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ウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)は優れたリーダーの一面を持つ一方で、気難しい人物だった。この両方の形容詞は彼の時計にも当てはまる。チャーチルは時計を愛していたがいつも遅刻していた。彼の曾孫であるランドルフ・チャーチル(Randolph Churchill)は、彼の私設秘書たちがこの遅刻癖を直そうと家の時計を15分進めていたという話をしている。しかし、彼らはチャーチル個人の時計に手を加えることはできなかったため、結局チャーチルは好きなタイミングで約束の場所に現れていたという。
歴史的に最も有名なチャーチルの時計は、ブレゲのミニッツリピーター ラトラパンテ クロノグラフ懐中時計で、ブレゲナンバーは765だった。彼は愛情を込めてこれを“カブ”と呼んでいた。ブレゲは今もチャーチル家が大切に保管しているが、幸運なことに、チャーチルの時計はカブだけではなかった。
チャーチルは生涯を通じて絶えず時計を贈られていたが、それはとても素晴らしいことであった。特に素敵だと感じたのは、1947年にハンス・ウィルスドルフ(Hans Wilsdorf)本人がチャーチルに、ロレックスのクロノメーター史上10万本目の生産となったデイトジャストを贈りたいと手紙を書いたエピソードだ。チャーチルはこの贈り物を快く受け入れたが、裏蓋にローズゴールドと自身の家紋を刻むことを依頼したのであった。
チャーチルに贈られたほかの時計も年々売りに出されている。私のお気に入りは、ルイ・コティエ(Louis Cottier)&アガシ社による“ヴィクトリー”ワールドタイム懐中時計だ。その別バージョンはジュネーブの著名市民のほか、チャーチル、シャルル・ド・ゴール(Charles de Gaulle)、ハリー・S・トルーマン(Harry S. Truman)、ヨシフ・スターリン(Joseph Stalin)など各連合国の指導者にも贈られた。サザビーズは2015年にチャーチルの懐中時計を48万5000ポンド(当時の相場で約8970万円)で売却している。
2017年にはゴールドのレマニア クロノグラフが登場し、こちらも再びサザビーズによって16万2500ポンド(当時の相場で約2350万円)で落札された。このレマニアは1946年、チャーチルがスイスで休暇を過ごしていた際にヴォー州から贈られたものである。また今年の初めには、1905年のクリスマスにハーバート・ヘンリー・アスキス(Herbert Henry Asquith)が贈ったサー・ジョン・ベネット(Sir John Bennett)のミニッツリピーター懐中時計が、ドーソンズにて7万6000ポンド(日本円で約1450万円)で落札された。
チャーチルの最新の例として販売に出されたのは、1946年9月に製造された18Kイエローゴールドのモバード カレンドグラフである。これは、モバードがほかのスイスブランドにも匹敵する時計を製造していた時代の旗艦モデルである(この主張については別の記事で詳しく述べる)。チャーチルのモバードは最高級のスイス時計のみを扱う、チューリッヒの小売業者ベイヤーから贈られたもので、当時の元首相にはふさわしい贈り物であった。この特別なカレンドグラフ Ref.44820は“タートル”ラグが特徴で、多くのバリエーションのなかでも特にユニークなケース形状をしている。
歴史的な由来のある時計の場合、コンディションは最優先事項ではないが、この時計がオリジナルの状態であることは依然として重要である。チャーチルがこの時計を着用している写真や時計を受け取った瞬間の写真はないものの、ダイヤルには多少の使用感が見られるのみで再仕上げされていない。ケースはきわめて良好なコンディションであり、特に裏蓋のエングレービングが目を引く。訳すと“ウィンストン・チャーチルへ、スイス市民一同より敬意と感謝の証に 1946年9月”と書かれている。
さて、歴史を振り返ろう。このモバードと以前販売されたレマニアのクロノグラフは、チャーチルがスイスを訪れたのと同じ旅行中に贈られたものである。1946年8月23日から9月20日まで妻のクレメンタイン(Clementine)とともにしたこの旅行は、レマン湖畔の邸宅で長期滞在し、ベルンに立ち寄り(ここでお礼としてレマニアを受け取った)、そしてチューリッヒで帰途についた。SBBレッドアロー号(現在は“チャーチル・アロー”として知られ、現在もプライベート予約が可能!)に乗っての旅は、なにもレジャーや豪邸、豪華な列車ばかりではなかった。そして1946年9月19日、チャーチルは戦後最も記憶に残る演説を行い、“ヨーロッパ合衆国”の樹立を呼びかけた。
サザビーズがこのレマニアを提供した際、多くの関心はこのチューリッヒでの演説と、チャーチルがベルン滞在中に演説を執筆していたということだった。おそらくこの理由から、何の変哲もないレマニアが16万2500ポンド(当時の相場で約2350万円)で販売されたのだろうと推測される。
モバード カレンドグラフは定価15万ポンド(日本円で約2855万円)で提供されており、“カートに追加する”ことができる。ヴィンテージモバードを愛する私としては少し驚きの価格ではあるが、レマニアと比較すると妥当かもしれない。その出自はさらに強力だ。チューリッヒでの演説の前日にチャーチルに贈られたというのは、単にチューリッヒに向かう途中で贈られたというよりも魅力的に聞こえる。さらに、個人的にはレマニア クロノグラフよりもモバード カレンドグラフのほうが欲しい。
ウィンストン・チャーチルが所有していた1946年製モバード カレンドグラフは、ロンドンのピーター・ハリントン・レアブックスによって提供される。この時計には、出版業界の重鎮スティーブ・フォーブスが所蔵するチャーチルアーカイブによる証明書のコピーが添付されている。
編注(2024年7月31日 - 午後3時45分<アメリカ東部時間>);この記事の公開後、販売側はモバード カレンドグラフの出品を削除した(おそらく売却されたため)。コメントを求めて連絡を取っており、可能な限りこの記事を更新する予定だ。ピーター・ハリントンのカタログスキャンをとおして、オリジナルのリストをご覧になりたい方はこちらから閲覧可能だ。
編注(2024年8月1日 - 午前9時45分<アメリカ東部時間>);その後、時計が再出品されたためこちらで見ることができる。出品者はHODINKEEに対し、一時的にリストが削除されたのは売却の可能性があったためだと述べている。
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