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Four + One 日本のカルチャーを世界に広める若き盆栽プロデューサー、小島鉄平氏が愛する時計とクルマ

盆栽という日本の伝統文化に、時代の息吹と独自の感性を吹き込む。盆栽職人にして盆栽プロデューサーである小島鉄平氏の作品は、いまや世代やカルチャー、国境を越えて多くのファンに高く支持されている。鉢の上に自然を表現する盆栽から多くを学び、その本質をより多くの人たちや次世代に伝えようとする姿勢は謙虚でいて、眼差しは優しい。

盆栽と聞いてまず思い浮かぶのは、シニアの楽しむ趣味だろうか。だがいまや世界にも人気は広まり、若い世代でも愛好家は増えている。切り花とは異なり、手間をかけ大切に育てることでさらに愛着が増す。そして自然が生み出した美とともに、人間以上にはるかに長く生きる生命に畏怖すら覚えることだろう。その気高き姿を小島鉄平氏はアートへと昇華し、魅力と価値を世界に向けて発信している。


ヴィンテージと盆栽に触れた青春時代

 収集家向けの逸品をはじめ、ホテルやレストランでのリース、世界的なハイブランドやアパレルショップとのコラボレーションなど小島氏のクリエイティビティは多彩でバイタリティに溢れる。盆栽との出会いやこれまでの半生もそれに劣らず、ユニークで独創的だ。


 「僕は幼少時、家庭の事情で児童養護施設で過ごしたんです。その時の園長先生が盆栽を育てていて、水やりや世話の仕方を教えてもらったのが最初の出会いです。その後も盆栽の趣味は続いたのですが、ある時、父親にリーバイス501 66をもらい、もともと数ドルだったものが数千ドルになっていることにすごくカルチャーショックを受けました。以来ヴィンテージの世界にはまり、20歳半ば過ぎに地元でセレクトショップを始めました」


 盆栽とヴィンテージ。やがてその2つが呼応し結びつく。


 「バイヤーとして海外に行く中、あるショップにディスプレイされていた盆栽をオーナーに自慢されたんです。でも僕から見ればそれは盆栽とはかけ離れていて、自分の盆栽の写真を見せました。すると相手は驚き、本物を見た感動が伝わってきたんです。そんなことが何回かあって、もう盆栽のことばかり考えるようになり、もしかしたらそれをもっと世の中に広められるのではないかと思い始めました」

TRADMAN’Sのアトリエ兼ギャラリー。

制作中の盆栽が所狭しと並べられる。

 かくして小島氏は30歳で盆栽を生業とする。その仕事についてこう説明する。


 「まず盆栽師や専門の生産者から盆栽用の樹木を仕入れ、それを鉢に植え替えて剪定し、針金で仕上げるというのが僕らの仕事です。洋服で言うと、生地屋さんがいて僕らがデザインとパターンを担当する感じで、スタイリスト的な役割もします。全国では週1回ぐらい競りがあるので、そこでスタッフが選んだり、僕が直接交渉して譲っていただく。仕入れはこの2つのパターンですね」


 こうして仕入れた樹木からイメージが生まれ、制作は始まる。とはいえ千差万別の樹木に対峙し、長い歴史で培われてきた盆栽の技術やノウハウはとても奥深く、小島氏もあらためてそこに向き合うことになる。


 「古くからの業界はやはり新参にはやりづらく、まずは海外に出て活動しました。そこで自信を得て、再び日本に戻ったのが本当のスタートだったかもしれません。それでも自己流でやっていくなかで、自分でもちょっと違和感が芽生えたんです。やはり基礎があってからの派生であり、改めて基本を学ぼうと思い、よく仕入れをしていた職人さんに頼み込んで弟子入りをしました」


 すでに会社を立ち上げ結婚もしていたことから、本来6年かかる修業を3年で修め、お墨付きももらった。だが小島氏はそれだけでは終わらない。師事した師匠を、逆に一緒に働かないかと誘ったのだ。


 「本当におこがましいことですが、これからもぜひ一緒に仕事がしたいと懇願したんです」と笑う。その男気にほだされたのだろう。頼りになる仲間とともに伝統的なクラシックスタイルを取り入れ、新旧の両極端をミックスすることでオリジナリティはより強くなった。「TRADMAN’S BONSAI」の誕生だ。

TRADMAN’Sの盆栽においてシグネチャー的存在である、幹が白に変化した真柏。神(ジン)と呼ばれる枯れた状態でかねてより愛好する人もいたが、TRADMAN’Sでは独創的な形を与えさらに魅力を高めた。


夢を叶えたアトリエでは、日本各地から世界へ発信

 アトリエの屋外に並んだ盆栽は圧巻だ。一つひとつが強い個性を放ちながらもそこにはある種の統一感が漂う。しかし季節とともに移ろい、成長する自然が相手となればそれもけっして人為のままには行かないだろう。


 「それはもう自然は聞き入れてくれませんから(笑)。枝が枯れてしまったり、でもそれってすごく楽しい。その時に臨機応変に対応できるかが僕らの力量でもあるし、もし枯れてしまってもその部分を生かす。盆栽の世界では神とか舎利(シャリ)と言いますが、枯れて白くなっていても水吸いという部分が生きていて、根を張って全体を形成しています。そこに美を見出す。そうじゃないと面白くないですよね、思い通りに全部できても」


 こうして自然に人の手が加わることで生まれる美しさもあれば、数百年生きてきた盆栽でもわずか3日水遣りを欠かしただけで枯れてしまうこともある。


 「歴史がそこで途絶えてしまうんです。その責任はとても重く、耐えていかないといけません。人が共存して初めて盆栽になるのです。その定義は、自然美を鉢の上に作ることであり、結局は自然を超えることはできません。でもたとえエゴではあってもそこに自分が関わることで、自然では表現できないアートにもできると思います」

ランドローバーのリテイラーアンバサダーを2023年から務める小島氏。その世界観にお互いが共感したからこそ実現した、と語るパートナーシップは魅力的に映る。契約当初は、”自分にはまだ早いと思う”と乗るのを躊躇っていたレンジローバーを、今年ようやく選択する決意をしたそう。

レンジローバー スポーツ SV EDITION TWO 2474万円(税込) 2025年モデル限定グレード、新色のネブラブルー。4.4リッターV型8気筒ツインスクロールターボチャージドガソリンエンジン(MHEV)搭載、最高出力635PS、最大トルク750Nm

 今、アトリエには、海外から来日したアーティストやコレクターがプライベートで頻繁に訪れる。併設したギャラリーに加え、ロフトには多くの現代アートやペイントで飾られ、まるでクラブのようなスペースだ。実際、都心のショップや展示会場からそのままゲストを迎え、パーティイベントを開催することも少なくない。


 「アトリエ自体がギャラリーですから、どんどん広げていきたいと思い、新たなストレージも竣工しています。スタッフたちが盆栽と向き合って作業できる工房も設け、横にはスケボーパークを作る予定です。子供の頃にやりたかったことを実現しているようなもので、もう1回子供に戻る感じで最高に楽しいです。それにスタッフには地元で一緒に育った幼なじみもいて、大人になってからもそうした仲間と一緒に仕事をするってすごく大事じゃないですか」


 この秋には京都の祇園にギャラリーを兼ねたショップの開店を予定している。以前は海外での出店を考えていたが、逆に日本に来てもらい、盆栽とその文化を日本から発信したいという発想からだ。


 「自分たちが誇りを持ってかっこいいと思ったことをやっていけたら最高です。そんなのは夢でしかないと誰もがいうけれど、僕はそうではないと思います。だからこれからもやり続けるし、子供たちにもこういうことこそが大事なんだよと教えていきたいですね」


小島鉄平氏の4本の時計
カルティエ サントス デュモン

 カルティエはジュエリー的な感覚で愛用している。「時計の針が止まっていても様になるというか、それでいてまったく無駄がないところも好きですね。洗練されたよりシンプルなスタイルには引き算の美を感じます。ファッションにしても究極はデニムに到るみたいな感じで、自然とカルティエに魅かれていました」

カルティエ タンク マスト ドゥ カルティエ

 ヴィンテージウォッチの名店・江口時計店とのイベントをきっかけに手に入れた1本。「じつはオーナーは地元の先輩で、吉祥寺にお店があった頃に出会った時計です。これはかっこいい、と気持ちが高まって購入したのが最初のカルティエです。ヴィンテージしか持ってないので、今では新品も欲しくて。オーバルよりスクエアが好みですが、ベニュワールのバングルタイプはいいですね」

カルティエ サントスガルべ

 仕事をする時も厭わず時計を着けるという。「さすがに水には気をつけますが、剪定作業でもそのまま。傷だらけになったブレスレットも気に入ってますし、基本はYGが多いのですが、SSとのコンビカラーも合っていると思います。うちのスタッフにも何かの記念には、ヴィンテージのカルティエをプレゼントしています」

オメガ デ・ヴィル

 時計はずっと好きで、20歳の時に初めて自分で買った時計がオメガ スピードマスターだった。「これは義理の父が亡くなられて、生前つけていた形見をいただきました。ストラップ交換やオーバーホールをして、法事や親族の集まりにつけています。たとえ目には見えなくても、思い入れはより強く感じます。大切にしたいですね」


もうひとつ

 ファッションや時計をこよなく愛する小島氏にとってクルマも例外ではない。愛車はレンジローバー。いわゆる盆栽のイメージから少し離れているところも本人らしい。独自の哲学が感じられる選択基準はどこにあるのだろう。


 「若い頃からクルマは数多く乗り継ぎ、そのほとんどが四駆でした。それは山に行くために不可欠な手段だから。盆栽作りはとにかく自然を見ることから始まり、山ではキャンプも楽しんできました。レンジローバーは主に社用車として使っています。都心からアトリエなど移動も結構多く、広いリアシートでリモート会議をしたり、スタッフも一緒に乗って打ち合わせをしたりすることもありますね。結局クルマって道具じゃないですか。扱うのは人間だし、道具に扱われるわけじゃないという考えはあります」


 仕事以外にも、自分で運転する時はリラックスして物事を考えるプライベート空間になり、家族とのドライブでは楽しい時間を過ごすこともできる。遊び疲れた子供たちがリアシートで寝ている姿を見ると幸せを感じると微笑む。


 「レンジローバーは、見た目も含めて余計なものはありません。引き算の美学がすごく感じられます。それこそ砂漠のロールスといわれた時代からモダンに進化した今でも、エレガントさとタフネスの両立は変わりません。革新の連続が伝統になるっていうのは僕のモットーなんですが、それにも通じますね」


今を生き、次世代にバトンを渡すことが、生きるということ

 盆栽は僕1代で築けるものではないのです、と小島氏は語る。


「樹齢300年、400年になるまでには多くの持ち主や職人が携わり、その結果として今がある。彼らが未来を想像してやりたかったことがその盆栽を見れば伝わってきます。それはもう置き手紙のようなものですよね」


 その意向を汲み取ってそのまま生かす場合もあれば、あえて手を入れることもある。


 「それが今を生きるということだから。そこに大切な美学があると思います。僕もそうして未来を作る。100年後この木がどうなっているのか。もちろん自分はそこにいませんが、僕はそこにポジティブな意識しかありません。これから先に向けて思いを巡らせる行動や行為そのものが、とても今の世の中に必要なことだと思っています」


 それは自然と向き合ってきた諦観であり、現代を生きるクリエイターの矜持でもある。


 「デジタルが全盛になり、すぐに答えを欲しがる世の中だけどTRADMAN’Sに答えなんかないんですよ。結局、木はずっと成長し続けるんですね、何百年も。むしろ生き続けるっていうことに意味があると思うし、それを次の世代に受け渡す。ここにとても重要なものがあると信じています」


 盆栽の世界をひとりでも多くの人に伝えたいと小島氏は語る。その存在によって何かが変わっていくという期待と強い信念ともに。

その他、詳細はTRADMAN'S BONSAI公式サイトへ。

クルマについての詳細はランドローバー公式サイトへ。

photos by Ken Saito、Video Shoot and Edit by Kazune Yahikozawa (Paradrift Inc.)、Camera Assistance by Kenji Kainuma (Paradrift Inc. )、Sound Record by Kota Sasai、Video Produce by Yuki Sato