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Inside The Manufacture ブルガリの革新的なウォッチメイキングを支えるマニュファクチュールと、情熱にあふれる作り手たち

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モダンで洗練されたスタイリングを持つ時計とは裏腹の、血の通ったブルガリの時計づくりに真なる魅力を見る。

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1884年に、ローマの高級ジュエリーメゾンとして創業したブルガリ。実に140年以上の歴史を誇る老舗だが、時計製造を本格化させたのは1980年代以降と、かなり後年になってからだ。そんなブルガリにおいて、ジュエリーメゾンから時計ブランドとしての第1歩となる最初のモデルとして登場したのが、ベゼルに“BVLGARI BVLGARI”とブランド名を2重に刻んだデザインが印象的なブルガリ・ブルガリ(1977年)だった。かのジェラルド・ジェンタもデザインに関わった“ブルガリ・ブルガリ”は“ブランド名をベゼルに彫る”という当時としてはかなり大胆なスタイルを持ち、文字をデザインとして用いた先駆者的な時計となった。

 そして次なる転換点、誤解を恐れずに言えば、今日における“本格的なウォッチメーカーとしてのブルガリ”の躍進は、ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏が加わって以降のことだ。同氏は​2001年にブルガリに入社し、2007年から時計デザイン部門を統括するクリエイティブディレクターとしてブルガリウォッチに深く携わってきた。ブルガリ・ブルガリと並ぶ代表的な時計コレクションのオクトやセルペンティは彼の代表作であり、特に2014年に誕生したオクト フィニッシモコレクションでは、超薄型ムーブメントを用いていくつもの世界記録を打ち立てており、ブルガリのウォッチメイキングの革新性を象徴する存在となっている。

この奥を抜け2階に上がるとブルガリ ウォッチ オルロジュリー工房だ。

ブルガリ ウォッチ オルロジュリー工房からはヌーシャテル湖が間近に見える。

 HODINKEE Magazine Japan Edition Vol.8で実施したウォッチデザインに関する特集企画のインタビューのなかで、彼はとても印象に残る言葉を残していた。

 「感情や感性だけならアーティストであり、感情を伴わずに実用的であればエンジニアです。アーティストの特質とエンジニアの特性を兼ね備えた存在がデザイナーなのです」

 デザインは視覚的な魅力だけでなく、実際の使用においても優れているべきだという信念を持つファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏。そんな彼が手がけるブルガリの時計は、いかにして生まれるのか? Watches & Wonders 2025の開催を翌日に控えたタイミングで、筆者はブルガリのファクトリーを訪れる機会を得た。


ブルガリ ウォッチ本社(Bulgari Horlogerie SA)

ブルガリのマニュファクチュールは、スイス時計産業の中心地であるヌーシャテル州を拠点とした複数の専門施設で構成されている。ル・サンティエ(Le Sentier)はムーブメント製造の中心地で、セーニュレジエ(Saignelégier)は外装部品製造、そしてヌーシャテル(Neuchâtel)は組み立てと品質管理の拠点となるファクトリーがある。ブルガリはこの3つのファクトリーを軸として、デザインからムーブメント・ケース・ブレスレット・ダイヤルの製造、組み立て、仕上げに至るまで、すべての工程を自社で完結する体制を構築している。

 最初に訪れたのは、スイス・ヌーシャテルにあるブルガリ ウォッチ本社(Bulgari Horlogerie SA)だ。ここにはブルガリウォッチの本社機能とともに、ブルガリのウォッチメイキングの中心となるブルガリ ウォッチ オルロジュリー工房がある。取材はここからスタートした。

 ブルガリ ウォッチ オルロジュリー工房が開業したのは1991年。従業員数は約160名にのぼる。前述のとおり、ここでは設計や組み立て、アフターサービスなどのほか、マーケティングやデザイン、PR、開発などの各部門も集結している。最初に通された部屋では案内役の女性からブルガリ ウォッチ、そしてファクトリーの概要が説明された。

 ブルガリ ウォッチ オルロジュリー工房が開業したのは1991年だが、その前身となるブルガリ・タイム(Bulgari Time)社がジュネーブに設立されたのは1980年にさかのぼる。当初、ブルガリの時計製造を担うブルガリ タイム社の社員はわずか19名に過ぎなかったが、ヌーシャテルに移転以降、垂直統合が進められた結果、年々拡大を続け、現在では約615名(各ファクトリーの従業員を合わせて)の人たちがブルガリ ウォッチに携わっているという。

 製造部門の統合は2000年から2007年にかけて進められた。当時はまだブランドがブルガリ家の所有下にあった時期(2011年に、ブルガリ家はLVMHグループとのあいだで株主の交換を行う)で、ル・サンティエにあるファクトリーの改革が可能だったのだという。ル・サンティエは、スイスの高級時計製造の中心地のひとつで、ブルガリはこの地にあったジェラルド・ジェンタとダニエル・ロートのファクトリーを買収。その後、新たな建物も建設され、現在では旧施設と新施設の両方を見学することが可能となっている。なお、同時期にはケースやダイヤルの製造工場の買収も進み、これらを2019年に統合して、ヨーロッパ最大級となるブルガリの“アビヤージュ(Habillage)”工場が誕生した。“アビヤージュ”とは、フランス語でムーブメントを除く時計の外装部品全体を指すが、具体的にはケース、ダイヤル、風防(サファイアクリスタル)などの外装も自社製造が可能になった。

 こうしてひととおりの説明が終わると、いよいよファクトリー内へと案内されることとなった。大量の写真とともにその様子をお届けしよう。

 ダイヤルセッティングからケーシング、そして品質管理と、一連の工程を見学することができたが、個人的にとても印象深かったのは、多くの女性、そして多彩な文化を持つ人たちが在籍しているということだった。見学の後半、案内役の女性は近年のファクトリー事情についても話をしてくれた。

 「最近はブリッジメイキング(装飾)がとても重要になっており、そのため担当できる職人の数も増えてきました。今の若い時計職人たちは、どこで働くかを自分で選べる時代になりました。それだけに企業側も選ばれる存在でなければなりません」

 スイスのウォッチメイキングの中心地たるジュネーブからビエンヌにかけての地域には数多くの時計関連企業があるが、職人たちが常にブルガリのために動いてくれるとは限らない。だからこそ、ヌーシャテルに拠点を持つ意義が大きいのだという。

 「技術にもさまざまな種類があり、学校で学べるものもありますが、特にムーブメントの装飾のような技能は、現場での経験を通じてしか習得できません」

 見学の現場には若手の職人たちの姿もあったが、彼らは確かなスキルを持つ熟練の技術者とともに時計を作り上げている。この日はセルペンティなど、さまざまなモデルの組み立て工程を見学できた。内容としてはムーブメント、ダイヤル、針の組み立て。その後、ケースへのムーブメントや、リューズなどの組み込み作業へと続くが、場合によってはケースを開けて、内部のすべての部品を取り除かなければならないこともあり、きわめて慎重な作業が求められる。

 作業中は常に空気で微細な埃などを除去しながら進められる。ケースに湿気が侵入した場合、全体を開け直して必要に応じて部品の廃棄も行われるという。そのため、すべての部品には固有のコードが付けられている。製造の全工程が記録され、誰がどこでどのように作業を行ったかをすべて追跡できる体制となっているのだ。

「これは万が一問題が起きたとき、責任の所在を明確にするためでもあります。この仕組みによって、私たちは学び、改善のパターンを作っていくのです」

 目的はただひとつ。安全で信頼できる製品を届けること。すべての部品は厳しくチェックされ、ひとつひとつの検査は約30分ほどの時間を要するという。部品の検査後には、湿気の侵入有無を確かめるための機器にかけられ、最後に外観検査が行われる。合否は、青と赤のラベルで判定。検査では顕微鏡が用いられ、時計の振動数や部品の微細な状態まで細かく確認される。また形状の再チェックやクリーニングも行われ、最終的な品質に問題がないかを徹底した確認が実施されるのだ。作業者のなかには組み立てだけでなく、作業環境そのものに責任を持つ人物もいるが、すべての過程に責任を持つ。そうした姿勢が高品質な製品の土台を支えている。

 「大切なのは、自分自身をよく知ること。そして、自分なりのやり方を見つけること。これは間違いありません」

 自分の作業に対して責任と自信を持つことが重要なのだ。

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ブルガリ ウォッチ オートオルロジュリー工房(Bulgari Manufacture de Haute Horlogerie)

写真は2007年に開業した新館。この隣には1890年に建てられた本館もある。

続いて訪れたのは、ブルガリ ウォッチ オートオルロジュリー工房だ。ヌーシャテルからクルマで1時間強移動した、ル・サンティエにあるこのファクトリーでは、ムーブメントの開発・製造が行われている。Cal.BVL191をベースとしたオクト フィニッシモのムーブメントや、世界最小ムーブメントのひとつに数えられるピコリッシモ、そしてトゥールビヨン、ミニッツリピーター、グランソヌリなど多くのハイエンドムーブメントはここで生まれる。同ファクトリーにおいて特に重要なのは、オクト フィニッシモがここで生まれたということである。案内役の男性も誇らしげに話す。

オクト フィニッシモ カーボンゴールド パーペチュアルカレンダー(2023年)

セルペンティ ミステリオーシ(2023年)

 「2014年に最初のフィニッシモが登場しましたが、この10年間はフィニッシモで10もの世界記録を達成した偉業の時代となりました。プラチナケースとレザーストラップを備えた手巻きのトゥールビヨン フィニッシモから始まり、続いて2016年に市場で最も薄いミニッツリピーターが登場しました。これは時・分・秒表示を備えながら、厚さ2.23mmという薄さを実現したものでした。2020年にはミニチュア化の探求の一環として、女性向けに最も小型のトゥールビヨンを発表。このトゥールビヨンはセルペンティのような非円形のケースに収められましたが、これはまさに至難の業でした。そして2021年には、GPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)で金の針賞(Aiguille d'Or”Grand Prix)を受賞したオクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダーが登場しました。これは厚さ2.75mmという世界最薄の永久カレンダーで、もちろん、このムーブメントはすべてル・サンティエのファクトリーで製造されたものです」

オクト フィニッシモ ウルトラ(2022年)。©BVLGARI。

オクト フィニッシモ ウルトラ COSC(2024年)。©BVLGARI。

 数々の世界記録はもちろん素晴らしいのひと言に尽きるが、男性はこう付け加える。

 「元はジュエラーのブルガリですが、100年以上が経過した現在、我々はウォッチメーカーでもあり、素晴らしいムーブメントを自ら開発・製造するまでに至りました。2022年に送り出しましたオクト フィニッシモ ウルトラは、裏蓋からサファイアガラスの表面まで、わずか1.8mmの厚さしかありません。さらに2024年には厚さ1.7mmのオクト フィニッシモ ウルトラ COSCも登場しました。ともにふたつのリューズを持ち、通常の時計と同様に巻き上げと時刻合わせの時間をセットすることができます。極めて薄型でありながら、ちゃんと装着できる時計なのです。我々のこだわりは、美しさや技術的な偉業を実現するだけでなく、日常で身につけられることにあります。金庫に保管されるような時計を作りたいわけではないのです」

 そんなブルガリの時計づくりとは、いかなるものなのか? このファクトリーでその秘密が明らかになる。

 たくさんのスケッチが並ぶ部屋へと案内されると、案内役の男性が口を開いた。

 「製品開発においてはマーケティング、時計部門のゼネラルマネージャー、そしてジャン-クリストフ・ババンCEOと連携して、製品ポートフォリオのニーズを見極めています。その上で、ファブリツィオ氏に報告書を渡し、我々のラインナップに加えたい時計のデザインを依頼するのです。スケッチやデッサンが完成すると、それは3つの拠点へと送られます。ひとつはル・サンティエ、もうひとつはケースと文字盤を製造するセーニュレジエ、そして組み立てを担うヌーシャテルですね。ここ(ル・サンティエ)ではムーブメントの設計検討を行います。実現可能性の最初の検討が行われるのです」

すべてはデザインから始まります。ブルガリでは、カタログに載っているすべての時計がデザインをすることから始まります。ブルガリにおいて、デザインは非常に重要な要素なのです。

 「デザインは、マーケティングチームや経営陣の合意を持って進められますが、それにはふたつのアプローチがあります。ひとつはファブリツィオ氏自身が何か特別なものを考えてスケッチを作り、それを経営陣に提出するという方法。そしてもうひとつは、先ほどお伝えしたようなマーケティング、時計部門のゼネラルマネージャー、そしてジャン-クリストフ・ババン氏からファブリツィオ氏に対して具体的な要件、たとえば“クロノグラフ付きでムーンフェイズもある時計が欲しい”といった依頼ですね。そのような要望を彼が受け取り、デザインが始まるのです」

 設計可能か確認できても、すべての要望が必ずしも実現できるわけではない。実現不可能な点があれば、技術部門はファブリツィオ氏のチームと協力し、解決策を探る。そして実現可能性が確認されると、最初のプロトタイプが製作される。これは技術的に予期せぬ問題がないかを確認するためだ。またこのプロトタイプは、各種テストにも使用される。主に行われるのは経年劣化(エイジング)テスト、そして新しいキャリバーであれば衝撃(クラッシュ)テストなども課される。こうしたテストを経たのち、各部署へと製造図面(プロット)が配布される。歯車を切削する部署、ムーブメントを組み立てる部署など、それぞれがムーブメント製造に関与するために必要な図面だ。ここはまさにすべての関係者が連携し合う重要な段階である。

 技術部門は単独で黙々と作業しているわけではなく、時計職人たち、ムーブメントを組み立てる人々に対して「この設計で問題はないか?」、あるいは歯車を切削する担当者であれば「この形状で大丈夫か?」といった具合に細かな確認が入る。まさにチームとして協力しながら作業が進んでいくのだ。ブルガリの時計は、非常に多くの人々の協力によって完成する。ひとりの職人だけでできるものではない。最終的に組み立てる職人も、それまでに完璧な部品を提供してくれる多くの人々の存在がなければならないのである。

 このファクトリーで製造されているムーブメントはすべて機械式だ。とはいえ、そのすべてを自社で製造しているわけではない。たとえば合成ルビーやゼンマイ(メインスプリング)は自社製ではない。こうした部品は専門メーカーが製造したものを使用しているが、それ以外の部品はすべてここル・サンティエで製造されている。

 ファブリツィオ氏は手描きのスケッチを好むが、以前、とあるブランド出身のデザイナーと彼との会話を聞いたことがあると、男性は話す。

 「そのデザイナーはタブレットで描いていましたが、その方はファブリツィオ氏に対して、“あなたのように今も手で描く人を尊敬します”と言っていました。そしてファブリツィオ氏は“私も同じだけれど、タブレットは補助的に使っているだけ”と返していたね」

 「では、ムーブメント開発のさらなる詳細についてお見せしましょう」。男性は話を続けた。

 上の写真は、ヌーシャテルから送られてきた3Dデータ。ル・サンティエに送られてきたもので、仕様書も添えられている。これはオクト フィニッシモのクロノグラフとGMTコレクター付きのモデルである。

 最初のステップは、そのデザインが技術的に可能かどうかをチェックすることだ。このフェーズはおよそ2ヵ月も続く。この2ヵ月のあいだにムーブメントを2次元で設計し、各構成要素を配置していくことで、設計可能かを判断する。同時にパワーリザーブやエネルギーバランスもこの段階で計算される。その後、各部品にボリューム(立体的厚み)を与え、プロジェクト全体のサイズが適切かを検証。問題がなければプロジェクトが正式に立ち上がるが、もし課題があれば、設計段階に戻されるそうだ。このようなプロセスを経てプロジェクトは次の段階へと進み、ヌーシャテルのファブリツィオ氏のチームと協力しながら解決策を模索することになる。

 解決策の例として、オクト フィニッシモ クロノグラフ GMTの話を聞くことができた。元々ファブリツィオ氏はこの時計のGMT調整ボタンをリューズ内に組み込みたいと考えていたそうだが、同ファクトリーのチームは実現不可能と判断。ケース側面の9時位置に移すように彼に提案したのだという。こうしてデザインと技術的検討が合意に達すると、当初から進められていた各種計算が完了。ムーブメントの各部品を3D設計でモデル化し、すべての構成部品をケースに収める設計作業を行い、部品同士のシミュレーションも行われる。たとえばテンワを通る空気の流れを見て、摩擦をチェックするといったものだ。

 さまざまなムーブメント製造の工程を見学することができたが、放電加工(EDM、Electrical Discharge Machining)の工程は興味深い。これは金属を電導性のワイヤーで切断する特殊な加工技術で、レーザーではなく、電気的な放電によって金属を削る加工法だ。放電加工では、異なる厚みの層を削り分けることができ、レーザーでは難しい非常に細かいパターンや形状が可能になる。極めて高い精度を求められるパーツの製造に向いた加工法で、レーザーでは1度に大量に加工できないが、この方法では複数の部品を同時に処理できるという。

 ムーブメントの装飾の違いを見学できたことも有意義であった。装飾は完全に手作業で行う場合もあれば、機械と人間の手の双方、あるいは完全に機械のみで行う場合もある。機械の人の手が介在する方法が、最もバランスの取れた理想的な方法だと言う。たとえば、コート・ド・ジュネーブ装飾では基本的に機械は使用するが、オペレーターが常に背後で監視し、調整しながら作業を進めるそうだ。また、木製の器具を使って普段は目に触れないような小さなところにまで装飾が施されている点も注目しておきたい。それはもちろん高品質の証だからだ。ムーブメントの裏蓋を開けて見たときに、すべての部品が一貫した美しい仕上げであること。それがブルガリにとって当たり前の品質基準なのだ。

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ブルガリのウォッチメイキングを支えるもの

 取材の最後はコンプリケーションウォッチ、特にチャイミングウォッチの製作工程についてだ。ブルガリでは、4本のハンマー(ゴング)を持つチャイミングウォッチを製造している。2本または3本のゴングを持つ時計は、ほかのブランドでもいくつか存在するが、4本のゴングとなると、ブルガリを含めても世界で1〜2社しか存在しないと説明をしてくれた技術者は実に誇らしげだ。

 「ファブリツィオ氏のアイデアは、まるで自動車の構造のようですね。中央のパーツ(チャイミングウォッチの)を見ると、まさに彼が愛してやまない自動車からの影響が感じられます。彼のそんなアイデアを我々のチームで音階や音の伸び、音質などを調整し、絶妙な音色に仕上げるのです。我々は音楽家ではないですが、音色の美しさを追求しています。この作業はまさに数百年前から続く伝統の継承でもありますが、ただ学ぶだけでは祖先が培ってきた技術は継承できません。そこに必要なのは情熱です。そしてその情熱を次の世代へと伝えていく。これこそが現代で言う“クラフツマンシップ”なのだと我々は考えているのです。ある人が誰かから学び、さらにその人がまた次の世代へと教えていく。こうして何世代にもわたって受け継がれてきた経験の蓄積こそが美しさの本質であり、時間というものを異なる形で私たちに与えてくれるのだと思います。ムーブメントを作るということはただの作業ではなく、情熱なしにはできない、我々が成し遂げるべき目標、到達点なのです」

 いまや多くの時計ブランドのウォッチメイキングにおいて合理化が進み、人の手が介在する余地は少なくなっている。それはブルガリにおいても然り。特にムーブメントや外装など開発においては立体データ(3D データ)で設計を行う3D CADの存在は不可欠となっている。そこで筆者は最後にひとつの質問を投げかけた。

 「3D CADの導入に代表されるように、開発の現場では合理化、効率化が進んでいます。そんななかにあっても変わらない信念や価値観、昔から受け継がれてきた大切な要素といったものはあるのでしょうか?」。案内役の男性は答える。

 「いい質問ですね。3D CADのような現代の技術は、確かに設計と開発を非常に迅速かつ正確にしてくれます。なぜならムーブメントの立体的なボリュームを視覚化でき、その完成形をリアルに把握できるからです。しかし、それはあくまでも技術者の能力があってこそ。たとえば、2Dでの設計経験がなければ、3Dを使いこなすのは難しく、段階的に基礎を積み上げていかなければならないものなのです。言わば3Dデータは、設計者の持つ専門知識の結晶のようなもの。ソフトが仕事をしてくれるのではなく、それを扱う人間の理解が前提にあるものなのです」

 「現代の技術は、新たな改善点を発見する助けとなるもので、2Dでは見えなかったような問題点も3Dなら発見できます。設計者のための強力なツールであり、部品の改良や新たなアイデアを促進してくれますが、それがすべての工程を肩代わりするわけではないのです。あくまでも“この部品はもっとよくできるな”と気づきを与えてくれるような、設計者の能力を補助する存在にすぎません。忘れてはならないのは、すべては人の手により生まれるということ。現代の技術はその補完であって代替手段ではないのです」

オクト フィニッシモ ウルトラ トゥールビヨン(2025年)

 2025年、ブルガリは厚さわずか1.85mmのオクト フィニッシモ ウルトラ トゥールビヨンによって、再び最薄トゥールビヨンの世界最薄記録を更新した。その背景にはもちろん、日々進化を遂げる現代の技術があることは間違いない。だが、その実現はファブリツィオ氏のような優れたデザイナー、そして彼のデザインを実現しようと時計づくりに挑む、数多くの素晴らしい情熱を持った作り手たちによって支えられているのだ。これまでブルガリには最新のテクノロジーや素材を用い、機能的でモダンな時計を手がける時計メーカーという印象を抱いていたのだが、今回の取材では、情熱やクラフトマンシップといった、これまではなかなか気づくことのできなかったブルガリ ウォッチの魅力的な側面を垣間見えることができた。

その他、詳細はブルガリ公式サイトへ。

特に記載のないものはすべてPhotos by Kyosuke Sato