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Bring a Loupe 2025年ニューヨーク夏季オークション。おまけでeBayのおすすめ出品情報も

多くの注目アイテムを、今週市場に出ている掘り出し物のヴィンテージウォッチコラムでお届けする。

Bring A Loupeへおかえりなさい。そして、おめでとう! ついにニューヨーク夏季オークションのウィークエンドがやってきた。そう、またしても主要オークションハウスによる1週間がやってきたのだ。信じられるだろうか? さて、フィリップス、クリスティーズ、サザビーズといった名だたるオークションハウスは春から初夏にかけて世界各地を巡りながら数百点にのぼる時計を出品し、驚愕の落札結果を叩き出してコレクターたちの注目を集めている。今週のコラムでは、それぞれのオークションから注目の数本をピックアップ。そして恒例のBring A Loupeセレクションとして、より現実的な価格帯で狙えるeBay出品アイテムもご紹介しよう。

 その前に、前回のコラムの結果を簡単に振り返ろう。冒頭に紹介したパテック フィリップ エリプス Ref.3938/101は落札され、新たなオーナーの元へ。希望価格は2万7995ドル(日本円で約410万円)だった。また、eBayに出品されていたオールドイングランド エリザベス女王の郵便切手付き時計は190ポンド(約3万7000円)のベストオファーで落札。ご購入されたBAL(Bring A Loupe)読者の方、おめでとう! そしてコメントもありがとう。さてここでお知らせだ。1940年代製ロンジンのアール・デコ様式“カラトラバ”は、6月9日(月)午前10時(アメリカ東部時間)よりフィナルテ(Finarte)にて競売予定だ(編注;現在は終了している)。 

Aurel Bacs on the rostrum at Phillips auction house

 自宅からビッグオークションの模様を追いたい方のために、スケジュールを以下にご案内。

hillips - The New York Watch Auction: XII(フィリップス ニューヨーク・ウォッチ・オークション XII)
 6月7日(土)午前10時(アメリカ東部時間)
 6月8日(日)午前10時(アメリカ東部時間)

Christie's - Important Watches Featuring Stories in Time: A Collection of Exceptional Watches(クリスティーズ インポータント ウォッチズ 〜時の物語:特選腕時計コレクション〜)
 6月9日(月)午後2時(アメリカ東部時間)
 
Sotheby's - Important Watches: Take a Minute(サザビーズ インポータント ウォッチズ:テイク・ア・ミニット)
 6月10日(火)午前10時30分(アメリカ東部時間)


フィリップス:1970年代製ブラックダイヤルのカルティエ タンク ルイと、市場初登場の2本のアイコン

 『HODINKEE Magazine』Vol.13にて、カルティエ タンク ルイのについてのReference Points記事を書いたばかりだったので、フィリップスのカタログをスクロール中にこのロット103を見つけたときの驚きといったらなかった。そこには、ブラックダイヤルを備えた1970年代製カルティエ・パリ タンク ルイが掲載されていたのだ。このきわめて希少で、おそらく特別に製作されたバリエーションを記事に取り上げなかったことに一瞬腹を立てたが、すぐに気を落ち着けた。“レア”と“カルティエ”はしばしば同じ文に登場する言葉だし、誤解しないで欲しいが実際そうであることが多い。ただしまったく未知の個体を見つけるのは、いうまでもなくさらに難しい。ロンドン製クラッシュがレアであるのは確かだし、1910年代のサントスもしかり。だがそれらの存在はすでに知られている一方で、このロット103は存在すら知らなかったものなのだ。

 文字盤のことはひとまず置いておくとしても、この個体はすでにタンク ルイのなかでもレアな部類に入る。“ノンスクリュー”のケースは、カルティエが時計製造をスイスへ移す直前、パリのエドモン・ジャガーによって製造されたものだ。フィリップスのカタログにあるとおり、ムーブメントはETA 2512-1をベースとしたCal.78-1で、これはスイス製ケースに移行した時期に“正しい”とされるキャリバーである。一方、1972年ごろまでのタンクにはJLC製のムーブメントが使われていたため、これはいわば過渡期的な1本となる。これを食い違いと呼べるかどうかはともかく、驚くことではない。ヴィンテージカルティエの真贋を見極める作業は、決して白黒はっきりするものではないのだから。

 さて話をダイヤルに戻そう。ホワイトダイヤルが通例とされるカルティエにおいて、その常識を覆すブラックダイヤルは、ヴィンテージの文脈ではきわめてまれだ。カルティエ・ロンドン製のブラックダイヤルモデルはオークション市場でかなり過熱しており、昨年6月にはベニュワール アロンジェが38万7350ドル(当時の相場で約5860万円)で落札された例もあるため、このカルティエ・パリ製ブラックダイヤルの市場での動向は実に興味深いものになるだろう。ちなみに、このロットの予想落札価格は1万5000〜3万ドル(日本円で約220万~430万円)と控えめに設定されている。

 さて、その他のフィリップス出品時計についても注目だ。もしあなたがヴィンテージウォッチビギナーで、かつステンレススティールに目がないなら、理想的な2本のコレクションをコンプリートすることができるかもしれない。どちらも市場初登場で、1969年製ロレックス デイトナ Ref.6239 “ポール・ニューマン”(ロット90)とブレゲ数字のスリートーンダイヤルを備えたパテック フィリップ カラトラバ Ref.570(ロット95)の2本だ。もうこれだけで十分である。

 ポール・ニューマンは素晴らしいコンディションで、箱と保証書も完備。1970年に卒業祝いとして贈られた時計で、オリジナルオーナーからの委託出品となっている。対するパテックは2000年代初頭に委託者がNAWCC(全米時計収集家協会)のマートで購入したものだが、公的なオークション市場に出品されるのはこれが初めてとなる。スリートーンのブレゲダイヤルは一部のコレクターにとっては垂涎の的であり、Talking Watchesに登場したアルフレッド・パラミコ(Alfredo Paramico)氏がSS、イエロー、ローズゴールドそれぞれのRef.570を取り出した場面を覚えている読者も多いだろう。あの瞬間を思い出さずにはいられない。

 フィリップスのカタログは全143ロットで構成。ぜひご自身の目でチェックしてみて欲しい。詳細はこちらから。


クリスティーズ:1927年製オーデマ ピゲのカレンダーウォッチと、軍用由来の初期ロレックス エクスプローラー2本

 “どのブランドでもいいから好きな年代をひとつ選べ”と強引に迫られたら、私は歯を食いしばりながらこう答えるだろう。1960年代以前のオーデマ ピゲ、と。ロイヤル オーク以前のAPはすでに複雑機構の巨匠であり、なかでも私のお気に入りであるカレンダー機構に秀でていた。1924年に始まったカレンダーウォッチ製造のなかで、オーデマ ピゲは今回ロット30で出品されるような長方形ケースのトリプルカレンダー(または“コンプリートカレンダー”)モデルをわずか48本のみ製作した。その多くはオーデマ ピゲの名ではなく、販売を担った小売業者の名のみがサインされていた。なぜなら当時のAPはまだ“ブランド”としての体をなしていなかったからだ。48本中、22本は最も一般的な金属であるホワイトゴールド製、17本は当時APが“グリーンゴールド”と呼んでいた、現在の呼称ではイエローゴールド製とされている。私の把握する限りではこの48本のうち12本が現存し、そのなかでも“グリーン”すなわちYGは4本にとどまっている。

 今回出品される個体はまさにヴィンテージの醍醐味を感じさせる魅力的なコンディションで、ケースには濃いパティーナが美しく浮かぶ。なお文字盤は、カタログ写真よりも実物のほうが見栄えがするという。昨年、フィリップスではWG製の同型モデルが出品された。その個体はオーデマ ピゲによってケースとダイヤルがフルレストアされており、最終的に 12万650スイスフラン(当時の相場で約2070万円)で落札された。対照的に、今回のロット30はすべてがオリジナルのままだ。未整備とレストア済みのプレミアム差を見極める市場指標としても、価値ある出品だ。なお昨日、モナコ・レジェンド・グループのオークションで高額落札が相次いだことを受けて、初期のAP市場は一気に加熱しつつある(具体的な結果はこちらこちらを参照)。

 さらにクリスティーズで注目すべき個体は、1950年代製のロレックス エクスプローラーRef.6610のペア。いずれも市場初登場となる個体で、米軍関係者の家族からの委託による明確な由来を持った出品である。ロット40は“レッドデプス”ダイヤル仕様で、米陸軍工兵隊の中佐であり、レジオン・オブ・メリット受章者でもあるフェイエット・L・ワージントン(Fayette L. Worthington)中佐の家族によって出品された。ワージントン中佐は1945年に陸軍士官学校を卒業し、フランス、マニラ、ウエストポイント、2度のベトナム派遣、ドイツでは第555部隊の司令、そして最終的にはペンタゴンで参謀将校を務めた人物だ。時計は1956年に購入され、翌1957年には“ストレッチ”リベット式オイスターブレスレットが追加購入された。オリジナルのレシート、修理記録、保証書、そして本人の写真までそろっている。

 このペアを締めくくるのがロット71。こちらもオリジナルオーナーの家族による委託で、1958年製の個体だ。オリジナルオーナーだったアルフレッド・N・ラトレル(Alfred N. Luttrell)中佐は、当初米空軍の将校およびパイロットとして勤務し、冷戦期には台湾の空軍である中華民国空軍、なかでも夜間に中国本土への偵察飛行を行っていた“ブラックバット・スコードロン(黒蝙蝠中隊)”を支援していた。このブラックバット・スコードロンはしばしばアメリカ、特にCIAの極秘支援を受けていた。今回出品された時計は、箱、保証書、購入時のレシート、タグ、その他ロレックスの付属品一式、そしてラトレル中佐の多数の写真も付属している。

 全106ロットで構成される今回のクリスティーズ・ニューヨークカタログはこちらから。


サザビーズ:パテック アル・カポネのプラチナ製懐中時計、1969年製ブレゲ エンパイア。そしてパテック Ref.2524/1 ミニッツリピーター

 ニューヨークの時計オークション“ウィークエンド”は、実のところ火曜日まで続くことになり、サザビーズは火曜日午前10時30分(アメリカ東部時間)から全113ロットによるメインセールを開催する。ストーリーテリングの観点からいえば、今回の目玉は間違いなくロット13。1919年製、アル・カポネのパテック フィリップ懐中時計である。シカゴ出身の私にとって、1920年代に君臨したカポネの犯罪帝国は常に身近な存在だった。上記で紹介した中佐たちに比べると名誉ある人物とは到底言えないが、カポネは歴史上最も悪名高い人物のひとりとして米国だけでなく世界的にも知られている。

 この42mmの懐中時計はプラチナ製の特注ケースに収められ、裏面にはアール・デコ様式でデザインされたイニシャル“AC”が、90個のシングルカット・ダイヤモンドであしらわれている。文字盤は手つかずの状態で、もはや時計というよりも歴史的アーティファクトとしての意味合いが強い。孫娘であるバーバラ・メイ・カポネ(Barbara Mae Capone)氏による由来証明書も付属し、予想落札価格は8万〜16万ドル(日本円で約1200万~2300万円)。

 次に注目したいのがロット77。もし“現実的な範囲”で1本だけに入札できるとしたら、今シーズンの私の本命はこれだ。それほどの逸品なのである。ブレゲ アンピールはブランド創業250周年を迎える今年もなお、コレクターの関心を集め続けている。この時計は1950年代から1970年代初頭にかけて購入できた最上級のクラシカルなタイムオンリーウォッチのひとつであった。

 搭載ムーブメントは、スイス製でクロノメーター級の精度を誇るプゾー 260。手巻き式のなかでも究極のキャリバーのひとつとして、精度を追求するコレクターや時計師から高く評価されている。このブレゲは、そのプゾー260をフランス製の35mmケース、優雅なポム(ブレゲ)針、そして手彫りのギヨシェダイヤルと組み合わせたモデルだ。クラフトマンシップの観点では、タイムオンリーのヴィンテージウォッチのなかでも類を見ない存在といえる。今回の個体はオリジナルオーナーの家族からの委託品で状態も良好。予想落札価格は4万〜8万ドル(日本円で約580~1200万円)とされている。

 そして、ビッグゲームを狙うコレクターにとっての本命はロット20、ギュブランが販売したパテック フィリップ Ref.2524/1のミニッツリピーターだ。ヴィンテージパテックにおけるリピーターの最終形ともいえる本モデルは、総生産数が50本以下。そのなかでもこのピンクゴールド製の個体は、市場で確認されているのはわずか2本のみ。推定落札価格は125万ドルから250万ドル(日本円で約1億8000万~3億6300万円)。それだけの価値があって然るべきだ。この個体が一般市場に登場するのは、1989年に開催された最初期のテーマ別時計オークションのひとつ、ザ・アート・オブ・パテック フィリップ以来となる。 

 サザビーズの全113ロットによるカタログはこちらから


1970年代製 ギュブラン イプソデイ
A 1970s Gübelin Ipso-Day

 今週は高額なオークションウォッチが少々多めになっているが、eBayで手に入るお手ごろ品を紹介せずにはいられない。それがこのギュブラン イプソデイである。イプソデイはギュブランが1954年に創業100周年を記念して発表した自社製ライン、イプソマティックの派生モデルだ。搭載されているのはフェルサ製のビディネータームーブメントで、初期の全回転ローター式自動巻きムーブメントのひとつ。つまり、ギュブランは単に既製品に自社名を載せただけの‟普通”の腕時計を売っていたわけではない。ルツェルンを拠点とするこの小売店は時計に関して優れた審美眼を持っていたのだから、それも当然のことだろう。

 “イプソ(Ipso)”というブランド名は1954年に始まったが、その後すぐにほかのホワイトラベル(他社が製造した製品に対して、自社ブランド名だけを付けて販売すること)の腕時計にも展開されていった。たとえばイプソボックスは、実質的にはジャガー・ルクルトのメモボックスそのものである。今回紹介するのは1970年代製のイプソデイで、その名のとおり3時位置のデイト表示を指す名前となっている。スイスのドイツ語圏に位置するブランドらしく、この文字盤デザインはユンハンスのマックス・ビルにも通じる印象を持つ。ケースはSS製のスクリューバック、ムーブメントはETA 2472のギュブラン銘バージョンであると考えられる。毎日使えるヴィンテージウォッチを探しているのなら、この1本はまさにうってつけといえるだろう。

A 1970s Gübelin Ipso-Day

 現在このギュブラン イプソデイは、米ミシガン州チェルシー在住のeBayセラーにより出品中。オークション終了は6月7日(土)午後4時12分(アメリカ東部時間)。執筆時点での入札額は152.50ドル(日本語で約2万2000円)となっている。こちらからeBayページをチェック&入札を(編注;282ドル、日本円で約4万円で落札)。