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In Partnership

ロンジン 素晴らしきヘリテージと航空計時の歴史を再考する

去る5月11日、「HODINKEE.jp × ロンジン エクスクルーシブ ナイト in 東京」を開催。ロンジンの歴史を知り尽くすヘッド・オブ・ブランディング・アンド・ヘリテージ、ダニエル・フグ氏をゲストに迎え、参加者の知的好奇心をおおいに刺激したその内容を振り返るとともに、改めてロンジンの普遍的魅力を深掘りしていく。

初夏。フォーシーズンズホテル東京大手町の会場は、静かな熱気に包まれていた。その渦の中心にいた人物こそ、ブランドヘリテージ部門の責任者、ヘッド・オブ・ブランディング・アンド・ヘリテージとしてロンジンに携わるダニエル・フグ氏である。

イベントではダニエル・フグ氏とHODINKEE Japan編集長・関口 優のトークセッションを実施。当日はInstagramでライブ配信も行った(アーカイブで今も見ることができる)。

 現在、スイス・サンティミエのロンジン本社に籍を置くダニエル氏は、当地の新聞『ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(Neue Zürcher Zeitung)』の日曜版でヘッド・オブ・ビジネス&エコノミクス セクションとしてキャリアを重ねてきた大ベテランジャーナリストとしても知られる。International Watchstars Awards(世界各国の時計有識者、記者、コレクターからなる審査員により、5つのカテゴリーでベストウォッチを選考する授賞プログラム)の審査員でもある彼の知識・見識は圧巻で、ともにトークショーを進行した関口も興奮を隠しきれない様子だった。

ダニエル氏は今回が記念すべき初来日の機会に。イベント前日には日本で大きな地震も初めて体験することになったが、日本の建造物の耐震性の高さにさっそく感動したとユーモラスに話す。

 限られた幸運なHODINKEE Japan読者を前に行われたプレゼンテーションのテーマは、ずばりアビエーションウォッチだ。航空・冒険の世界で着用者の安全とロマンを担保してきた相棒たる時計たちは、ロンジンにとって極めて重要な意味を持つ。190年以上に及ぶ長い歴史のなかでいくつものマイルストーンが生み出され、その強烈な遺伝子は現行モデルにも存分に継承されている。

ロンジンの確固たる歴史の重みを再認識する参加者たち。丁寧かつユーモラスなダニエル氏の解説もあって、イベントは終始穏やかなムードに。


時計と航空。ふたつの業界に多大な影響を与えたロンジンの3大発明とは?

1867年に、スイスのウォッチメーカーのなかでもいち早く時計製造の機械化へと踏み切ったロンジン。その画期的な試みは高い精度や正確性、信頼性に直結し、1878年には初のクロノグラフムーブメントを開発するに至った。1880年代からは主要なスポーツイベントの公式タイムキーパーを担うことになるが、ロンジンには他社と差別化するパイオニアとして大きなふたつの柱を持つ。ひとつは先述のとおり、スポーツ計時や競技においてのタイムキーパーであったこと、そして航空・冒険の分野においてもその役割を担っていたという点だ。

初の10振動/秒スプリットセコンドストップウォッチ Cal.19.73N(1914年)。

100分の1秒計測を実現したCal.19.73Nストップウォッチ(1916年)。

時針を追加することで第2時間帯を表示する初の腕時計(1925年)。

ふたつのプッシャーを持つCal.13.33Z搭載フライバッククロノグラフ(写真は1928年製)。

フライバッククロノグラフのシリアル生産は、1936年のCal.13ZNから開始。

 プレゼンテーションの前半、ロンジンのマイルストーンとなるヒストリカルピースの解説がダニエル氏から行われた。ここではダニエル氏が注目すべきものとして紹介してくれたいくつかを掲載するが、さらなる詳細はロンジンの公式サイトにて時系列に沿ってわかりやすくまとめられているので、以下の「ロンジンの歴史を知る」のリンクから確認していただきたい。

さて、今イベントの本題である航空の分野でも特に目覚ましい活躍を記録したのは、国際航空連盟(FIA)の公式タイムキーパーに認定された1919年以降のことだ。1931年に開発されたロンジン リンドバーグ アワーアングルウォッチを筆頭に多くの伝説的名機を残すが、ダニエル氏は「それ以前の、1900年代前半に生まれた3つの発明こそがロンジンのアヴィエーションウォッチの土台であり、革新性を示すものです」と語り、プレゼンテーションの開幕を告げた。

1908年に開発されたふたつの時間帯表示が可能なポケットウォッチ。モントレ テュルクと呼ばれている。もうひとつの時針が追加された、いわゆるGMTとは異なり、通常の時・分針に加えてもうひとつの時・分針を備え、ふたつのタイムゾーンを示している。1911年に特許を申請。

1931年に、初となる日本・アメリカ間の太平洋無着陸横断飛行を成功させたクライド・パングボーンとヒュー・ハーンドンに提供されたコックピットクロック。パイロットが使用することを想定した24時間ダイヤルと分針・時針のダブルセットで、第2時間帯を表示するタイムピース。

こちらもロンジン コックピットクロック。左のものと同様、2組の時針と分針と回転ベゼル を備えるが、加えて発光インジケーターを装備することで暗所での視認性を確保した(1937年)。

 時計史だけでなく、航空史にも絶大な影響を与えたロンジンの3大発明。そのひとつ目は、1908年に生み出された第2時間帯を示す時計だ。しかもこのポケットウォッチは一般的なGMTではなく、ふたつの時刻をそれぞれ時針と分針で示す複雑な機構を有していた。

 外側の黒いインデックスで西洋の時を、内側の赤いインデックスではトルコ(当時のオスマン帝国)の時刻を表示。当時のトルコでは日没が1日の始まりとされており、その特殊な時間の刻み方にもスムーズに対応してみせたのだ。なお、1925年には第2時間帯を表示する腕時計を、1931年にはそれぞれの時間帯表示に24時間ガイドがついた複数時間帯表示のコックピットクロックを発表。このクロックを携え、大西洋横断の距離を優に超える日本からシアトルまでの飛行実験にも成功した。

現在ロンジン リンドバーグ アワーアングルウォッチの名で知られる1931年に発されたアイコニックピース。飛行家チャールズ・A・リンドバーグのアイデアが、ロンジンの優れた技術力で具現化した。

 回転ベゼルにおいては主にミリタリーアヴィエーション、つまり軍事航空用として発展を遂げた。例えば、ユール・バイアル(Jules Vial)がパリで特許を取得し、1923年にロンジンが製造した回転ベゼルとトライアングルインジケーターを備えたカウントダウンタイマーには高度を示す機能も付いており、ボムタイマーとして用いられた(残念ながら画像はない)。

 そして1931年に誕生したロンジン リンドバーグ アワーアングルウォッチだ。その詳細は記事「In-Depth ロンジン リンドバーグ アワーアングルウォッチに秘められた科学、歴史、そしてロマンに迫る」に譲るが、天体の位置を示す時角(アワーアングル)を計算するための数字が刻まれた回転ベゼルを持ち、時刻とベゼルの目盛りから経度を、そして六分儀で太陽の位置を計測して緯度を割り出すことで現在地が把握できる。回転ベゼルといえばダイバーズウォッチのイメージが強いかもしれないが、もとは航空時計から派生し発展したものだったのだ。

1935年に登場したマジェテック。双方向に回転するフルーテッドベゼルとクッション型のステンレススティールケースが特徴的で、今なおファンが多い傑作である。こちらの記事でヴィンテージモデルと2月に発売されたロンジン パイロット マジェテックの詳細を知ることができる。

 なお、コレクターピースとなっているマジェテックについてダニエル氏はこんなことも教えてくれた。「マジェテックという名前は、ファンから呼ばれることでその名が定着しました。ケースバックに刻まれた“MAJETEK VOJENSKÉ SPRAVY”は、あくまでチェコスロバキアの軍部所有物を意味します。陸軍や空軍に直接配給されたものではありません。ロンジンは軍の管理部より約2000本の発注を受け、その後チェコスロバキアのパイロットたちに腕時計が配布されたのです」

ロンジンはフライバック機構の特許を1935年に出願し、1936年に登録。同年、象徴的なムーブメント、13Zキャリバーを搭載したフライバック機能付きのクロノグラフウォッチがデビューする。写真は1937年に誕生したスターティングタイマー(トライアングル)インジケーター付きの回転ベゼルを備えたパイロットクロノグラフである。

 閑話休題。3つ目の発明としてダニエル氏が挙げたのは、フライバックプッシャーを備えたクロノグラフウォッチである。スタート・リセット・リスタートという3つの手順をワンプッシュで解決する機能は、異なる飛行ステージのタイミングを連続的に計るなど、航行中の素早い対応を可能にするものだった。そして1925年に初めて独立したふたつのプッシャーとフライバック機構を持つクロノグラフがリリースされて以降も多彩に進化し、現在も計器としての時計の根幹を支えている。

写真の時計は、ともに今イベントに参加いただいたコレクターの方が所有するロンジンのフライバッククロノグラフだ。写真をよく見て欲しい。左のモデルのプッシャーは、極めて希少な存在とされるマッシュルームプッシャーを持つ。

 ロンジンのクロノグラフのなかでも特に興味深いのは、1938年に同社が初めてプッシュボタンの特許を取得した1937年開発の防水プッシャー付きフライバッククロノグラフだ。これはマッシュルームプッシャーと呼ばれるが、極めて高価なコレクターピースで、昨年11月にジュネーブで開催されたオークションでは18万2000スイスフラン(日本円で約2805万円)という驚くような落札価格を記録した。

1946年には、センターに60分積算計のストップセコンド機構を備えたモデルが登場。すり鉢状のダイヤルもユニークな個性的なアビエーションウォッチだ。

 航空時計の分野において数々のアイコニックなヒストリカルピースを数多く残すロンジンだが、なぜそのようなことが可能だったのだろうか? ひとつには1867年以降、時計とムーブメント製造の非常に早い段階で機械化・工業化を進めてきたことに由来する(ロンジンは時計製造の機械化を最初に進めたスイスの時計ブランドのひとつ)。これによりロンジンではパーツの共有化が可能となり、精度を高めることができた。そしてオフィシャルタイムキーピングのために使用する高精度時計の需要がこれを後押しした。

 ロンジンがインターナショナルブランドとして当時から世界的に知られていたということも大きい。航空技術の発展に伴い、人々は遠方を行き来し時間をまたぐようになったわけだが、旅行や鉄道、船舶など移動に伴うさまざまな分野で使用する精度の高い時計をロンジンに求めたのだ。

 さらにほかの時計メーカーにないポイントとして、ジョン・PV・ハイミュラー(John P. V. Heinmuller)との関係がある。彼はロンジンのアメリカ代理店であるロンジン-ウィットナーの取締役、そして国際航空連盟の会長でもあり、歴史に名を残す著名な航空士たちと個人的に深い関係を築いていた。そしてフランス語が堪能だった彼を通して、航空士たちからのフィードバックがロンジンに伝えられたことで、ロンジンのアビエーションウォッチは信頼を獲得していったのだと、ダニエル氏は語った。


開拓者のスピリットは今なお受け継がれ、その進化は止まらない

ひとつずつの発明を振り返っても偉大な足跡であることに疑いはないが、それらを発展・複合させ、新たなアビエーションウォッチに応用させていく先見性と手腕もまたロンジンの優れた本質だろう。イベント会場に並んだ数々のタイムピースは決して華美ではないものの、どれもが質実剛健なものばかり。今も現役で駆動する時計も少なくなく、ずば抜けた信頼性には驚かされる。

 「アビエーションウォッチに代表されるロンジンの時計は、着用者の社会的地位やきらびやかさをアピールするものではなく、ツールとしての役割を果たし、実用性や機能をフルに活用してもらうためのものなのです」

 ダニエル氏の金言は、投資先として注目されがちな昨今の時計事情において、ことさら輝いて聞こえる。

写真右は今春に登場したロンジン スピリット フライバック。エクスクルーシブキャリバーであるL791.4を搭載し、コレクション初のシースルーバックを採用。左は昨年発売されたGMT機能を搭載したロンジン スピリット Zulu Timeだ。

 1832年に創業した名門ロンジンにとってアビエーションウォッチは特別な存在であり、今に連なる柱だ。ダニエル氏は語る。

 「私はブランドヘリテージ部門の総責任者ですが、その仕事は必ずしも過去を掘り起こすこと、研究することだけではありません。これまでに作られた何千もの時計から、今日においても役に立つ、意義のあるさまざまな意匠や機能があるのではないかと、歴史のなかから見出します。意匠や機能などデザインコードになるものを歴史的遺産から抽出して、それを製品開発チームのインスピレーションの源としています。例えば、今日私がつけているのはイタリアで個人的に購入したヴィンテージのウルトラ-クロンです。精度の高い高周波ムーブメントを搭載しています。このヴィンテージウォッチが今もなお高い精度を保っていることに驚きました。ロンジンは1968年にウルトラ-クロンの精度を月差1分、つまり日差2秒と保証していたのです。この驚くような事実を自分が購入した時計から知ることになりました。こうしたロンジンの持つヘリテージを継承することが私の仕事だと思っていますし、もし復刻モデルを手がける場合は、常に最新の技術を現代の時計製造に応用しています」

 さらに話を続ける。「今使える技術を駆使しながら、当時の精神性や特徴を時計づくりに生かすのが重要だと考えています。ヘリテージピースを単にリバイバルさせるだけでなく、それを繋がりのある製品として形にすることが重要です。最新技術はもちろん活用しますが、DNAを失ってはいけません。それが最も大切なのですから」

 アメリア・イヤハート、ハワード・ヒューズ、そしてチャールズ・A・リンドバーグ。ロンジンの計器とともに空を舞った彼らのように、我々は未開の地を突き進むことはできないかもしれない。だが幸いにも、彼らのロマンを継承し、前進を続ける現代の機能性と信頼性を備えたロンジンの時計を手にすることはできる。

 ロンジン スピリット。その名のとおりにブランドの魂ともいうべきヘリテージピースのDNAを乗せたコレクションは、一昨年の華々しいデビュー以降も勢いは止まらない。シンプルな3針モデルに続き、2022年には第3時間帯を表示するZulu Timeがリリースされ、そして今年は待望のフライバッククロノグラフが仲間入りを果たした。そのコレクションには、ロンジンに脈々と受け継がれるパイオニア精神と素晴らしきヘリテージ、そしてダニエル・フグ氏のようなブランドの真髄を正しく理解する作り手たちの情熱が込められているのである。

イタリアで手に入れたというヴィンテージのウルトラ-クロン(写真下)と、昨年登場したリバイバルモデル(写真上)をダブルリスティングしたダニエル・フグ氏。


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Photos:Keita Takahashi(TRS) Words:Naoki Masuyama、Kyosuke Sato(HODINKEE Japan)