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グランドセイコー 44GSで切り取る日本の情景: The Art of Dials

グランドセイコーが尊ぶ日本の美意識を体感する。

 1960年に誕生以来、日本の技術力と美意識を体現し、腕時計の最高峰を追求し続けているグランドセイコー。2017年にセイコーから独立ブランド化し、時の本質に迫るべく組み上げられた革新的なムーブメントや独自のダイヤル表現が評価され、海外の腕時計市場においても確固たる地位を築いている。今年2022年には、日本の時計メーカーとして初めてWatches & Wonders Genevaに出展を果たし、国際的な存在感をますます高めており、同社の一挙手一投足を世界中の時計愛好家たちが注目している。

 60年以上もの歴史を誇るグランドセイコーのなかでも、1967年に発売された44GSは、「セイコースタイル」を確立したモデルとして名高い。光と陰の調和を強く意識し、平面を主体とするデザインなど3つの基本方針の下、9つのデザイン要素を掲げ、歪みのない鏡面を実現するためのザラツ研磨を導入するなど、のちのグランドセイコーのあり方が、この44GSで決定づけられた。

 今年、この44GSが誕生55周年を迎えたことを記念するモデルとして、その理念を継承しながら現代的解釈を加えた44GS現代デザインに、特別なダイヤルを採用した限定モデルが登場する。44GSというキャンバスに描き出された4つのモデルから、美の世界観を堪能したい。

早朝の雲海: SBGP017

 グランドセイコーのクォーツモデル・スプリングドライブモデルの製造拠点は長野県塩尻にある「信州 時の匠工房」に集約されている。グランドセイコー専用クォーツムーブメント9F系の標準精度である年差±10秒を年差±5秒まで高めた特別精度のCal.9F85を搭載した、このSBGP017も信州を故郷とする。

 豊かな自然に囲まれたこの地では、早朝、雲海が発生することがまれにある。様々な気象条件が揃ったときだけしか見ることができず、その時間もわずかしかない。雲海を目にすることは極めて貴重な体験と言えるだろう。そんな雲海をイメージしたダイヤルが、このモデルに採用された。

 独特な凹凸感に富んだテクスチャーで表現された雲海が、早朝の空を思わせるわずかに青みがかった文字盤上に広がっている。セイコーは、昨今のGSでアイコンにもなっている有機的な型打ち技法によって、これを実現。大小の凹凸を表現するために複数の砥石を用い、手でえぐるような模様つけを施すなど、ごく限られた文字盤の厚さの中で、いかに立体的な深みを表現するか苦心しながら母型が製作されている。

 雲海という奇跡的で貴重な自然現象を切り取ったこの文字盤には、“ほんのしばらくのあいだ”を意味する「玉響(たまゆら)」の名が与えられた。平滑な多面構成によるシャープで凛としたケースと、柔らかみのある文字盤上の雲海とが、独特なハーモニーを奏でながら、和の美意識を伝えている。またCal.9F85は、特別精度にふさわしく、美しく装飾仕上げが施され、シースルーバックから眺めることができる。

信州の絹糸: SBGA373

 ゼンマイを動力源として駆動する機構と、水晶振動子とICにより精度を制御する機構とをハイブリッドしたセイコー独自のスプリングドライブキャリバーを搭載するこのモデルも、信州の工房で生まれたものだ。かつて信州は、シルクの一大生産地として知られていた。これに敬意を表して開発されたのが、グランドセイコー独自の厚銀放射ダイヤルである。まるで絹糸のように繊細な放射状の目付による、独特の深みと柔らかさのある光沢感を特徴とする。

 この文字盤は熟練技術者が専用の機械を用い、たいへんな手間暇をかけて仕上げている。まずベースとなる板材を高い精度で整面、鏡面研磨仕上げし、そこに厚めの銀メッキを施す。ここまで繊細な放射模様は、柔らかい銀ならではの表情だ。銀は酸化による錆や変色リスクが高く、品質管理に非常に気を遣うという。また、メッキは厚みがあるほど、ベースとなる板材の凹凸を反映しやすいため、最初の段階で完璧な平滑面に仕上げる必要がある。そして銀メッキの上から、熟練の技で超繊細な放射目つけを施し、さらに色付け、ラッピング、再度の鏡面研磨などのプロセスを経て完成に至る。

 スプリングドライブならではのスイープ運針するブルースティール秒針が、晴れた日の朝の光を思わせる厚銀放射ダイヤル上をなめらかに滑っていく。時計に目をやるたびに、流れ行く時が、より新鮮で印象的に映るに違いない。ザラツ研磨によるケースのシャープな輝きと、厚銀放射ダイヤルのマイルドな煌めきとのコントラストも味わい深い。

感性磨く砥石: SBGH279

 グレーという色は実に奥が深い。江戸時代には「四十八茶百鼠」という言葉が生まれたが、一口にネズミ色と言っても、100通りものバリエーションがあることを示している。

 このモデルに採用されているグレーの文字盤には、独特な縦ラインが施された「砥石目加工」と呼ばれる仕上げが施されている。ダークトーンのなかで、砥石目の質感はきちんと見えるようにしながら、光沢がつき過ぎないように、砥石の種類や回転速度を随時調整していくところが、熟練の技の見せどころだ。一見、シンプルなグレーダイヤルのようでありながら、よく見ると個性的な砥石目が刻まれた複雑な表情が施されていることは、黒地の着物に同じトーンで模様を施すような、江戸時代の粋な美意識に一脈通じるものがある。

 磨き上げた歪みのない平面を主体とする、グランドセイコーのデザインコードに則ったケースと、砥石目ダイヤルとが相まって、本機はこの上なくクールな印象を醸し出す。ダークトーンのビジネススーツから、モード感のあるモノトーンなコーディネートまでフィットしそうだ。カジュアルな着こなしでも、手元にグッと渋い魅力を加えてくれるに違いない。

 内部に搭載するのは、毎時3万6000振動のハイビートCal.9S85。外乱に強く、姿勢差による精度差や日差のバラつきを抑え、より安定した高精度を実現する。文字盤、外装、機械ともに、長く付き合えるパートナーとしての資格は十分だ。

岩手の名峰: SBGJ203

 グランドセイコーのメカニカルモデルの製造を担うのは、岩手県にある「グランドセイコースタジオ 雫石」である。毎時3万6000振動のハイビート自動巻きキャリバーをベースにGMT機能を加えたCal.9S86を搭載するこのモデルも、ここを故郷とする。その「グランドセイコースタジオ 雫石」から望む、雄大な岩手山の山肌をインスピレーションソースとする岩手山パターンのブラックダイヤルが、このモデルに採用されている。

 昨年、権威あるジュネーブウォッチグランプリに於いて、通称“白樺モデル”と呼ばれるグランドセイコー SLGH005がメンズウォッチ部門のグランプリに輝いたことが大きな話題となった。その白樺ダイヤルと同じ手法で、この岩手山パターンダイヤルも製作されている。まず、熟練技術者が、手加工によって、限られた厚さの中に最大限の凹凸感を実現しながら、複雑なテクスチャーの岩手山パターンの母型を作り上げる。これを用いて、ダイヤルのベースとなる真鍮に熱を加えて柔らかい状態にし、型打ちという模様を転写する作業を進めていく。板材の厚さはわずか0.5㎜と薄いため、破損しないよう細心の注意を払いながら、熟練技術者と最新鋭マシンとの技術を融合させつつ進められる。そのあと、めっき、塗装、研磨、印刷等のプロセスを経て完成に至る。

 ブラックの塗装の中に放射状に広がる岩手山パターンが、自然に由来するダイナミックさと優しい風合いをさりげなく伝え、この時計に独特の魅力を加えている。

「正確で、見やすく、美しく、永く使える最高峰の腕時計」を、グランドセイコーは追求し続けてきた。そのために、多くのモデルがセイコースタイルのデザインコードをもとに開発が進められてきた。ここに44GSが果たした役割が大きかったことは、前述したとおりだ。

 時計の顔である文字盤は、グランドセイコーが尊ぶ日本の美意識を表現するべく、クリエイティブな進化を遂げてきた。そこには、キャリバー製造に優るとも劣らぬ熟練の技巧があり、時計の生まれ故郷にちなんだストーリーもある。

 44GSという共通のキャンバスを使いながら、グランドセイコーの掲げる美意識を、それぞれ個性豊かなスタイルと技法で体現した4モデル。グランドセイコーが、また新たな高みに立ったことを物語るものである。グランドセイコーの繊細かつ独特なテクスチャーは、手に取って初めてその真価がわかるものだ。ぜひ実際に見て、触れて、感じてもらいたい。

Photos: Fumito Shibasaki(2S) Styled: Eiji Ishikawa (TRS) Words: Yasushi Matsuami