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象は決して目立たない存在ではなく、部屋に入ってきたときには無視すべきではない。象に対しては、ブレモンにおける多くの議論を呼んだ変化と同様に、正面から向き合うべきである。この2年間で創業者であるイギリス人兄弟(名前も性格もイギリス的そのものである)が退任し、チューダーやモンブランを経たダビデ・チェラート(Davide Cerrato)氏が実質的な指揮を執ることとなった。昨年、ブレモンの核となる美学とラインナップが物議を醸す形で再構築されたのち、新たな経営陣は1年の歳月をかけ、今月初めのWatches & Wondersまで次なる発表を控えていた。そして今回ついに、ブランドの中核モデルといえるMBの次世代機が披露されたのである。
戦闘機の機体を模したブースで、ブレモンの核である航空機にインスパイアされたポートフォリオを刷新するというミッションが掲げられていた。2024年1月、ブランド再ローンチ前にベン(・クライマー)がダビデ・チェラート氏と会話した際にダビデ氏は、ブレモンはイギリス国内では強力な存在感を誇ってきたが、グローバル市場に向けて焦点を再調整する必要があると指摘していた。それから1年後、ブレモンのストーリーを新たな、より若い層へ伝えることは依然として成長の鍵となっており、彼らは正しい飛行経路(ダジャレで恐縮だが)を見つけつつあるようだ。とりわけ飛行と緊急脱出に対応するMBに対して、何を変更すべきか(あるいはすべきでないか)を考えるにあたり、やや軽やかなアプローチを採ったことで、新たに形成されたアルティチュード(Altitude)のラインナップへと発展したのである。
イジェクターシート、進化、そしてブランドの本質
2024年以降、ブレモンはインハウスムーブメント、クロノメーター仕様、複雑なケースデザインといった目標を静かにトーンダウンさせてきた。テラノヴァの賛否両論を呼んだレトロなクッションケースデザインやセラミック製スーパーマリンシリーズは、ファンの議論をさらに活発化させた。そして新たなアルティチュードコレクションは、チェラート氏の成功と熱心な愛好家たちの支持を取り戻すために不可欠なものとなっている。Watches & Wonders 2025でこの点について問われたチェラート氏はこう語った。「アルティチュードコレクションは、海・陸・空という我々のアーキテクチャにとって根本的な存在です。またブランド創設時のコレクションであり、我々のDNAに深く根付いているため、非常に重要なのです」
ここで少し、背景を振り返っておこう。
2020年に発表された、ステンレススティールケースを備えた43mm径のブレモン MBII。
アルティチュードコレクションは、ブレモンを再び仮想コックピットに戻し、近年の変化によって取り残されたと感じているかもしれないブランドのロイヤルファンたちを再び引きつける可能性を秘めている。イベント会期中に、ブレモンのハンガー(格納庫)をテーマにしたブースでこのコレクションを試着してみたが、全体としてまとまりのあるラインナップとなっていた。ファンは旧ALT1、ソロ、そしてMBから厳選されたディテールが、スポーティな航空機デザインの新作3モデルに凝縮されていることに気づくだろう。
MBコレクションは、2007年にイジェクションシート(射出座席)メーカーであるマーチン・ベイカーと共同でスタートした。同社は世界の空軍の70%に射出座席技術を供給している。2009年に発表された時計は、イジェクションシートと同様の過酷なテストプログラムに耐えなければならず、耐衝撃性と耐磁性を備えたファラデーケージによってムーブメントが保護された。最初のMB1はイジェクションシートによる脱出を生き延びたパイロットのみに提供されたモデルであった。このMB1に採用された赤いミッドケースバレルは象徴的なマーチン・ベイカー製座席での射出を経験したパイロット専用の、シリアルナンバー入りMB1にのみ見られる特徴である。
2017年製のブレモン製クロノグラフALT1-Pの一例。
MBコレクションはスペシャルエディションやMBIIへと拡大し、いずれもミッションテックの雰囲気をまとい、ブランドに引かれる購入者たちを魅了した。このサブコレクションは2023年に登場した限定モデル、MBバイパーパイロットウォッチで頂点に達した。MBバイパーはインハウスムーブメントを、ラバー製ショックアブソーバーを内蔵したグレード5の複雑な43.5mm径チタンケースに収めて高い基準を打ち立てた。今回の次世代モデルでは、新しいMBとアルティチュードコレクション全体がこの高い期待(あるいはフライトスーツと言うべきか)に応えなければならないのである。
アルティチュード MB メテオ
MBメテオは、2020年にレビューしたMBIIの後継機であり、英国らしいDNAをふんだんに詰め込んでいる。ケース素材はグレード2チタンに変更された。大きなニュースは、モダンなシングルリンク式チタンブレスレットオプションの追加であり、これについてはさらに掘り下げる余地がある。新しいケースはツールウォッチデザインに対してやや柔らかいアプローチを取り、ラグを細く、ベゼルをコンケーブ(内側に反った)形状にすることで、アルティチュードコレクションすべてに共通する要素となっている。このデザインによりIWCを思わせる外観が与えられているが、側面から見るとブラックのローレット加工を施したセンターバレルを備えたトリプティックケースデザインの復活も確認できる。耐衝撃性および耐磁性の設計思想は依然として受け継がれており(マーチン・ベイカーとの関係性や、射出による脱出に耐える能力も含まれる)、ケース径はMBIIの43mmから42mmへとスリム化された。自身の手首に装着した際、12.23mmというケース厚は従来の13mm仕様に比べて明らかに薄く感じられ、全体的なプロポーションもよりコンパクトな装着感を提供していた。
熱心なファンたちは、トリプティックケースの復活と意図的に進化を遂げたマットブラックダイヤルの新デザインに歓喜するだろう。しかし私の目を引いたのは、縦方向にヘアライン仕上げされたシルバー(ガルバニック)バージョンであった。シャープな印象を持ち、ブラックフレーム付きのアプライドインデックスにはブルーに発光するスーパールミノバが充填されている。秒針のカウンターウェイトは、射出座席のストライプ入りプルハンドルの印象的な形状を想起させるデザインとなっており、日付表示枠にもデザインが巧みにリンクしている。
12時位置に配された新ロゴについては評価が分かれるかもしれないが、その系譜は明確である。満足感のあるクリック感を伴うインナーロトクリックベゼルや、ローレット加工が施されたツインリューズも健在である。これらは従来モデルよりも突き出しが抑えられてローレットのパターンも拡大され、より際立つ仕上がりとなっている。時計を裏返すとシースルーバックをとおしてラ・ジュー・ペレ製G100をベースとする、BB14-AHムーブメントを確認できる。これは実績ある2万8800振動/時(4Hz)のスイス製自動巻きムーブメントであり、約68時間のパワーリザーブを備えている。
ステッチ入りレザーライニング付きラバーストラップ仕様で、価格は5300ドル(日本円で約75万円)。そのほかの選択肢としては、チタン製ハードウェアを備えたグレー/ブラックの22mm幅NATOファブリックストラップ、あるいはフルチタンブレスレット仕様(価格は5700ドル、日本円で約80万円)が用意されている。
アルティチュード クロノグラフ GMT
パイロットクロノグラフには特有の魅力がある。それは多くの人にとって、憧れの機能美の究極の表現ともいえる存在だ。アルティチュード クロノグラフは、GMT機能付きのみで展開されており、その実用性をさらに高めている。アルティチュード クロノグラフ GMTのデザインと価格設定は、107万8000円(税込)のストラップ仕様のIWC パイロット・ウォッチ・クロノグラフと直接競合するものとなっており、ゼニスのパイロット ビッグデイト フライバックに至ってはほぼ倍額に達する。
この文脈で見ると、6300ドル(日本円で約90万円)からというスタート価格は2025年現在の感覚において適正なものに思える。904Lスティール製で、さらにGMT機能を備えた唯一の時計であることも特筆すべき点だ。MBと比較すると見返しリングの角度が急カーブとなり、24時間表示が施され、赤い夜光付きアロー針によって示される仕様となっている。そのほかは6・9・12配列のクロノグラフというクラシックかつ整然としたレイアウトで、6時位置の12時間積算計のなかに控えめに日付表示が組み込まれている。会場に集まったブレモンファンなら過去モデル、とりわけALT1や特にALT1-ZTからの影響をすぐに見て取ることができるだろう。
針はアルティチュードファミリー共通のクリーンな黒い剣型デザインを採用しており、9時位置には遊び心のあるプロペラモチーフのスモールセコンドを配置。3時位置にはロゴが配置され、全体のバランスが取られている。ミニマルな904LSS製ブレスレットが機能的な42mm径の外観を完成させている。アルティチュード クロノグラフ GMTには、クロノメーター認定を受けたBC781-ACムーブメント(セリタ製SW500の改良版ベース)が搭載されており、2万8800振動/時の振動数、耐磁シールド、そして約62時間のパワーリザーブを誇っている。
個人的には49.62mmのラグ・トゥ・ラグをもう少し短くしてほしいと思うが、トリプティックケースはブレスレット装着時に特に快適である。もしオールブラック仕様があまりにもドイツ的に感じられるなら、新たに登場したブラッシュ仕上げのシルバーダイヤルは、このクロノGMTに新鮮な選択肢をもたらしてくれる。特に幅広のグレーセンターストライプが入ったNATOストラップとの組み合わせは魅力的だ。
ブルー夜光のスーパールミノバにより、アルティチュードコレクション全体で暗所における視認性も鮮明である。価格はステッチ入りレザーライニング付きラバーストラップ仕様で6300ドル(日本円で約90万円)からスタートし、ほかにグレー/ブラックの22mm NATOファブリックストラップ(チタン製ハードウェア付き)またはフルチタンブレスレット仕様(6600ドル、日本円で約95万円)が用意されている。
アルティチュード 39 デイト
アルティチュード 39 デイトは、新コレクションにおけるデイリーウォッチの愛されキャラクターであり、驚くほどスリムな11.19mm厚のケースを備えている。パイロットウォッチとフィールドウォッチを融合させたフォーマットで、かつてのブレモン ソロラインを想起させつつ、これまでで最も薄いトリプティックケースを採用している点を誇っている。ケース素材はアップグレードされた904LSSであり、ブラックDLC仕上げのセンターバレルと実用性を重視したビッグクラウンを備えている。
アルティチュードファミリーのステンシル風アプライドインデックスと傾斜した見返しリングはバランスの取れた間隔で配置されており、ブラックダイヤルがやや厳格すぎると感じる場合には、サテン仕上げのシルバーダイヤル上で見事に映える。秒針のカウンターウェイトや縞模様の入ったデイト表示枠など、MBを模したディテールは一部の人にとっては冒涜的に感じられるかもしれないが、力強いブラックの剣型パイロットハンドセットと組み合わさることで、うまく機能している。
結果として、非常に伝統的で真面目なダイヤルデザインにほんの少しの遊び心が加わっている。自動巻きのラ・ジュー・ペレ製G100をベースとするBB14ムーブメントでアルティチュード 39 デイトは駆動し、約68時間のパワーリザーブを誇る。価格は、レザーまたはNATOストラップ仕様で4250ドル(日本円で約60万円)、904LSSブレスレット仕様では最大4550ドル(日本円で約65万円)となっている。
ブレモンはここからどこへ向かうのか
アルティチュードコレクションによって、ブレモンは長年にわたる航空分野へのフォーカスを改めて打ち出し、従来の手法の一部がいまなお生きていること、そしてファンと批評家の両方からのフィードバックに耳を傾けてきたことを示している。たしかに、インハウスムーブメントやクロノメーター仕様、過酷なテストへのこだわりは、以前より控えめになっている。しかし、これら新作モデルはブランドの核であるパイロットウォッチにクリーンな現代性をもたらすと同時に、アルティチュードコレクションのファミリーDNAをより確固たるものにしている。私はダビデ・チェラート氏に、ブレモンはここからどこへ向かうのか、そして2025年に向けて切り札を隠し持っているのかを尋ねた。彼はこう語った。「いまや私たちはコアコレクションを確立できたので、2025年以降に向けて、驚くようなピースで本格的に遊ぶことができるようになりました。たくさんの切り札を用意しているので、楽しみにしていて欲しいですね」
新しいアルティチュードコレクションの詳細については、ブレモン公式サイトをチェック。
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