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35mmの機械式時計で拡幅したティソ PRXの可能性

スイス屈指の生産本数を誇るメガブランド、ティソ。同社が1978年に発表したスポーツウォッチをベースとしたティソ PRXが、今年も新たな進化を果たした。昨今の小型化の流れを汲んだ35mmケースに高性能な機械式ムーブメントを搭載した新作は、目の肥えた時計愛好家から入門者にまで刺さるポテンシャルを秘めている。

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1853年に創業したティソ。スイス時計産業の中心都市であるル・ロックルに拠点を構えており、その生産数はスイストップクラスの規模を誇る。世界的に名が知られたメガブランドは、これまでにも時代のニーズを反映しながら画期的な時計を数多く送り出してきた。そのなかのひとつが、のちに“ティソ PRX”と呼ばれるモダンスポーツウォッチだ。

 そのコンセプトのルーツは1965年の「シースタースペシャル PR516」にある。同モデルは1956年に登場したPR516の第2世代にあたるものだ。“PR”には、Particularly Robust(特に頑丈)、もしくはPrecision and Resistance(精度と耐久性)という意味が込められており、さらに当時のスポーツウォッチ需要に応えるかのように10気圧防水ケースを採用したことで“X(10)”が加えられ、PRXと呼ばれるようになった。

 1978年にリリースされたオリジナルPRXは、1956年モデルのシャープなケースデザインを参照しつつ、当時トレンドになりつつあったラグジュアリースポーツウォッチの特徴である薄型ケースと、ケースから繋がるようにデザインされたブレスレットを備えていた。そして、ムーブメントには当時の最先端であったクォーツを採用していた。まさに、1970年代の時計シーンの動向を具現化したような時計だったのだ。

 このオリジナルを現代的に再解釈し、2021年に再デビューさせたのがティソ PRXだ。ファーストモデルのケース径は40mmで、オリジナルモデルに倣ってクォーツムーブメントを搭載していた。その後40mm径の機械式モデルや42mm径の機械式クロノグラフ、35mm径のクォーツがラインナップに加わり、カラーダイヤルやストラップのバリエーションも続々と追加。登場からわずか2年でブランドの主要コレクションへと成長したティソ PRXは、現在ではティソの年間生産本数の4分の1を占めているとも言われている。

 なぜこれほどまでに、ティソ PRXは現代のシーンに受け入れられたのか? まずひとつ挙げるとすれば、トレンドとの合致だ。同コレクションは1970年代から始まるラグジュアリースポーツウォッチの歴史的文脈を持つ時計であり、しかも薄型ケースのシャープなエッジ、ヘアラインとポリッシュ仕上げの使い分けなどには老舗ブランドらしい完成度の高さが見られる。また、しなやかに手首に沿うブレスレットは、着用時に見えない裏面にもヘアライン仕上げが施されており、着用感と上質感を同時に高めている。それでいて、メガブランドならではのコスト管理によって実現した価格は見事だ。構造自体はシンプルにまとめつつ、時計愛好家にも刺さるポイントを押さえることで、引き続きウォッチトレンドの真ん中を行くラグスポデザインをティソはコストパフォーマンス高く仕立てたのだ。リローンチ当時、ラグスポを推す風潮に対して二の足を踏んでいた人々の背中をティソ PRXが押したであろうことは、想像に難くない。

1965年に発表された、Seastar special – PR 516。

左が2021年登場のティソ PRX クォーツ式40mm径モデル。右が1978年当時のオリジナルPRX。

 そのラインナップに新たに加わったのが、オリジナルと同じ35mm径の機械式モデル、ティソ PRX 35mm パワーマティック 80だ。昨今ではスポーツウォッチを含め、各ブランドでユニセックスサイズへの注力が見られる。ティソ PRX 35mm パワーマティック 80はまさにその潮流にいる時計だ。より身につけやすい機械式時計を求める細腕の日本人男性や、ステートメントピースを求める女性をも視野に入れたティソの意図が感じられる。

 搭載ムーブメントには、40mm径モデルと同じくパワーマティック 80を選んでいる。最長で80時間ものロングパワーリザーブにより、金曜日の夜に帰宅して時計を外しても月曜日の朝までしっかり時を刻み続けるという現代的なスペックを備えている。また、長時間安定したトルクが得られるので、精度が高まるというメリットもある。さらに、心臓部であるヒゲゼンマイには非磁性合金のニヴァクロン™を使用。シリコン製に及ばないまでも、一般的な合金製ヒゲゼンマイと比較すると圧倒的な耐磁性能を有し、温度変化による精度悪化にも強い素材だ。現代にはパワーマティック 80登場時と比較しても、磁気を発生する機器が身のまわりに増えている。時計に実用性を求めるなら、同ムーブメントは心強い存在だ。

 以前、ティソ PRXでクォーツモデルのサイズダウンを行った際、同一のムーブメントをよりコンパクトなケースに適応させることはティソにおいても挑戦であったという。しかし、ブランドはレディスモデルでの経験も活かしながら、コストを維持しつつ全体のバランスを整えていった。今回の自動巻きモデルにおいても、同様の困難があったことは想像に難くない。実績のあるムーブメントをトレンド感のあるサイズのケースに格納したティソ PRX 35mm パワーマティック 80の登場により、ティソ PRXはより幅広いニーズをカバーするコレクションへとアップデートを果たしたのである。

Cal.POWERMATIC 80

 さて、ティソ PRXの自動巻きモデルに加わった35mm径モデルは、従来の40mm径モデルと比べて何が変わったのか。まずは当然だがケースサイズだ。直径では単純に、5mm縮小した形になる。ラグトゥラグでは、40mm径モデルの51.5mmから41.9mmと、1cm近いサイズダウンが見られた。従来のティソ PRX パワーマティック 80でややラグが浮くような感覚があった人には、今回の新作がしっくりとくるはずだ。なお、35mmという直径はメンズウォッチとして少々小ぶりに思えるかもしれない。しかし新作PRXを手首に乗せてみると、感覚的には36〜36.5mmぐらいに感じられる。これは、薄く取られたベゼルやブレス一体型の構造により、強調されたダイヤルの視覚効果によるものだ。数字だけを見てためらっているようなら、実物を試してみてもらいたい時計である。

 デザイン面で大きな違いは見当たらない。カレンダーの位置はムーブメントの関係で35mm径モデルのほうがダイヤルの縁に近づいており、やや凝縮感がある。しかし、インデックスを指す位置が変わらないよう針の長さには配慮がなされており、ダイヤルのチェッカー・パターンもピッチを揃えられている。あくまでふたつのサイズから手に取る際の判断基準は、着用感と、サイズ感の好みだけだ。

左がティソ PRX 40mm パワーマティック 80。右がティソ PRX 35mm パワーマティック 80。

 一方、ティソ PRXの特徴である豊富なカラーバリエーションにおいては、ケースサイズの違いが与える印象にも影響を及ぼしている。

 40mm径モデルでも人気が高かった特徴的なアイスブルーダイヤルを例に挙げてみると、涼しげなカラーウォッチとしての存在感を存分にアピールしている40mm径モデルに対し、35mm径モデルはダイヤルの面積が狭まった分、白文字盤の時計とさほど変わらない感覚でつけこなすことができる。ゴールドPVDモデルも同様だ。40mm径ではラグジュアリー感が強調されているが、ケースが35mmになった途端にどこか品のよいヴィンテージウォッチのようなムードが高まってくる。フルゴールドというだけでもかなり華やかだが、小ぶりなサイズならアクセサリーとして楽しめそうだ。ちなみに、光によって色彩が変わるマザー・オブ・パール(MOP)のダイヤルは、ティソ PRX 35mm パワーマティック 80のみでの展開となる。レディースのイメージが強いMOPだが、チェッカー・パターンによる刻みが入っている分主張は控えめで、男性も手に取りやすい。

 歴史的なバックボーンがあり、現代のトレンドにも沿ったデザインを持ち、実用性に優れたムーブメントを搭載するPRXの新作、ティソ PRX 35mm パワーマティック 80は同価格帯でのライバルを見つけにくい時計だ。初めてのスイス時計としてはもちろんだが、機械式やサイズ感にこだわりのある時計愛好者のサブウォッチとしても適している。そしてこのバリエーションなら、パートナーとのシェアウォッチとしても楽しめるだろう。これまでもその時々にフィットする作品を世に送り出してきたティソによる、PRXというフィルターを通した現代における“万人のための”腕時計である。なお、現在ティソ PRXとして新たな計画が進行中であるという。コレクションの次なる方向性に、期待が高まる。

ティソ PRX 35mm パワーマティック 80 ウォッチギャラリー

Photos:Jun Udagawa Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Tetsuo Shinoda