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The Devil is in the Details: ザ・シチズン メカニカルモデル Caliber 0210が示す道

ザ・シチズンのメカニカルモデル第2章。

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ザ・シチズンのメカニカルモデル キャリバー0200が2021年に登場したあと、しばらくのあいだ僕は時計愛好家の友人たちに会うたびに感想を求められました。メイド・イン・ジャパンのこれからの高級時計を担うコレクションとして多くの人たちが期待を寄せていたからです。僕は同モデルの外装から内部のムーブメントまで高く評価してきました。

 先日、そのメカニカルモデルの新作としてデイトつきモデルが登場したとのことで、早速実機を見に行ってきました。その紹介を始める前に改めてザ・シチズンのメカニカルモデルについて振り返ってみたいと思います。

 ザ・シチズンは、シチズンが誇るウォッチメイキングの技術を結集させ、腕時計の本質を追求する最高峰ブランドとして1995年に誕生しました。2021年、「身につける人の人生に永く寄り添う腕時計」を体現するために精度、品質、デザイン、ホスピタリティの理想に挑戦してきたザ・シチズンのシリーズラインに、新たなチャプターが幕を開けました。

 約11年ぶりに新開発の自社製自動巻きムーブメントを搭載するメカニカルモデル キャリバー0200が発表されたのです。それまでのザ・シチズンといえば、年差±1秒を誇るエコ・ドライブ キャリバー0100を代表とする超高精度なクォーツウォッチというイメージが定着していたこともあり、この新たな機械式キャリバーが発表されるとたちまち時計愛好家たちの話題をさらいました。

平均日差-3秒~+5秒とクロノメーターを凌駕する高精度を誇るCal.0200。

 まったくの新設計で誕生したメカニカルモデル キャリバー0200は、高い精度を長く保つことができるフリースプラングテンプや、LIGA工法によって部品精度を高めた脱進機が採用され、約60時間のパワーリザーブを誇ります。高いスペックを備えるだけでなく、2012年にシチズンが傘下に収めたスイスのラ・ジュー・ペレ社が有する高度な装飾技術が取り入れられたことで、美しい面取りなど審美性も高められました。

 シチズンとラ・ジュー・ペレ社それぞれのノウハウが活かされており、日本とスイスの両者が持つアドバンテージが最大限に引き出された魅力的な機械式ムーブメントとなっているのです。

 

 そんなザ・シチズンのメカニカルモデルに新たな1ページが加わりました。2023年新作として登場したメカニカルモデル キャリバー0210です。3時位置にデイト表示がプラスされ、防水性能は5気圧から10気圧へと引き上げられており、より実用性を重視したものとなっています。

新作のキャリバー0210、ブラックダイヤルのNC1000-51E。

ホワイトダイヤルを備えたNC1001-58Aも登場。

 今作は、砂地模様が表現されたブラックダイヤル(NC1000-51E)と、一面に広がる白い雲のようなイメージで、ブラックとは異なるパターンのホワイトダイヤル(NC1001-58A)の2モデル展開です。

 外観は、一体感のあるブレスレットを備え、大胆な面で構成されたラグがないケース、6時位置にスモールセコンドを配し、電鋳技法で独特なパターンを有したダイヤルなど、キャリバー0200で完成されたデザインコードがしっかりと維持されており、このデザインがキャリバー0200系モデルの伝統となることを示しています。

左から新作のキャリバー0210と2021年に登場したキャリバー0200。

 一見すると違いは日付表示の有無だけ……のように見えますが、仔細にみていくとそうではないことがわかります。シチズンは、日付表示が追加されることで変化するダイヤルのレイアウトバランス調整の工夫がいくつも盛り込まれているといいます。

 まず最初に気付いたのは、12時位置のインデックス形状の変化です。キャリバー0200では真っ直ぐなインデックスだったのに対して、キャリバー0210では長さがやや短めの太い台形に変更されています。残りのインデックスもやや短く幅広のものへと改められています。

 インデックスを太くすることでデイトの大きさとのバランスを取るというのは、デザイナーではない僕でも理解できるのですが、なぜ長さも調整したのでしょうか。シチズンによれば、太くなったインデックスによって面積比が大きくなりすぎないようにするためとのこと。そのために切り落とされた長さはわずか0.25mm。ほかにもインデックス天面の仕上げとの統一感を出すために時分針がホーニング仕上げからヘアライン仕上げに変更され、さらに6時位置の存在感を抑えるためにスモールセコンド内のアラビア数字がキャリバー0200のものよりも縦長の書体が採用されています。

 キャリバー0200のアイコニックな外観と揃えるために、時計の文字盤という小さな空間にこれだけの緻密な調整がなされているのには驚きました。

 さて、キャリバー0200が発表されてすぐに時計愛好家たちのあいだで大きな話題となった理由のひとつは、日付表示のないタイムオンリーウォッチだったことです。

 僕もどちらかといえば、日付表示がないモデルが好みですが、よくよく自問してみると、実際は中途半端に感じられる4時半位置の日付表示や数字のインデックスを不自然にカットしてしまうようなデザインが苦手なだけで、適切にデザインされているものはまったく問題ないことに気づきました(僕のコレクションの3割は日付ありでした)。

 キャリバー0210の登場は、前モデルをリプレイスするものではなく純粋に機能を付加したバリエーション展開です。シチズンはそれを最高の形で行ったのです。

ケースバックから見たCal.0210。

 シチズンのこの過剰ともいえる緻密な調整は、文字盤のデザインに留まらずムーブメントにも表れています。ケースバックから見るムーブメントは、デイト表示にかかわる調整が文字盤側にあるため、基本的にCal.0200と変わりありません。シチズンは、Cal.0210にデイトを追加するにあたって、ただモジュールを足すやり方をせず、従来の輪列のわずかな隙間を縫うように日付表示用輪列を配置した一体型ムーブメントとして新たに開発されました。では、なぜシチズンがここにこだわったのか。それはケースサイドを見ると明らかになります。

上がキャリバー0210、下がキャリバー0200。

 そう、シチズンがこだわったのはケースのプロポーション。キャリバー0210のケース厚は11.2mmで、増えたのはわずか0.3mm。上の写真で見てもわからないと思いますが、肉眼でもほとんど違いがわからないほど。もちろん着用感もそのままです。僕はキャリバー0200をはじめて手にとったとき、ザ・シチズンが掲げる精度、品質、デザイン、そしてホスピタリティの追求を体現しているモデルだと思いました。ホスピタリティの部分は、長期間の無償保証・無償点検でサポートという面から理解しているつもりでしたが、新作のキャリバー0210の登場によって、実はその快適なつけ心地こそ本シリーズで目指していた部分だったのではないかと思い知らされました。 

 ザ・シチズンのキャリバー0200/0210からは、シチズンがこのシリーズをアイコンへと昇華させようとしているのが伺えます。以前、本サイトで「普通の最高級」と表現したことがありますが、普通だからこそスタンダードになり、そのスタンダードを突き詰め、長く続けることでやがてアイコニックな存在へとなっていく……。ザ・シチズンのメカニカルモデルが日本を代表するハイエンド機械式時計のひとつになるのは間違いないでしょう。変わらないという攻めと守り。いかに真髄を変えずに進化させるのか。次のチャプターが楽しみでなりません。

 

Photographs by Keita Takahashi