ラグジュアリーブランドを取り巻く環境は劇的な変化を迎えている。ファッションのカジュアル化に伴い、顕著に増えたのが汎用性に優れたスポーティなアイテム、あるいはブランドロゴなどを前面に押し出したアイコニックなアイテムだ。とりわけ後者の製品開発において、誰もが知る有名キャラクターを起用する手法は妥当な選択肢といえよう。
これに続くコラボレーション第2弾として、アクションレースゲームシリーズ『マリオカート』をテーマにした新作として、タグ・ホイヤー フォーミュラ1 × マリオカート リミテッドエディション トゥールビヨン クロノグラフ(世界限定250本)と、タグ・ホイヤー フォーミュラ1 × マリオカート リミテッドエディション クロノグラフ(世界限定3000本)が発売された。この2モデルは、アドレナリン、スピード、競争心、勝利への道のりと、両ブランドの通じるレーシングの世界観をダイナミックに表現したタイムピースだという。
漫画、アニメ、ゲームなどのホップカルチャーはグローバル化を遂げ、世界中で親しまれる共通言語となった。タグ・ホイヤーは、2021年に任天堂株式会社とコラボレーションを開始し、第1弾として同年に発表したTAG Heuer Connected Super Mario Limited Edition(世界限定2000本)は、発売するやいなや瞬く間に完売した。ユーザーの活動状況に応じてアクティブに変化するスーパーマリオのアニメーションは、ゲームキャラクターとデジタルインターフェイスの特性を生かした新たな試みとして、世間から大きな関心を集めた。
タグ・ホイヤーと任天堂が目指すゴールとは、いわゆるキャラクターウォッチの枠にとどまらない、ジャンルの垣根を越えた、心が躍る高級時計の完成にほかならない。その真意を確かめるべく、先日来日したタグ・ホイヤーのマーケティングのトップに立つ人物、CMOのジョージ・シズ氏へのインタビューを実施。昨今、盛んに行われるようになったラグジュアリーブランドとポップカルチャーのコラボレーションの意義、そして、そこに込められたメッセージについて考察する。
次代へのメッセージが込められたコラボレーション
キャラクターウォッチの誕生は1世紀以上前までさかのぼる。ミッキーマウスウォッチは、その代表例だ。多くは大衆に向けて作られたもので、戦前に生まれたディスポーザブルウォッチ、1970年代以降のクォーツウォッチなどが該当する。これらは安価であることを前提に、ディズニー屈指の人気キャラクターを前面に打ち出したものだが、タグ・ホイヤーと任天堂の取り組みは、ラグジュアリーの領域に立つプロダクト。本格的なコラボレーションに重きを置いたもので、前者とは一線を画す。
ラグジュアリーブランドのポップカルチャーへのラブコールは、2000年代初頭から始まった。ひと昔であれば交わることがなかった両者の刺激的なコラボレーションは、ジャンルの壁を取り払い、新たな可能性をみいだすことに成功。とりわけタグ・ホイヤーと任天堂のコラボレーションは、世界中で親しまれているスーパーマリオシリーズのリソースと、スイス時計が誇るウォッチメイキング技術を、高次元で融合させている。
スイス本社のタグ・ホイヤーCMO、ジョージ・シズ氏は、今回『マリオカート』を選んだ理由には明確な意図があると話す。「タグ・ホイヤーはレーシングの世界と長年にわたり携わってきました。そこでの親和性を踏まえると、フォーミュラ1と『マリオカート』のマッチングは、完璧だといえるでしょう。私たちは、腕時計とは人々にインスピレーションを与えられるアイテムだと考えています。現在、世界各地で深刻な問題が起きていますが、こんなときだからこそ、身につけるだけで楽しい気分になれる腕時計を提供したいと思い立ったのです」
誰もが知る親しみやすいキャラクターの魅力と高級時計ならではのクオリティの両立。前時代のキャラクターウォッチがみいだせなかった答えを求めて、タグ・ホイヤーの新たな挑戦が始まった。「“本物”と呼ばれるレベルに到達するためには、見た目にこだわるだけでは不十分で、必ず機能が伴っていなければなりません。そこからアイデアとして生まれたのが、マリオカートのアイテムが出てくる日付表示や、カートに乗ったマリオ、トゲゾーこうら、キラーがよく動き回るトゥールビヨンなどに見られる楽しい機能です。任天堂のチームは熱意があり、徹底してディテールにこだわります。彼らの情熱と我々の緻密な技術が重なることで、このような力強いプロダクトが生まれたのです」
ラグジュアリーブランドとポップカルチャーという一見すると相反するふたつのジャンルが重なることで生まれるシナジーは、機械式時計の頂点に立つ複雑機構にユーモラスな魅力を与える。「シリアスに考えすぎずに、もっと高級時計を楽しんでほしい」。そんな次の時代を切り開くメッセージこそが、このコラボレーションの意義であり、核心なのだ。
Photographs:Jun Udagawa Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Tsuneyuki Tokano