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時計の世界における最高の物語のひとつは、時計が世代を超えて受け継がれるときに生まれる。時計は優れた家宝となり、しばしば遺産の一部として慎重に考えられることが多いからだ。実際パテックは何十年も前から、遺産価値のある時計というコンセプトに寄り添ってきた。
今回のEditors' Picksでは、もしも時計を相続できるとしたらどの時計がいいだろうかという、魅力的な仮説を提案した。カルティエからパテック、はたまたヘビモチーフやステラダイヤルなど、いつの日か自分の手元に受け継がれたらと思う時計を紹介する。
カルティエ(Cartier) ロンドン タンク、ケースバックには迫力のあるエングレービング付き/トニー・トライナ
もし親戚の遺言に名前が載っていて、幸運にも時計を相続できるなら、その時計にはぜひ物語があって欲しい。それは一般的な小売店やInstagramのディーラーから買えるようなものではなく、特別な背景があるものがいい。
いろいろな仮定が頭を巡っている。今は祖父が誰にも知られていなかった時計を相続する場面を想像している最中だ。祖父について多くは知らないが、彼が亡くなったのは自分がまだ若いころだったことは覚えている。ただ、シカゴのロースクールを中退して第2次世界大戦に従軍したことは知っている(偶然にも自分が通ったのと同じロースクールであり、常に親近感を抱いていた)。彼は主にロンドンやイギリスで従軍していた。戦後、多くの軍人と同じように帰国して家族を築いたのだ。
私の想像では、祖父は20年後に今度は祖母と一緒にロンドンを再訪したのだろう。おそらく、3人の子どもたち全員が無事に大学を卒業したことを祝うための旅行だったのかもしれない。
普段とはまったく違うぜいたくな気分で、祖父母はボンドストリートを歩き、ふと立ち寄ったカルティエ ロンドンで何かすてきなものを買おうとしたのかもしれない。そして長年の努力をねぎらうために、金無垢のカルティエ ロンドン タンクを手にした。ぜいたくをしてもいいはずだ。
その時計のケースバックには、記念として刻印を入れたのだろう。その場でカルティエは、最上階にある工房へと送り、“With Love”といった美しい筆記体の文字やシンプルな日付を刻印したに違いない。派手すぎず、ただそれが彼のものであると分かるだけのささやかな刻印を。しかしそれだけで十分だ。これは単なるカルティエ タンクではなく、ストーリーそのものだから。
パテック フィリップ(Patek Philippe) Ref.2545/リッチ・フォードン
最近人気が復活するまでは、クラシックなドレススタイルのパテック フィリップの腕時計は、単なる“年寄りの時計”と見なされていた。この批判はRef.1518のような時計にも向けられてきた。1518は、一部ではもっとも象徴的な時計のひとつとされているが、ほかの人には祖父がつけてこそ似合う時計だという印象を与えるようだ。昔から小振りな時計が好きなのだが、体が大きいせいで、それをつけていると批判的なコメントを受けることが多かった。
素晴らしいヴィンテージパテックはいつも自分の欲しいものリストに入っている。理想はRef.96のオリジナルカラトラバのような時計だ。そして架空の相続話が叶うならこの夢を実現させてもいいじゃないか。そうすれば批判的なコメントに対して“まあ、これは大叔父の形見で、彼は自分にとって大切な存在だったんだ”と返すことができるだろう。
せっかくこのファンタジーの相続の世界にいるなら、ニッチなリファレンスを披露してもいいだろう。Ref.2545は96の防水モデルで、とても希少な時計だ。ティファニーのサイン入りはさらに希少である。もちろん、私の大叔父は素晴らしいセンスを持っていたからね。
ロレックス(Rolex) デイデイト “ステラ”ダイヤル Ref.1803/マライカ・クロフォード
架空の相続時計を選ぶとき、どうやって選択肢を絞り込むのか? 私はあえて華やかさを重視すべきだと思う。なぜなら、これはあくまで空想の世界だから。完璧な夢の時計を選ぶのに、現実的な制約を設ける必要はないだろう。しかし日常使いのローテーションに加えられるような現実味は持たせておきたい。銀行の金庫にしまっておくだけの時計ではなく、身につけられる時計であって欲しいのだ。相続するのはその人の一部であり、自分の体にその一部をまとうことで、その存在を感じたい。
私が、宝石やストーンダイヤルがセットされた時計の熱狂的なファンであることは周知の事実だ。今回の時計には宝石や半貴石が使われているわけではないが、その美学はそれに近く、さらにつけやすい。そしてこのダイヤルは完璧な“ターコイズ”ブルーだ。私は、きわめて個性的かつ豪華なアクセサリーコレクションを持つ女性たちに引かれる。たとえばサンローランのミューズであったルル・ド・ラ・ファレーズ(Loulou de La Falaise)がまとっていたチャンキーなコーラルやターコイズのビーズアクセサリーはいつも憧れだったし、ファッション界の女帝でありコスチューム・インスティテュート(METガラ)の重鎮ダイアナ・ヴリーランド(Diana Vreeland)、それと伝説的デザイナーであり元祖ネポベイビー(2世セレブ)のパロマ・ピカソ(Paloma Picasso)氏が大好きだ。
私はジュエリーに夢中なため、退屈な瞬間にはサンローランの半貴石アクセサリーの数々が自然と頭のなかに思い浮かぶ。この時計に宝石はセットされていないが、私が愛する美的感覚を思わせるデザインが、日常的につけられる形でパッケージされている。もしも豪華な時計を受け継ぐなら、それは実際に身につけられるものでなくてはならない。ヴィンテージのコーラルセルペンティで、目にルビーがセットされたものを相続するという空想の道を進みかけたが、この時計は華やかさと(ある種)実用性の絶妙なバランスが取れていると感じるのだ。
ロレックス(Rolex) シードゥエラー “赤シード” Ref.1665/タンタン・ワン
実のところヴィンテージウォッチにはあまり興味がない。誤解しないで欲しいが、ヴィンテージウォッチがなぜ魅力的なのかは十分に理解している。だが自分の手首にはしっくりこないのだ。その理由のひとつは、自分が所有する時計にはそれぞれ、自分自身の物語を刻んでいきたいから。現代の時計なら、自分がその時計にまつわる物語をつくりあげていけると分かっているからだ。しかし今回のテーマに沿って考えると、理論的にダブルレッド(赤シード)シードゥエラーのような時計を相続することが、ヴィンテージウォッチを楽しむ完璧な方法になるのかもしれない。それが私のコレクションに加わる、唯一のヴィンテージウォッチになる可能性もあるわけだから。
私はずっと、Ref.1665のダイヤルにある2行の赤い文字が大好きだった。個人的にはヴィンテージのシードゥエラーは、サブマリーナに比べてより興味深い選択肢だと感じている。ヘリウムエスケープバルブがあり、サイクロップレンズがないことで何か独特な魅力があるのだ。もしこの時計を相続できるなら、その時計にまつわる物語が家族の歴史の一部だったと知ることは素晴らしいだろうし、そう考えると、この時計は自分自身の物語を重ねていけるヴィンテージウォッチになるだろう。素晴らしいコンディションで保たれている時計を持つのも素敵だが、むしろ使い込まれた時計のほうが、現実の世界に持ち出して実際に使おうという気持ちになるだろう。
ブルガリ(Bvlgari) セルペンティ/ヴィック・オットマネリ
率直に言うと、私は本当にヘビが大好きです。美しくもあり、恐ろしい存在でもあって、ヘビは母なる自然が生み出した素晴らしい驚異のひとつだと感じています。だからもし時計を相続できるなら、つまり自然が生み出した芸術をもとに人間がつくりあげた芸術作品を選べるとしたら、ブルガリのセルペンティにします。もしこだわりが許されるなら黒いモデルがいいです。
私はオルタナティブファッションが好きなので、このイカつい時計を自分のコーディネートに合わせるのは簡単だと思います。ブレスレットのように手首に巻きつきながら、時計としての機能も果たすところが本当に魅力的です。ジュエリーと時計製作が見事に融合したこのデザインは、見るたび笑顔になり誇らしい気持ちでいっぱいになるでしょう。たとえ架空の遺産だとしても、一生大切にしたい時計になるはずです。
セイコー(Seiko) 6105-8110 “キャプテン・ウィラード”/ジェームズ・ステイシー
僕はどんな時計であれ受け継がれたものは素晴らしいと思うが、なかでもとくにカッコイイと思う時計もある。僕にとって理想的な相続時計は、過ぎ去った時代を象徴し、クラシックな趣と“昔ながらの”魅力がうまく詰まったものだ。せっかく大きな夢を見ているのだから、リッチ(・フォードン)がシリーズ2の2545を選んで僕の計画をつぶしたこともあり、思い切って方向転換することにした。僕が受け継ぎたいのは、家族に長く愛されてきたセイコー 6105-8110 “キャプテン・ウィラード”だ。
確かに、金無垢のパテックや宝石のようなミッドセンチュリー作品も素晴らしいが、僕が相続したいのはもう少し労働者階級的な雰囲気のものだ。たとえば父や祖父が芝刈りをしているとき、コテージの湖で泳ぐときにつけていたような時計である。とはいえやはりクールであることが必要なため、希望としては味わい深く年季の入ったヴィンテージのセイコー 6105が理想だ。これならいつも身につけていられるし、写真アルバムをめくりながら白黒写真のなかでシャツの袖口からちらりとのぞく特徴的なケースを探す楽しみもあるだろう。
ヴァシュロン・コンスタンタン(Vacheron Constantin) Ref.7390/ジョナサン・マクウォーター
受け継いだ時計は、それだけで特別なものに感じますよね。だからこそ、私は特別な機会のために取っておくようなドレスウォッチを相続したいです。もっとも、私は時計を長いあいだ放置しておくのが好きではないため、きっと普段からも使ってしまうでしょう。私の架空の相続時計は、かつてHODINKEEの動画撮影で実際に手にした幸運な体験からきています。そのあともずっと忘れられない時計、それがヴァシュロン・コンスタンタンのRef.7390です。
この時計はとくに珍しいわけでも、歴史的に重要なわけでもありませんが、私にとってはそうである必要もありません。貴金属製の個性的なドレスウォッチで、もしかしたらストーンダイヤル(もちろん最高)、自動巻き(!)、そして厚さ6mmのケース(!!)と、すべてが合わさってシンプルでありながらとても魅力的で、非常にユニークな時計となっています。どんな場面でも特別な気分にしてくれるでしょう。おまけにお金はフィクションで、本当の価値は個人の感情から生まれます。そのため、堅牢なケースバックには十分なスペースが確保されているのです。
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