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Hands-On ブレゲ クラシック スースクリプション 2025、創業250周年を記念して誕生した特別な1本(編集部撮り下ろし)

ブレゲの歴史と未来をつなぐ、1本の針。ブレゲ創業250周年記念モデルは、“時を示す”という原点に立ち返る現代的な提案だ。


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腕時計という趣味の世界に足を踏み入れ、知識を深めていく中で、必ず辿り着く存在——それがアブラアン-ルイ・ブレゲです。数々の画期的な機構やデザインを生み出し、「時計の歴史を200年早めた」とも称される天才時計師であり、その功績は時計史に刻まれています。

 そのブレゲがパリに工房を構え、ブランドとしての第一歩を踏み出したのが1775年のこと。そして2025年、ブレゲは創業から250年という大きな節目の年を迎えます。この記念すべき年を祝して、ブレゲからクラシック スースクリプション 2025と名づけられたモデルが発表されました。

 この時計は、ブレゲのアーカイブに残るスースクリプションウォッチに着想を得て製作されたもの。ここで、そのルーツを辿ってみましょう。


スースクリプションウォッチとは

 創業当初から、アブラアン-ルイ・ブレゲが手がける時計は卓越した技術と優雅な意匠を兼ね備え、他に類を見ない存在として、特にヨーロッパの上流階級において、知られるようになりました。しかし、その分価格も非常に高く、ブレゲの時計を手にできるのは王侯貴族など限られた特権階級のみでした。

 1789年、フランス革命が勃発。主要な顧客であったルイ16世とマリー・アントワネット王妃が処刑されるなど、パリは混乱の渦に包まれます。ブレゲ自身も危険にさらされ、身の安全を図るため、スイスへと一時的に移住することとなりました。

オリジナルのスースクリプションウォッチ、約700個が製造された。

 スイス滞在中にブレゲは、新たな製造方式とビジネスモデルを構想します。それがスースクリプションでした。1795年、ブレゲは再びパリへと戻り、その製作に本格的に取り掛かりました。

 1796年に発表されたこの時計は、そのシンプルな構造と1本針による時間表示という革新性に加え、マーケティング戦略としても極めて先進的な存在でした。より広い層に向けた時計として価格を抑えて販売され、当時としては画期的な広告パンフレットで紹介されたのです。

36時間のパワーリザーブ、カーボンスチール製ヒゲゼンマイの温度補正機能、テンプ軸の耐衝撃機能、そしてルビーシリンダー脱進機を備えたムーブメント。

 さらに特筆すべきは、その販売方式。スースクリプション・ウォッチでは、購入希望者が総額の25%を頭金として支払い、納品時に残額を支払うという、予約販売方式が採用されました。“スースクリプション”とは、まさに“予約”を意味する言葉であり、このモデル名がそのまま販売手法を表しています。このような販売形態は、当時の時計業界では極めて異例でした。

 注文時に資金を確保できたことで、職人たちにも前払いで報酬を支払うことが可能となり、安定した生産体制を築くことができました。このスースクリプションウォッチは、時計製造とビジネスの両面において、まさに18世紀末の革新の象徴といえる存在だったのです。


ブレゲ クラシック スースクリプション 2025

ブレゲ クラシック スースクリプション 2025

 その精神を受け継ぐのが、新作のクラシック スースクリプション 2025なのです。アブラアン-ルイ・ブレゲが手がけた歴史的なスースクリプション懐中時計を現代の腕時計として再構築したブランド創業250周年にふさわしい記念碑的なモデルです。

 ケースは直径40mm、厚さ10.8mm。ケース素材には、ブレゲ独自の新素材であるブレゲゴールドが採用されています。これは、従来のイエローゴールドとローズゴールドの中間にあたる、上品でやわらかな色調が特徴です。その組成は、純金75%に対し、銀、銅、パラジウムを配合。18Kの基準を満たしながら、色味のバランスだけでなく、変色耐性や長期的な安定性にも優れた性質を持ちます。

ブレゲゴールドを構成する素材。

グレゴリー・キスリングCEO

 この新素材を主導したのは、現ブレゲCEOのグレゴリー・キスリング氏です。オメガ在籍時には製品開発担当副社長として、ブロンズゴールドやムーンシャインゴールドといった革新的な合金の開発を手がけた実績を持ち、その経験が今回のブレゲゴールドにも確かに活かされています。

 同氏はこの新素材について「18世紀当時、ゴールドの標準的な色味というものは存在せず、職人ごとに異なるニュアンスを持つのが一般的でした。私たちは、当時の“揺らぎ”や“柔らかさ”を現代の技術で再現しようと考えたのです」と語りました。

 ケースデザインも大きく刷新され、柔らかな曲線を基調とした造形が、素材と調和するやさしい印象を与えています。クラシックコレクションで特徴的な従来からの意匠であるストレートラグは姿を消し、代わりに手首に自然に沿うよう緩やかなカーブを描いたラグが採用されています。

 また、ケースサイドにはこれまで定番だったコインエッジ装飾が施されておらず、その代わりに繊細で滑らかなサテン仕上げを採用。クラシック スースクリプション 2025のケースは、1790年代のオリジナルのスースクリプション懐中時計に見られる、より古典的で控えめな美しさにインスピレーションを受けたものとなっています。

 サファイアクリスタルには、アブラアン-ルイ・ブレゲがかつて手がけた“シュヴェ(Chevé)”風防のフォルムを、現代的に解釈・進化させたデザインが採用されています。全体的にフラットな面構成でありながら、縁に向かってわずかにカーブを描き、ベゼルとシームレスにつながるよう設計されています。この緩やかな曲線が、ケース全体のラインと自然に調和し、上品で一体感のある外観を生み出しています。

 ダイヤルは真っ白なグラン・フーエナメルが用いられています。深みのある艶を宿したこのエナメル地に、ブラックのエナメルでブレゲ数字のインデックスが描かれ、外周にはレイルウェイスタイルの分目盛りが配されています。

 針は1本のみ。スースクリプション懐中時計に忠実な形状を持つブレゲ針で、工房内の修復部門の職人たちによって一本ずつ手作業で青焼きされ、穴の部分にも丁寧な鏡面仕上げが施されています。

 クラシックかつミニマルな構成でありながら、ダイヤル全体は強い存在感を放ち、直径の大きさゆえに視認性も非常に高く、実用性と美しさが見事に融合しています。

 もうひとつ、修復部門の職人たちの手が加えられている重要なディテールがあります。それが、6時位置に控えめにあしらわれたシークレットサインです。ここには、「Souscription」の文字と個別のシリアルナンバー、そしてブレゲの筆記体ロゴが、ダイヤモンドポイントを用いたパンタグラフ彫刻によって刻まれています。この技法は、1795年にアブラアン-ルイ・ブレゲ自身が偽造防止策として考案したもの。刻まれた線は非常に細密かつ繊細で、光の当たり方によってその姿を現したり、ふっと消えたりします。

パンタグラフ

 さらに注目すべきは、今回この刻印に使用されたパンタグラフ彫刻機です。これは、伝説的な独立時計師ジョージ・ダニエルズがかつて所有していた18世紀製の実機で、ブレゲが近年入手し、自社の修復職人たちの手によって蘇らせたもの。歴史と現代のクラフツマンシップが交差する、まさにこの時計を象徴するようなディテールです。

 ケースバックからは、新開発の手巻きキャリバーVS00が確認できます。振動数は2万1600振動/時とロービートで、最大96時間のパワーリザーブを実現しています。

 中央に大きな香箱を配し、その左右対称に輪列を配置するムーブメントのデザインは、トラディションコレクションに見られるムーブメントですが、実はクラシックコレクションにはこれまでありませんでした。

 キスリング氏はムーブメントの設計について、「これまでのクラシックコレクションでは、文字盤のデザインは歴史的な懐中時計に基づいていても、ムーブメントは現代的な構造にとどまっていました。今回初めて、ムーブメントの設計思想そのものにも“顔”と同じくらい歴史の記憶を込めたのです」と語ります。

 耐磁性に優れたNivachron®製ヒゲゼンマイや、ブレゲが誇る伝統的なパラシュート緩衝装置など、機能面にも一切の妥協はありません。性能としての数値が優れていることはもちろんですが、それぞれの技術の背後には、ブレゲの長い歴史と哲学が息づいていることを改めて思い起こさせてくれます。

 ムーブメントの各部には青焼きネジが美しく配置され、中央のラチェットホイールには、アブラアン-ルイ・ブレゲがかつて記した文献の一節が、フランス語の筆記体で静かに刻まれています。それは、視覚的な美しさにとどまらず、ブレゲというブランドの“原点”を手のひらに感じさせてくれる象徴的なディテールです。

新しいギヨシェ模様。

同心円状に彫られたギヨシェ。クラシック スースクリプション 2025では取り入れられていないが、今後のモデルに導入予定とのこと。

 ケースバックには新たに創作されたギヨシェ模様ケ・ド・ロルロージュがあしらわれています。そのモチーフとなっているのは、パリの街を流れるセーヌ川に囲まれたシテ島の輪郭。1775年にアブラアン-ルイ・ブレゲが最初の工房を構えた、ブランドの原点ともいえる場所です。

 このデザインについて、キスリング氏はこう語っています。「このギヨシェ模様は、都市のリズムと時計のリズムが重なり合うように設計されているんです。私たちは、地図の中に時間を見いだすという発想を取り入れました」。“パリ=時間の始まりの地”。この装飾は、ブレゲというブランドと物語の出発点を象徴しているようにも感じました。

 濃淡のニュアンスが美しいネイビーブルーのアリゲーターレザーストラップが組み合わされており、上質な艶と落ち着きのある色調が、全体にクラシックな印象を与えています。

 バックルにはケースと同じく、ブレゲゴールド製のピンバックルを採用。素材の統一感と仕上げの美しさが、柔らかなフォルムのケースと見事に調和しており、細部に至るまで完成度の高さが感じられます。

 本モデルのために特別にデザインされたプレゼンテーションボックスにも注目です。かつてブレゲが納品時に使用していた赤いモロッコレザー製のケースに着想を得たもので、歴史へのオマージュとともに現代的な洗練が加えられています。

 シリアルナンバーの刻印や、時計を巻き付ける台座など、細部にまでこだわりが行き届いた仕上がりに。そして、今回よりブランド初となる5年間の国際保証カードが付属しており、アニバーサリーモデルにふさわしい信頼性と特別感を演出しています。そして、今回よりブランド初となる5年間の国際保証カードが付属します。

 クラシック スースクリプション 2025は数量限定ではありませんが、生産本数には限りがあり、各個体にはユニークなシリアルナンバーが与えられます。価格は735万9000円(税込)で、2025年より順次販売が開始される予定です。

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ブレゲ クラシック スースクリプション 2025を実際に使ってみて

 実際に腕に着けてみると、ブレゲゴールドのやわらかなトーンが肌に自然になじみ、とても上品に映ります。近年はケースサイズの小径化がトレンドになっていますが、本作の直径は40mm。手首周りが約16.5cmと細めな僕にとってはやや大きめかと思われましたが、ラグが下向きにしっかりと傾斜しているため、手首にしっかりとフィットし、着用感も非常に良好でした。

 この40mmというサイズは、1本の針で時間を読むというこの時計の構造において、むしろ“ちょうどいい”と感じさせる絶妙なバランスです。時刻の読み取りには多少の慣れが必要で、±2分の誤差範囲内という表示精度も相まって、分単位の正確さを求める時計ではありません。けれども、その“曖昧さ”こそが、この時計の魅力を物語っているようにも思えるのです。もし仮に、個人的に好みの37mm径だったとしたら——おそらく、この時計特有の“見づらさ”がかえって強調されてしまったのではないか、と感じました。

 リューズにはやや大きめのサイズのため、指先でしっかりとつまみやすく、巻き上げ操作も非常にスムーズです。ロングパワーリザーブ仕様とはいえ、手巻きムーブメントにとって巻き上げのしやすさは日々の使用感に直結する重要なポイント。その意味でも、このリューズの設計は機能性と実用性をしっかりと兼ね備えています。


クラシック スースクリプション 2025が示すブレゲの未来

 ブランドの創業記念モデルというと、時計業界は往々にして超複雑機構を誇示するテクニカルなリリースになりがちな時計業界において、ブレゲがスースクリプションの復刻をしたのは非常に興味深いことです。

 特にこのスースクリプションは、アブラアン-ルイ・ブレゲの技術的手腕と起業家精神へのオマージュであると同時に、2025年という現代の時計界の潮流を鋭く捉えたモデルでもあります。

 いま、時計愛好家たちのあいだで最も注目を集めているのが、「時刻表示のみ」にフォーカスした独立系時計ブランドの存在です。この潮流は、いまやインディペンデント・ウォッチメイキングの世界だけでなく、大手メゾンにも波及しています。

 2025年のWatches & Wondersで話題を呼んだゼニスのG.F.J.、近年評価を高めているショパールのL.U.Cコレクション、さらには独立時計師とのコラボレーションを積極的に展開するルイ・ヴィトンなど、その動きは加速し続けています。伝統的なハイブランドでさえ、“時刻表示のみ”という極めてミニマルな表現に、新たな価値を見出そうとしているのです。

 ブレゲも今回のクラシック スースクリプション 2025で、この“時刻表示のみ”という現代的な潮流に一石を投じました。このモデルは、ブレゲが独立系ブランドにも匹敵する厳格な基準で、“時を示す”という時計の最も根源的な機能に立ち返った、実に意義深い一本です。

 他の多くのブランドがヴィンテージという外部の文脈にインスパイアされ、現代的な再解釈を試みるなかで、ブレゲは自らの歴史そのものに直接アクセスできる唯一無二の存在です。そこには単なる再解釈ではなく、“再接続”というアプローチが息づいています。

 本作は過去への回帰ではなく、ブレゲが未来へ向けて掲げた哲学的なメッセージのようにも感じました。キスリングCEOの言葉が、その姿勢を端的に物語っています。

過去をコピーするのではなく、そこから学び、未来の発明へとつなげていく。それがブレゲの使命なのです。

– グレゴリー・キスリング(ブレゲCEO)
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基本情報

ブランド: ブレゲ(Breguet)
モデル名: クラシック スースクリプション 2025(Classique Souscription 2025)
型番: Ref.2025BH/28/9W6

直径: 40mm
厚さ: 10.8mm
ケース素材: 18Kブレゲゴールド(ゴールド、シルバー、コッパー、パラジウムを組み合わせたブレゲ独自のブロンドの貴金属)
文字盤色: ホワイト(グラン・フーエナメル)
インデックス: ブレゲ数字
夜光: なし
防水性能:
ストラップ/ブレスレット: ネイビーブルーのラージスケールアリゲーターレザー、ネイビー ブルーのスモールスケールアリゲーターレザーのライニング、18K ブレゲゴー ルド製ピンバックル、バーの端にブレゲの「B」の刻印つき


ムーブメント情報

キャリバー: Cal.VS00
機構: 1本針
直径: 16リーニュ
厚さ: 5.7mm
パワーリザーブ: 96時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時 (3Hz)
石数: 21
クロノメーター認定: なし
追加情報: スースクリプション、シリアルナンバー、そしてブレゲのシークレットサインは、ダイヤモンド・ポイント式パンタグラフで刻印。ケースバックの縁には、“BREGUET 250 YEARS”の刻印とケ・ド・ロルロージュ柄のギヨシェ装飾が手仕上げで施されている。風防の内側に反射防止コーティング。ムーブメントはブレゲゴールドと同じ色調の金メッキ仕上げが施された真鍮製。シリアルナンバーが記されている。


価格 & 発売時期

価格: 735万9000円(税込)
発売時期: 今すぐ
限定: なし(生産本数は限定されます)

詳細は、ブレゲ公式サイトをチェック。