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In Partnership

ティソのトップが明かす、世界的戦略と日本市場との関係

PRXの世界的大ヒットの立役者であるシルヴァン・ドラCEOが、日本に熱視線を送る理由とは?

ティソが絶好調だ。スイス時計の輸出は、その総額が過去最高を記録する一方、出荷本数ベースでは2019年比で約半分にまで落ち込んでいる。これは、主に中価格帯の時計ブランドの苦戦を示しているデータだが、その渦中にあるティソは成長を果たしている。

 コロナ禍にティソCEOに着任したシルヴァン・ドラ氏は、スウォッチ・グループの各ブランドで要職を歴任された人物だが、彼をしても決して容易ではなかったと想像されるここ2年間の躍進の秘密を、直接インタビューする形で明かしてもらった。

 若年層からの支持と、人生の記念に時計を購入するというライフスタイルの回帰。そして、当然、PRXの大ヒットに至るまで、多くの観点から話を聞いた。

関口 優(以下、関口)

 PRXというアイコンが誕生した(2021年5月)ことで、日本でのティソというブランドのプレゼンスが高まっています。特に若い世代から支持を集めているようですが、これはグローバルでも同じ状況でしょうか?

シルヴァン・ドラCEO(以下、ドラ氏)

 PRXは、短期間でブランドにとってとても重要な存在になりました。我々の過去から生まれたオーセンティックなものであり、ティソというブランドを再定義した時計です。全世界、中国を除いて(現在では状況は変わっているものの)非常に大きな成功を収めており、それ以前からティソの柱であったベリッシマ、ル・ロックル、シースターといったコレクションと並ぶほどの存在感になっています。現在ではそれぞれがよい割合で拮抗している状況です。

関口

 やはりPRXを支持しているのは若い層なのでしょうか?

ドラ氏

 はい、まさにそうです。東京はもちろん、アジアの他の国でもパリ、ニューヨークでも、新しい顧客層、特に20代の若い層がPRXでティソを知り、次々に購入しています。彼らは自分に自信のある人物で、常に成長を願っている。日本でもそれは同じで、20〜22歳の顧客が、特別な体験のためにPRXを買い求めにブティックに足を運んでくれています。自分のライフステージのちょっとした記念として時計、そしてティソを選んでくださるわけです。もちろん、長年スイス時計やティソを好んでくださる方々の後押しもあり、PRXは想像以上の急成長を遂げています。

関口

 絶好調のPRXですが、クォーツと機械式ではどちらが人気なのでしょうか?

ドラ氏

 現在はちょうど半々くらいの割合です。PRXはクォーツからスタートしたコレクションであり、当初反応してくださった多くの若い方たちは予算にも上限があるためクォーツを選ばれる傾向が強いです。もちろん、時計好きの方には機械式時計が好感されているためにこのような割合で推移していますが、長い目で見ると6割くらいがクォーツになると思います。これはティソの他の時計でも似た傾向があります。PRXは歴史をたどると1978年からスタートしているコレクションでありますが、リバイバルしてからまだ1年半、始まったばかりの時計ですから。

PRXはローンチ当初から好評を博し、40mmのクォーツの直後に追加された自動巻きモデル(左・9万2400円)、機械式クロノグラフ(中央・24万2000円)、35mmのクォーツ(右・6万500円)など、多くのバリエーションを拡充してきた(すべて税込)。

関口

 学生や社会人になりたての若者が、自分の特別な体験のためにティソ PRXを選ぶというのは興味深いですね。これはブランドとして意図したことなのでしょうか? そのために行ったPRやコミュニケーションの施策で、特別なことがあれば教えて下さい。

ドラ氏

 我々は360°的なアプローチを行っています。それは、お店の作り方であり、ディスプレイや並べる商品のクオリティや構成です。それらすべてで、若年層から新鮮に見えるようなモダンなコミュニケーションになるよう意識しています。例えば、PRXをローンチした際に製作した以下の動画もそうです。70年代を知っている人からすればレトロフューチャーかもしれませんが、2020年代の若者からすれば真新しい世界観に写っているでしょう。

PRXはそれぞれのサイズと仕様で多彩なカラーリングが用意される。クォーツモデルにはヘアライン仕上げ、もしくはサンレイ仕上げの文字盤が、機械式モデルにはエンボスド・チェッカード・パターンが施された文字盤が配される。

関口

 なるほど、たしかにティソは、スイスの歴史あるブランドというよりも、もっとモダンなライフスタイルブランドのように感じますね。しかしながら、それだけではファッションアイテムとしては高額なティソの時計を購入する理由にはならないと思います。やはり、PRXを始めとする時計の作りのよさが好感されているのでしょうか?

ドラ氏

 PRXにおいては、手にとって実感しやすい質感が好まれています。特にブレスレットの滑らかさや装着したときの快適さ、そして仕上げ分けなどです。これは、ティソのヘリテージモデルを蘇らせるにあたり、いかに現代性を持たせるかにおいて注意を払って開発したディテールになります。一方で、我々が行った調査結果では、スイス時計を購入する18〜35歳の層は、自分の好みがはっきりとしていることもわかっています。若年層は、我々の世代以上にディテールにフォーカスします。非常に多くの時間を使って時計について調べ、知識を高めた状態で購入に至るわけです。PRXの作りの細かさが好まれて、そうした若年層がパーソナルなアイテムとして選んでくれているのだと思います。

関口

 PRXで見事に自社のヘリテージを生かしたわけですが、ティソは他にも素晴らしい歴史的な時計を持つ企業です。PRX以外のヘリテージにも、再解釈されて打ち出されるような可能性はあるのでしょうか?

ドラ氏

 とてもいい質問ですね。答えはイエスです(笑)。実は、2023年にはとても大きなローンチを控えています。もちろん、PRXのようにモダナイズを加えたもので、そのうちのひとつはとても強いコンセプトだと感じていただけるでしょう。来年の夏前ごろには、何かしらの情報をお知らせできると思います。

ティソのアイデンティティのひとつだと語るT-タッチ コネクト ソーラー(13万4200円・税込)。数々の世界的なスポーツイベントでタイムキーパーを務めるなど、ティソが持つテクニカルな側面の魅力が凝縮されている。

関口

 それはとても楽しみですね! 近年のこうしたヘリテージの積極的活用によって、ブランドが活性化していると感じます。これは、日本以外でも同じような状況なのでしょうか?

ドラ氏

 そうだと思います。特に、近年、伸長が著しい国としては日本を筆頭にオーストラリアやイギリスの3ヵ国が挙げられます。日本に関しては、次の5年間で注力する市場として本社としても尽力しています。確かにこれまで、プロダクトという面では、日本にとってティソにはそれほど魅力的なものが多くなかったのかもしれないと感じています。ただ、今ではPRXもありますし、今後ローンチされる商品も魅力を感じていただけると思います。

 ティソのヘリテージ研究は今、かなり進歩していて、本社のアーカイブには7000本の過去の時計がレストアされて所蔵されているのです。これらを研究しながら、新商品の開発を行うわけですが、改めて多彩な魅力を秘めたブランドなのだなと実感します。

 例えば、T-タッチのような文字盤上でタッチ操作が可能なスイス時計初の試みを実現した、テクニカルな特徴を備えた時計もありますし、もちろん豊富な歴史も存在しています。それは、懐中時計やレディスウォッチでのレガシーモデルも含まれます。時計業界で18年以上働いていますが、ティソの持っている魅力の幅の広さには本当に驚いています。コンプリケーションからコネクテッドウォッチ、レディスモデルにいたるまで、ストーリーテリングをすべき時計がたくさんあるのです。これらを現代的な方法で皆さんにお届けすることが、魅力あふれる時計を作っている最良の方法だと考えています。

ティソCEO シルヴァン・ドラ氏。2004年、スウォッチのハイテク&アクセス部門の責任者として時計製造の世界へ。2005年〜2011年までは、ハミルトン・インターナショナルの販売責任者を務めたのち、CEOに就任。2020年からはスウォッチ・グループのエクステンディド・ボード・オブ・ディレクターとしてティソの責任者を務める。トゥールーズ・ビジネススクールで修士号を取得。

新作のPRX クォーツ 40mm& 35mm(ともに7万2600円・税込)。ティソ ブティック心斎橋のオープンを記念して、ケースバックにOSAKAの刻印が施されたモデルも各30本限定で製作された。

Photos:Yoshinori Eto