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Identity of the Freak: ユリス・ナルダン フリーク 進化の系譜をたどる

ダイヤルにむき出しになったムーブメントが回転し、時を示す──フリークは、21世紀の幕開けとともに誕生した。その名の通り“異形”の複雑時計は、シリコン製脱進機やフルオープンダイヤルを先駆け、機械式時計の進化の新たな道しるべとなった。

1980年代、機械式時計の魅力を再認識させたいくつもの傑作が生まれたことで、クォーツショックによる冬の時代は終えんの兆しを見せはじめた。ルードヴィヒ・エクスリン博士がユリス・ナルダンのために開発した「天文時計3部作」も、そのなかのひとつ。そして1990年代に入ると、さまざまなブランドが多彩な複雑機構をリリースし機械式時計は完全復活を果たす。天文時計3部作の成功により、ムーブメントこそが機械式時計の最大の価値と捉えた当時のユリス・ナルダンCEOロルフ・W・シュナイダーは、マニュファクチュール化を推進。その第一弾として世に送り出したのが、フリークであった。

 他社にはない複雑機構はシュナイダーの思惑通り大きな注目を集め、ユリス・ナルダン“マニュファクチュール”の優れた技術力と独創性を世に知らしめることとなった。その後もフリークは新技術の実験場を担いながら、進化を続ける。そして2019年、テンプと脱進機のみが巨大な針に載るシンプルな「フリーク X」の誕生で、ターゲットとするユーザーの幅を広げた。

初代フリーク: 原点

 2001年当時、機械式時計の花形はトゥールビヨンであった。対してフリークは、同じく重力の影響を平均化させる19世紀に生まれた複雑機構「カルーセル」の進化系である。トゥールビヨンは、脱進機がキャリッジの回転に伴い、その下に固定された歯車に沿って衛星回転し稼働する。一方、回転木馬を意味するカルーセルは、キャリッジ内に脱進機の駆動車も収まる。ゆえに機構自体が大きく重くなり、キャリッジはゆっくりとしか回せない。

フリーク(2001年)

 歴史の陰に埋もれていた古典の機構を掘り起こしたのは、数々の名機を設計し、「トゥールビヨンの女王」と謳われるキャロル・フォレスティエ=カザピ女史であった。まだ世に出る前の彼女は1997年、60分で1周するキャリッジをダイヤル中央に置く「センター カルーセル」を開発。アブラアン-ルイ・ブレゲ生誕250周年を記念した公募で、最優秀賞のブレゲ賞を射止めた。

 この新たな複雑機構に大きな可能性を感じたシュナイダーCEOは、センター カルーセルの権利を買い取り、製品化を進める。設計を担当したのは、前述の天文時計3部作の作者ルードヴィヒ・エクスリン博士。彼はセンター カルーセル自体を分針とすることを決め、輪列やテンプ、脱進機が載る大きく重い分針を動かすためケースバック内側全体を巨大な香箱とし、7日間パワーリザーブまでもかなえた。

 本機の巻き上げは、裏蓋を直接回して行う設計になっている。さらに噛み合うふたつのガンギ車の歯先が、ロッキングストッパーと呼ばれるパーツを介して交互にテンプを叩く高効率な「デュアル ダイレクト脱進機」を開発。軽量化と超精密加工が必要な新脱進機には、時計界初のシリコン(シリシウム)が用いられた。また重い分針を針合わせするにはリューズでは心もとなく、ベゼルを回して操作する仕組みとした。

 かくして前例のない機構・素材を駆使して生まれた初代フリークは一大センセーションを巻き起こし、熱心な信者(フリーク)を生み出すこととなった。

フリーク 28,800V/h: 脱進機の進化

フリーク 28,800V/h(2005年)

 シリシウムパーツをいち早く導入したフリークは以降、新素材の実験場となってゆく。2005年にはデュアル ダイレクト脱進機が、ガンギ車の歯型とロッキングストッパーの形状の改良で間接インパルス方式に進化。新たなデュアル インダイレクト脱進機(現デュアル ユリス脱進機)により、2万1600振動/時から2万8800振動/毎時へとハイビート化された。またテンワもフリースプラグとなったことと相まって、耐衝撃性と精度が向上した。

 さらにユリス・ナルダンは、新脱進機に新たな素材を試みる。ガンギ車とロッキングストッパーを、なんと人工ダイヤモンドで形作ったのだ。高硬度素材により摩耗を解消し、注油を不要にしようと目論んだのだ。これを搭載したモデルの名は、フリーク ダイヤモンド ハート。しかし製造コストがかかり過ぎるため、初回限定99本が製作されただけに留まった。

 人工ダイヤモンドが用いられた結果、シリコンの優位性が証明された。そして2006年、ユリス・ナルダンはアクロテックグループとシリコンパーツ製造会社「シガテック」を設立。フリークの進化は、シリコン技術に支えられていく。

フリーク ダイヤモンシル & フリーク イノヴィジョン: 先進素材の大胆な採用

フリーク ダイヤモンシル(2007年)

フリーク イノヴィジョン(2007年)

 シガテック設立の成果は、2007年に早くも現れた。シリコンパーツの表面を人工ダイヤモンドでコーティングした新素材ダイヤモンシルが開発されたのだ。これにより“ダイヤモンド ハート”に比肩する、高硬度なデュアル ユリス脱進機がかなえられた。この素材は、のちに自社製自動巻きCal.UN-118などの脱進機にも応用されていく。

ダイヤモンドとシリシウムのコンビネーション技術が採用されたデュアル ユリス エスケープメント。

 また同じ年、シリコンの可能性を探るコンセプトウォッチ フリーク イノヴィジョンも発表。これはテンプの耐衝撃装置とヒゲゼンマイをシリコン製とした、初の腕時計であった。さらに2段階プロセスでガンギ車とカナとを一体成型するなど、シリコンパーツ製造技術も進化させていた。香箱の軸受けにはボールベアリングが使われ、これらによりムーブメント全体の完全オイルフリーを実現した点においても、極めて革新的である。

フリーク ディアボロ & フリーク クルーザー: 機構の複雑化と美的進化

 19世紀に誕生した重力を平均化するふたつの複雑機構は2010年、ユリス・ナルダンによってひとつに統合された。フリーク ディアボロは、センター カルーセルに、フライングトゥールビヨンを載せた意欲作である。分針を兼ねるカルーセルの上で回るトゥールビヨンのキャリッジは60秒で1周するため、フリークに初めて秒針が備わることとなった。脱進機はスイスレバー式だが、フリークらしくシリコン製となっている。

上段からフリーク ディアボロ(2010年)とフリーク クルーザー(2013年)。

 機構の進化に加え、外装の美的進化も忘れてはいない。2013年に登場したフリーク クルーザーは、カールセルのブリッジをスケルトナイズドして軽やかな印象を与え、かつ形状をメゾンのロゴにも使われる錨型とした。針合わせ用のベゼルも、波や船のスクリューを想起させるフォルムが与えられている。独創的な機構は、よりアイコニックで美しく、生まれ変わった。

フリーク イノヴィジョン2: 技術とデザインの革命

 2007年に続く、コンセプトウォッチ イノヴィジョンの第2弾。デュアル ユリス脱進機は、シリコン製のロッキングストッパーに複数のブレードを与え、その張力で一定の力をテンプに伝達するデュアル コンスタント エスケープメントへと進化させた。

フリーク イノヴィジョン2(2017年)

 コンスタントフォースをかなえる複雑な形状を得るため、複数のシリコンパーツを直接結合する技術を確立した。テンワも初のシリシウム製となり、外周に設置した4つのゴールド製ウェイトで慣性モーメントを高め、歩度の安定が図られている。

 カルーセルの半透明のブリッジは、シリシウムにサファイアクリスタルをコーティングした新素材製。さらにゼンマイの巻き上げ機構には、ローターの内側に取り付けた4つのシリコン製の爪が香箱上中央のホイールに噛み合い、直接巻き上げるグラインダー自動巻き機構を発明するなど、ほか合計10個の新技術が、盛り込まれた。

 外装においても、ベゼルのデザインを再び見直すなど、刷新が図られている。

フリーク アウト & フリーク ビジョン: 手の届きやすさと頂点を極めた両極端

 2018年、フリークの異なる方向性を示すふたつの新作が登場した。ひとつは、より広いユーザーに訴えかけられる価格帯を目指した「フリーク アウト」。カルーセル機構のデザインとムーブメントはフリーク クルーザーから、ベゼル形状はフリーク イノヴィジョンから継承する。ケースをこれまでのゴールドからチタン製とすることで、価格はグッと抑えられた。

右からフリーク ビジョンとフリーク アウト(どちらも2018年)。

 もうひとつのフリーク ビジョンは、機構のさらなる洗練を目指す。フリーク イノヴィジョン2からグラインダー自動巻き機構を継承した市販モデル初の自動巻きフリークであり、シリコン製テンワも受け継いでいる。ただしウェイトは、ニッケルに改められた。主輪列すべてをシリコン製としたのも、特筆すべき点である。

 そして2015年発表の「ユリス・アンカー トゥールビヨン」で開発されたユリス・アンカー脱進機が、フリークで初採用された。これはシリコンで一体成型されたC型フレームの内側に伸びる複数のビームがアンクルを吊り下げたような構造を採り、ビームの一定の弾力をテンプに伝えるコンスタントフォース機構を備えている。

 フリーク以外で試みられた高精度機構を組み込んだカルーセルは、その形状にボートのように滑らかなフォルムが与えられた。ベゼルもバイカラーとしながら、3つの突起だけを置き、シンプルに洗練。誕生から17年を経て、フリークはひとつの完成形へと至った。

フリーク X(2019年、そして2022年新作のYAGASURI)新たな進化の方向性

 ユリス・ナルダンは、2019年に発表した「フリーク X」で、センター カルーセルの新たな可能性を提示した。これは一般的なリューズが備わる初のフリークであり、通常の香箱が地板上に設置され、センターローターで巻き上げる。これら基本設計は、自社製自動巻きCal.UN-118からの流用だという。

フリークX通常モデル(右)と2022年新作のフリークX YAGASURIモデル(左)。

 センター カルーセルの構造も、これまでとは明らかに異なる。巨大な分針に載るのは、テンプと脱進機のみ。輪列は、その下のプレート上に構築されている。脱進機はスイスレバー式だが、テンワとヒゲゼンマイを含め、すべてがフリークを象徴するシリコン製である。シリコン製テンワの外周に設置したニッケル製のウェイトがフリーク ヴィジョンと比べ大きくなっているため、慣性モーメントはより高まっているであろう。そして分針上に輪列がないぶん、大型のテンプの動きがよりダイナミックにダイヤルに際立つ。

 駆動輪列の設計は、シンプルにして巧妙である。ダイヤル中央に設置されたロジウムカラーの歯車は、脱進機とテンプとを稼働させる四番車。そして四番車と同軸にある大型の歯車には、センター カルーセルが載る。その外側の歯車からの駆動伝達はテンプの調速で制御され、正確に60分で1周させる。と、同時に駆動車はその上のカナがアワーインデックスと一体成型された固定内歯車に噛み合い、時針プレートとともに1周12時間で衛星回転する仕組みだ。

 設計のシンプル化によりフリーク Xは、フリーク アウトよりもさらに価格が抑えられた。ケース径は43mmで、フリーク歴代最小。リューズが備わり、ベゼルと裏蓋が固定式となったことで、防水性能も50mにまで向上した。エントリー価格となったフリーク Xは、サイズと防水性能、そして操作性においても、センター カルーセルをデイリーユースに適するよう進化させた。チタンの外装は実に軽やかで、装着感にも優れる。

 その最新作は、ダイヤル全体が矢絣模様で彩られた。和の伝統模様を配した本機は、日本と中国の限定モデルで。ケースはブラック、ストラップはホワイト×ブラックで、矢絣模様や主な輪列ともどもモノトーンの装いは、水墨画にも似る。フリーク Xのダイヤルは、三層構造。内歯車の外側にはインデックスが置かれ、内側は二層になっていて中央が時針プレート。固定された外側二層に対し、中央は回転し続け、少しずつ矢絣模様の重なりが変化していく様子が楽しい。これはセンター カルーセルならではの表現である。フリーク Xは、ダイヤル装飾の新たな可能性をも広げたのだ。

 前述したようにフリークの進化は、シリコン技術のまさに実験場であった。またフリーク以降、他社でもより高効率な新脱進機の開発が進んだ。ダイヤル上で巨大なメカニズムを回すことにも、いくつものブランドが挑むようになった。そうした意味で、フリークは21世紀の時計製作技術をひとつの方向性を決定付け、常にリードしてきた象徴的存在である。忘れられかけていた古典の機構を蘇らせた際、キャロル・フォレスティエ=カザピ女史は、これが時代の最先端となると予想していただろうか? そしてシリコンパーツが、21世紀の機械式時計の主役となることをいち早く看破し、シガテックを立ち上げた故ロルフ・W・シュナイダーは、まさに名伯楽だといえよう。エントリーモデルのフリーク Xでも、シリコンパーツの先進的な高性能は実感できるうえ、外装素材やダイヤルのバリエーションも豊富だ。フリークはできる、常に“異形”であり続け、進化を止めない。

Photos: Jun Udagawa Words: Norio Takagi Styled: Eiji Ishikawa(TRS)