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Hands-On CIGAデザイン ブループラネット、地形から時刻を読み取る

ジュネーブウォッチグランプリ(GPHG)で初の受賞を果たした中国の時計ブランドは、グローバルに進化し続ける時計製造のロマンと力強さを表している。


Photos by Tiffany Wade

2021年11月。ジュネーブ中心部にある円形の会場に座っていると、裕福なスイス人の群衆が突然ざわめき始めた。我々はみな、時計業界の年次表彰式であるジュネーブウォッチグランプリ(GPHG)に出席しており、小売価格3500スイスフラン(約50万円)以下の最優秀ノミネート時計に贈られる“チャレンジウォッチ賞”の受賞者が発表されたところだった。

 GPHGの21年の歴史のなかで、初めてヨーロッパと日本という伝統的な時計産業のメッカ以外の地域から受賞者が出たのである。スイス製の時計メーカーがひしめくなか、CIGAデザインという小さな会社が、中国企業として初めてジュネーブウォッチグランプリで認められたのである。

CIGA Design Blue Planet

2021年度のGPHGでチャレンジウォッチ賞を受賞したCIGAデザインのブループラネット。

 CIGAデザインが受賞したのは、独自の非同期式時刻表示を採用し、ダイヤル中央に立体的なアルミニウム製の地球儀をあしらった直径46mmのチタンウォッチ、ブループラネットである。受賞が発表された当時、私はCIGAデザインというメーカー名を聞いたことがなかったし、私の周りにいた旧知のスイス時計業界の重鎮たちも知らなかった。私はこのメーカーについてもっと知る必要があった。

 そして約7ヵ月後、CIGAデザインがGPHG賞を受賞したブループラネットのサンプルを中国・深センの本社から送ってくれることになった。

まず、CIGAデザインとは一体何者なのか?

その夜、ジュネーブでCIGAデザイン創業者の張 建民(Zhang Jianmin、55歳)氏に会うことは叶わなかった。当時、中国とスイスのあいだにはCOVID-19による渡航制限があり、彼は授賞式に出席することができなかったのだ。ところがこの数ヵ月後、HODINKEE Magazine Vol.10(米国版)に掲載された張氏とCIGAデザインの小さな特集の取材で、私は彼と話をすることになったのである。通訳を交えZoomで1時間ほど対話し、GPHG受賞が張氏と彼の会社にとってどれほどインパクトがあったかを理解することができたのだ。

Zhang Jiamin

CIGAデザインの創業者、張 建民氏。Image, CIGA Design

 張氏は元々時計職人というわけではない。1980年代に現在の陝西科技大学で工業デザインを学び、その後グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートさせた。1990年代前半に中国第6の都市である深センに移住し、空港で使用される誘導システムのデザインや、市民建築プロジェクトに携わるようになった。2012年にCIGAデザインを創業するまで、張氏は30年近くさまざまな分野のデザインに携わってきたが、人が手首に着ける装飾品にはほとんど興味がなかったという。

CIGA Design Blue Planet

 2008年の北京オリンピックや2010年の上海万博では、中国政府が導入した誘導システムの開発など、多様なスキルを持つ張はさまざまなプロジェクトに携わった。

 しかし、彼の仕事には何か物足りなさがあった。張氏はデザインが人の個性や自己意識に直接結びつくような製品を作りたいと考えていたからだ。数年間の試行錯誤を経て、彼は腕時計を手がけるようになり、2012年にCIGA(China International Great Artの頭文字)デザインを設立した。

 「デザインは時計業界で最も大きな役割を担っています」と張氏は語る。「私はバウハウスの理念に影響を受けているので、時計がエンドユーザー、オーナーにとってどういう意味を持つのかを考えるようになりました」

 数年後の2014年、同社はスイスに渡り、初めてバーゼルワールドに参加したところ、すぐにヨーロッパの主要団体から評価を得られた。CIGAデザインは創業からわずか10年でレッド・ドット・デザイン賞を9回、ドイツデザイン賞を3回、そしてiFデザイン賞を2回も受賞している。しかし昨年までは時計専門の賞を受賞したことはなかった。

独自のやり方でスイス勢に打ち勝つ

スイスの時計産業は伝統に支配されており、特に伝統的な時計産業の中心地出身でない新参者がそれを突破することはほぼ不可能である。しかし昨年のGPHGでCIGAデザインが受賞したことは、こうした古い慣習が変わりつつあることを示す証拠である。

 ドクサやオリスといったレガシーブランドから、Massena LABやanOrdainといったインディペンデントブランドまでがひしめくなか、CIGAデザインは国際的な知名度はないものの、デザインの斬新さと時計づくりへの型破りなアプローチを強調し、独自の地位を確立したのである。

 CIGAデザインは興味深いデザイン(地球儀は地形の詳細を示すために彫られている)と、純粋に想像力に富んだ機械式時計製造を組み合わせ、そのすべてを1000ドル以下からという比較的手ごろなパッケージに収めたことが受賞の理由となった。

 「受賞したときはとてもうれしかったですよ」と張氏は言う。「この時計は地球を愛する人々のシンボルでありたいと思います。この時計で地球を守り、愛することを人々に思い出させたいのです」

ブループラネットを探求する

CIGAデザインは、現在73名(!)の社員がさまざまなコレクションに携わっており、Amazonなど海外の大手小売店で販売されている。しかしブループラネットのアイデアを実現するには、外部の専門家の協力が必要だった。

 そこで天津に拠点を置く機械式腕時計のメーカーであるシーガル社が、独自の計時システムを搭載したブループラネット専用ムーブメントの開発・製造に協力したのである。

CIGA Design Blue Planet

 シーガル社とCIGAデザインは、地球を模した時針と分針の新しいギア比を開発した。なお、ダイヤル外周の12時間目盛りは動かない。地球儀に固定されたコンパスローズは時針と分針の両方の役割を果たす。例えば、上の画像の時刻は7時25分ごろを指している。

 「開発に着手したとき、200年の時計の歴史を振り返って発明されなかったものはないのかと自問しました」と張氏は言う。「そして、ほぼすべての時計が1本、2本、3本の針を備えることを発見しました。現在のほとんどの時計では時針が30°回転すると分針が360°回転しますが、私たちの時計では“地球儀”針が30°回転すると、小さい針(内側のインナーリング)が390°回転するのです」

CIGA Design Blue Planet CIGA

 正直、文章だけで仕組みを理解するのは難しく、私も時計を手にするまではスローモーション動作表示の効果を十分に理解していなかったが、慣れてしまえばとてもわかりやすいシステムだ。もしレイアウトが興味を引いたのなら、ケースとダイヤルのクオリティが何よりも素晴らしいことをお伝えしよう。そのディテールのレベルや仕上げの質は、私がこれまで扱ってきた(本当にこれまでかなりの数を扱ってきた)スイス製やドイツ製の3桁万円クラスの時計に勝るとも劣らないものだ。

 ブループラネットのケースサイズは直径46mm×厚み15mmとやや大きめだが、そのつけ心地はほかのケースとは一線を画している。ひとつは完全な真円で、小石のような滑らかさとマットな仕上がりを持つ。ラグがなく、付属のフッ素ラバーストラップがケース下部と一体化して邪魔にならないのは、明らかにIKEPODの影響を窺わせる。また、立体的な地球儀型のフェイスの直径は約26mmと小さめなので、腕につけたときの視覚的なインパクトを軽減している。

CIGA Design Blue Planet

ブループラネットの最新モデルは、シースルーバックのクリスタルに受賞をアピールするGPHGのロゴをプリントしている。

 ケースには鋭角や角がなく、ケースバックには人の手首の自然な傾斜にフィットするような滑らかで緩やかなスロープがデザインされており、エンドユーザーのことをよく考えて設計されていることがわかる。ニューヨークで用事に出かけるとき、この時計がとても簡単に装着できることに驚いたほどだ。腕につけていることを忘れるようなことはなく、快適だった。CIGAデザインから提供されたサンプルの時計はチタン製だったが、CIGAデザインのウェブサイトでは、ステンレススティール製はチタン製より20gほど重くなるだけなので、手首への装着感にそれほど大きな影響はないだろう。

 ダイヤルは、ともすれば陳腐になりがちなデザインだが、実によくできていて魅力的だ。立体的な地球儀にはアフリカ、アジア、オーストラリア、中東などの山脈や地形を再現し、実際の地形データを反映した複雑で微細な彫刻が施されている。地球儀の表示部分は明らかに湾曲しており、時計全体に実に興味深い奥行き効果を与えている。

 私は心底、次のように考えている。CIGAデザインのブループラネットは、私がこれまで扱ったどの時計とも異なっている。だからといって、ブループラネットに採用された計時表示が特に実用的だと思うかというと、そうではない。しかし、それは何か違うことをしようとする本物の成功例だ。時計製造のような保守的な世界で、そのような姿勢は賞賛されるべきなのだ。

 ありがたいことにGPHGの審査員もそこに同意してくれたようだ。

今後の展開

ブループラネットはCIGAデザインが繰り返し応用できるプラットフォームである。デザイン言語とムーブメントができあがった今、この針を省いた表示機構は何度でも生まれ変わることができるのだ。地球をモチーフにするのではなく、「月や携帯電話など、何でもいいのです」と張氏は語る。

 張氏は今後の計画について多くを語らないが、ブループラネットの次のエディションが控えていることは予告している。しかし彼が約束するのは、彼の時計は常に親しみやすい価格であり続けるということだ。例えば、今回撮影したチタン製のブループラネットは1099ドル(約14万7000円)、SS製は899ドル(約12万円)という価格設定になっている。

CIGA Design Blue Planet

 ブループラネットは、これまで張氏が発表してきたどのモデルよりも細部まで作り込まれた時計であるため、“ハロー効果”を持つ新製品として、より高い価格帯で販売したい誘惑に駆られるのは当然のことだろう。多くの企業家や中小企業の経営者にとって、CIGAデザインがGPHGから受けたような評価は価格の上昇を正当化する。しかし、張氏は自分の時計を身近なものにすることに専念しているのだ。

 「私がこれまでやりたかったのは、できるだけ多くの人に使ってもらえるようないいデザインを作ることだけなのです」

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CIGAデザインの詳細については、公式サイトをご覧ください。