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大きなウォッチオークションシーズンが間近に迫っているが、秋の到来とともにすでにいくつかの小規模なオークションが開催され、そこには興味深い時計が出品されている。ひとつ目は、フレディ・マーキュリー(Freddie Mercury)の自宅にあった多くの遺品から出品された、1980年代のセイコーである。その後、ヴィンテージ、ネオ・ヴィンテージ、そして現代のインディーズの世界で何が起きているのか、最近のオークションからいくつかの時計を取り上げながら見ていく。
ではさっそく始めよう。
フレディ・マーキュリーの遺品から見つかったセイコー パルスメーター
先週、サザビーズにて開催された複数のオークションでは、元クイーンのフロントマン、フレディ・マーキュリーの遺品から1400点以上が競売にかけられた。彼のピアノと手書きの歌詞がメインとなり、これらは100万ドル(日本円で約1億4775万円)以上で落札されている。しかしマーキュリーの屋敷にあった、シンプルなクォーツ製セイコー パルスメーターは、少なくとも数人の入札者の鼓動(パルス)を高鳴らせた。
1982年製の赤いセイコー パルスメーターは、300ポンドから500ポンド(日本円で約5万~9万円)のエスティメートがつけられていたが、最終的に3万5560ポンド(日本円で約650万円)で落札された。マーキュリーと関係がなければ、このクォーツウォッチの価値は数百ポンドだ。この真っ赤なセイコーはアラーム、クロノグラフ、パルスメーター機能を備えている。いつも華やかなマーキュリーのワードローブやアクセサリーのなかにあると思うと、これはなんとなくなじんでいる。それでも昔のマーキュリーの画像を見ても、彼がパルスメーターを装着していた証拠は見あたらない。しかし、たとえ彼がそれを身につけていなかったとしても、偉大なロックスターのアイテムを所有するという事実は、モンスター級の結果を得るには十分だったようだ。
マーキュリーの時計で注目されたのはこれだけではない。別の邸宅のセールでは、4つのカルティエのデスククロックが、すべて1万ポンド(日本円で約185万円)以上で落札された。さらにオークションでは、ティファニー製のマーキュリーの口ひげ櫛が意外なヒット商品となり、15万ポンド(日本円で約2745万円)以上で落札されている。
セイコーの時計やいくつかのカルティエの時計はそこまで重要ではないかもしれない。ただマーキュリーの遺品のなかから歴史的に重要なアイテムが、最終的に公共の場や博物館の手に渡り、少なくとも展示され、誰もが鑑賞できるようになることを願っている。またより多くの資金が時計と時計オークションに流れ込んで、歴史上最も重要な時計にも同じ未来が訪れることを望む。悲しいことに、過去数年間にオークションで落札された重要な時計の多くが、たとえそれが安全な人の手に渡ったり、素晴らしいコレクションに加えられたとわかっていても、個人の手に消えてしまっているのだ。
あらゆる素材でつくられたネオ・ヴィンテージのブレゲ パーペチュアル・カレンダー
これとは別にサザビーズはニューヨークでオンラインオークションを開催し、今週終了している。9月に行われるオンラインオークションは、大物が見つかる場所ではないが、マーケットの現状とオークションがどのような時計を委託しているのかを垣間見ることができた。興味深いヴィンテージウォッチはあまりなかったが、いくつかの結果については議論したいと思う。
まずこのセールには、90年代製のブレゲが大量に出品されていた。そのなかにはイエローゴールド、ピンクゴールド、プラチナを使用したリファレンス3310、クラシック・パーペチュアル・カレンダーのトリオも含まれていた。これはダニエル・ロート(Daniel Roth)がブレゲを率いていた時代のもので、当時はまだマスターウォッチメーカーが雇われており、ブレゲの伝統的な懐中時計を腕に巻けるように進化させるという任務を担っていた。3310はそのような作品のうちのひとつで、ブレゲ自身が製作したかのような、完全にアシンメトリなデザインを持っている。
これはブランドが手を抜かなかった時代の、伝統的なウォッチメイキングの美しい例である。ラグはクラシックな36mmのコインエッジケースに後付けされている。文字盤には少なくとも、4種類のギヨシェ模様が施されており、これはブレゲが最近発表したQP(パーペチュアルカレンダー)で見られる単一のパターンよりも、はるかに手間と時間がかかるものだ。このギヨシェを完成させるには、ローズエンジン旋盤の作業が必要になる。現代のブレゲがこれを廃止したという事実は、これらの時計がいかに特別なものであったかを示している。
この時代のブレゲは、近年コレクターのあいだで人気を集めており、2万4130ドル(日本円で約360万円)で落札されたプラチナを筆頭にどの時計も見積もり額を上回っているが、それでも価格はまだ手頃なほうだ。今のブレゲ QPが、先に述べたような理由でそれほど丁寧につくられていないにもかかわらず、1157万2000円(税込)もすることを考えると、それほど悪いとは思えないからだ。
この3310の生産数はよくわかっていない。70年代から80年代にかけてブレゲのディレクターを務めたフランソワ・ボデ(Francois Bodet)が以前、 “ひとつのパーペチュアル・カレンダーを作るのに30人もの人員が必要なため、ブレゲでは年間2、3本のパーペチュアル・カレンダーしか作っていない”と話していたことがある。ということはブランドが約40本しか作っていないことを意味するので、これは極端に低い見積もりのように思われる。このようなものはもっと頻繁に出てくるものだが、それでも3つの金属が隣り合わせに並んでいるのを見るのはうれしい。おそらくすべて同じコレクターから委託されたものだろう。
ほかにもジェラルド・ジェンタのQPや、オリジナルのショパール L.U.C(個人的に気に入っている)など、90年代に生まれた素晴らしい時計製造の例がいくつかあったが、それらについてはまた別の機会にお届けしよう。
アバクロンビー&フィッチで販売されたホイヤー シーフェアラー(かなりいい状態に限る)
ヴィンテージホイヤーの市場は比較的低迷気味だが、サザビーズではホイヤーの“アバクロンビー&フィッチ シーフェアラー”が、2万320ドル(日本円で約300万円)で落札と好調だった。6月にクリスティーズではるかに高い、4万320ドル(日本円で約600万円)で販売された後期の2447 シーフェアラーと比較するために、このRef.2444 シーフェアラーについて言及したいと思う。
2444 シーフェアラーは、50年代に製造されたものとしては比較的珍しく、この例のコンディションはまずまずのようだった。ケースはポリッシュされ、文字盤にはいくつかのキズ(特に3時位置のインダイヤル)が見られたが、重大な欠点はないようだった。
しかし、2447 シーフェアラーは今年の6月には倍の価格で取引されている。その理由は、2447 シーフェアラーのほうが希少であり、ヴィンテージホイヤーを特徴づけるシルエットのひとつである、より興味深いカレラケースを採用していたからだ。Alpha Handsは、2447 シーフェアラーの動向を記録し、市場に出回る15本以下の個体を追跡した。クリスティーズが販売したサンプルは完璧ではなかったが(例えば、針は再加工されていたが、それは適度にマッチしていた)、文字盤はクリーンかつケースもシャープだったので、なぜこのような希少な時計が4万ドルになったのかは容易に理解できる(ちなみに同オークションもクリスティーズのなかでは低調を見せ、30%のロットが売れ残った。人々はこれを“大不況の期間”と呼んだ)。
一方で2444 シーフェアラーは単に“コンディション良好”、“かなり珍しい”というだけである。このふたつの似たような時計の価格差は、非常に状態のいい真に珍しい時計が、まあまあいい時計に比べてオークションでプレミアムがつくことを物語っている。
ハイエンドインディーズの調子
一方で、ここ数週間でインディーズの時計の何本かが100万ドルで売れている(あるいは少なくとも100万ドルを要求する)。こんな世界になったこと自体おかしいことだ。数週間前に、デュフォー(Dufour)のプラチナ製シンプリシティを取り上げたが、今度はWristcheckとA Collected Manの両方が、ロジャー・スミス(Roger Smith)のシリーズ2 オープンダイヤルを約100万ドルで出品しているのだ。
スミスは自身のシリーズ2を“ゲームチェンジャー”と呼んでいる。これは彼の師であるジョージ・ダニエルズ(George Daniels)が発明した、同軸脱進機の改良を追求した最初の量産型時計である。ACM(A Collected Man)とWristcheckで出品されたシリーズ2 オープンダイヤルは、スミスの初期の控えめな作品から、よりアヴァンギャルドなものへと美的に進化したものだ。ウォッチメイキングの観点から言えば、シリーズ2はスミスが“ダニエルズ方式”に則って、すべて自社生産した最初の製品でもある。
しかし、すべてがポジティブな100万ドルという値付けではない。このシンプリシティは販売までに数カ月を要し、しかも現在も“予約済み”(すなわち、多分まだ支払いも販売もされていない)と表示されている。一方、Wristcheckはシリーズ2 オープンダイヤルの開始価格を115万ドル(日本円で約1億7000万円)として委託しているが、いまだ9月22日までオファーを募っている。このプロセスはハイエンドインディーズ市場において、ロジャー・スミスより高値で買い取る可能性が残された、いくつかの不確実性を示しているように見える。私は完全にオープンで透明性のあるオークションでない限り、売り手が単一の希望価格で落札することを望む。そうでなければ、おかしなビジネスが発生する機会が生まれてしまう。対してACMは、シリーズ2の価格を若干下げ、78万5000ユーロ(日本円で約1億4370万円)で出品している。
流通市場における、これらのハイエンドインディーズの価格は頭打ちになったのだろうか? もしそうなら一部のバイヤーがプライマリーマーケットでのインディーズの価格上昇に不満を持ち始めていることを意味する。何年ものあいだ、デュフォーのシンプリシティには7桁の値札がついていたのだ。現在では60万ドル(日本円で約8870万円)を超える価格で提供されている。スミスの時計も、過去5年間で3倍近くになり、シンプリシティと同程度の価格で提供されている。数年前、価格が現在の数分の1だった時代にこの時計を購入すると約束した人々にとっては、心の折り合いをつけるのが難しいことである。
価格と価格戦略は、特にインディーズの場合、ひと筋縄ではいかない。これらの時計職人のなかには、存命のアーティストと見なされている人もいるため、彼らの作品はそれに応じて評価されている。しかし何年ものあいだ、これらの時計職人の多くは、自分たちが手掛ける美しい作品の価値にまったく気づいていなかった(例を挙げると、デュフォー氏は2010年まで自身の時計でお金を稼いだことがないと言っていた)。市場が価格上昇に耐えられるようになった今、それを反映して価格をどれだけ上げるべきか? これは簡単には答えの出ない問題であり、現在コレクターが絶えず議論する、割り当て、フリッピング(転売)、マーケットにまつわる、多くの問題をはらんでいる。
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