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グランドセイコー エボリューション9 コレクション “テンタグラフ” SLGC001を長期レビュー

Sponsored by Grand Seiko


日本ブランド初のWatches & Wonders出展やKodo コンスタントフォース・トゥールビヨン SLGT003がGPHG2022でクロノメトリー賞を受賞するなど、世界中の注目がグランドセイコーの一挙手一投足に集まるなか、ブランド初となる機械式クロノグラフムーブメント“テンタグラフ”が満を持して登場。その真価を確かめるにじっくりと時間をかけて試すことにした。

グランドセイコーの“テンタグラフ”は、僕が長らくその登場を楽しみにしていた時計のひとつでした。その理由は、このモデルがリリースされるよりも数年前に特許庁の公開公報(商標)のなかで“TENTAGRAPH”の文字を見つけていたからです。

 その謎はグランドセイコーの出展2年目となったWatches & Wonders 2023でついに明かされることとなります。ブランド初の機械式クロノグラフムーブメント“テンタグラフ”が搭載されたエボリューション9 コレクション SLGC001です。

 “TENTAGRAPH”の名称は、TEN beats per second(10振動)、Three days(3日間のパワーリザーブ)、Automatic(自動巻き)、chronoGRAPH(クロノグラフ)から取ったもの。

 直径43.2mm、厚さ15.3mmとマッシブなブライトチタン製ケースに印象的なブルーダイヤルとブラックセラミックスベゼルを備えたモダンでスポーティな印象のクロノグラフは、見本市のショーケースのなかでもひときわ存在感を放っていました。

 グランドセイコーのブースで実際に手に取ってみると、その大振りな見た目に反して非常に軽快感のあるケースに驚き、美しいダイヤルを眺め、クロノグラフを操作しながら「やはり実機で見なければわからないことは多い」と改めて実感しました。

 ですが、このグランドセイコー初の機械式クロノグラフがいったいどんなものであるかを見極めるためには、さらにたっぷりと時間をかけてレビューをする必要があることも明らかでした。

 

グランドセイコーのクロノグラフ

 SLGC001を深掘りする前に、グランドセイコーのクロノグラフを簡単におさらいしておきましょう。同社のクロノグラフウォッチの根底にある価値観が見えてくるからです。

自動巻きスプリングドライブクロノグラフ GMT Cal. 9R86

 グランドセイコーは、1960年に「世界に挑戦する国産最高級の腕時計をつくる」という志のもとに誕生して以来、高い時間精度、見やすさ、使いやすさ、耐久性という腕時計の本質を高い次元で追求・実現してきたブランドです。

 意外に思われる方もいるかもしれませんが、2007年に自動巻きスプリングドライブクロノグラフ GMTのCal.9R86が登場してからグランドセイコーのクロノグラフムーブメントはスプリングドライブのみ。

Cal.9R86を搭載するグランドセイコー初のクロノグラフ SBGC001(現行モデルはSBGC201)。

 大きなトルクで半永続的な動力源を持つ機械式時計と高い精度と安定性を持つクォーツ式時計の両方のよい部分を取り入れながら、脱進機と電池という本質的な構造的弱点を排除したスプリングドライブは、ブランドの思想を反映したクロノグラフを実現するためのベースとして、最適だったのです。

 約72時間(約3日間)のパワーリザーブと平均月差±15秒(日差±1秒相当)を誇るCal.9R86は、世界で最も正確なゼンマイ駆動のクロノグラフのひとつです。

 また、Cal.9R86を搭載したブランド初のクロノグラフ SBGC001は、計時の際の視認性を高めるためにクロノグラフ秒針と5分の1秒単位の細かい目盛りの距離をギリギリまで詰めるなど創意工夫が盛り込まれていました。

 ここから見えてきたのは、グランドセイコーのクロノグラフを理解するためのキーワードが「高精度」「堅牢性」「視認性」そして「ユーザビリティ」であるということです。


エボリューション9 コレクション “テンタグラフ” SLGC001

 テンタグラフは、3万6000振動/時による計時精度とクロノグラフ作動時でも約72時間というロングパワーリザーブで、その持続時間は世界最長を誇ります。 

 普段自分があまり選ばない大ぶりなサイズのモデルという印象を持っていたSLGC001を2週間にわたって、文字通り毎日着用することにしました。

ムーブメント

ローターには獅子の紋章と“TENTAGRAPH”の文字があしらわれている。

 グランドセイコー初の機械式クロノグラフCal.9SC5は、ベースムーブメントのダイヤル側にクロノグラフモジュールを組み合わせたモジュール式クロノグラフムーブメントです。

 実は「毎秒10振動のクロノグラフを作る」というアイデアは10年以上前からあったそう。テンタグラフの企画を担当したセイコーウオッチ商品企画一部の江頭康平氏によれば、「2009年発表のCal.9S85がベースとして候補に上がっていたものの、厚みのあるケースと約55時間というパワーリザーブから難しいと考えました」。

 それを解決し、テンタグラフの完成を実現へと導いたのが、2020年に発表されたハイビートムーブメントCal.9SA5でした。「Cal.9SA5は薄く、パワーリザーブも長いのです」。

 ベースのCal.9SA5は、ハイビート(3万6000振動/時)にして約80時間のパワーリザーブを実現するため、ふたつの香箱を並列に配置するツインバレルを採用。動力ゼンマイの力を効率よく伝達するためのデュアルインパルス脱進機、安定した精度を実現するためのグランドセイコー独自の巻上ひげやグランドセイコーフリースプラングなど、同ブランド誕生以来のスキルと経験が結集して作られた次世代のムーブメントです。

Hi-Beat 36000 3-Day Chronograph

 9SA5は水平輪列構造が取り入れられることで薄さを重視したキャリバーであったため、発表当時から今後の展開についても期待されていましたが、その最初のムーブメントとなったのが、この自動巻きクロノグラフCal.9SC5というわけです。

 クロノグラフモジュールには垂直クラッチとコラムホイールが採用されており、フルスクラッチから設計されたもので、そのすべてはダイヤル側に配されています。そのためトランスパレントバックから確認できる部分のムーブメントは基本的にCal.9SA5と共通です。

 もちろんムーブメントの曲線を多用した造形、デザインや面取りなどの審美的な美しさは素晴らしいですが、クロノグラフ機構を搭載したことによるムーブメントの構造を見たいという思いに駆られます。

Cal.9SC5のクロノグラフモジュール。

 一体型のクロノグラフにせずモジュール式にした理由について江頭氏は、構造を複雑しないためであると言います「クロノグラフ機構をベースムーブメントから離すと、計時機構とクロノグラフ機構の問題を切り分けられますし、クロノグラフ機構の負荷も減らすことができます」。つまり、グランドセイコーの指針である精度と耐久性をあくまで最優先に考えたということです。

 クロノグラフ機構は見えないものの、非常に特徴的かつ楽しめる部分があります。それはプッシュボタンの押し心地です。

 そのルーツは、1964年に東京で開催された国際的な競技大会向けに作られた機械式のストップウォッチにまで遡ります。同大会での公式計時を努めたセイコーは、100分の1秒計測ストップウォッチのプッシュボタンに「READY/STARTモード」を採用。これは半押し状態にすることで、誤操作が少なくなり正確なスタートを実現するために取り入れられたものです。当時の審判たちからは、その正確性はもちろんのこと、押し心地に対しての称賛の声があったそう。

 実はこれはスプリングドライブクロノグラフモデルにも受け継がれたもので、それが最新作のテンタグラフにも継承されたということです。重すぎず軽すぎない絶妙なクリック感は、実際に触ってみなければわからない部分ですが、クロノグラフというユーザーがムーブメントと直接インタラクションを取ることへのこだわりは、長く使っていく上でとても満足度の高いポイントだと感じました。

 この新しい機械式クロノグラフムーブメントの開発を機にクロノグラフに特化した新たな規格も導入されました。ムーブメント状態で、6姿勢、3段階の温度(8℃、23℃、38℃)にて17日間にわたって検証される通常のグランドセイコー規格に加えて、テンタグラフではクロノグラフを作動させた状態で3姿勢を3日間検証する合計20日間にものぼる厳格なテストが実施されます。

 
ケースとブレスレット

 グランドセイコーの独自のデザイン文法は、1967年の44GSの誕生によって「セイコースタイル」として確立。このデザインコードは、2020年に現代的に進化しました。のちにエボリューション9スタイルという名称が与えられ、グランドセイコーの柱となるコレクションとして導入されました。SLGC001もこのエボリューション9スタイルを体現したモデルです。

 エボリューション9スタイルは、エッジの効いた角ばった造形を維持しながら、薄さや装着感を追求したデザインです。鏡面仕上げとヘアライン仕上げが施された多くの平面が交差し、定評のあるザラツ研磨によってシャープなエッジが形成されています。

 SLGC001のケースは、直径43.2mm、厚さ15.3mmのブライトチタン製。ステンレススティールより約30%軽く、通常のチタンよりも色が明るく、約1.5倍の硬度があり、傷がつきにくいなどの特性があります。

グランドセイコーが独立ブランド化する以前のデザインは特に感じていましたが、同社は堅牢性や信頼性をとても重要視しており、それがケースの厚みにもつながっているのです。

 テンタグラフも厚みはありますが、ケースサイドから見ると特徴のある直線的なラインとアーチを描いたラグ、そしてボックスサファイア風防によって数字ほどの大きさを感じさせません。

 ブレスレットは、23mmと幅広で厚みがあり、ほとんどテーパードが効いていないため、スポーティな印象を強く感じさせます。ケース幅の2分の1以上の幅を持たせることで装着性を向上しているのだといいます。

 サテン仕上げのため一見すると3連のようですが、実は細いコマもわかれて配された5連ブレスレットです。バックルのアジャスト機能は実用的ですが、欲を言えば工具なしで数mm単位の調整が可能なマイクロアジャスト機能があればさらに使いやすくなると思います。

ダイヤル&ベゼル

 独特なテクスチャを備えた深みのあるブルーダイヤルは、SLGC001モデルの最も魅力的な要素のひとつでしょう。テンタグラフを含む同ブランドの機械式モデルが製造されるグランドセイコースタジオ 雫石から望む星々がきらめく夜の岩手山を表現しています。

 岩手山ダイヤルは、非常に細かなテクスチャとサンバースト仕上げを組み合わせたようなスタイルです。中心から放射状に伸びた非常に細かなテクスチャは疾走感を感じさせ、3万6000振動/時というハイビートクロノグラフのスペックにとてもマッチしています。

 針とインデックスの隙間を詰めるため、ダイヤルを2層構造にすることによって積算計とスモールセコンドが凹型に一段低く設計されています。これはクロノグラフ計測時の視認性が高まるだけでなくケースの厚みを抑えることにもつながります。またダイヤルと3つのサブダイヤルの仕上げ分けによって視認性をさらに高めているのです。

 視認性については、かなり細かい部分まで気にする人でなければ気づかないようなこだわりも。そう、グランドセイコーで初めてブルーの日付表示ディスクが採用されているのです。

 これまでは、ブラック、ホワイト、そしてシルバーのみでしたが、クロノグラフ計時の際に視覚的に邪魔にならないようにする配慮がなされています。日付表示のアリ・ナシ論争は常々起こりますが、かなり控えめで、何日か確認しようと思わない限りは消えるような仕様は歓迎する方も多いのではないでしょうか。

 ベゼルは耐久性と耐傷性に優れたブラックのジルコニアセラミックス製。上面のバーインジケーター部分は円周ヘアライン仕上げ、タキメーターのインジケーター部分は鏡面仕上げ分けがされており、これもヘアラインと鏡面の調和を取り入れるエボリューション9スタイルから導かれたものです。

 

着用レビュー

 Watches & Wondersのグランドセイコーブースでテンタグラフはエントランスから一番よく見える位置に設置されていました。その外観の格好良さにとても惹かれましたが、僕の手首は15.5cmと細腕なので、スペックシートの直径43.2mm、厚さ15.2mmという数値を見たとき、直感的に僕のための時計ではないなと考えていました。

 これはこの仕事の面白い部分ですが、そう思っている僕のもとにこの時計がやってきました。それも2週間も! 一抹の不安がありましたが、見た目はかなり好みなデザインのSLGC001を僕はトライすることに決めました。

 普段使いするためにブレスレットを自分のサイズぴったりに調整してもらい、さっそくつけてみるとすぐに意外といいかもしれないと思い始めました。

 ブライトチタンのケースとブレスレットは普段つけているもっと小ぶりなスティールのクロノグラフウォッチよりも軽量で快適なのです。その矛盾しているような状態に少し混乱しましたが、太陽光の下でこのダイヤルを見たときにすぐにサイズのことは頭から消えてこの素晴らしいダイヤルにハマりました。

 光の少ない場所では暗く濃紺のように落ち着いた風合いで、太陽光など強い光が当たる場所では、細かなテクスチャの陰影が濃くなりさまざまな表情を見せます。ダイヤル上にはサブダイヤルなど要素が多いため、煩雑に見えるのではないかと思いましたが、針やインデックスなどははっきりと浮かび上がり、視認性も上々です。

低重心のケースと幅広のブレスレットがしっかりと手首をハグしてくれる。

 1週間ほど経過するくらいから装着感に関しては、ほとんどサイズが気にならなくなりました。SLGC001のラグ トゥ ラグ(全長)は51.5mm。このサイズの時計としてはやや短めの全長です。ケースの両サイドの傾斜と短めのラグからくる全長の組み合わせが手首への低重心なフィット感を高めてくれるためです。

 クロノグラフ計時について言えば、特に遊びのあるプッシュボタンの半押しは、かなりクセになる押し心地です。押し込み始めると途中で引っかかりがあり、このまま少し力を加えると自分が意図した動作をすることが直感的にわかりやすいのです。過去の開発の知識とノウハウが最高の形で受け継がれた好例だと思います。クロノグラフがスタートすると、10振動によってとてもスムーズな運針をみることができます。

 当初はモジュール式ではなく一体型クロノグラフだったらよかったのにと思いましたが、ケースバックを通しては見えなくても、その魅力はダイヤル上でも堪能できるように思いましたし、モジュール式を選択した理由がよくわかりました。

 忘れがちですが、チェックしなければならない項目のひとつに周りからこの時計をつけていてどう見えるのかという部分があります。自分で時間を確認するように時計をみるのとでは見え方は異なるからです。

 この記事に掲載されているいくつかの着用写真をご覧いただき、ぜひ皆さんにご判断いただければと思いますが、15.5cmの細腕にもかかわらず、個人的にはなかなかいいフィット感だと思います。

 もちろん自分の手首のサイズを考えるともう少し小径サイズだったらなとはどうしても考えてしまいます。でもグランドセイコーのユニークで特徴的なケースデザイン、素晴らしいダイヤル、そして高品質な自社製機械式クロノグラフムーブメントが搭載されたSLGC001は、僕個人としてはその価格に十分見合う時計に仕上がっていると思いました。時間をかけた分だけフィットし、楽しめるモデルのように感じました。

 これはほかのどんな時計にも言えることですが、外観に惹かれているけれどサイズを表す数字で諦めようとしているなら、その前に実物を手に取ってみるまでは判断してはいけないという大切なことをこれまで以上に強くこの時計をとおして学びました。

グランドセイコー エボリューション9 コレクション SLGC001: ブライトチタン製ケース、直径43.2mm、厚さ15.2mm、ラグ トゥ ラグ(全長)51.5mm、ラグ幅23mm。ブルーの“岩手山パターン”、Cal.9SC5: 自動巻き、時・分・秒、クロノグラフ機能(30分積算計、12時間積算計)、最大巻上時約72時間駆動、3万6000振動/時。価格: 181万5000円(税込)

 

Photos:Tetsuya Niikura(SIGNO) Styled:​Eiji Ishikawa(TRS)