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Bring a Loupe カルティエ レベルソ、アバクロンビーのシーファーラー、そしてティファニー向けソーラー駆動のパテック フィリップ デスククロックなど

これらのほか、今週市場に出ている掘り出し物のヴィンテージウォッチコラムで紹介する。

Bring A Loupeへようこそ。今週のセレクションは少々バラバラであるが、インターネット上で販売されている“最高の”ヴィンテージウォッチは、週によってこのような傾向になることもあるため、さっそく本題に入ることにする。ただし最後のピックアップだけは特に注目して欲しい。1930年に世界で最も複雑な腕時計を製作した、きっと誰も聞いたことのないであろうブランドからの1本である。

 先週の結果を振り返ると、5本中3本が新たなオーナーのもとへ旅立った。ネオヴィンテージのパルミジャーニ トリック クロノグラフは、ボナムズでの5000〜7000ドル(日本円で約70万~100万円)という予想価格を大きく上回り、2万5600ドル(日本円で約370万円)で落札された。やや魅力に欠けるブレスレットが装着されていたパテック フィリップのRef.96も健闘し、1万2000ドル(日本円で約170万円)で売却された。またeBayに出品されていたティファニー刻印入りのモバードも2625ドル(日本円で約35万円)で、新たな持ち主のもとへ渡った。

 それでは今週のピックアップに移ろう。


カルティエ リバーシブル デュアルタイム タンク、1975年製
A Cartier Reverso

 タンクを想起させるこのリバーシブル デュアルタイム ウォッチは、カルティエによって1972年から1970年代後半にかけて少数のみ生産された時計だ。ブランド統合後、エベルとの提携によりスイス生産へと移行した初期の作品のひとつで、このカルティエ“レベルソ”は実にユニークな存在である。ダイヤルには“PARIS”のサインがあるものの、実際にはスイスで製造されている。これは当時のカルティエにおいて、販売地によってダイヤルサインが異なっていた時代にあたり、“PARIS”の場合はパリまたはロンドン、“SWISS”の場合はニューヨークで販売されたことを示している。なお“SWISS MADE”と記されたものはサービスダイヤルであるため、注意が必要である。

 カルティエはこのようなリバーシブル式腕時計に関して、スイスでのシリアル生産以前から歴史を有している。1940年代にはカルティエがサインと販売を担当し、ジャガー・ルクルトが製造したレベルソが存在していた。このデュアルタイムと並行して、カルティエはより一般的なレベルソ様式、すなわちシングルダイヤルと単一ムーブメントによるモデルも製造していた。これらのモデルはやや一般的であり、本稿で紹介しているデュアルタイムの約半額で見つけることができる。半額で、時計も半分といったところだ。

A Cartier Reverso
A Cartier Reverso
A Cartier Reverso

 このデュアルタイムは、当時最高級の極薄ムーブメントであったフレデリック・ピゲ製Cal.21を2基搭載している。表側のダイヤルは白地にブラックのローマ数字を配した、クラシックなカルティエらしい仕上げとなっている。操作は12時位置のリューズを使用する。一方で、裏側のダイヤルはシャンパン仕上げとなっており、下部のリューズを使用する仕様である。なおフレデリック・ピゲ製Cal.21は手巻き式であるため、両方のリューズを巻き上げる必要があり、ふたつのムーブメントを同期させるためには手間がかかる。

 このモデルに関して、これ以上望めないほどコンディションは良好である。ケースはシャープで少なくとも裏蓋にはポリッシュ痕が見られない。ダイヤルはどちらもクリーンな状態を保っており、両ムーブメントともに2023年にカルティエによって整備されているため、安心して入札できる。

 このカルティエ“レベルソ”は、Lyon & Turnbullが開催するCartier Curatedセールのロット59である。このオークションは業界のベテランであるチャールズ・タール氏が指揮を執り、4月29日の14時(英国夏時間)に行われる予定だ。予想落札価格は2万5000~3万5000ポンド(日本円で約480万~670万円)に設定されている。オークションリストはこちら


アバクロンビー&フィッチ シーファーラー バイ ホイヤー Ref.2447、1960年代製
An Abercrombie & Fitch Seafarer by Heuer

 今でこそ若者たちに人気の“ヴィンテージ”風スウェットをつくるブランドであり、かつてはモールにある悪臭漂うコロンまみれの店として知られていたアバクロンビー&フィッチだが、かつては本当に、本当にクールな存在であった。1892年に創業したアバクロンビー&フィッチは当時、キャンプ、フィッシング、ハンティングに夢中だった社会の上層階級をターゲットにしていた。アメリカ開拓時代の精神やセオドア・ルーズベルトの“ラフライダーズ”のイメージを巧みに取り込みながら展開していたのである。アーネスト・ヘミングウェイやアメリア・イアハート、さらにはフーバー、アイゼンハワー、タフト、ハーディング、ケネディといった歴代大統領たちも、アバクロンビーのマディソンアベニューにあった12階建ての本店で買い物をしていた。そこでは、地下の射撃場でライフルを試射し、別のフロアではフライフィッシング用ロッドを試し振り、さらにはスイスから輸入された最新・最高のアウトドア用ウォッチを手に入れることもできた。すべてを一度に体験できる場所だっのだ。

 ブランドの歴史におけるこの時期、すなわち1940年代にはホイヤーとアバクロンビー&フィッチが提携を結んでいた。両社が共同で製造した時計のほとんどは特定の機能を備えたクロノグラフであり、もちろん、潮汐を表示するシーファーラーもそのひとつである。このシーファーラーはデビッド・T・アバクロンビーが毎年スイスへ赴く商品仕入れの旅の際に、明確に要望したモデルであった。ホイヤーはその要望に応え、今日、ヴィンテージホイヤーのなかでも屈指の完成度とコレクタブル性を誇る1本を生み出したのである。

An Abercrombie & Fitch catalog image

アバクロンビー&フィッチのカタログ。Image courtesy of OnTheDash.com

 Ref.2447は、このモデルのバリエーションのなかでも際立った存在である。なぜなら、1960年代のクラシックなカレラケースに収められた唯一のシーファーラーだからである。手巻きのホイヤーのなかでもこのクロノグラフケースは群を抜いて素晴らしく、同等のものはほとんど存在しない。そしてその究極形がこのシーファーラーである。このモデルが市場に出回るのは年に1度か2度といったところだが、多くはコンディションが悪い。しかし今回の個体はとてもクリーンで、素晴らしいパティーナも備わっている。これは上位15%に入るコンディションだと考えている。

 この時計の魅力をさらに高めているのが、オリジナルオーナーの由来である。オークションハウスによれば、このシーファーラーはオリジナルオーナーの直系の子孫によって出品されたものであり、そのオーナーとは“ロードアイランド州ニューポートの紳士”で、ニューポート郡歴史保存協会の初代ディレクターを務めた人物であったという。なかなか悪くない経歴である。

An Abercrombie & Fitch Seafarer by Heuer

 このアバクロンビー&フィッチ シーファーラーは、Grogan & CompanyによるFine Jewelryセールのロット175。オークションは5月4日、東部標準時11時に開催される予定だ。予想落札価格は1万2000ドル~1万8000ドル(日本円で約170万~260万円)。詳細はこちらから。


パテック フィリップ ソーラー デスククロック ティファニー向け Ref.902、1960年代製
A Patek Solar Desk Clock signed by Tiffany & Co.

 パテック フィリップは、今日では“オールドスクール”なブランドと見なされがちであるが、1940年代当時は時計技術研究の最先端を走っていた。この時期のパテックは電子式、原子力式、そしてもちろんソーラー式といった代替的な時間計測技術の研究を開始したのである。パテック内部に設けられたこの独立研究部門の成果のひとつがソーラーデスククロックであり、1950年代から1960年代にかけて数々のリファレンスが製造された。

 初期のソーラーデスククロックは非常にシンプルであり、シルバーケースを備えていた。全体としては実用性を重視した設計であり、パテックの最新技術による精度に焦点が当てられていた。光を十分に蓄えれば暗闇でも1年間作動し続け、1日あたり1秒という高精度を誇った。

 1950年代後半から1960年代にかけて、これらのソーラーデスククロックは高級品としてデザインされるようになった。今回紹介するRef.902は、裏蓋の刻印によれば1966年製であり、ヘラクレス・パウダー社の取締役であったJ.H.タイラー・マコーネルに贈られたものである。仕組みとしては、ソーラーパネルで受けた光エネルギーがアキュムレーターに蓄えられ、その力で懐中時計用ムーブメントを駆動して針を動かすというものだ。最先端技術と古典的時計製造技術の融合である。

A Patek Solar Desk Clock signed by Tiffany & Co.
A Patek Solar Desk Clock signed by Tiffany & Co.
A Patek Solar Desk Clock signed by Tiffany & Co.

 パテック フィリップのデスククロックを探したことはこれまでなかったが、もし探すとしたらこれは真剣に検討すべき逸品である。興味深い背景を持ち、ティファニーのサインも入って、さらにはマッドメン風の雰囲気も漂わせている。とはいえHODINKEEオフィスのデスクでマッドメン気取りになりたいわけではないが、もしそうしたくなったとしてもこのクロックなら完璧に演出できるだろう。

 このパテック フィリップ デスククロックは、Bill Hood & SonsによるMulti Estate-Art Jewelry & Antiquesセールのロット24Aとして出品。オークションは4月29日の東部標準時15時に開催される予定だ。予想落札価格は1000ドル~4000ドル(日本円で約15万~60万円)に設定。詳細はこちらから。


ロレックス オイスター パーペチュアル Ref.6532、1957年製
A 1957 Rolex Oyster Perpetual

 このようなクリーンなヴィンテージオイスター パーペチュアルが、毎週のBring A Loupeの検索で引っかかると本当にうれしくなる。ヴィンテージロレックスの世界はどうしてもスポーツモデル中心になりがちであり、やがてはGMT、サブマリーナー、デイトナなどばかりになってしまう。しかしこのシンプルなOP(オイスター パーペチュアル)こそ、見過ごしてはならない存在である。私にとってOPはロレックスの本質を体現するモデルなのだ。無駄のない設計、自動巻きムーブメント、防水ケース...それだけで十分なのだ。今回のようにコンディションの素晴らしい個体を見つけた場合、これほど優れたデイリーウォッチはない。もちろん70年前に製造された、ラジウム夜光を少し含む時計を毎日着用することに抵抗がなければ、ではあるが。

 ちなみに、このような時計に使用されているラジウムについて過度に恐れる必要はないと私は考えているが、私は医師ではないため最終的には自身で調査して判断して欲しい。同様の時計を探す際には、この個体に見られるラグのシャープさやダイヤル全体に均一に広がったクリーム色のパティーナに注目するべきである。これこそが理想的な状態である。特にラジウムを使用したダイヤルでは、パティーナが過剰だと“これは本当に、かなり古い時計だ”という印象を金属面から強く放ってしまうことがあり、所有する喜びが損なわれる場合もある。なおダイヤル上に見える奇妙な緑や青の点については、埃などの付着物だと推測している。これは比較的容易に除去できるはずだ。少なくとも、ダイヤルではなく風防に付着しているものであることは確認できている。

A 1957 Rolex Oyster Perpetual

 このロレックス Ref.6532は、Hansons Auctioneers and Valuersが開催するLondon Fine Art, Antiques and Collectors Auctionのロット82である。オークションは4月30日、英国夏時間9時30分より開催される予定だ。予想落札価格は600ポンド~900ポンド(日本円で約11万~17万円)である。詳細はこちらから。


ジェームス・シュルツ モノプッシャー クロノグラフ スターリングシルバー製、1930年代製
A 1930s James Schulz Monopusher Chronograph

 最初に言っておくと、この時計のeBayでの希望価格はやや高いと感じている。しかし、このストーリーを紹介する機会を逃すわけにはいかなかった。もちろん出品者にオファーを出すこともできる。それについてはのちほど触れるとして、まずは背景から説明する。

 ジェームス・シュルツは、ニューヨークに拠点を置く時計の輸入業者兼時計師であった。さらに詳しい情報を探すのは非常に困難だが、見たところ、シュルツは腕時計黎明期にスイスとの契約を通じて、非常にクールな時計を製作していたようである。その代表例がこのグランドコンプリケーションであり、1930年に製造された当時、世界で最も複雑な腕時計と称されていた。永久カレンダー、クロノグラフ、ミニッツリピーターを搭載し、ダイヤルはスターン・フレール社製、ムーブメントはヴィクトラン・ピゲ提供、そしてケースは29mm径のプラチナ製、つまりまさに驚異的な個体なのである。私が確認できた限りでは、シュルツはそのあとマンハッタンのアッパーイーストサイドでブランドを展開し、より商業的な時計を製作していたようである。それでも、使用していたのは常にスイスの最高級サプライヤーによる部品であった。この件については、さらに調査を進める必要があると感じている。個人的にも非常に興味を引かれているため、調査が完了したら改めて記事にまとめるつもりである。きっと私だけでなく多くの人がこの件に興味を持っているはずだ。

A 1930s James Schulz Monopusher Chronograph
A 1930s James Schulz Monopusher Chronograph
A 1930s James Schulz Monopusher Chronograph

 さて、話を今回の時計に戻そう。これは1930年代製のスターリングシルバー製モノプッシャー クロノグラフである。過去にはアンティコルムのオークションに出品された例もあり、イエローゴールド製とシルバー製のバリエーションが存在していたようだ。直径は29mmと小振りだが、手首に乗せたときにはパテックのRef.96をほうふつとさせるルックスを持つ可能性がある。コンディションについては、特筆すべき重大な欠点は見当たらず、ほとんど使用されていなかったように見受けられる。極めて古い時計でありながら素晴らしい状態を保っているが、この“アメリカン”ウォッチメイキングの歴史に魅力を感じるのであれば、適正なオファーを提示するのが最善だと思う。

 テキサス州ヒューストンのeBay出品者が、このシュルツを3500ドル(日本円で約50万円)の即決価格またはオファー受付可で出品している。詳細はこちらから。