデックスを配した内側のリングには、上下にブルーからブラックのグラデーションを施し、宇宙の奥行きを表現する。こうした全体にわたる繊細な彩りによってベゼルやケース、文字盤に移り変わる美しい光の変化を描き出すのだ。ムーブメントでは9時位置に脱進機を覆うように彗星のフォルムを象り、オープンワークは細かなペルラージュ装飾で仕上げ、星々が煌めくような印象を与える。そして時・分針やパワーリザーブインジケーターをはじめ、さりげなくのぞくシリコンがんぎ車まで鮮やかなブルーで統一したことで、ひと際映えるのだ。古典的なスケルトン文字盤に対し、コンテンポラリーなスケルトンはインダストリアルなデザインを強調することで無機質かつ平滑な印象になりがちだ。これに対し、恒星の光を感じさせるエモーショナルなディテールを加えることでコントラストを生み出し、深まる奥行きがより一層の立体感を感じさせるのである。
マザー オブ パールが描く幻想のひととき
M34 F7では、既存のムーンフェイズとダイヤルの一部を穿つセミスケルトンという2種類の仕様に、新しいデザインコンセプトを取り入れたバージョンを発表した。“夜明けのオーロラ”を共通イメージに、夜空に浮かぶ色鮮やかな光のカーテンを表現するため、文字盤にMother of Pearl(MOP)を導入した。素材の持つ複雑かつ豊かな色彩を引き出し、朝焼けを再現した光を感じさせるデザインだ。MOP文字盤ではグリーンやブラウンを発表しているが、そうしたダーク系の色調に対し、新作では明るいワントーンに縦方向の濃淡のグラデーションを施し、光によって変わる表情はまさにオーロラを思わせる。MOPを採用するのは、華やかなドレスウォッチとしてだけでなく、日常生活でも違和感なく使える時計にするための工夫でもある。天然素材が持つ独自の模様と輝きに細やかな手間をかけて仕上げることで、時計を身につけるたびに特別な感情が生まれるようデザインされているのだ。こうした工夫により、天然素材ならではのMOP固有な模様と輝きは使うたびに新しい表情を見せ、ユーザーに自分だけの1本を持つよろこびをもたらしてくれる。
文字盤を構成するのは、ブランドのアイコンである12時位置のパワーリザーブ表示に、ムーンフェイズあるいはスモールセコンドとセミスケルトンだ。それぞれの表示もMOPの繊細なニュアンスに合わせて、トーンを揃えつつ微妙に変化をつけることで全体のバランスを損なわない。6時位置のインダイヤルは、中心軸ギリギリまで追い込み、扇状のパワーリザーブ表示とも絶妙なバランスを取る。そして文字盤の外縁にはグレーのリングを設け、MOPとSSケースを繋ぐ自然なコントラストは、全体に調和しつつ文字盤を際立たせるアクセントになっている。このMOPには、時計をより身近にし、使う人の感情に寄り添いたいという作り手の思いが込められている。夜明け前の淡い大気を感じさせるトーンと自然なグラデーションは躍動感が息づき、品格漂うスタイルはシーンを選ばず長く愛用できるだろう。こうした移ろう色のニュアンスは伝わりにくく、ぜひ実際に手に取ってみることをおすすめする。その美しさに感嘆するはずだ。
着用してみると、40mm径のケースながらショートタイプのラグによって手首にもスッキリと収まる。そして重厚感はあるものの、設計上の重心が下にあることで心地よい安定感が味わえる。またブレスレットはMコレクションズの共通デザインだが、MOP文字盤に合わせてF8スケルトンとは磨きを変えている。こうしたこだわりも高級時計のレンジに位置するコレクションにふさわしい。
星々とともに過ごす日々
星はいつでも人間とともにあり、かけがえのない存在として親しまれてきた。とくに季節や時間、方角を知るために欠かせない指針であり、時には人間の無限の創造力を掻き立てる。そんな夜空に煌めく星のように時を刻む時計をつくりたいという思いから、オリエントスターは誕生した。同ブランドのユーザーには普通とは違う、特別なものに引かれる傾向が強いという。日常使いできる時計であっても、自身が気に入った特別なデザインやカラー、秀でた要素を希求するのに対し、非日常的なモチーフやロマンチシズムを取り入れ、その充足感に応える。リブランディング以降のコレクションは、光の加減によって文字盤がさまざまな表情を見せるのが特徴だ。身につけるたびに異なる輝きを楽しめるためユーザーに新鮮な発見をもたらし、飽きさせることはない。こうした細やかなデザインはオンとオフの境目を超えて、あらゆるシーンに自然と溶け込む。オリエントスターの時計は、日常の一部としてユーザーに寄り添い、特別な瞬間をともに刻むパートナーとして輝き続ける。Mコレクションズはまさにその世界観を象徴し、ブランドの進化を象徴するひとつ上の品質と性能を約束するシリーズとなるのだ。
オリエントスター Mコレクション 新作ギャラリー
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Photos:Tetsuya Niikura Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Mitsuru Shibata