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QUANTIÈME COMPLET: ブランパン コンプリートカレンダーの美学

クォーツ革命による危機的状況を乗り越え、1980年代に見事な復活を果たしたスイスの機械式時計。その牽引役のひとつが、ブランパンのコンプリートカレンダーだった。

本特集はHODINKEE Magazine Japan Edition Vol.9に掲載されています。

ブランパンの復興はスイスの伝統的な時計作りを象徴する技術や仕上げを取り入れたシックス マスターピースの発表がその第一歩だった。1983年から1989年にかけて製作されたこのシリーズには、ウルトラスリム、パーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーター、スプリットセコンドクロノグラフ、フライングトゥールビヨンという機構があった。そして1983年のファーストモデルとして発表されたのが、月、曜日、日付にムーンフェイズを加えたコンプリートカレンダーである。

 Cal.6395を搭載した当時のコンプリートカレンダーは、34㎜の小さなケース径のなかに、端正な美しさや知的好奇心を刺激するメカニズムといったスイス時計の伝統的な魅力が凝縮されていた。それが多くの愛好家を引きつけ、機械式時計への興味を再び呼び覚ましたのだ。

ブランパンのシックス・マスターピース。

 1980年代当時、クォーツ時計が市場を席巻するなかで、機械式時計は前時代的な古い技術として敬遠されがちであった。そんなクォーツ全盛の時代に逆行するようにブランパンは、自らのアイデンティティを「決してクォーツ時計をつくらないこと」に据え、あえて複雑な機構や極薄のムーブメントを展開するシックスマスターピースに取り組んでいった。

 ブランパンが、機械式時計が持つクラシックで伝統的な時計製造技術や職人技、そして芸術性を表現するために最初に手がけたのが、ムーンフェイズ付きのコンプリートカレンダー機構を搭載する1983年発表のRef.6595だ。クォーツ時計はトルクの弱さから日付表示を入れることが困難であり、入れる場合はデジタル表示に依存する形だった。当時ブランパンが考案した複雑で繊細な機械式ムーブメントは、日付、曜日、月といった実用性を兼ね備えながら、古典的な時計技術へのノスタルジーを感じさせるムーンフェイズが備えられており、詩的な魅力が打ち出されていた。コンプリートカレンダーから始まった一連のコレクションは、ブランパンのブランド復興において重要な役割を果たした。機械式時計の復活が市場で進むなか、ほかのブランドにも大きな影響をもたらしたことは言うまでもない。

 現在、ブランパンのコンプリートカレンダームーブメントは、センターセコンドのCal.6654、スモールセコンドのCal.6763、そしてモノプッシャークロノグラフを組み合わせたCal.66CM8の3種類が展開されている。デザインは統一感があり、12時位置にはブランパンのロゴと月・曜日表示の小窓が配置されている。6時位置には顔が描かれたムーンフェイズがあり、レトロなムードを演出。さらに、インデックスの内側には針式の日付表示がある。これらのデザイン要素はすべて1983年のRef.6595から受け継がれているものだ。コンプリートカレンダーは大きく分けてふたつのコレクションでラインナップされている。

左からフィフティ ファゾムス バチスカーフ コンプリートカレンダー Ref.5054 0140 01Sとヴィルレコンプリートカレンダー Ref.6654A 3653 55B。

 ブランパンの伝統を堪能するなら、創業地の名を冠したヴィルレコレクションが最もふさわしい。現存するスイス最古の時計ブランドらしい端正なデザインと、伝統的なローマ数字のインデックス、そして柔らかくカーブを描くリーフ針がクラシカルなドレスウォッチの文脈に深く根付いている。コンプリートカレンダーが搭載されることでダイヤル上はややにぎやかになるが、色調が抑えられているため洗練された一体感を保っている。このモデルでは、ジュウ渓谷の深い森が表現されたグリーンダイヤルが特徴であり、カレンダー表示も同系色にすることで全体的に自然な調和が生まれる。日付を指し示すサーペンタイン針は、わずかにカーブを持たせたデザインでさりげないアクセントとなっている。

 ヴィルレのコンプリートカレンダーは、操作性にも優れている。オリジナルのRef.6595では、各表示をケースサイドの4つのプッシュボタンを使って調整する必要があった。一方で現在は、各表示をラグ裏に隠されたアンダーラグ・コレクターを用いて調整可能であり、1時位置では月、5時位置ではムーンフェイズ、7時位置では日付、そして11時位置では曜日を調整する仕組みだ。この機構は完全にラグの裏に隠されているため、ケースの端正なフォルムやケースサイドを遮るような要素が排除されているというわけだ。

アンダーラグ・コレクターはブランパンが2004年にパーペチュアルカレンダーに採用した特許取得済みのシステム。特別な工具を必要とせず、指先で押すだけで調整を可能とする。

ブラックセラミック製のブレスレットは、ブランパンの金属ブレスレットに採用されている複雑なデザインを踏襲。各コマは、耐摩耗性を向上させるために、特許取得済みのカム形状ピンを用いた接続システムによって固定されている。

 そのクラシックな機構にもかかわらず、ブランパンはダイバーズウォッチにもコンプリートカレンダーを搭載する。1953年に誕生したダイバーズウォッチの祖として知られるフィフティ ファゾムス、そして3年後により都会的なモデルとして誕生したフィフティ ファゾムス バチスカーフコレクションだ。潮汐は月と直接的に関係するためムーンフェイズ表示との相性も悪くない。

 コンプリートカレンダーの操作は、防水性を考慮してケースサイドに配置されたプッシャーで行う仕組みだ。かつてのRef.6595では、ケースサイドに調整用の穴が開けられていたために防水性能を確保することが難しかったが、現在はダイバーズウォッチに搭載できるまでに進化している。その進化はケース素材にも表れている。同機構を搭載するフィフティ ファゾムス バチスカーフコレクションでは、マットブラックのセラミックケースとブレスレットが与えられた。コンプリートカレンダーとダイバーズウォッチの組み合わせはブランパンを象徴するモデルともいえよう。

 ブランパンのコンプリートカレンダーは、クラシックな美学と高度な技術を見事に融合させ、ブランドの復興を象徴する存在であり続けている。過去の遺産を尊重しつつも、現代的な進化に挑戦し続けるブランドの姿勢を表しているのだ。

Words:Tetsuo Shinoda Photographs:Yuji Kawata Styling:Eiji Ishikawa(TRS)  Hair&Make:Ken Yoshimura