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オリエントスター ダイバー 1964 受け継がれる意志と革新の胎動

オリエントスターから新たなダイバーズウォッチが限定モデルとして登場した。そのデザインは知る人ぞ知る、1964年製ファーストダイバーの再解釈である。レトロな外観ながら200m防水を誇り、ダイバーズウォッチとしての真の実力を秘める。

 いったいどれだけの人が知っていただろうか? オリエントが1964年に早くもダイバーと名を冠したモデルを生み出していたことを。ヴィンテージウォッチ市場においてもほとんど出回ることのない、ごく限られたファンのみが知る幻のファーストダイバーが現代によみがえった。ディテールの多くを受け継ぎながら、随所を現代的に洗練させた上質でレトロなダイバーズウォッチは今の時計トレンドに合う。国内200本、海外300本の数量限定というこのリバイバルモデルも、50年後にはきっと幻の逸品と呼ばれるようになるだろう。


1964年-ブランドで初めて“ダイバーズ”を名乗ったオリンピア カレンダー ダイバー

オリンピア カレンダー ダイバー(1964年)

 東京2020オリンピックの興奮と熱気の記憶は今も新しい。そこからさかのぼること57年。最初の東京オリンピックが開催された1964年に、オリエントはブランドとして初めて“ダイバー”を名乗るモデルを市場に投入した。オリンピックイヤーにちなんだ、その名も「オリンピア カレンダー ダイバー」だ。上の写真にあるのがオリジナルモデル。目盛り付きの回転ベゼルや大型で見やすいアロー型の時針といった目を引くディテールは、まさにダイバーズウォッチそのものである。しかし実際には、海に潜ることを想定したモデルではなかった。

 ダイヤルに記載される防水性能は40m。非防水の腕時計も少なくなかった当時としては高い数値だが、潜水士が仕事で使えるスペックではない。高速道路が整備され、またスキーなどのレジャースポーツが注目されるようになった時代に合わせ、オリエントはビジネスシーンだけでなく、レジャーでも使えるスポーツウォッチとしてオリンピア カレンダー ダイバーを開発したのだった。

「オリエント便り 1963-12 No.16」より。

「オリエント便り 1963-12 No.16」より。

 実際、当時の広告ビジュアルに使われているのは海ではなくスキーでのシーンだ。また目盛り付き回転ベゼルを装備するこのモデルを称して「時間をメモする腕時計」と表現。ドライブやスキーでのタイムを計るのに便利であることをアピールしていたのである。

 オリエントらしい実にユニークなコンセプトで作られたこの時計は、しかし短命に終わった。誕生の翌年、ムーブメントを手巻きから自動巻きへと置き換えるのに伴い、回転ベゼルはステンレススティールの無垢からブラックアルミニウムのリング付きへと変更。ファーストダイバーの姿は早くに失われ、生産数は少なく、それゆえ幻のモデルと呼ばれるようになった。


2021年-時を超えて本格ダイバーズウォッチへと進化したダイバー 1964

 最初の東京オリンピックの年に生まれたファーストダイバーが、次なる東京オリンピックイヤーに帰ってきた。「ダイバー 1964」は、オリンピア カレンダー ダイバーからインスピレーションを得て生まれたダイバーズウォッチである。開発期間は、およそ2年半。1964年当時の写真や仕様書は残っていたが、実機は社内に存在せず、コレクターから借り受け、精査したという。そして無垢のSS製回転ベゼル、アロー型時針、エッジが効いたシャープなラグ形状といった外観を特徴付けるディテールを踏襲することを決め、各形状を丁寧に練り直した。

 目指したのはオリジナルの忠実な再現ではなく、2021年に通用する新たなダイバーズウォッチ。ファーストダイバーがビジネスとレジャーの各シーンで使えるように開発されたように、ダイバー 1964もオンタイムでもオフタイムでもつけてもらうためには各ディテールの時代に即したアップデートが不可欠だと考えた。新旧を並べてみると、酷似はしているがその違いは明らかである。

オリンピア カレンダー ダイバーのベゼル。

ダイバー 1964のベゼル。

 SS製ベゼルは、オリジナルが押し回し式の両方向回転であったのに対し、逆回転防止式へと進化。0位置のマーカーはフルブラックに改められ、ルミナスライトのドットが追加された。外周の刻みもより指がかかりやすいよう側面にまで施されている。また凸部にはさらに小さな溝を入れた凝った作りとした。

オリンピア カレンダー ダイバーのラグ。

ダイバー 1964のラグ。

 側面をファセットカットし、終端を斜めに立ち落としたオリジナルのラグ形状は実機を借り受けたからこそ正確な形が判明した部分だ。そのシャープな印象は受け継ぎつつ、袖口に引っ掛かりにくいように側面の面取りの幅を狭め、終端の傾斜をなだらかに整え直した。加えて表面はサテン、面取り部分と終端の傾斜は鏡面仕上げとすることでオリエントスターらしい輝く外観が創出された。

オリンピア カレンダー ダイバーの針。

ダイバー 1964の針。

 アロー型の時針はもちろん、ドーフィン型の分針も継承しながら、それぞれ立体的な峰型とすることで視認性と高級感を高めた。繊細な筋目仕上げも上質感がある。ルミナスライトもより多く入れられるように凹部を設え直しているところも注目すべきだろう。そして秒針をロリポップ型に変更したのはルミナスライトを載せるため。夜間や海中でもより見やすく、すべての針を進化させた。

オリエントスター ダイバー 1964

ファセットカットして磨いたインデックスや、ブレスレットに2本のラインを成す鏡面仕上げしたリンクなど、随所に輝きを与えてエレガントな印象をプラス。サテン仕上げも実に細やかで念入りな仕上げ工程がうかがい知れる。SSケース。ケース径40.2mm×ケース厚14.5mm(全長49.6mm)。200m防水。自動巻き Cal.F6N47:22石、2万1600振動/時、約50時間パワーリザーブ。日本限定200本、海外限定300本。14万3000円(税込)。

 進化したのはデザインだけではない。機能もよりハイスペックになっている。ダイバー 1964はISO規格に準拠したダイバーズウォッチとして開発された。それゆえ200m防水の頑強なケースが与えられている。またムーブメントもファーストダイバーが手巻きであったのに対し、本機では自動巻きのCal.F6N47を搭載。そしてダイヤルにはオリエントスターに共通するパワーリザーブインジケーターを装備する。1964年当時になかった表示機能の追加は社内でも意見が分かれたという。しかし海中で確実に動き、潜水士の命を守るというダイバーズウォッチの使命を遂行するためには有効であるとの理由から搭載が決まった。その針は極力短くし、インデックスも最小限に簡略化することで存在を希薄にしているのがデザインの妙だ。さらにインデックス形状もオリジナルとは異なり、ルミナスライトがたっぷり載せられるボックス型に。これも強い衝撃を受けると抜け落ちる可能性がある植字ではなく、ダイヤルから打ち出したエンボスとしているのは、ISOダイバーズとしての正しい仕様のためである。

 高い防水性能を叶えるのは、ねじ込み式となったケースバックだ。“DIVER 1964”のエングレービングが誇らしげである。ちなみにファーストダイバーの裏蓋にはトビウオのイラストが刻印されていた。ブレスレットは5連で、レトロでスポーティな外観にエレガントな印象を添える。一方でバックルは機能的なエクステンション機構を備える。パワーリザーブインジケーターも含め、この価格帯のダイバーズウォッチとしては贅沢な機能が盛り込まれた。


オンオフをシームレスに行き来する洗練された現代のダイバーズウォッチ

 この1、2年で多くの企業が在宅ワーク化を推し進めたが、勤務形態の変化はビジネスシーンでのファッションを変え、求められる時計のスタイルをも大きく変えた。ビジネスをメインとした時計のデザインではなく、オフタイムで使う時計をオンタイムにもつけるという目線に立ったとき、セイコーエプソンの開発陣はオリンピア カレンダー ダイバーを発見し、それを現代のよみがえらせることを決めたという。

 適度なレトロ感はファッショントレンドにも合致してカジュアルによく似合う。オリジナルよりもわずか0.4mm拡大しただけの小ぶりなケースはジャケットの袖口に収まりがよく、ビジネスシーンでもつけやすい。加えて本機はISO準拠のダイバーズウォッチである。もちろん着けたまま海に飛び込むこともできる。また随所にポリッシュ仕上げを配して上品な輝きを与えたことで、ファッションを選ばずオールマイティに使える外観が創出された。ダイバー 1964は単なるリバイバルではない。今の時代性を捉えて生まれた現代の時計なのだ。

 幻のファーストダイバーの姿をなぞらえ再解釈したダイバー 1964の登場は、古くからのコレクターには朗報であろう。同時に幻であったがゆえに、そのデザインは多くのファンの目にはまったく新しく映る。他社が復刻モデルで多用するヴィンテージカラーのルミナスライトを使わなかったのは、あくまでも現代に通用する新たな本格ダイバーズウォッチにしたかったから。オリエントスターが70周年を迎えてブランドの歴史を精査するなかでオリンピア カレンダー ダイバーは再発見されたのだ。

 オリエントのダイバーズウォッチの歴史は現代まで脈々と続いており、アイコニックな名作がいくつも残されている。本機に心引かれた人なら期待せずにはいられないだろう。次なる歴史の再発見と、魅力的なリバイバルの登場を。

左から順に:オリンピア カレンダー ダイバー(1964年)、カレンダーオートオリエント(1964年)、ウィークリー オート オリエント キングダイバー(1965年)、オリエント キングダイバー 1000(1969年)。

Photos:Tetsuya Niikura(SIGNO) Styling: Eiji Ishikawa(TRS) Words:Norio Takagi