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Hands-On チューダー ブラックベイ 58 バーガンディ、ネオ・ヴィンテージのプロトタイプが30年越しに製品化

1990年代に生まれていたあるアイデアが、2025年の今復活を遂げた。実現までに長い年月を要した理由を、チューダーのデザイナーに聞いてみた。

Photos by Mark Kauzlarich

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バーガンディカラーの文字盤とベゼルを備えた新しいブラックベイ58の登場は、私にとってひとつの“気づき”の機会でもあった。時計について書き始めたころに心を躍らせた、あの記憶の輪がようやく完結したように思えたのだ。
しかしそれ以上に、このモデルはチューダーが約30年前に抱いていたある構想(当時は未完に終わったそのアイデア)に、ひとつの区切りを与える存在でもあった。以下が、その原点となる時計である。

Tudor Black Bay 58 Burgundy

1990年代のチューダー サブマリーナーのプロトタイプ。バーガンディのサンバースト文字盤と同じくバーガンディのベゼルを備えている。

 このプロトタイプは、以前からコレクターのあいだで話題に挙がっていたものである。2015年にHODINKEEが公開したチューダーのアーカイブ紹介動画にも登場し、最近ではチューダー主催の英国イベントでも再び披露された。
筆者がこの時計を初めて目にしたのはそれより少し前、チューダー本社に現地で働く友人を訪ねたときのことだった。

 アーカイブで見つけた手巻きのチューダー サブマリーナー Ref.7923や、個人的に最も気に入っているRef.7928にも魅了されたが、それでもなお特に目を引いたのがテーブルの上に置かれていたこの1本──鮮やかな赤の文字盤を持つ、ひときわ輝くプロトタイプだった。この時計は驚くべき存在だった。そのデザインが印象的であるだけでなく、バーガンディベゼルを備えていた2012年の初代ブラックベイとつながりが瞬時に理解できたからだ。

Black Bay Burgundy

2023年に発表された、直近のブラックベイ バーガンディPhoto by James Stacey.

 ブラックベイ バーガンディはアメリカでのチューダー再始動を成功に導いた象徴的なモデルだが、これは当時可能な範囲での“ひとまずの到達点”的な存在でもあった。

 「当時とは状況がまったく異なっています」と語るのは、チューダーのデザイン部門を率いるアンダー・ウガルテ(Ander Ugarte)氏。ブラックベイラインの開発を手がけた人物であり、6年前に私たちがインタビューした際にもその名が挙がっていた。その彼が火曜日にチューダーのブースで突然私の隣に腰を下ろし、このモデルの背景を語ってくれたのだった。

Tudor Black Bay 58 Burgundy

 「私がチューダーに参加したタイミングで、ブランドの遺産や時計の歴史についてひととおり学びました」とウガルテ氏は話す。「インスピレーションは特定の1本から得たわけではなく、当社が手がけてきたダイバーズウォッチ全体の歴史から受け取りました。でも、そのなかでも特に印象に残ったのがバーガンディ一色のあのプロトタイプだったんです。とても特徴的で、特別な色でしたからね」

 「だからこそ2012年に最初のブラックベイを出す際、そのバーガンディをベゼルに使うことにしたんです。ただ当時は、文字盤まで赤でまとめるのは少し冒険に思えました。だから、マットなブラックの文字盤と組み合わせて雰囲気を落ち着かせることにしたんです」

Tudor Black Bay 58 Burgundy

 時代は変わり、ブラックベイのラインナップもそれを取り巻く愛好家の世界も大きく進化した。彼らにとっても、もはや保守的なデザインだけが選択肢という時代ではなくなったようだ。初代のブラックベイ 58(ブラックダイヤル)からブルーバージョン、シルバーケースのブラックベイ 58 925、ゴールドケースのブラックベイ 58、ブラックベイ 54に至るまで選択肢は豊富に展開され、あらゆるニーズに応えられるバリエーションが揃っている。

 それに加えて、チューダーは色使いにおいても大きな変革を遂げている。たとえばチューダーがスポンサーを務めるF1チーム、VCARBとのコラボレーションモデルでは、光の当たり方で色味が変わる“カメレオン”のような文字盤を採用。また、最終的に市販化されたブルーダイヤル×セラミックケースのモデルもいい例だ。そして極めつきは、ピンクやブルーの文字盤を備えた“デイトナビーチ”仕様のチューダー クロノグラフである。つまり、1990年代のプロトタイプが“現実の時計”として復活するには、今こそが絶好のタイミングだったというわけだ。

Tudor Black Bay 58 Burgundy

 「ブランドとして、ある種の成熟段階に達したのだと思います」とウガルテ氏は語る。「バーガンディを使ったほかのモデルもありますが、今回のブラックベイではあえて新しい組み合わせを提案しました。今はピンクや“フラミンゴブルー”など、カラフルなモデルも登場しています。私たちは、色という要素をもっと自由に、積極的に楽しめる段階になってきているのです」

 このカラーは非常に新鮮だ。特に美しいサンバースト仕上げの文字盤(ブラックベイ58では初の採用となる)はひときわ目を引く。とはいえ発表当初の広報写真で見た印象ほどギラつきはなく、実物はもう少し落ち着いた表情を見せる。全体的には、90年代から2000年代初頭の雰囲気がはっきりと漂っている。ピンクのサンバースト文字盤を採用していたチューダー ミニサブのような空気感だ。撮影にはやや手こずった。特に天井が黒い会場ではリストショットが難しかったため、そこはご容赦いただきたい。とはいえ実際に手に取って見ると、十分に目を引きながらも決して派手すぎる印象はない。

Tudor Black Bay 58 Burgundy

 そのほかに、大きな変更点は見られない。スペック面を見るとケース径は39mmのままで、厚さはわずかに薄く11.7mmとなった。しかし、それだけがこのモデルのすべてではない。まず注目すべきは、ブラックベイ 58として初めて、3種類のブレスレット/ストラップが用意された点だ。5連ブレスレット仕様は64万9000円、3連のリベット風ブレスレットは63万3600円、そしてラバーストラップ仕様は60万2800円(以上すべて税込)となっている。とくに5連ブレスレットはポリッシュ仕上げのセンターリンクが光を受けて輝き、全体に洗練されたラグジュアリーな印象を与える。そして本作における進化は、ブレスレットの選択肢増加にとどまらない。

Tudor Black Bay 58 Burgundy

 本作における最大の変更点は、COSCおよびMETASの認定を受けたマスター クロノメーター規格のムーブメント、Cal.MT5400-Uが搭載されたことだ。耐磁性のシリコン製ヒゲゼンマイを採用し、パワーリザーブは約65時間となっている。文字盤の表記だけではなく、まさにダイヤルの奥深くまで手が加えられた大幅なアップグレードである。個人的にはこれまでチューダーの時計で精度や信頼性に不満を覚えたことはないため、今回のさらなるアップグレードによって“価値が高まった”と実感できる場面は少ないかもしれない。それでも、これは間違いなく歓迎すべき進化だ。

Tudor Black Bay 58 Burgundy

 最近、自分でも驚くほどマイクロアジャスト付きのブレスレットに敏感になっているのかもしれない(とりわけグランドセイコーがついに実用的なマイクロアジャスト機能を導入し、その記録的な精度さえも霞ませるほど話題を呼んだ今では)。そんななか、ついにチューダーのフラッグシップたるヘリテージモデルにもT-fitマイクロアジャストが搭載されたのだ。正直なところ、自分の所有するすべてのブラックベイ 58にこの機構が付いていて欲しいと思ったほどだ(そう、気づけば複数本持ってしまっている。ちょっと問題だ)。ブレスレットが少し緩すぎたり、逆に少しきつかったりということが頻繁に起こるため、この調整機構のありがたさを痛感している。そして何よりこのT-fitは、現時点でロレックスのシステムよりもはるかに優れていると言えるだろう。

Tudor Black Bay 58 Burgundy
Tudor Black Bay 58 Burgundy
Tudor Black Bay 58 Burgundy

しかも今回着用した個体は、サイズが完璧に調整されていた。これは、なかなか得られない体験である。

 しかしそれだけに、今回のブラックベイ 58 バーガンディに対してもどかしさを感じている。チューダーはまたしても、多くの人が望んでいた機能や要素を新作に丁寧に盛り込んでくれた。だが結局のところ、それが熱心な時計愛好家たちがもっとも惹かれるようなデザインにはなっていないのだ。このブラックベイ 58 バーガンディは、昨年のブラックベイ 58 GMTを思い起こさせる。その時もデザインはほぼ完璧だったが、その美観にほんの少し手を加えればもっと幅広い層に響く時計になっていたであろうという点で共通していた。たとえば、ペプシカラーのブラックベイ 58 GMTが登場していれば、きっと“金を刷る”ように爆発的な人気を博していただろう。だが、それではロレックスのGMT市場を侵食しかねない。あるいはブラックベイ 58 GMTからギルト仕上げだけを外していたら、それだけでより多くのファンを獲得していたかもしれない。そう考えると、あることがふと頭に浮かんでくる。

Tudor Black Bay 58 Burgundy

 私にとって、今回のリリースはチューダーにとっての転換点を示しているように思える。もっとも、それがブランド自身の明確な意思によるものとは限らない。これまでチューダーは、熱心な愛好家たちに支持されるラインナップを着実に築き上げてきた。しかしより広い市場を視野に入れるなかで、ブランド自身も新たなアプローチの必要性を感じているように見える。その象徴がブラックベイ 68だろう。そのサイズ感は私を含め、多くの読者にとって少々大きすぎるのではないかと感じられる。かつてチューダーは、ロレックスグループのなかでもっとも自由で実験的なブランドだった。だが、ここ数年でその姿勢は大きく変わりつつある。

 今や“セレブレーション”や“パズル”ダイヤルでデイト表示に絵文字を使ったり、新しい脱進機を搭載したり、鮮やかな文字盤のクロノグラフを唯一展開したりしているのはチューダーではない。そう考えると今回のブラックベイ 58 バーガンディは、シリーズのなかでもっとも“愛好家向けではない”モデルなのかもしれない。そして2025年は、チューダーがここ10年で最大の転換を遂げ、より広い一般市場への訴求を強化した年として記憶されることだろうという予感がある。……それでも、この新しいブラックベイ 58が目を引く存在であることに変わりはないのだが。

Tudor Black Bay 58 Burgundy

詳細はチューダーの公式ウェブサイトを参照、スペックの全容についてはIntroducing記事をチェックして欲しい。
Watches & Wonders 2025における各ブランドの新作情報は、引き続きこちらから確認できる。

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