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Four + One スピードマスターを手放してしまったファッションデザイナー、トッド・スナイダー

だが彼はその教訓を得たと言ってもいいだろう。彼が大切にしている時計と、手放せないスウェットシャツを見せてもらった。

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80年代後半から90年代前半、若きトッド・スナイダー氏は、J.クルーのカタログを見ていて、表紙のモデルの一人が時計をしていることに気づいた。「それがロレックスだということはなんとなくわかっていました。あぁ、すごくいいなと思ったのです」と、メンズウェアデザイナーである同氏は言う。その瞬間からスナイダー氏は時計に興味を持つようになり、人が腕につけているものに注意を向けるようになった。「でも本格的に始めたのは、ニューヨークに移ってラルフ・ローレン氏のもとで働きはじめてからです」 ラルフの世界で、彼はヴィンテージやレアなものはすべてストーリーになることを学んだのだった。トッド・スナイダー氏は現代的な時計にも理解を示すが、根っからのヴィンテージウォッチ好きであることに変わりはない。

 収集を始めたのは、2000年代半ばにJ.クルーに復帰し(彼はキャリアのなかで2回働いている)、ある程度の収入を得られるようになってからだ。「それまでは時計はひとつしか持っていなかったと思います。ただ資金がなかったんです」とスナイダー氏は語る。

A man in a blazer leans against a tree

 今日のスナイダー氏は、クラシックなテーラー、ミリタリーアパレル、アメリカンクラシック、そしてニューヨークスタイルなどからインスピレーションを得ているデザイナーだ。ニューバランス、タイメックス、チャンピオンなどのアメリカンブランドとのコラボレーションは、またたく間にベストセラーとなった。

 ニューヨークのマディソン スクエア パークの向かいにあるスナイダー氏の旗艦店で、同氏が最も大切にしている4本の時計と、56歳のデザイナーが心の底から興味を持っているもうひとつのアイテムを見る機会を得た。


彼の4本
ロレックス オイスターパーペチュアル ホワイトワッフルダイヤル

 6年ほど前、スナイダー氏は当時の彼女(現在は妻)とLAにいた。彼女はスナイダー氏に一緒に時計を見に行かないかと尋ねた。「僕の頭のなかでは時計のことは何でも知っているつもりだったから、さてどこに連れて行かれるのだろうという感じでした」それから時計店「Wanna Buy A Watch?」に到着すると、目の前にはクールな時計がずらりと並び、トッド氏は驚いた。妻と一緒に時計を買うことは、彼の考え方を変えた。「彼女は少し小柄で、私の方はそれまでGMTマスターやサブマリーナーなんかを見るためにそれらの(小さな)時計を素通りすることに慣れていました」。この日、夫婦で2〜3種類の時計を見てまわったが、最後にトッド氏はここにあるワッフルダイヤルのロレックス オイスターパーペチュアルを購入し、妻を驚かせたのだった。

A Rolex watch on a green background

 スナイダー氏はこの時計を身につけないが、そうできたらと思っている。自分が使用しなくても、時計を妻が所有し身につけることで、副次的に楽しむことができる。自身が身につけないからといって、その美しさやあるがままの姿を楽しめないわけではないし、評価することもできる。「ヴィンテージというものは、ほとんどがそうだと思います。ヴィンテージウェアは大好きですが、私の体が大きすぎるため、サイズが合うものはあまりありません」。

ヴィンテージのオメガ スピードマスター プロフェッショナル

 これはスナイダー氏の最初のオメガではない。それどころか、彼の最初のスピードマスターでもない。しかし、彼は最初のオメガを売ることになる。当時、彼は自分がツールウォッチをあまりにも多く所有していると思っていたため、少し変わったものに入れ替えるべきだと考えたのだ。彼はすぐにスピードマスターを手放したことを後悔した。そして、彼の50歳の誕生日に妻がこの時計を買ってくれたという。「彼女は、私が買った時計のお返しをしてくれたのだと思います」 現在のスピードマスターは彼のお気に入りの時計であり、いつも使っている。そして、彼はこの時計を手放すことはない。「この時計には今では精神的な価値があって、どうやったって手放すことができませんよ」。

An black Omega Speedmaster on a wood background
タイメックス×トッド・スナイダー リカーストアウォッチ

 「2008年、私がJ.クルーでメンズの責任者をしていたときに、リカーストア(Liquor Store)をオープンしましたが、それが最初のメンズストアでした」。 スナイダー氏は、J.クルーを築いていったとき、アンディ・スペードやミッキー・ドレクスラーといった大物たちとも仕事をしていた。「私のキャリアのなかでとても重要な時間でした。そのあと、メンズブランドが急成長したことも、J.クルーを辞めることになった大きな理由です」とスナイダー氏は振り返る。「この勢いを利用して、自分のやりたいことをやりたかったのです」。

A man poses by a window

 スナイダー氏は、J.クルーが撤退するまで、自分の名を冠したレーベルのためにリカーストアのスペースを手に入れようとは考えていなかった。友人がその場所の前に掲げられた看板の写真をメールで送ってきたので、彼はすぐにその番号に電話をかけ、所有者と話をした。そしてほどなく、トッド・スナイダー氏がこの場所を引き継ぐという契約が結ばれたのだ。

 「トッド・スナイダー リカーストア ウォッチ」のアイデアは、スナイダー氏の祖父と父が持つタイメックスのデザインを、可能な限り忠実に再現することだった。ゴールドのアクセント、クラシックなフォルム、中央にスイープセコンドを備えた機械式ムーブメントなど、エレガントで控えめ、そしてクラシックな雰囲気を醸し出すもの。リカーストア ウォッチは、スナイダー氏のルーツへのトリビュートであり、ウェストブロードウェイ235番地に戻ってきた記念の品でもあるのだ。

ハミルトン カーキ アビエーション パイロット パイオニア クロノ
A black Hamilton watch on a black background

 スナイダー氏は、ミリタリーウォッチが好きなこともあって、以前からハミルトンを高く評価していた。ハミルトンが過去の歴史から学び、旧ロゴを採用した現代的なクォーツ式クロノとして大型化したカーキ アビエーション パイロット パイオニア クロノ クォーツを発表したとき、スナイダー氏はそのデザインをとても気に入った。「夜光がとても目立ちます。特に映画に行くときなんかは、時間が見やすいんです」。当初は革製のNATOが付属していたが、スナイダー氏はパイオニアクロノを自分好みにするために交換することにした。

一番のもの - ヴィンテージのアイオワ大学 チャンピオン・スウェットシャツ

 スナイダー氏は、アイオワ州立大学のあるアイオワ州エイムズで生まれ、同大学の学部に入学した。そんな彼が、なぜ州を越えたライバルであるサイクロンズのスウェットを愛用することになったのか。

 大学時代のガールフレンドがアイオワ大学に通っていて、彼女からもらったこのスウェットを、キャンパスやジム、飲み会などでヘビロテしていたそうだ。「信じられないかもしれませんが、当時はあまり服を持っていませんでした」とスナイダー氏は言う。このチャンピオンのスウェットといつも一緒だったのだ。

A white sweatshirt with the word "Iowa" written on it

 その後、スナイダー氏はチャンピオンのヴィンテージを熱心に収集するようになり、これまでに少なくとも1000点以上を集めた。「チャンピオンのことは、知っていなければならないんです」と彼は言う。スナイダー氏は、ナイキやアディダスなどが登場する前の時代に、アメリカのアスレチック ユニフォームをほぼ独占していた会社の歴史と信頼性を深く理解している。「私の考えでは、彼らがスウェットシャツを発明したのです」とスナイダー氏は語る。チャンピオンとの継続的なコラボレーションにおいて、スナイダー氏はヴィンテージ・チャンピオンの歴史的な要素を引き出す一方で、前進して新しいものを加えている。古典的なものにちょっとした工夫をすることが多いのだという。

Two sweatshirts on hangers

トッド氏所有のヴィンテージのアイオワ大学のスウェットシャツと、現在進行中のトッド・スナイダー氏とチャンピオンのコラボレーション作品。

 最初のオメガのスピードマスターは手放してしまったかもしれないが、スナイダー氏が同じような過ちを犯すことはないだろう。このスウェットシャツがきっかけで、また新たな情熱が芽生えたのだから。「まだ持っていることに感謝していますよ」とスナイダー氏は語る。「大学時代からの物は他にあまり持っていないので」。

All photos, Daniel Dorsa.

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