コレクション名は、“征服・克服(Conquest)”の意。コンクエストは、ロンジン初のファミリーネームを持つ製品として、1954年4月3日に商標登録された。当時は戦後の繁栄期であり、スイミング、ハイキング、スキーといったアクティビティの人気が高まっていたころ。コンクエスト初号機は、ねじ込み式防水ケースにセンターセコンド式の自動巻きを搭載したスポーティシックウォッチとして、時代の要望に応えるように登場した。
1954年登場の初期ロンジン コンクエスト。6時位置に“Conquest”のコレクションネームが見える。
また1950年代は、インダストリアルシーンにおいてモダンデザインが大きく花開いた時代でもあった。初代コンクエストも付け根が太く切っ先は鋭いドーフィン型針を用い、針位置が確認しやすく、インデックスを正確に指し示す優れた視認性が与えられたことで、当時のモダンデザインが是とする機能美を装っていた。さらに、柔らかな丸みを持つボンベダイヤルやスリムなベゼル、サイドにファセットカットを施したラグなど、ディテールを洗練させることでスタイリッシュな印象を併せ持たせてもいた。
1950年代、ロンジンが持つ哲学のひとつは「優れた時計製造をとおして時代や人々のニーズを反映した時計を作る」ことだったという。コンクエスト初号機は、それをまさに体現するモデルだった。この時に確立されたスポーティエレガンスなスタイルは、今日のコンクエスト コレクションにも受け継がれている。
1959年、ロンジンはコンクエスト コレクションをより広がりのあるものにするべく、新たなモデルを投入した。上の広告ビジュアルにある、Ref.9028である。キャッチコピーを翻訳すると“これまで以上に大胆(Mas audaz pue nunca)”。その指し示すところは、ダイヤル中央にある。バトン型の指標を描いた中央のディスクと、数字を刻んだ外周リングを組み合わせた機構の正体は、なんとパワーリザーブインジケーター。この大胆極まりない、類稀なるデザインの機構をロンジンは、セントラル パワーリザーブと名付けた。
1928年に発表された、ロンジン ウィームス セコンドセッティングウォッチ。回転ディスク搭載ウォッチの先駆けとなった。
「セントラル パワーリザーブは1959年にロンジンが発明し、今日までロンジンだけが採用している機構です。この仕組みはパワーリザーブを表示するうえでもっともバランスのとれたエレガントな方法であり、ダイヤルは完璧なシンメトリーを保ちます」と、ロンジンは胸を張る。
ロンジンによる回転ディスク機構のルーツは、サブダイヤルに第二時間帯を表示する懐中時計を発表した1918年にまで遡る。その10年後には、無線時刻信号に合わせて正確な時刻を設定できる回転ディスクを備えたパイロットウォッチの傑作、ウィームス セコンドセッティングウォッチを生み出している。ロンジンはそもそも、回転ディスク機構のパイオニアでもあったのだ。その技術をパワーリザーブ インジケーターに生かすというアイデアは、まさに慧眼である。そしてそれを形にできたことは、当時の技術力の高さを物語る。
そんな1950年代のロンジンを象徴するセントラル パワーリザーブ機構が、コンクエストの誕生70周年を記念して現代に蘇った。記念モデルに同機構が選ばれたのは、「ブランドの時計製造のノウハウ、時代を超越したエレガンス、そしてコンクエストの精神を力強く体現しているから」だとロンジンは語る。そして彼らは、この最新作ロンジン コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブを、比類なきドレスウォッチだと高らかに謡い上げた。
2022年にリリースされたロンジン マスターコレクション 190周年記念モデル
一般的にドレスウォッチと言えば、機構がシンプルな薄型時計が常套である。ロンジン マスターコレクション 190周年記念モデルのように、よりクラシカルなケース形状とインデックス、針を持ったまさにドレスウォッチ然としたモデルもロンジンはすでに有している。にもかかわらず、パワーリザーブ インジケーターと日付表示が備わるロンジン コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブをドレスウォッチと表現したのは、前述したように時代を超越したエレガンスをまとっているからだ。
指標を描いた中央のディスクは右回転して減りゆく残量を示し、同時に自動巻きローターやリューズでゼンマイが巻き上げられると数字を刻んだリングが右回転することで中央ディスクの指標が、示す数字を増やしていく。セントラル パワーリザーブは身につけているあいだ、ディスクとリングの位置が常に少しずつ変化することでダイヤルを表情豊かに演出してくれる。しかも完璧なシンメトリーを保っており、スタイリッシュでもある。台形にとられた12時位置の日付窓も、ダイヤルの左右対称感の強調に奏功している。
機構と全体のデザインは1959年のRef.9028に酷似するが、これは決して復刻ではなく、ロンジン曰くオマージュであるという。なるほど、ケースは35mmから38mmへとモダンに拡大され、シャープだったラグは太く短くなっている。ケースサイドにはヘアラインが配されニュアンス豊かになった。ボンベのダイヤルはカーブが強められたことで奥行き感を増し、植字のインデックスには内側にファセットカットを追加。ミッドセンチュリーデザインの影響が色濃いスカイスクレーパー(超高層ビル)型の針も山なりに設え直し、全体的に立体的な印象を強めている。そして12時位置にあった台形の日付窓は縦長に改められ、インデックスとの調和が図られた。
ダイヤル上に多くの機能を備えつつも独自の技術でシンメトリーを保ち、上質なディテールによって気品を湛えるロンジン コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブ。しかし当時のデザインコードは大きく変えられておらず、コンクエスト初号機にて確立されたスポーティエレガンスの雰囲気も根底に感じられる。
その内には、ロンジンの新たなエクスクルーシブキャリバー L896.5が潜む。シリコン製ヒゲゼンマイの採用による優れた耐磁性能は、磁気を発するデジタル機器に囲まれて暮らす現代社会において実に頼もしい。約72時間(3日間)のパワーリザーブも、週休2日が当たり前の時代にマッチする。
「優れた時計製造をとおして時代や人々のニーズを反映した時計を作る」という1950年代に掲げたロンジンの哲学は、現代にも受け継がれている。歴史的なモデルへのオマージュを捧げながら、デザインとテクノロジーを進化させることでクラシックを刷新。生活様式の変動によりドレスコードの定義を見直す必要が生じている現代において、今作はただエレガンスを表現するのではなく、時代性をも取り入れたロンジンらしい時計だと言える。ロンジンはこのモデルにおいて、現代生活における実用性と快適性を重視した新しいドレスウォッチを創り上げたのだ。
ロンジンが提示したモダンドレスウォッチ、ロンジン コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブには、3種のダイヤルバリエーションが用意される。
ひとつは、ここまで提示してきたシャンパンカラーダイヤル × イエローゴールドカラーの針・インデックスの組み合わせ。オリジナルのRef.9028ともっとも印象が近く、レトロな雰囲気である。ふたつめのブラックカラーダイヤルには、シルバーカラーの針・インデックスが組み合わされ、精悍かつモダンな装いに。3本のなかではもっともフォーマルで、例えばネイビースーツの手首にもスマートに「しっくりと合わさる。そして3つめは、アンスラサイトカラーダイヤル。針と植字はローズゴールドカラーとし、どこか温もりを感じる外観が創出された。さらにシャンパンとブラックのダイヤルがマットであるのに対し、アンスラサイトのダイヤルはサーキュラー仕上げが下に透けて見え、光の具合で色の濃淡が変化する豊かな表情が与えられている。
機構やデザインこそ同じだが、3つのモデルは雰囲気がどれも異なる。ロンジンは色と仕上げによる印象操作の術に長けているのだ。
スーツにスポーツウォッチを合わせることに何の違和感も覚えなくなったように、腕時計を含むドレスコードは時代によって移り変わる。ロンジンにとって“エレガンス”は、創業時から変わらぬ重要な柱。1959年製モデルにオマージュを捧げたロンジン コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブは、よりエレガントに刷新され、同時にオリジナルが持つスポーティシックな印象も受け継いでスーツにもカジュアルスタイルにも合うオールマイティなドレスウォッチという新スタンダードを提示することとなった。
“Elegance is an attitude”とは、ロンジンが掲げるスローガンである。ロンジン コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブは身につける人のライフスタイルに寄り添い、さまざまに印象を変えながら、その人が持つ気品を表現する時計なのだ。
ロンジン コンクエスト ヘリテージ セントラルパワーリザーブ ギャラリー
Photos:Tetsuya Niikura(SIGNO) Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Norio Takagi