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そう、この時計はクレイジーなんだ。F.P.ジュルヌの今年のビッグリリースは、トレードショーシーズンの幕開けとして先週ジュネーブに入った時点では、まったく予想だにしなかったものだった。ジュルヌは、5年ぶり、そしてこれまででも4回目となる風変わりな腕時計「ヴァガボンダージュ」を、申し込みオンリーで限定68本、8万6000スイスフラン(日本円未定)でリリースすることを決定したのだ。
この新作は、初出を2004年までさかのぼるヴァガボンダージュというコレクションにおいて、フランス・スイスの時計メーカーが1990年代後半に初めて実験を行った、ある種の回帰を意味するものだ。F.P.ジュルヌは、2012年、2017年と続けて発表し成功を収めた、ゴールドのヴァガボンダージュ最後のモデルとして、今回の新作を位置づけているのだ。2004年に発表されたプラチナケースのヴァガボンダージュと似ているがまったく同じではない。2022年に発表された新作は、同じ機能性と美しさを持ち合わせながら、手巻きムーブメントがアップデートされた。45.2mm x 37.5mm、7.6mmの18K 6Nゴールド製ケースでのみ展開され、既存のコレクター、特に過去のヴァガボンダージュと同じシリアル番号を持つコレクターには、この時計を最初にオファーすることもジュルヌは認めている。
1997年、ジュルヌは親しい友人のために、露出したテンプを中心にジャンピングアワーが駆動するユニークな自動巻き腕時計「カルペ・ディエム(CARPEDIEM)」を製作したのが始まりだ。その後間もなく、彼はこのアイデアをもう一度練り直すことを決意し、ケース、ムーブメント、ダイヤルの設計図を、ジュルヌのシグネチャーであるフラットなトーチュ型のケースに収まるように作り直した。
しかし、ヴァガボンダージュが正式に誕生するまでには、まだ数年の歳月が必要だった。オークションハウスのアンティコルムが、収益金のすべてをチャリティに寄付するオークションのために、2003年、ジュルヌにコンタクトを取り、ユニークピースを製作しないかと持ちかけたのだ。しかし、唯一の問題はアンティコルムが提示したスケジュールが、わずか6ヵ月間だったということ。そこでジュルヌは当然ながら再び設計図に戻り、初期型ヴァガボンダージュの3本からなるシリーズを製作する事になった。イエローゴールド、ローズゴールド、ホワイトゴールドの時計がそれぞれ1点ずつオークションにかけられ、いずれも内部に真鍮製のムーブメントが搭載されていた。
ヴァガボンダージュは、サークル・イン・スクエア(四角のなかに丸)のデザイン美学を他のブランドよりもうまく表現した非常に印象的な時計だ。オークションに出品されたこの時計の噂を聞きつけたコレクターたちは、F.P.ジュルヌに対して、より広い範囲での生産モデルを作るようにリクエストし始め、結局1年後の2004年に、極めて限定的な生産ながら、これが実現された。
2004年のヴァガボンダージュは、プラチナケースにローズゴールドの手巻きムーブメント、Cal.1504を組み合わせて69本生産され、アンティコルムでオークションに出品されたモデルと同様に、文字盤にブランドロゴは一切なかった。このモデルは、デジタル・ジャンピングアワーとそれに連動する分表示で時刻を示す。
2010年、ヴァガボンダージュの物語は続き、69本限定でプラチナ製の第2弾が発表された。このモデルは、デジタルの時分表示を搭載し、手巻きCal.1509を導入して進化を遂げた。ジュルヌはこの第二世代からさらに68本の6Nゴールド製ヴァガボンダージュを製造。そして最近では、2017年に復活し、新開発のCal.1514によって世界初となるデジタル式の時秒表示が搭載された。これらは再び、6Nゴールドとプラチナの両方で生産されることとなった。
そして、ヴァガボンダージュ最初の商品化から18年近く経った今年、2004年のオリジナルデザインをほぼ再現し、デジタルジャンピングアワーとワンダリングミニッツを携えて再び戻ってきた。ムーブメントはCal.1504からわずかに進化した新型の1504.2。同じ手巻き式でありながら、トノー型ケースのプロファイルは若干大きくなり、45.2 x 37.5 mm、18K 6Nゴールドのみのラインナップとなっている。
ムーブメントは2000年代前半に発表されたものとほぼ同じではあるが、信頼性を高めるためにわずかな改良が施されている。もちろん、2004年のヴァガボンダージュと同様に、2022年モデルは12時間のセンターリングに配された、ステンレススティール製の白い枠で現在時刻を表示する。時刻表示の白い枠に備えられたポインターが、同じ平面内のレイルウェイスタイルのミニッツトラックを示すことで分表示の役割を果たす。
昨日の朝、ジュネーブ旧市街にあるジュルヌのマニュファクチュールに立ち寄り、この時計と新作のオートマティックを少し触らせてもらった。ヴァガボンダージュを手にしたのは今回が初めてだが、オークションハウスでハンマーにかけられる前の様々なモデルをガラス越しにじっくりと眺めたことはある。
ヴァガボンダージュは、F.P.ジュルヌの特徴である滑らかなラウンドシェイプを捨て、これまでのどの時計とも異なるにもかかわらず、すぐに親しみを感じることができるのが最大の特徴だ。ケースの側面にはポリッシュ仕上げが施されたスロープがあり、装着感を高めている。ケースサイズは、45.20mm×37.50mmとされているが、感覚としては、上下の直径よりも左右の直径の方がはるかに短い。また、厚さ7.6mmという薄さは、アグレッシブなデザインからは想像もつかないドレスウォッチ的な趣がある。
その上で、ヴァガボンダージュシリーズの流通に対するジュルヌの長年の考え方に触れたいと思う。それについて、私は少し葛藤を感じている。新しいコレクションがリリースされるたびに(常に68本か69本の生産数)、前のシリアルナンバーを所有しているコレクターには、新しいコレクションからマッチする1本を購入する機会が与えられる。私は、ジュルヌが長年のコレクターをこのようにダイレクトで扱うことを称賛したい。それは名誉なことであり、同社が忠実かつ熱心な顧客を大切にしていることを浮き彫りにしているからだ。それと同時に、新しい時計は69本しかない。前世代のバイヤーが手に入れられなかったのは、2〜3本程度ではないだろうか。新しいコレクターにこそ、ヴァガボンダージュの購入機会を与えるべきではないだろうか。それとも、このラインは常に時計業界の秩序に報いることに特化するのだろうか?
ヴァガボンダージュコレクションが今後も徐々に広がり、最終的にはより多くのコレクターがF.P.ジュルヌの最も珍しく、想像だにしなかった作品のひとつを体験できるようになればと願うばかりである。
F.P.ジュルヌ ヴァガボンダージュ 2022:ケース、18K 6Nゴールド、直径45.20mm×37.50mm、厚さ7.60mm、30m防水。スレートグレー、サファイア製ディスク(開口部付き)、外側の文字盤にネジ込み式のスティール製エレメント。開口部で時間を表示し、その位置が分を示す。地板は部分的に丸いグレイン仕上げ、ブリッジはジュネーブストレート仕上げ、ネジ頭はポリッシュ仕上げで溝を面取り、ペグはポリッシュ仕上げで先端を丸く加工、スティール製部品はポリッシュ仕上げで面取りされている。ムーブメント、自社製Cal. 1504.2、18Kローズゴールド製、手巻き。14個の慣性モーメントを用いたテンプ、薄型マイクロフレームスプリング、可動式スタッドホルダー。振動数2万1600振動/時(3 Hz)。直線型レバー脱進機、歯数15、2ポジションのリューズ、ふたつの香箱を並列に配置。21石。50±2 時間パワーリザーブ。168個の部品。価格:8万6000スイスフラン(日本円未定)、F.P. ジュルヌブティックのみでの販売。
All images by Tiffany Wade.
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詳細は、F.P.ジュルヌ公式サイトへ。
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