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Sculpting the Nature: グランドセイコーのダイヤルが秘める感性

繊細かつ複雑な凹凸模様で、日本の四季の情景を写し取る──グランドセイコーの型打ちダイヤルは、2019年から掲げるブランドフィロソフィー「THE NATURE OF TIME」を体現する表現のひとつ。その原型となる金型は、職人の優れた手業と自然のなかに美を見出す感性によって生み出される。

ケースとブレスレットはヘアライン仕上げを主体とし、随所に入れたポリッシュ仕上げで光と陰のあいだにあるグラデーションを表現する。グランドセイコーに21世紀の新たなスタイルをもたらしたエボリューション9 コレクションの最新作は、夜明け近くの静寂な諏訪湖の穏やかな水面をダイヤルで表現したスプリングドライブモデルだ。柔らかな凹凸の曲面が織り成す波模様を浮かべる水面ダイヤルが使われるのは、セイコーが創業140周年を迎えた2021年に発表された限定モデルSLGA007以来の2作目。今回は異なる色合いのブルーを携えて、レギュラーモデルとしての登場となった。大小ふたつの香箱により120時間のロングパワーリザーブをかなえた最新のCal.9RA2を搭載。スプリングドライブならではのスイープ運針が、繊細な型打ちで表現された水面に映える。

 諏訪湖の情景を切り取った型打ち模様の元となる金型の作り手は、田中工野氏である。ケースやブレスレット、ムーブメントパーツ向けの金型を長く手掛け、そこで培った技術が繊細な凹凸模様に生かされている。

 「型打ち模様の多くは、デザイナーから明確に提示されるわけではありません。写真であったり文章でイメージが伝えられるケースがほとんどです。そのイメージをどのように表現するのかは、我々職人に委ねられています。私は諏訪湖沿いを通勤していて、日々朝夕の情景を見続けてきました。水面は、その時々で実にさまざまな表情を浮かべます。嵐が明けたあとは荒々しく、真冬には凍てつきもします。そのなかで私自身が最も美しいと感じ、心象風景として残っていたのが、ゆるやかな風に穏やかに揺らめく水面だったのです」

セイコーエプソン株式会社WP部品生産グループWP精密加工チーム 田中工野氏。

 その情景を切り取り、いかにしてダイヤルで表現するのか? 田中氏は試行錯誤を繰り返したという。思索は水の表面はどのようにして揺らぐのかという根本にまで至り、波の振動は多方向から伝わっていると気付いた。

 「そこからいくつもの波が重なり合う模様のイメージが膨れ上がってきました」

 そしてそのイメージを実際に金型で表現するため、田中氏は「手付け」という加工方法を選択した。ダイヤル用の金型製作は、その模様ごとにハンマーやルーターなどを用いる手付けと機械加工を適材適所に組み合わせている。またそれぞれに用いる工具を職人自身が自作することもある。

 「手付けとは職人の手業で模様付けをする方法で、柔らかく有機的な表現がかないます。水面という自然界にある普遍的な美しさを表現するには、手付けが最も親和性が高いと考えたのです」

 すなわち水面ダイヤルのパターンは、機械加工が介在せず、すべて田中氏の手作業によって作られているのだ。また金型は、型打ち後のダイヤルの質感にも大きな影響を与える。

 「水の表現ですから、ダイヤルには光沢感が不可欠です。そのために金型にいくつもの潤滑面を与えています」

 結果、いくつもの波が重なりあう水面ダイヤルは、さまざまな方向に備わる潤滑面が受けた光を乱反射して、見る角度によってブルーの色味が移ろう複雑な表情を湛えるに至った。

 自然美を取り込むという、日本ならではの表現をグランドセイコーにもたらした型打ちダイヤルにとって、金型製作が果たす役割は極めて大きい。「デザイナーのイメージや求める質感を実際に再現するためには、型打ち後のいくつもの加工工程との連携がとても重要になってきます」

 型打ちダイヤルのベースとなるのは、薄い真ちゅうの板材。それにプレス機を使って金型を打ち付け、模様を転写する。模様の加工が済んだらダイヤル形状に加工して金属ブラシをかけて艶感を調整する。そしてデイト窓や針穴などを加工し、メッキと塗装を施す。このとき、塗料の色によって金型で得られた質感や印象が変化することもあるという。

 「色が濃く黒っぽい塗料では、型打ち模様の抑揚感が抑えられます。それを見越して金型を作らなければいけません。最終的な着地点に向けて各工程がノウハウを積み重ねることで、ダイヤルの品質は向上していきます」

 色塗装が終わっても工程は続く。模様の凹凸があるとインデックスなどの印字ができないからだ。そのため透明な塗料を塗り重ね凹凸を埋めるが、これをトップ塗装と呼ぶ。そして乾燥後、粗磨きと仕上げ磨きを施し、ダイヤルは完全な平滑面となる。型打ちダイヤルは模様の凹凸が深いため、トップ塗装の厚みは増すのだが、それでも模様の質感や色味が変化しないためのノウハウを確立してきた。型打ちダイヤルは、多くの職人技術が連携し、美を育む。

 型打ちダイヤルは、グランドセイコーが作られる長野県諏訪と岩手県雫石、それぞれの豊かな自然をモチーフとしてきた。グランドセイコースタジオ 雫石がある岩手県の平庭高原に広がる日本有数の白樺の美林の風景を切り取り、2020年に誕生したSLGH005の白樺ダイヤルもそのひとつ。水面ダイヤルよりも深く明確な模様で凛とした白樺林の静寂さを表現したダイヤルの美しさで、2021年度「グッドデザイン賞」と2022年度「レッドドット・デザイン賞」を射止めた。

 その金型は手付けだけでなく、よりシャープなラインが得られる機械加工を組み合わせて作られている。機械加工に用いるのは、職人の手でハンドルなどを操る汎用工作機。操作には、技能を必要とする。さらに金型を母材となる真ちゅうの板材がずれないよう、慎重に7回型打ちすることで、強い存在感を放つ深くシャープな模様がかなえられた。これもまた、職人技術の賜物である。

白樺ダイヤルと水面ダイヤル。

 グランドセイコーの型打ちダイヤルは、自然の風景からさまざまな時のうつろいを感じ取ってきた日本人の感性から生まれた。

 「諏訪と雫石とでは、自然の風景は異なります。白樺ダイヤルのスプリングドライブモデルもありますが、メカニカルモデルとは異なる模様です。そこに暮らす金型職人が日々感じ取っている自然の美しさが、それぞれの型打ち模様に生かされているのです」

 田中氏は、ガーデニングや登山、釣りを趣味とし、茶道も習い始めた。より自然の美しさを感じ取れるようにするためだ。技術だけでなく感性も、グランドセイコーの金型職人は磨いている。写真や映像からではなく、優れた感性を持つ職人が暮らしの中で実際に肌で感じた自然の情景を切り取っているからこそ、型打ちダイヤルの美しさは見る人の心をより強く打つ。

エボリューション9 コレクションSLGA021

115万5000円(税込)

スプリングドライブ(Cal.9RA2)。SSケース。40mm径。厚さ11.8mm。日常生活用強化防水(10気圧)。

エボリューション9 コレクション SLGH005

115万5000円(税込)

自動巻き(Cal.9SA5)。SSケース。40mm径。厚さ11.7mm。日常生活用強化防水(10気圧)。

Photographs:Jun Udagawa / Yoshinori Eto Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Norio Takagi