シェフのダニエル・ブールー(Daniel Boulud)氏は、ニューヨーク、そして世界中の飲食業界における伝説的存在だ。彼はニューヨーク、マイアミ、モントリオール、シンガポール、ドバイなど、世界各地で数多くのレストランを経営している。1993年にオープンしたアッパーイーストサイドの『Daniel(ダニエル)』は、現在ミシュランふたつ星を獲得している。
ブールー氏は世界的に有名な美食の地、フランスのリヨン育ちである。フランスで修業を積んだブールー氏は、やがて料理のキャリアを追求するために渡米。以来ブールー氏と彼のレストランは数え切れないほどの賞を受賞し、その過程で時計を何本も手に入れたそうだ。
我々は彼自身の名を冠したレストラン『ダニエル』に赴いてブールー氏のキャリアと何本かの時計について話を伺い、さらに営業中のレストランシーンの撮影もさせてもらった。ご覧のとおりブールー氏の腕時計の多くには、彼のシェフとしてのキャリアをたどる物語が添えられている。リシュモンのボス、ヨハン・ルペール(Johann Rupert)氏が『ダニエル』で食事をしているときに手首につけていた時計を目ざとく見つけたり、ニューヨークのティファニー本店を改装してレストランを開いたり、ブールー氏と時計とのつながりは深い。プロフェッショナルな話題もありつつ、特に感動を呼んだのはもっと個人的なストーリーだった。私が何を言っているのかは、映像を見れば分かるだろう。
ニューヨークの名レストラン『ダニエル』を会場に、シェフであるダニエル・ブールー氏とのTalkingWatchesをお楽しみいただきたい。
ロレックス GMTマスター II “ルートビア”
レストラン『ダニエル』に入ると、シェフがSSとエバーローズゴールドのロレックス GMTマスター II “ルートビア”を着用して待っていてくれた。視認性に優れ、丈夫で大きすぎない。2018年に発表されたこのモデルは信頼性が高く堅牢なスポーツウォッチであり、私や読者諸君、ダニエル・ブールー氏が現代のロレックスに求めるものすべてを備えている。つまりGMTマスター IIは、厨房でバタバタ動き回るのにうってつけの時計なのだ。画像では傷や汚れも写り込んでいるが、それこそがブールー氏がGMTを頻繁に着用している証左であり、この時計をますます魅力的なものとしている。
ロレックス “ゼニス” デイトナ
次に紹介するのは、ブールー氏所有のホワイトダイヤルのロレックス “ゼニス”デイトナ Ref.16520だ。1988年に発表された初の自動巻きデイトナで、ロレックスによって大幅な改良が加えられた有名なゼニス製エル・プリメロを搭載している。歴史やスペック以上に、この時計はブールー氏と最も長い時間を共有している時計のひとつであり、彼にとって初めてのロレックスでもある。それも自分で買ったものではなく、親しい友人からの贈り物だった。その経緯は特にパーソナルな話で、動画のなかの彼自身の言葉からその想いを感じ取って欲しい。
ロレックス GMTマスター II “ペプシ”
「ロレックスをつけるのが好きですね。厨房で一番快適ですから」とブールー氏は語る。ルートビアと“ゼニス”デイトナに加え、彼は2018年にロレックスが初めて(ジュビリーブレスレットで)復活させたSS製のペプシを所有している。その直後にロレックスは、オイスターブレスレット仕様のペプシを追加した。特にこのロレックスコレクションは、ブールー氏が後援者となっている慈善団体を運営するトロントの友人とのつながりで収集したものだという。
「私にとってそれぞれが思い出深いのです」と、ブールー氏はこれらの時計について語る。
ロレックス GMTマスターII “バットマン”
ブールー氏は疑いようがなくロレックス党であり、とりわけGMT派である。次に紹介するのは、ロレックスが2013年に初のバイカラーセラミックベゼルで発表したブルー&ブラックベゼルのGMTマスター II “バットマン”だ。ここで見られるジュビリーブレス付きのバットマン(一部では“バットガール”と呼ばれている)は、2019年に派生モデルとして追加された。ブルーとブラックの組み合わせはGMTマスター系では歴史的に前例がなく、その登場はペプシベゼルが製造困難だったことから代替とした結果だという説もあったが、ペプシは数年後に初のWG製GMTマスター IIで実現することになる。いずれにせよ、ブールー氏のGMTマスターコレクションを総括するようなモデルである。
ロレックス スカイドゥエラー
最後にSS製のロレックス スカイドゥエラーを紹介しよう。GMTマスターがトラベラーズウォッチの元祖だとすればスカイドゥエラーはその改良型で、24時間表示の年次カレンダーを搭載している。ダイヤルカラーはホワイトで、シェフの白衣によく映える。
パネライ ラジオミール ブラックシール
パネライの時計はさまざまな要素で知られているが、ブールー氏のセラミック製ラジオミール ブラックシール(Black Seal)ではその実力をいかんなく発揮している。また時計以上に、ブールー氏がパネライに出合うまでの経緯は、入場料を払ってでも聞く価値がある。ある晩、リシュモンのボス、ヨハン・ルペール氏が彼のレストランでディナーをしていたというのが話の導入部だ(パネライはリシュモン傘下である)。
ブールー氏は自分のレストランで食事をしてくれた彼に挨拶とお礼を言いに行ったとき、時計マニアの性分からルペール氏が手首に何をつけているのかを見抜こうとしたという。パネライのケース形状は特徴的なため、ひと目でそれと分かった。ブールー氏がフィレンツェの同ブランドから初めての時計を手にするまでに、そう時間はかからなかったようだ。
パネライ グラントゥーリズモ フェラーリ クロノグラフ
ブールー氏のパネライに対する愛情はそれだけにとどまらない。これはフェラーリのためのパネライ グラントゥーリズモ クロノグラフで、スクーデリアのクラシックカラーを示す鮮やかなイエローダイヤルを備えている。12時位置のダイヤルを飾るのはフェラーリの名と疾走する馬の姿だけなので、知らなければパネライだとは分からないだろう。パネライとフェラーリは長年にわたって数々のコラボレーションモデルを発表してきたが、このコレクションは2006年にマラネッロのフェラーリ工場で発表された。
インタビュー中、ブールー氏はモントリオールで翌週に開催されるF1レース観戦が楽しみだと語っていた。
パネライ ラジオミール 8デイズ GMT オロロッソ
パネライのファンであるブールー氏は、50歳の誕生日にパネライから時計を贈られた。それもただのパネライではなく、ローズゴールド無垢のラジオミール 8デイズ GMT オロロッソである。これは2012年に発表された500本限定のRef.PAM00395で、ブールー氏のルートビア GMTと同じくローズゴールドにブラウンダイヤルが特徴的だ。
内部にはCal.P.2002が搭載されている。特に見分けやすいポイントは、ブリッジがくり抜かれてムーブメントの輪列と主ゼンマイが露出している点だ。
「厨房でつけることは滅多にありません」とブールー氏は付け加えた。
カルティエ サントス100
フランス人であるブールー氏は、カルティエに特別な親近感を覚えるという。しかしこれまでの彼の嗜好が示すように、彼はドレスウォッチよりもスポーツウォッチ派だ。このカルティエ サントス100はローズゴールドのベゼルとDLCコーティングを施したカーボンケースに、ブラックのナイロン製“トワル・ドゥ・ヴォワール(帆布)”ストラップを組み合わせたモデルだ。彼のコレクションにある他社のモデルと同様、サントスもプレシャスメタルをスタンダードなスポーツウォッチにほどよく落とし込んでいる。
「アメリカに来て最初に買った時計は、小さなタンクでした」とブールー氏は語る。今つけるにはちょっと小さいし、エレガントすぎると彼は説明していた。しかしこのサントス100はぴったりなようだ。
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ
オーデマ ピゲがロイヤル オーク オフショア クロノグラフを発表したのは1993年(偶然にもブールー氏が自身の名を冠したレストランをオープンしたのと同じ年だ)。男性用モデルの平均が直径36mm程度だった当時、この“ビースト”は大きく大胆なスポーツウォッチの時代を切り開いた。
「これは夏用の時計ですね」とブールー氏は語る。
ウブロ クラシック・フュージョン クロノグラフ
ブールー氏によると、ウブロの前CEOであるジャン-クロード・ビバー(Jean-Claude Biver)氏はニューヨークにいるときはいつも彼のレストランを訪れていたという。親交が深まり、ビバー氏はブールー氏に毎年特大のチーズを贈っていたらしい。ブールー氏はビバー氏のチーズが彼の言うとおり絶品であると証言してくれた。
ブールー氏は以前にもう2、3本ウブロを持っていたものの、自分のレストランで長年貢献してくれた従業員に譲ってしまったという。しかしこのクラシック・フュージョン クロノグラフは残っている。
ティファニー CT60 クロノグラフ
2023年、ブールー氏はリニューアルしたニューヨークのブティックに『ブルーボックスカフェ』をオープン。しかし彼とティファニーの関係はこのCT60 クロノグラフの存在が示すとおり、それより前にさかのぼる。2015年、ティファニーはミッドセンチュリーのクラシックウォッチからインスピレーションを得たCT60コレクションを発表。CT60クロノグラフはこのヘリテージをベースに、2レジスター、ブルーソレイユダイヤルを備えたモデルを発表した。
ジュネーブの時計メーカー、パテックとティファニーとの長年の協力関係を指し、「この時計はパテックへの前奏曲といったところでしょうか」とブールー氏はジョークを飛ばした。
ショパール ミッレ ミリア クロノグラフ
時計だけでなくクルマにも造詣が深いブールー氏。
「本当はミッレ ミリアに参加したいのです」と彼は言うが、今のところこの大胆なショパールのミッレ ミリア クロノグラフの所有に留まっている。1988年にスポンサーを始めて以来、ショパールは毎年ミッレ ミリアのために特別仕様の時計を製作してきた。赤い “1000 Miglia”のロゴにちなんだモデルもあるが、このオールレッドダイヤルも大胆極まりない。
ヴァン クリーフ&アーペル ドレスウォッチ
このヴァン クリーフ&アーペルのドレスウォッチは、ブールー氏のもうひとつの仕事上の関係が友情に発展したことを示すものだ。彼は何年もヴァン クリーフ&アーペルと仕事をしていたため、2013年に結婚することになったときにヴァン クリーフ&アーペルはブールー氏に時計を贈った。裏蓋には彼の結婚式を記念するエングレービングまで施されている。
トルノー ドレスウォッチ
最後に、ヨルダンのヌール王妃からブールー氏に贈られた3本の時計を紹介しよう。王妃はダニエルの常連客であり、ブールー氏は自身のレストランやホテル、あるいは彼女が主催するイベントのケータリングで喜んでサービスを提供していた。
最初はシンプルなトルノーのドレスウォッチだ。女王から贈られた3本の時計は比較的控えめだが、ブールー氏にとっては特別な思い入れがある。少なくとも私には、文字どおり王族と呼ばれる方々から時計を贈られた経験などない。
ロンジン 王冠マーク入りウォッチ
続いては、12時位置にヨルダンの王冠が鎮座するロンジンのドレスウォッチである。
「あまり身につけることはありませんが、ノスタルジーを感じる時計です」とブールー氏は語った。
ヨルダンのヌール王妃からダニエルに贈られた王冠マーク入りの時計
最後に、ヌール王妃から贈られた3本目の時計を紹介しよう。これはダイヤルのどこを見てもブランド名すらない。12時位置に大きな王冠があるだけだ。
「彼女の寛大さにいつも感動していました」とブールー氏は懐かしそうに語った。
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