最近、僕は現在自分がいる地域とふたつ以上の異なる地域の時刻を表示する腕時計に惹かれ、実際にいくつか手に入れました。実際に使ってみると国外にも同僚がいる僕にとって、とても実用性の高い時計ジャンルであることも気づきました。
複数のタイムゾーンを追跡することができる時計は、その表示方法によってGMTやデュアルタイム(ツインタイム)、ワールドタイムなどさまざまな呼称で分類されます。なかでも僕が特に気に入っているのが、文字盤上に各国の都市名が並び世界の時刻をひと目で確認できるワールドタイム機構を搭載するもの。そのため9月のジュネーブ・ウォッチ・デイズで発表されたブルガリのオクト ローマ ワールドタイマーは、個人的に注目していた2021年新作の時計のひとつでした。
近年のブルガリのウォッチメイキングといえば、八角形の幾何学的なフォルムを持つ同社のアイコン的な存在であるオクト、とりわけ2014年に登場した極薄のオクト フィニッシモの目覚しい躍進が挙げられます。リリースから2021年までに7度の世界記録を樹立し、2021年のGPHGでは最新作のオクト フィニッシモ パーペチュアルカレンダーで金の針大賞を獲得。フィニッシモの開発に力が注がれているように感じていたため、オクト ローマにワールドタイム機構を搭載した新モデルが発表されたのはサプライズでした。
オクト好き、なかでもオクト ローマに引かれてやまない徳島の時計店ハラダの原田社長に魅力を聞きました「オクト ローマは、オクトコレクションに共通する八角形の幾何学的なフォルムですが、オクト フィニッシモよりも丸みを帯びているのが特徴です。親しみやすくエントリーモデルとしてもより手に取っていただきやすいモデルとなっているのではないでしょうか」。
オクト ローマ ワールドタイマーは、直径41mmのステンレススティール製ケースに一体型のスティール製ブレスレットを備えたブルーダイヤルの「オクト ローマ ワールドタイマー ステンレススティール」とケースにブラックDLC加工が施されたラバーストラップ仕様の「オクト ローマ ワールドタイマー スティールDLC」がラインナップされています。
原田社長にとってワールドタイムは、とても好きな機構のひとつだと言います「今はとても便利な世のなかになって、スマートフォンがあればすぐにほかの国の時間だってわかります。でもわざわざアナログなワールドタイマーを自分で操作して設定する。この少しの手間があるからこそ愛着も湧くんです。指先で世界の都市とつながるような感覚、文字盤を見て世界に思いを馳せることができるそれがワールドタイマーの魅力です」。
ワールドタイムは、24のタイムゾーンに分割された世界の都市の時刻を同時に表示する複雑機構で、1930年代にルイ・コティエという時計師によって発明されました。文字盤上の中心部には12時間表示があり、その外周を囲むように24時間で一周するリングと都市名が記されたリングが配されています。
使い方は非常に簡単で、オクト ローマ ワールドタイマーの場合は、リューズを一段階引き出して前後に回すだけ。文字盤外周の主要都市のなかから任意の都市(大抵は現在いる場所)を12時位置に設定して、ほかの国の時刻を確認したいときは、その都市名と対応する24時間リングから読み取ります。「慣れない旅先で使うことを考えると簡単であるのはとても重要ですよね」と原田氏。
ワールドタイムウォッチ好きの方なら文字盤を眺めていて気づくかもしれませんが、このオクト ローマ ワールドタイマーにはほかのブランドではあまり採用されない都市が並んでいます。例えば、モルディブやサモア、アンカレッジ、カーボベルデ、サン・バルテルミー島など。これは、ブルガリの社内で訪れてみたい都市をヒアリングした結果が反映されているからなのだとか。休暇に訪れたくなるようなユニークな都市が採用された本機は、ブルガリ ホテルズ & リゾーツとして各国の都市でホテルを展開する同ブランドならでは。
オクト ローマ ワールドタイマーのケースは、極薄のフィニッシモと比較すると確かにケースに厚みはありますが、それでも11.35mm。普段づかいや旅先などあちこちに連れ出すことを考えると信頼感のある頑丈なつくりとその着けやすさから、ちょうどよいサイズだと思います。スティールモデルはサテン仕上げを基調に一部の面にポリッシュ仕上げが施されることでメリハリのあるデザイン、DLCモデルは全体がマットな質感で控えめですが、立体的な造形が存在感を放っています。
ブルガリの時計の文字盤について原田氏は、「ブルガリのイタリアブランドとしての雰囲気を感じられるのが文字盤です。当店のスペシャリストの加古川は、この文字盤をご説明するときに必ず光の当たるところと当たらないところでお客様にルーペをお渡ししてご覧いただくようにしています。インデックスの均等に光る様子や独特な深みのある色は、言葉ではなく実際に見ていただければすぐにわかっていただけるものです」と話します。
確かに目を引くサンレイ仕上げのブルーダイヤルは光の当たり方によって手首の上で異なる表情を見せ、サテン仕上げのスティールケースと美しいコントラストを生み出しています。「ブラックダイヤルも同様です。僕たちが目で見るという行為は一瞬ですが、深みのある黒からはブランドの職人たちが掛けてきた手間が垣間見えるように思うのです」と原田氏。
内部に搭載されるのは、Cal.BVL257。同社の自社製の自動巻きムーブメントをベースにワールドタイムモジュールが追加されたものです。パワーリザーブが42時間しかないというのは、この時計の唯一の弱点かもしれません。
価格は、3針のオクト ローマが81万4000円であるのに対してオクト ローマ ワールドタイムは、102万3000円(ともに税込)。わずか20万円ちょっと予算を追加すればワールドタイムコンプリケーションが手に入ると考えるとコストパフォーマンスに優れていますし、とても競争力のある価格といえます。
オクト ローマ ワールドタイマーは、ブルガリの建築的なイタリアンデザインと、ユニークで実用的なコンプリケーションが融合した最新作。ブルーもブラックもどちらも個性の異なる素晴らしい時計です。
ワールドタイマーの新しい楽しみ方のひとつとして原田氏は、「サイコロ遊びではないですが、目を瞑ってリューズを回して目を開けたときに指し示している都市について調べてみたり、地図を広げて思いを馳せてみるというのも今ならではのワールドタイマーの楽しみ方になるのでは」と述べています。今はまだ、飛行機に飛び乗ってというわけにはいきませんが、いつか憧れの都市に設定できるその日が来るまでは、ソファに座り文字盤を眺めて想像で旅をするのもいいかもしれませんね。
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