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クイック解説
2025年は、時計業界においてさまざまなブランドが大きな“周年”という節目を迎える年となった。創業270周年を迎えたヴァシュロン・コンスタンタンのような老舗ブランドがある一方で、IWCのように特定のモデルがアニバーサリーを迎えたブランドもある。また、セイコーにおいては、同社が国産初のダイバーズウォッチを発表してから60周年という記念すべき年となった。
そのようななかで、1994年創業という比較的若いブランドであるベル&ロスも今年ひとつの節目を迎えようとしている。それは、ブランドのアイコンとも言えるBR-01、すなわち“スクエアケースに丸型ダイアル”を組み合わせたデザインの20周年である。2005年に初登場し、ベル&ロスのその後の方向性を決定づけたBR-01。この象徴的なデザインコードをもとに、ベル&ロスは今年のWatches & Wondersにおいてふたつの新作を発表した。それが、新開発のムーブメントを搭載したBR-03 スケルトンシリーズの3モデルと、ケース径を36mmにシェイプアップしたBR-05である。それぞれにおいて目指したところ、開発の意図を共同創業者兼CEOであるカルロス・ロシロ(Carlos Rosillo)氏の言葉を交えながら紹介していこう。
BR-03 スケルトン ブラック セラミック/グレー スティール/ラム セラミック
まずはBR-03の力強いデザインをベースに、内外ともに大幅なアップデートを遂げたBR-03 スケルトンシリーズを見ていこう。今回のラインナップは3本。ビーズブラスト仕上げのブラックセラミックケースを採用したブラック セラミック、サテン仕上げとポリッシュ仕上げをかけ合わせたステンレススティールケースのグレー スティール、そしてダイヤルの切り欠き部分の縁にグリーンの夜光塗料をあしらったラム セラミックである。インデックスは従来のBR-03を思わせる構成になっているが、本作では傾斜して設置された見返しが表情に一層立体感を与えている。
これら3モデルに共通する大きな特徴が、ベル&ロス専用に開発された新型ムーブメント BR-CAL.328の搭載だ。このムーブメントは、BR-03のケース四隅にあるビスに向かって放射状に伸びるX字型のアッパーブリッジを備えたスケルトン仕様となっている。その表面には凹凸に応じた異なる仕上げが施されており、BR-03 スケルトン ブラック セラミックではスモークガラスのダイヤル越しにその構造全体を視認することが可能だ。一方、グレー スティールとラム セラミックではムーブメントのブリッジの“X”に合わせてダイヤルの切り欠きが設けられており、Cal. BR-CAL.328のフォルムがより強調されている。
BR-03 スケルトン ブラック セラミック
「時計づくりにおいて重要なのは、クリエイティビティとそれを感じさせるデザインです。しかし、それだけでは不十分です。印象的なデザインとメカニカルな要素、この両者の融合こそが、時計に力強さをもたらすのです」。Watches & Wondersの会場にて、アイコニックなデザインの20周年というタイミングでなぜスケルトンを選んだのかを尋ねた際にカルロス・ロシロ氏はこのように語った。
「私たちのプロダクトには2本の柱があります。ひとつは、4隅にビスを備えたスクエアフォルム。そしてもうひとつは、プロフェッショナルとアーバンのコレクションの使い分けです。後者はオンロードとオフロード、たとえばランドローバーにおけるディフェンダーとイヴォークの関係性のようなものだと考えてください。そしてこのふたつの柱によるデザインをより際立たせるのが、メカニカルな要素です。この課題に対する明確な解決策こそが、スケルトン化だったのです」
BR-03 スケルトン グレー スティール
BR-03 スケルトン ラム セラミック
また、ムーブメントに大胆に採用された“X”モチーフについてもロシロ氏は次のように述べている。「私たちにとってXは、シグネチャーのような存在です。航空分野における実験機、たとえばX-1(1947年に史上初めて音速の壁を破った有人超音速ロケット)のように、Xには技術的先進性を示す意味があると同時に、実験的なイメージも伴います。だからこそ今回、X型のブリッジを持つ特別なムーブメントを新たに開発しました。BR-03 スケルトンシリーズの各モデルにおいてこのX型ブリッジは際立つ存在となっており、アイコニックなフォルムとデザイン、そして内部構造を見事に融合させているのです」
なお、BR-03 スケルトンシリーズは41mmと径は同一ながら、ブラック セラミックは10.6mm、グレー スティールは9.65mm、ラム セラミックは11.25mmとケースの厚みが異なる。これは、それぞれのモデルでダイヤルの構成が異なっていることが要因だと考えられる(最も厚いラム セラミックは半透明のスモークプレートの上に夜行を塗布したダイヤルをセットしている)。もちろんラム セラミックに合わせてケースの厚さを統一することもできたと思うが、カルロス氏は次のように答えてくれた。「あまり分厚くなってはいけないと思いました。複雑なムーブメントを搭載しつつも、厚みは妥当であるべきです。時計のフォルムにおいて、非常に重要な要素のひとつですから」
価格はブラック セラミックが94万6000円、グレー スティールが86万8000円、ラム セラミックが99万円(以上すべて税込)となっており、グレーが世界限定250本、ラムがブティック限定250本での販売となる。
BR-05 36MM
スケルトン化と新ムーブメントによってBR-03が力強いデザインを表現した一方で、2019年に登場したラグジュアリースポーツモデルであるBR-05では大幅なサイズダウンが図られた。新たに登場したBR-05 36MMはその名前どおりケース径が36mm(従来のモデルは40mm)となっており、ケースバックもクローズドとすることで厚さを8.5mmまで抑えることに成功している。それに合わせてブレスレットもより細く、薄く(3mmから2.5mmに)調整されており、小さな手首にもマッチするようになった。ダイヤルからはデイトとミニッツトラックが取り払われ、ベル&ロスらしい計器感は薄まったものの、都会的でよりすっきりとした印象である。
「本作ではより小さく、スマートで洗練されたBR-05をイメージしました。ケースは非常に薄く、性別を問わずに着用可能なエレガントなモデルです」。加えてカルロス氏は、サイズの決定における試行錯誤があったと語る。「多くのプロトタイプを制作しましたが、36mmを下回るとレディスモデルという認識が強くなる。しかし37mm以上では従来のBR-05との差が小さい。結果として36mmが最適だという判断に至りました。今では、それが正しい選択だったと確信しています」
「今年はWatches & Wondersに出展しているほかのブランドでも、一体型ブレスレットモデルで40mmと36mmの2サイズ展開を行なっているところを見かけました。エルゴノミクス(人間工学)の観点から、彼らも多くの研究を重ねたはずです。もちろん私たちは会場に来るまでそのことを知りませんでしたが、ある種答え合わせができたような感覚です」
BR-05 36MMはダイヤルの仕様違いで全4型の展開となる。それぞれブラックラッカー仕上げ、グレーサンレイ仕上げ、ライトブルーサンレイ仕上げ、ホワイトのマザーオブパールだ。ムーブメントには54時間のパワーリザーブを有するBR-CAL.329を搭載しており、価格は64万9000円(税込)で統一されている。ブレスレット仕様のBR-05の75万9000円(税込)と比較して、約10万円ほど手ごろなプライシングだ。「サイズが異なるだけでなく、本作では裏蓋をソリッドバックにしたことも価格に反映されています。ベル&ロスでは実用的な時計製造を常に念頭に置いており、その意味では価格管理も極めて重要です」。MR-05 36MMはWatches & Wondersでの発表と同時に発売となったが、日本市場では2025年5月ごろの入荷を予定している。
ファースト・インプレッション
スクエアケースに円形のダイヤルを組み合わせたアイコニックデザインの周年にあたり、ブランドはBR-03とBR-05というふたつのコアモデルをベースとしながらまったく異なるアプローチを行った。かたやデザインの力強さを前面に押し出し、ベル&ロスのアイデンティティをさらに印象付けるような大胆なアレンジモデル。かたやBR-05のデザインを踏襲しながら、より幅広い層にも届くような価格設定がなされた本質的なエントリーモデルである。ブランドの軸として存在してきたミリタリーや航空といった領域を飛び越え、スクエアケースというキャンバスを起点に新たな可能性へと果敢に挑戦する姿勢からは、近年ベル&ロスが注力しているコンプリケーションの分野やグラフィック表現への探求、直近では先日紹介したBR-03 “アストロ”などが思い出される。こうした挑戦を支えているのは、BR-01に始まったこの独自のデザインが、時間をかけて“ベル&ロスのもの”として確固たる認識を築き上げてきたという事実にほかならない。
「ベル&ロスのように四角と丸を組み合わせたデザインは、時計業界において決して一般的なものではありません。市場の80%を占めるのはラウンド型の時計であり、サントスのようなスクエアケースはごく限られた存在です。しかし私たちは航空機のコックピットにある計器から着想を得て、伝統とモダン、白と黒といった相反する要素をひとつのデザインにまとめ上げたのです」とカルロス氏は語る。
「多くのブランドでは、顧客が時計を選ぶ際に“価格”が最優先の基準になります。しかしベル&ロスは違います。価格ではなく、デザインそのもので選ばれるようになってきているのです。たとえば、BR-X1 トゥールビヨン サファイア クロノグラフ(世界限定5本、6820万円)を最初に手にしたのは、かつてBR-01やBR-03を50万円ほどで購入していた人物でした。彼はリシャール・ミルも複数所有しており、その後もベル&ロスのトゥールビヨンをいくつか手にしています」。すなわち、ベル&ロスはミドルプライスからハイエンドまで幅広く展開するブランドとして成長を遂げており、それぞれの価格帯に確かな支持層を築き上げているということだ。そしてその根底にはやはり、20年間ぶれずに貫いてきた確固たるデザイン哲学がある。
今回のWatches & Wondersで発表されたモデルは、ベル&ロスというブランドのさらなる可能性を示すと同時にその裾野を着実に広げるものであった。カルロス・ロシロ氏によれば、社内ではハイコンプリケーションの開発も視野に入れているという。20周年を迎え、成熟の域に達したこのアイコニックなデザインを通じてベル&ロスが今後どのような提案を行っていくのか。その展開に期待を寄せたい。
基本情報
ブランド: ベル&ロス(Bell & Ross)
モデル名: BR-03 スケルトン ブラック セラミック/グレー スティール/ラム セラミック
直径: 41mm
厚さ: 10.6mm(ブラック)/9.65mm(グレー)/11.25mm(ラム)
ケース素材: マイクロブラスト仕上げのブラックセラミック(ブラック、ラム)、サテン仕上げのステンレススティール(グレー)
文字盤色: スモークガラス(ブラック)/ファセット加工が施されたオープンワークダイヤル(グレー)/オープンワークのブラックプレートとスモークガラス(ラム)
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: ブラックラバーストラップ、付け替え用ベルクロストラップ
モデル名: BR-05 36MM
直径: 36mm
厚さ: 8.5mm
ケース素材: サテン仕上げのステンレススティール
文字盤色: ブラック/グレー/アイスブルー/ホワイトのマザーオブパール
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: ポリッシュ、サテン仕上げを組み合わせたステンレススティール製
ムーブメント情報
BR-03 スケルトン
キャリバー: BR-CAL.328
機能: 時・分表示、センターセコンド
パワーリザーブ: 54時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
BR-05 36MM
キャリバー: BR-CAL.329
機能: 時・分表示、センターセコンド
パワーリザーブ: 54時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
価格 & 発売時期
BR-03 スケルトン
価格: ブラック セラミック 94万6000円/グレー スティール 86万8000円/ラム セラミック 99万円(以上すべて税込)
発売時期: 発売中
限定: グレー スティールは世界限定250本、ラム セラミックはブティック限定250本
BR-05 36MM
価格: 64万9000円(税込)
発売時期: 発売中 (日本市場には2025年5月入荷予定)
限定: なし
詳細はブランドのウェブサイトをチェック
Photos by Kyosuke Sato & Masaharu Wada
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