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ユリス・ナルダン 革新の連続が生む新しき伝統

THE VERTICAL ODYSSEYを掲げるユリス・ナルダンの最新作とそこに至る軌跡を振り返る。

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THE VERTICAL ODYSSEY

 映画『2001年宇宙の旅』は、時空を超えた永遠の旅を続ける物語だ。タイトルにもある“オデッセイ”には、そんな壮大な冒険のニュアンスに加え、知的な探求や追求といった意味がある。ユリス・ナルダンが今年のテーマにTHE VERTICAL ODYSSEYを掲げた真意もそこにあるのだろう。

 VERTICALが示すように、旅はUNDER WATER(深海)からZERO POINT(海面)、そしてABOVE WATER(宇宙)へと垂直方向に展開する。それぞれのステージにおいて、深海ではダイバーX スケルトン、海面ではUFO、宇宙ではブラスト アワーストライカーといった新作が用意され、ブランドの世界観を表現したテーマに基づき、2021年の展望や革新性を提示したのだ。

ブラスト アワーストライカー

 なかでも興味深いのがブラスト アワーストライカーだ。ブラストは昨年新たなコアコレクションとして発表された。ステルス偵察機をイメージした鋭角的なラグを備えたケースに、ユリス・ナルダンの最新世代を象徴するXをモチーフにしたダイヤルには、ブランド初のスケルトン自動巻きトゥールビヨンを搭載。前衛的なデザインにコンプリケーションからの発進というセンセーショナルなデビューも話題を呼んだ。そして第2作ではフライングトゥールビヨンにプチソヌリ機構のアワー ストライカーを搭載し、その期待と想像をはるかに超えたのである。

 スケルトンダイヤルでダイレクトに見ることができるチャイムの作動は、フライングトゥールビヨンの精緻な動きとも相俟って壮観だ。さらにハンマーで叩いたゴングの音響は、その台座に備えたアームを介して背面に設けた0.3㎜厚のチタン製メンブレンに伝達され、これが振動膜になり、音を増幅しケースバックから放出するのである。音量と音質を向上させるこの独創的な技術は、フランスの音響技術企業デビアレ社との協業から生まれ、2019年に発表されたクラシコ アワーストライカー ファントムでの初搭載からさらに改良を重ねた。じつはデビアレ社の共同設立者の一人はユリス・ナルダン家直系の子孫であり、革新を目指す精神が両者を結びつけたのだろう。

 スケルトンダイヤルに繰り広げられるプチソヌリの音と動きを見ていると、単なる機械を超えた生命感が伝わってくるようだ。オートマタを彷彿とさせ、そこには1980年代に誕生し、聴覚と視覚を結びつけたアワーストライカーのDNAが息づく。そしてユリス・ナルダンというブランドが培ってきた精神と技術の系譜を感じさせるのである。

精度への追求そしてマリンクロノメーターの頂へ

 ユリス・ナルダンは今年創業175周年を迎えた。世界規模の海洋探査と国際貿易が進んだ当時、航海の安全と確実な運行には正確な時計が欠かせなかった。そこで創業者ユリス・ナルダンはマリンクロノメーターを技術開発の視座に据え、高精度のポケットクロノメーターを開発。その名を世界に知らしめたのである。

 その意思は後継者へと受け継がれ、1846年から1975年の間、ヌーシャテル天文台で行われた精度検定では合格した4504点のマリンクロノメーター中、なんと95%を占める4324点をユリス・ナルダンが占めたという記録が残る。多くの冒険者が大海原のその先を目指したように、ユリス・ナルダンにとって海は挑戦のフィールドであり、限りない時計作りの原点だったのだ。

ロルフ・W・シュナイダーによる復活劇

タイムピーストリロジー「天文三部作」: 左からテリリウム ヨハネス ケプラー(1992年)、プラネタリウム コペルニクス(1988年)、アストロラビウム ガリレオ ガリレイ(1985年)

 だが1970年代になると、精度を求める軸足は機械式時計からクォーツ式に移っていった。スイス時計への甚大な影響は、ユリス・ナルダンも例外ではなく、5世代に渡って続いた家族経営もその体制を刷新することに。そこで1983年に救世主として名乗りを挙げたのが実業家ロルフ・W・シュナイダーだ。優れた経営手腕と機械式時計への熱い情熱を抱き、天才時計技師であるルードヴィッヒ・エクスリン博士を招聘。1985年以降、天文三部作やソナタといった圧倒的な技術を駆使した革新作を発表し、機械式時計の復権と共に、ブランドの中興の祖になったのだ。

革新的かつ独創的なフリークの登場

2001年の初代フリーク(18KWG、直径45mm)。

最新のフリーク ヴィジョン(18KRG 直径45mm)。

 そのひとつの頂点となったのが、2001年に発表されたフリークだ。ムーブメント自体が回転して時刻を表示するカルーセルトゥールビヨンを搭載し、時刻合わせやゼンマイの巻き上げも表裏のベゼルで行なう。さらに脱進機には世界初のシリコン製パーツを採用し、時計の技術史に革命をもたらした。それはユリス・ナルダンの伝統を守りつつ、現代に通じるブランドを方向づけたといっていいだろう。

 しかし、2011年、ユリス・ナルダンは思わぬ転機を迎えることになった。シュナイダーの急逝によって2014年にケリンググループ傘下に入り、新たなフェーズへと進んだのだ。その牽引役となったのが、フリークに象徴されるアヴァンギャルドな独創性である。さらに未知の領域への挑戦を意味するX-factorのコンセプトを掲げ、コレクションを横断して採用。新世代のブランド像を強く印象づけたのだ。

新時代へのオデッセイ

 時代と共に変遷を重ね、第3世代を迎えた今、チーフプロダクトオフィサーのジャン=クリストフ・サバティエ氏はこう語る。

 「この20年、私たちは独自の技術開発を追求し、その目的を達成しましたが、さらにデザインを強化するためにX-factorをメッセージとして採用しました。今後はマリンとダイバー、エグゼクティブとフリークという4つの代表的コレクションをより深化させると共に、デザインは未来を見据えていきたいですね」

 そこには最先端を追求するという、創業から変わらぬブランド哲学が貫かれている。

 「フリークにしても発表当時それだけの自信と勇気が必要でした。しかしインパクトは保守的な時計業界に風穴を開け、唯一無二の存在になりました。そしてその存在はいまも実験場のようなものです。新作のブラスト アワーストライカーもそうですね。伝統的な時計技術を旧来の表現ではなく、何か新しい価値を加えることで刷新する。現代の時計愛好家は複雑機構を視覚的にも楽しみたいのです。そしてもうひとつの方向性として、マリンやダイバーのヘリテージコレクションには、グループであるドンツェ・カドラン社によるエナメル技法を注ぐといったアプローチを考えています」

 ユリス・ナルダンには、伝統と革新、技術とデザインといった二面性が共存している。しかしそれはけっして対極にあるのではなく、互いに調和し、同じ文脈によって語られる。かつてスイスの山間の工房からはるか彼方の海を想い、マリンクロノメーターを生み出したように、誰も見たことのないようなユニークなタイムピースに向けて大いなる発想と挑戦が今も続けられている。尽きないその旅こそがオデッセイと呼ぶにふさわしいのだ。

Words: Mitsuru Shibata