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Bring A Loupeへようこそ。先週は、“価格要問い合わせ”表示のロレックス ディープシースペシャルを取り上げたが、今週はできる限り“価値”に焦点を当てたセレクションを紹介していきたい。もちろん、ここに高額な時計が含まれていないというわけではない。だがどの価格帯であっても、それに見合う魅力がしっかりと詰まっていると感じている。ネオヴィンテージのクラシックから、初代パテック フィリップ カラトラバまで。1950年代のロレックスやモバードも交えながら、幅広く紹介していこう。
その前に、まずは前回の結果報告から。最近は明るいニュースが少ないが、今回は胸を張って紹介できる好成績が揃った。デトロイトでは、極上コンディションの“ドレ”ダイヤルパテック リファレンス 3940が15万6250ドル(日本円で約2220万円)で落札。私の記憶だと、セカンドシリーズの“ドレ”ダイヤル 3940としてはパブリックオークションでの最高額だ。アブラアン-ルイ・ブレゲ時代の“エキセントリック”な懐中時計(時計史における真の逸品)は8万5910ユーロ(日本円で約1400万円)で落槌。そして控えめな存在ながら魅力的だった、モバード製のギュブランはeBayにて750ユーロ(日本円で約12万円)以下のベストオファーで新しいオーナーの元へ。新しい持ち主に祝福を!
それでは、今週のセレクションに進もう。
ショパール ルナ・ドーロ 永久カレンダー プラチナ、1990年代製
1990年代におけるショパールウォッチメイキングの再興とその成功は、もっと注目されるべきである。カール=フリードリッヒ・ショイフレによるブランド再構築、たとえば1996年のCal.1.96、そしてこのルナ・ドーロのような作品の登場は、実に目覚ましいものであった。さらに、すでに高級ブランドであったショパールのなかに、L.U.Cコレクションという“プレミアム中のプレミアム”を据えたという戦略は、きわめて革新的だった。その革新性はいまや何十年を経た現在でも色あせることなく、むしろより大きなブランドがショパールのモデルを模倣しようとするほどだ(とはいえ、それはまた別の機会に語ることにしよう)。
ルナ・ドーロは、直径36mmの自動巻きパーペチュアルカレンダーモデルで、12時位置にレトログラードデイトを備えている点が特徴だ。このモデルが製作された当時、競合は非常に手強かった。パテック フィリップ、オーデマ ピゲ、ブランパン、ブレゲ、そしてヴァシュロン・コンスタンタンといったブランドが、いずれも自動巻き永久カレンダーを展開していたからだ。しかしこの時期のショパールにとって重要だったのは、そうした競合に臆することなく、あの名だたるブランド群と肩を並べる時計を作ること、そしてショパールの名をそのレベルに位置づけることであった。
時計として見たルナ・ドーロは、ブランド戦略以上に魅力的な存在であり、特にこのプラチナモデルは実に美しい。ケース形状にはローラン・フェリエを思わせる柔らかい曲線がありつつ、リューズガードや王冠のような形状をしたカレンダー修正ボタンなど、スポーティさを感じさせるディテールが加わっている。エレガンス一辺倒ではなく、程よくバランスの取れた仕上がりだ。ムーブメントも見逃せない。カレンダーモジュールはアンデルセン・ジュネーブのスヴェン・アンデルセンによる設計で、ベースキャリバーにはルクルト製のCal.888が採用されている。
売り手はロンドンのWatch Brothersのベン氏で、価格は1万9450ポンド(日本円で約365万円)。美しい写真とともに、問い合わせはこちらから可能だ。
この価格帯でプラチナ製の自動巻きパーペチュアルカレンダーを手に入れられるとすれば、パテックやオーデマ ピゲといった競合モデルと比較しても、この価格設定は極めて良心的と言えるだろう。
パルミジャーニ・フルリエ トリック クロノグラフ プラチナ、2000年代製
ネオヴィンテージ期における最上級の時計のひとつが、初期のパルミジャーニ・フルリエである。1990年代、スイス全体で高品質で伝統的なウォッチメイキングの復興ムーブメントが起きるなか、ミシェル・パルミジャーニ氏は自身のブランドを立ち上げ、素晴らしい時計を生み出し、ひとつの小さなスイスの町の運命を変えた。かつて伝統的なウォッチメイキングが廃れたことで、時計産業とともに栄えた町フルリエは苦境に立たされていた。そこへ誕生したのがパルミジャーニであり、パルミジャーニ氏は見事にショパールをこの町へ誘致することに成功。数年後には地域全体の復興を実現させたのである。まさに驚くべきストーリーであり、その初期数年に製作された時計はいずれも完成度が非常に高い。
ブランドの設立は1996年。最初のモデルはGMT機能を備えたメモリータイムだったが、1998年にはこのトリック クロノグラフがカタログに加わった。本モデルにはゼニス製Cal.400z エル・プリメロのエボーシュをベースに、パルミジャーニの工房で改良・仕上げが施されたムーブメントが搭載されている。ケースはハンドノーリング(熟練職人の手で一点一点刻まれた繊細な装飾が施されたケース)による美しい装飾が施され、ダイヤルには“バーレイコーン”のギヨシェがエンジンターンで彫られている。そしてこのモデルは、英国国王にも選ばれたほどの完成度を誇る。なかでもプラチナ製ケースにブラックダイヤルという仕様は、このモデルにおける“究極のスペック”と言って差し支えないだろう。現在、ボナムズのカタログに非常に魅力的な推定価格で掲載されている。ぜひチェックしていただきたい。
このパルミジャーニ・フルリエは、Bonhams New Yorkによるオンラインウォッチオークションのロット22に出品されており、終了は4月24日(木)で東部時間正午12時。推定落札価格は5000~7000ドル(日本円で約70万~100万円)となっている。詳細はこちらから。
ロレックス オイスター パーペチュアル Ref. 6098 “ワッフル”テクスチャーダイヤル、1952年製
新作ランドドゥエラーのワッフルパターンとはまったく異なる趣をもつ、こちらのワッフルテクスチャーダイヤルを備えたオイスター パーペチュアルは、1952年または1953年製でありいくつかの点で特別な存在である。まず注目すべきはリファレンスナンバーだ。“Rolex Ref.6098とGoogleで検索してみれば、驚くほど魅力的な時計の数々が目に入ってくるだろう。50万ドル(日本円で約7100万円)級のスターあるいは“ギャラクシー”ダイヤル、さらにエドモンド・ヒラリー卿やエベレスト初期登頂隊の隊員が着用した“プレ・エクスプローラー”などがまさにその例だ。1950年代当時、このRef.6098はロレックスにとって万能型の36mm オイスター パーペチュアルだった。日常的なモデルにも特別なプロジェクトにも、ブランドはこの1本を用いていたのである。
今回紹介する本個体は、おそらくRef.6098のなかでも比較的一般的な部類に入るモデルだが、それでも十分に特別であり、かつ遥かに手の届きやすい存在である。ダイヤルには“ハニカム”あるいは“ワッフル”と呼ばれるテクスチャが施されており、コレクターのあいだではこのふたつの呼称がほぼ同義で使われている。ダイヤルは非常にクリーンな状態で、夜光塗料が一切使われていない。これは劣化や欠損ではなく意図的な設計によるものだ。針にも夜光がないため放射性物質による劣化にさらされることがなく、ダイヤル全体に均一なパティーナが現れている。その風合いがイエローゴールド製ケースと見事に調和している。
興味深いことに、この時計のシリアルナンバー917,XXXは、先に触れた非常にレアで超高額なギャラクシーダイヤルと同じレンジに位置している。2万ドル(日本円で約280万円)以下で、単体として魅力的であるだけでなくヴィンテージロレックスのなかでも特にコレクタブルな異色作と同時期に製造された個体を手に入れることができるのだ。
カリフォルニアにあるIconic Watch Companyのマイケル・モーガン氏が、このロレックスを自身のウェブサイトで販売中で、価格は1万9500ドル(日本円で約275万円)。詳細はこちらから。
パテック フィリップ Ref.96 カラトラバ 18Kイエローゴールド、1960年代製
パテック フィリップの初代カラトラバ(正式に“カラトラバ”と呼ばれる以前のモデル)が、このRef.96である。1932年から1973年まで、40年以上にわたって製造されたロングセラーモデルだ。ヴィンテージウォッチ収集の世界では一般的に製造が早ければ早いほど価値が高いとされるが、Ref.96の場合特別なダイヤルやケース素材を除けば、コンディションこそが最重要である。このモデルは直径31.5mmと非常に小振りかつシンプルな時計であり、それだけに多くの人がまず状態に注目する傾向が強い。私は普段、完璧すぎるコンディションにこだわりすぎる風潮に懐疑的な面もあるが、ことRef.96に関しては本当にいい個体が出てくるまでじっくり待つべきだと、心からコレクターたちに薦めたい。
この個体は本当に素晴らしい。製造は1960年代であり、このリファレンスのなかでも最古の部類ではないし、特別なバリエーションでもない。むしろおそらく最も一般的な仕様だろう。だがそのコンディションがとにかく素晴らしい。“ショートシグネチャー”ダイヤルは写真で見る限りきわめて美しく、目立ったシミや欠点は見受けられない。パテックのサインは遠目では判別が難しく、特に小規模なオークションハウスによる質の低い写真では判断が難しいのだが、この個体については賭けに出る価値があるように思えるほどクリーンな印象を受ける。特筆すべきはケースコンディションのよさだ。ケース側面のホールマークを見て欲しいし、ラグの形状にも注目して欲しい。小型時計であるだけに、オリジナルのデザインを最大限に楽しむには、こうした厚みのあるしっかりとしたラグを備えた個体を選びたいところである。
14KYG製のヴィンテージブレスレットについては、正直なところ私はあまり好みではない。とはいえそれでもプラス要素ではある。私と同じようにこの外観が苦手な方であれば、ブレスレットを外してお気に入りのストラップに付け替え、さらにブレスレットを売却してコストを下げるという手もある。そうすればヴィンテージのパテックを割引価格で手に入れたことになるわけだ。
このパテック フィリップ Ref.96は、Ahlers & Ogletree Inc.によるFine Jewelry, Watches & Luxury Accessoriesのロット67に出品されており、開催は4月24日(木)午前10時(米東部時間)から。推定落札価格は1万〜1万4000ドル(日本円で約140万~200万円)。オークションリスティングの詳細はこちらから。
モバード キングマチック サブシー 18Kイエローゴールド ティファニー別注モデル、1950年代製
ヴィンテージモバードがBring A Loupeに登場? 意外に思われるかもしれない。だがこれは特別な1本である。昨年10月、私はEverything But The Houseというエステートオークションサイトに出品されていた、ティファニーのサイン入りモバードを紹介した。その時計は、それ以来ずっと頭から離れない存在となっている。私がこれまで見てきたなかでも、ティファニー別注のモバードとしては間違いなく最高の1本だった。当時はモバードをやや買いすぎていたこともあり私は入札を見送ったのだが、最終的にその時計はニューヨークの友人の手に渡ることとなった。ただし正直に言っておこう。あの時計は本当に素晴らしかった。悔しいほどに、である。
さて、そんな“幻の個体”を追い求めるなかで見つけたのが、今回紹介するeBay掲載のこちらのモデルだ。非常によく似ているが、いくつか注目すべき違いがある。まず、ムーブメントは同じモバード製Cal.431。フルローター式の自動巻きムーブメントで、同ブランドにおける最上級の3針ムーブメントのひとつ。初期の自動巻き開発の集大成とも言える存在である。一方で、今回のダイヤルは当時のキングマチックでよく見られる仕様のもので、シンプルながらも上品なデザインが特徴だ。ミニッツトラックにはパーリング(粒状装飾)が施されており、視覚的なアクセントにもなっている。昨年10月に紹介した個体と比較するとおそらくこちらのほうが数年後、つまり1960年ごろに製造されたものと思われる。ダイヤルデザインに60年代らしさが強く感じられるからだ。そして最大の違いはケースにある。
この14KYG製ケースは、内側にMovado USAというロゴが刻印されており、当時アメリカ国内で製造されたことを示している。これは当時よく行われていた慣習で、ムーブメントとダイヤルをスイスからアメリカへ輸送して現地で組み立てることで関税対策をしていたのである。アメリカ製のケースには品質にばらつきがあるのも事実で、特にロレックスでは低品質なケースも少なくない(正直に言えば)。だが、この個体のケースを手がけたグリーンベール(NY州)のLapwell Watch Case Companyは例外だ。非常に優れた品質で知られ、ロンジン、オメガ、ルクルトといったブランドのケースも製造していた。もしヴィンテージのアメリカ製ケースに出合ったなら、“L”の入ったサークルホールマークを探してみるとよい。
このモバードは、ニュージャージー州ダモントのeBayセラーが出品しており、2625ドル(日本円で約37万円)の即決価格かオファーにて受け付けている。個人的には2000ドル(日本円で約28万円)前後での交渉成立も十分あり得ると思う。フルリスティングはこちらから。
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