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STAYING CLOSE TO LIFE 次なる理想を追い求めて進化する、ザ・シチズンのウォッチメイキング

技術の粋を集めたフラッグシップブランドとして1995年に誕生したザ・シチズン。精度、品質、デザイン、ホスピタリティの4つの観点から理想に挑戦することをブランドステートメントに掲げ、進化を続ける最前線モデルの魅力の裏側に迫る。

本特集はHODINKEE MAGAZINE Japan Edition Vol.6に掲載されています。

 光発電で駆動する独自の技術エコ・ドライブ。シチズンは、これをひとつの“柱”へと進化させてきた。機能のみならず、光を透過させる素材による審美性の向上にも取り組み、昨年末に登場した年差±5秒の高精度を誇るザ・シチズンAQ4091-56Mでは、新たな挑戦として世界最薄といわれる土佐典具帖紙(てんぐじょうし)を天然の阿波藍(あわあい)で手染めした文字盤を採用した。

 土佐典具帖紙は清流・仁淀川が流れる高知県日高村にある、ひだか和紙が製造を手がけている。独自の抄紙機の技術によって、手漉すきではできない究極の薄さや透明度、均一性により世界的に高い評価を受けている。同社代表取締役 鎮西寛旨(ちんぜいひろよし)氏は、こう説明する。
 
「昭和44年にオリジナルの抄紙機を開発し、以降これを進化させてきました。手漉きの場合1㎡あたり約12gですが、1.6gまで追い込むことができ、薄さの限界となる0.02mmを実現しました。塩素を用いず変色しにくい漂白技術も開発し、古文書や美術品などの文化財の修復に最適の紙として世界中で用いられています」

 この土佐典具帖紙の藍染に挑んだのは、藍染に魅せられ2012年に徳島へ移住し、キャリアを積んできた渡邉健太氏の工房、Watanabe’sだ。“天然灰汁発酵建て(てんねんあくはっこうだて)”という伝統技法にこだわり、蓼藍(たであい)の栽培から染料となる蒅(すくも)作り、染色・製作まで一貫して手がける。

 「実はひだか和紙さんの土佐典具帖紙を染めた経験があり、偶然にもシチズンさんからの依頼でコラボレーションが実現しました。光の透過性と色調のバランスを見ながら、染色液につける回数や時間を調整し、試作を繰り返しましたが、思った以上にスムーズに運び、藍染和紙が文字盤に適しているのを証明しているかのようでした」と語る渡邉氏。

 繊細な質感と深くさえた色合いを特徴とし、ひとつとして同じものがない土佐典具帖紙(てんぐじょうし)の藍染文字盤。天然素材ということに加え、藍染の発酵菌が役目を終えると畑に返して肥やしにするサステナブルなサイクルもエコ・ドライブのあり方と響き合った。“身につける人に長く寄り添う”という理想を、これほど体現した時計もないだろう。

ザ・シチズン 高精度年差±5秒エコ・ドライブ Ref.AQ4091-56M 44万円(税込)

土佐典具帖紙(てんぐじょうし)の厚さは、わずか0.02mm。究極の薄さ、透明度、均一性は他に類を見ない。

光の透過性と色調のバランスを見ながら試作が繰り返された。仕込んでから比較的若い染色液を用いて目指したのは、時計の文字盤として手元で目立ちすぎない彩度の高い色調だ。土佐典具帖紙(てんぐじょうし)の藍染は、まずこんにゃく糊のりを塗布して強度を上げてから行われるが、この工程は以前、ひだか和紙の藍染を経験した際に編み出されたものだという。

それぞれ電鋳技法により、表情の異なるパターンが採用されている。3時位置にデイトを追加し、細かいバランスを取りながら調整されたインデックス、フォント、時・分針など、見どころが満載だ。

Cal.0200を踏襲しつつも、デイト表示を追加しながら厚みを抑えたCal.0210。審美性を追求し、仕上げにもこだわった。

1924年、シチズンは初となる自社製の16型懐中時計を世に送り出した。この時計は昭和天皇ご愛用の栄誉に浴したという逸話も伝わっている。機械式時計は、定期的にメンテナンスを行えば長く使い続けることができ、ブランドの理念にも合致することから、そのDNAを改めてザ・シチズンの柱としようとする動きが顕在化してきた。2021年に登場したザ・シチズン メカニカル Cal.0200は、その第1章として大きな話題となった。約11年ぶりとなる自社開発の新型高精度自動巻きムーブメントCal.0200はスイスのラ・ショー・ド・フォンにあり、2012年にシチズン傘下となった実力派ムーブメントサプライヤー、ラ・ジュー・ペレ社にシチズンの技術者を派遣し、そのアセットやノウハウを生かしながら開発された。フリースプラング式の高精度に加え、入念な面取りや仕上げを施し審美性も高い。ラグのない大胆な面構成のケースと、それに連なる一体型デザインのブレスレットもシャープな高級感を醸し出す。

 そんなメカニカルモデルの第2章として登場したのが、ザ・シチズンメカニカル Cal.0210である。実用性の向上を眼目とするこのモデルについて、商品企画担当の伊藤惠己氏は、次のように説明する。

 「0200では、機能性と審美性とをバランスよくパッケージできたと思っています。今回、実用性を向上させるにあたり、3時位置にデイトを追加し、防水性を5気圧から10気圧に高めました。大きな変更に踏み込まなかったのは、0200でできあがったイメージをキープし、トータルバランスを崩さないことを重視したからです」

 とはいえ、3時位置が重たく見えるのを避けるためさまざまな工夫を盛り込んだと話すのはデザイン担当の榎本信一氏だ。

 「12時位置のインデックスを太い台形状に変更し、各バーインデックスを太くしながら短く整えました。ほかにも6時位置のスモールセコンド内のアラビア数字のフォントもやや縦長にするなど、トータルの文字盤バランスを細かく調整しています。時・分針も0200の2面カットにホーニング仕上げというものから、4面カットにヘアライン仕上げとし、インデックス上面のヘアラインとの整合性も図っています」

 ムーブメントもCal.0200を踏襲し、トータルバランスを崩さないようにした点をムーブメント設計担当の井上祥太郎氏も強調する。

 「Cal.0210は、Cal.0200の精度と審美性を継承し、厚みを抑えながらデイト表示を輪列に組み込み、デザイナーの榎本が完成状態でベストと指定したデイト表示の大きさをムーブメント設計に忠実に落とし込んでいます」

 まったく新しいモデルではなく、先行するノンデイトのCal.0200と併存する選択肢として、同様のイメージを維持しながら実用性を高めたCal.0210の開発に踏み切ったのは、新たなフラッグシップの基盤を固めるうえで賢明な判断と言っていい。

 ところで、最近ザ・シチズンにあしらわれているイーグルマークがデザインを一新し、さりげなく存在感を増してきたような印象がある。1000m先の獲物も見つけられる視力を持つ鷲は、古くから狩りのパートナーとして人との関係性を築く鳥としても知られてきた。常に先を見据え、身につける人に長く寄り添おうとする意志を込めた鷲の紋章に、理想に向かって雄々しく羽ばたくザ・シチズンの姿が重なって見えるようだ。

ザ・シチズン メカニカル Cal.0210 特定店限定モデル Ref.NC1001-58A(白文字盤)、Ref.NC1000-51E(黒文字盤) 各88万円(税込。2023年冬発売予定)

Photographs:Testuya Niikura(SIGNO) Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Yasushi Matsuami