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Bring a Loupe 炎のようなゴールドのGMTマスター、1950年代のスクエア型パテック、そしてハブリング²の限定モデル

今市場に出ている掘り出し物のヴィンテージウォッチをお届けしよう。

Bring A Loupeへようこそ! 本題に入る前に、オンラインオークションの最近のニュースをご紹介。私が注目していたのは、ゴールディン・オークションズで出品されていた1909年製T206 ホーナス・ワグナー(Honus Wagner)のベースボールカードだ。PSA1評価のこのカードは“コネチカット・ワグナー”と呼ばれ、3月に開催されたオンラインオークションでは開始からものの数時間で320万ドル(日本円で約4億6200万円)を超える入札が殺到した。その勢いから、このカードが史上最高額を更新するのではないかという記事も出ていた(もし更新するなら、SGC9.5評価の1952年トップス製ミッキー・マントルの1260万ドル[当時のレートで約17億円]を超える必要があった)が、最終的には入札額が400万ドル(日本円で約5億7750万円)に届かず、最低落札価格に達せず終了した(残念だ)。一方でファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)のオークションハウス、JOOPITERでは、サイン入りの1986-87年フレアー製マイケル・ジョーダンのルーキーカードがで落札され、ジョーダンのルーキーカードとして史上最高額を記録した。

 では、時計の話に戻ろう。先週の結果はかなりはっきりと出ている。ヴァン クリーフ&アーペル × ジェラルド・ジェンタはディスクリート ピーコック(Discreet Peacock)で販売され、希望価格は6499ドル(日本円で約94万円)だった。“Bidder Beware(入札に注意する)”の1951年製ブレゲは3万4843ドル(日本円で約500万円)のベストオファーで売却済みとなっており、今後のブレゲ No.466がどうなるのか興味深いところだ。注視していれば、近いうちにどこかで見かけることになるだろう。

 それでは注目モデルを見ていこう。


2021年製 ハブリング² モノクローム モントレ ド スースクリプション 1

 ヴィンテージではないが、その精神を色濃く宿した1本をまずは紹介しよう。ハブリング²が2021年にモノクローム ウォッチズとコラボレーションしたこの時計は、過去10年で最も成功したクロノグラフのひとつだった。33本限定で発表と同時に予約受付が開始されるや否や、わずか数分で完売となった。

A Habring chronograph for Monochrome

 この発表が行われた2021年6月当時は、時計需要が史上最高レベルに達していた。しかしその後もこの時計の人気は衰えることなく続いている。2023年5月にはこのハブリング²のユニークなスプリットセコンド・クロノグラフ仕様がフィリップスで3万1750スイスフラン(日本円で約580万円)で落札され、その収益はすべてセーブ・ザ・チルドレンに寄付された。

 需要やオークション結果だけではなく、ハブリング² × モノクローム エディションは、ヴィンテージ感を取り入れつつも単なるオマージュに終わらない、微妙なデザインのバランスを保っている点も見事である。1940年代のクロノグラフ黄金期から着想を得ており、モントレ ド スースクリプション 1はハブリング² クロノ フェリックスのケース(直径38.5mm、厚さ12mm、ラグ・トゥ・ラグ46mm)を使用しているが、特徴的なサーモンカラーのセクターダイヤルによってほかのモデルとは一線を画している。現代的な質感の高さや精緻な構造と、ヴィンテージテイストのデザインが見事に調和しているのだ。ダイヤルは中央に縦方向のサテン仕上げ、アワーセクターには放射状のサテン仕上げ、インダイヤル内にはスネイル仕上げが施されており、細部まで美しく作り込まれている。

A Habring chronograph for Monochrome movement
A Habring chronograph for Monochrome movement
A Habring chronograph for Monochrome

 多くの独立ブランド系コレクターには、ハブリング²のムーブメントに対する誤解や過小評価があることは否めない。確かに、この時計に搭載されているハブリング² A11C-H1 モノプッシャー・クロノグラフ キャリバーはCal.ETA 7750と同じ設計をベースにしている。しかしリヒャルト・ハブリング(Richard Habring)氏はCal.ETA 7750を世界で最も熟知している人物であり、それはむしろ強みと言えるだろう。さらにこのムーブメントにはETA製のパーツは一切使われておらず、部品はすべて自社製造もしくは独立系サプライヤーから調達している。Cal.A11C-H1はカール・ハース社製のヒゲゼンマイを搭載し、サーキュラーサテン仕上げのブリッジ、面取りされたエッジ、ネジやスティール製カムの青焼きなど、細部まで手作業による美しい仕上げがあしらわれている。ちなみに2021年当時、予約注文価格は約7070ドル(当時のレートで約78万円)だった。

 オークショニアであるルーペ・ディス(Loupe This)はロサンゼルスに拠点を置いており、このハブリングのオークションは7月1日火曜日午前11時59分(アメリカ東部時間)に終了予定だ(編注;7月2日午前12時に終了)。詳細はこちらから。


1979年製 ロレックス GMTマスター Ref.1675 “トロピカル”ダイヤル 18Kイエローゴールド

 ダイヤルの独特なエイジングを好み、そのこだわりを店名にまでしてしまったディーラーから登場したこのソリッドゴールドのGMTは、パティーナ(経年変化)やトロピカルダイヤルがどこまでなら許容されるのかを考えさせてくれるモデルだ。“これは美しく経年変化しているのか、それともただのダメージなのか?”と自分自身に問いかけるよい機会になる。

A 1979 Rolex GMT-Master with a tropical dial

 まずは全体像を見てみよう。Ref.1675はスティール製とゴールド製の両方に共通するリファレンスであり、ゴールドモデルの場合はRef.1675/8と表記されることもあるが、常にそうとは限らない。1960〜70年代のほかのオールゴールド製のロレックス スポーツウォッチと比べると、デイトナやサブマリーナーよりもGMTマスターのほうが製造数がやや多かったように思える。その理由として考えられるのは、世界中を飛び回るビジネスエグゼクティブにとってオールゴールドのGMTは実用性という付加価値も備えた、まさにうってつけの1本だったのではないかということだ。デイトナやサブマリーナーには、GMTマスターほどの実用性が伴っていなかったのだろう。ゴールド製GMTは1958年から製造されており、1955年のモデル誕生以来、ほぼ途切れることなくラインナップされ続けている。

A 1979 Rolex GMT-Master with a tropical dial

 リューズガードもメルセデス針もない“コンコルド”モデルのあとに登場したこのゴールドGMTは、当時のスティール製1675にやや近い仕様となっている。ただしインデックスは少し異なり、その小振りな形状と夜光の充填の様子から“ニップルダイヤル”というあだ名で呼ばれてきた。ゴールド製のヴィンテージ ロレックスに見られるスポーツモデルよりは人気があるかもしれないが、このようなGMTは年々入手が難しくなっており、特にコンディションの良い個体は希少である。

 コンディションについて言えば、出品者が“ソラリス”と呼んでいるこのダイヤルの評価は、完全に好みに委ねられると思う。自分としては、普通のダイヤルよりもむしろ魅力的であり、この時計に唯一無二の個性を与えていると感じるが、これを見て“ダメージだ”、“ダイヤルが台無しだ”と思う人がいても不思議ではない。これは本当に好みの問題だからだ。この温かみのあるブラウンから滲む炎のようなカッパートーンは見事で、パティーナの広がりがやや9時寄りで3時側に比べてバランスが崩れているものの、個人的にはとても味わい深く映る。

A 1979 Rolex GMT-Master with a tropical dial

 このヴィンテージ ロレックス GMTマスターを販売しているのはサンディエゴに拠点を置くトロピカル ウォッチ(Tropical Watch)のヤツェク・コズベック(Jacek Kozubek)氏で、販売価格は3万6550ドル(日本円で約530万円)となっている(編注;すでに売却済み)。詳細はこちらから。


1950年代製 パテック フィリップ Ref.2472 18Kローズゴールド ゲイ・フレアー製ブレスレット付き

 ヴィンテージ パテックを紹介するとき、Bring A Loupeでは複雑機構やシンプルなラウンド型カラトラバに焦点を当てることが多い。しかしこのリファレンスは同ブランドのなかでもまったく異なる世界に属している。20世紀中ごろ、パテックは男女を問わずエレガントなレクタンギュラーやスクエア型の腕時計を数多く製造してきたが、そうしたモデルは“ただの古いパテック”として見過ごされがちだ。しかしとりわけ、Ref.2472に関してはそれはまったく当てはまらない。この時計には、本物に特別な魅力と価値があるのである。

A 1950s Patek Philippe ref. 2472

 一見すると、このリファレンスは直線的なラインや無駄のない端正な造形が特徴だが、じっくり見るとその卓越したデザインを随所に感じられる。ケース側面には縦方向のフルーティング、つまりリブ装飾が施されており、まるでコーデュロイのような印象があり、特にコンディションに優れるこのような個体だと装着したときの存在感がいっそう際立つ。

 過度にポリッシュされてしまうとこのケースは途端に平凡に見えてしまうだろうが、5時位置のラグ裏に刻まれたホールマークを見ればほとんどポリッシュされていないことがわかるだろう。ダイヤルには経年による小さなシミが見られるものの、私が見る限りクリーニングやレストアの痕跡はなく、エナメルで立体的に仕上げられたブランドロゴが12時位置に配されている。そしてインデックスも見どころのひとつだ。12・3・6・9時位置の基幹インデックス(カーディナルインデックス)は比較的シンプルだが、それ以外の時刻部分には、1950年代の雰囲気を感じさせる3段重ねのロザンジュ(ひし形)形インデックスが使われており、このモデルの個性を引き立てている。

A 1950s Patek Philippe ref. 2472
A 1950s Patek Philippe ref. 2472
A 1950s Patek Philippe ref. 2472

 極めつけはこの時計に組み合わされているブレスレットだ。オリジナルかどうかははっきりしないが、少なくとも当時の仕様に合致するパテック フィリップの刻印が入ったゲイ・フレアー製ウーブンリンクブレスレットが装着されている。このブレスレットは時計全体の外観を完成させるだけでなく、最大8インチ(約20cm)の手首に対応できる十分な長さがあるのも大きなポイントだ。リンクはシルクのように滑らかで動きも柔らかく、まるで布のように腕に沿ってフィットし、力強いケースデザインと絶妙なバランスを生み出している。

 このミッドセンチュリー期のヴィンテージ パテック フィリップを販売しているのは、ロサンゼルスに拠点を置くザ キーストーン(The Keystone)のジャスティン氏とそのチームで、販売価格は2万9500ドル(日本円で約430万円)となっている。詳細はこちらから。


1970年代製 モバード デイトロン HS360 スーパー サブ シー クロノグラフ

 eBayで出品される見栄えのよいヴィンテージモバードは、最終的に必ずと言っていいほどBring A Loupeに登場する。このモデルはデイトロン HS360 スーパー サブ シー クロノグラフで、1970年代初頭に登場したモバードのエル・プリメロ搭載スポーツモデルにおける最上位機種である。そう、あのエル・プリメロだ。1969年にモバードとゼニスは合併し、ラ・ショー=ド=フォンに本拠を置くひとつの会社となったのである。

A 1970s Movado Datron Super Sub Sea Chronograph

 これらの時計はモバードというよりゼニス寄りのモデルだが、コレクターにとっては今なお非常に魅力的な存在だ。特に興味深いのはその価格で、同等のゼニス製エル・プリメロ搭載モデルと比べて、はるかに低価格で入手できるためコストパフォーマンスの高い時計として長年評価されてきた。ジェイソン・ヒートン(Jason Heaton)は2015年にHODINKEEでこのデイトロン HS360への熱いレビューを寄稿しているが、そこで述べられているポイントの多くは、現在でもそのまま通用する内容である。

 スーパー サブ シー仕様のこのモデルは標準モデルよりやや大きめのケースにクラウンガードが付き、そしてもちろん防水仕様のスクリューバックケースが採用されている。ベゼルは当時のロレックス デイトナを模したデザインだが、素材にはアルミニウムではなくベークライトが用いられており、これがまたユニークだ。ただ、この個体のベゼルにはひび割れがあるようだが、それ以外のコンディションは非常に良好で、夜光部分には魅力的なパティーナが見られ、目立つ欠点はない。ただし出品者によれば、巻き芯とクロノグラフに問題があるとのことで、オーバーホールは必須になるだろう。入札の際はその点も考慮して欲しい。とはいえ付属のブレスレットは大きな魅力だ。モバードの刻印入りで、ゲイ・フレアー製の“ラダー”ブレスレットが付いており、外観も非常にクールだ。

A 1970s Movado Datron Super Sub Sea Chronograph

 ミシガン州グラドウィンのeBayセラーがこのモバードを出品しており、オークションは6月27日金曜日午後10時25分(アメリカ東部時間)に終了。詳細はこちらから。