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Hands-On ハミルトン カーキ フィールド エクスペディションがブランドの新たな地平を拓く

ミリタリーウォッチの分野で知られる時計が、この秋新たな“冒険”へと旅立つ。

スイスの本格時計に少しでも憧れたことがあるなら、ハミルトンのカーキ フィールドコレクションを一度は目にしたことがあるだろう。特に、アイコン的存在であるカーキ フィールド メカはミリタリーウォッチを語るうえでは欠かせない名機であり、幾度かのアップデートを経てアメリカの軍用時計の歴史を今に伝え続けている。視認性に特化したシンプルなインデックスや飾りっ気のないケース形状は、第二次世界大戦時に短期間で大量生産を行うための意匠であったり、今では当たり前の秒針停止機能も作戦開始前に“ハック!”の掛け声で時計を動かして足並みを揃えるために搭載された歴史があったりと、1本の時計に秘められたバックボーンを挙げると枚挙にいとまがない。

 そんなカーキ フィールド メカ以外にも、カーキ フィールドコレクションに属する時計には(キングやオートクロノなど)軍モノテイストが強いモデルが揃っている。それゆえに、僕らは同シリーズを語るときはミリタリーウォッチという文脈を前提に話を始めるのだが……、この秋、カーキ フィールドの新作でその認識を改める必要が生じた。それが、9月22日(金)に発売されたカーキ フィールド エクスペディションである。

 カーキ フィールド エクスペディションは37mm径と41mm径の2サイズ展開で、それぞれにブラック、ホワイト、ブルーダイヤルにレザーストラップを組み合わせたものと、ブラックのブレスレットバージョンの4モデルが用意されている。“Expedition=遠征、調査”の名前からわかるかもしれないが、今回のテーマはアウトドアであり、探検である。戦場から雪山、砂漠、未開のジャングルへと、文字通りフィールドを変えた形だ。

 先日、ハミルトン・インターナショナルCEOであるヴィヴィアン・シュタウファー氏に今回の新作ついて直接話を伺う機会があった。「カーキ フィールドコレクションは、ミリタリーウォッチとしての強いDNAとスピリットを持っています。しかし、今回はトレンドであるアウトドアやアドベンチャーの空気を落とし込み、エッセンスは残しながらもミリタリーの世界から離れた新しい時計を作りたかったんです」。なるほど、確かに夜光塗料を塗布した時分針や、同じく夜光塗料による大ぶりなアラビアインデックスには同シリーズらしい視認性向上へのアプローチが感じられるように思う。しかし、主張のあるコンパスデザインの両回転ベゼルにより、その顔立ちは一気にアウトドアテイストへと振れている。

 ベゼルにコンパス機能を備えた時計は数こそ多くないものの、各社からリリースされている。例を挙げるならば、セイコー プロスペックス(SRPD31など)やシチズン プロマスターのエコ・ドライブ アルティクロン、タイメックスのエクスペディション ノースシリーズなどだろうか。これらはいずれも過酷な自然環境下で活躍することを前提としたプロユースウォッチで、その顔立ちを見れば僕らはすぐに「ああ、これは探検用の時計なんだな」と理解できる。カーキ フィールド エクスペディションも、サテン仕上げの分厚いコンパスベゼルを備えたことで、アウトドアを意識した時計であることを強くアピールしているように思う。

 念の為に言っておくと、コンパスベゼルは決して飾りではない。スマートフォンの電波も届かないような山奥や僻地で、きちんと活躍してくれる。アナログウォッチを愛用するアウトドアマンにとっては耳にタコができるほど聞いた話かもしれないが、その使い方を一応解説しておきたい。

 まずは、太陽を確認する。そして、時針を太陽の方角に合わせる(より正確に方角を知りたいなら、ペンなど細いものの影に合わせるようにするといい)。そのとき、時針と12時のインデックスのちょうど中間が南ということになる。あとはベゼルを回転させて“S”を南に合わせれば、方位がわかるという寸法だ。普通に生活するうえで必要のない機能と言われればそれまでだが、ナビタイマーの回転計算尺や、第3時間帯を示すGMTウォッチの24時間表示ベゼル、パルスメーターにロマンを感じるなら、きっとその価値を理解できるはずだ。

 ちなみに、ミニマルさと視認性という点でカーキ フィールドらしさは匂わせつつも、今作においてベースとなったアーカイブは存在しないとヴィヴィアン氏は言う。「復刻などヒストリカルなトレンドがあることも理解していますが、カーキ フィールド エクスペディションは現代のニーズとモダンなインスピレーションによってイチからデザインした時計です。カスタマーの声を受け、ラグシェイプはつけやすいよう短めに変更。さまざまな要望に応えられるようにサイズも、スポーツウォッチらしく視認性も高い41mm径と、グッと小ぶりな37mm径を用意しました。また、今作は80時間のパワーリザーブを持つ自動巻き Cal.H-10を搭載しています。ミリタリーウォッチが手巻き、というのは当たり前すぎて、これまでとは異なるものを作りたかったのです」

 2サイズを並べてみれば、サイズの差は歴然だ。両サイズともラグ幅が20mmとなっていることもあり、37mm径のケースがより小ぶりに見える。ちなみに、ラグ幅はカーキ フィールド メカをはじめとした多くのカーキ フィールドコレクションと同じだ。すでにほかのカーキ フィールドを所有しているなら、きっとストラップの付け替えも楽しめると思う。ここは個人的にポイントが高いと思った。

 ケースにはほかのカーキ フィールドコレクション同様、特に面取りなどは施されていない。ベゼルも含めた全面サテン仕上げには、ツールウォッチとしてのインダストリアル感が漂う。厚さは37mm径モデルが10.45mmで、41mm径モデルが11.5mmと、回転ベゼルを備えた自動巻き時計としてはやや控えめでコンパクトだ。ラグトゥラグも37mm径モデルが44.5mmで、41mm径モデルが48mmとなっており、その寸法も寄与してか手首への収まりもいい(実際の着用イメージは以下の写真を参照して欲しい)。個人的には、せっかく互換性が高いラグ幅なのだからクイックチェンジ機能を搭載してくれていればさらによかったとは思う。

 裏蓋はカーキ フィールド メカとは異なり、スケルトンバックとなっている。ムーブメントが動く様子を見たい機械式時計初心者にも刺さる仕様は、新たなフィールドに挑戦するモデルとして合理的なチョイスだと思う。既存モデルとの明確な違いでもあり、ハミルトンユーザーにとっても新鮮に映るポイントだろう。事実、ヴィヴィアン氏は「従来のカーキ フィールドコレクションを手に取ったことがある人にも知ってもらう、いい機会になればと思っています。カーキ フィールドはハミルトンならではのもので、替えの効かないコレクションです。このカーキ フィールド エクスペディションで、その世界観を知ってもらえればと思います」と語っている。

 なお、僕個人として一番感動したのはメタルブレスだった。そもそもだが、ハミルトンにおいてはメタルブレスのモデル自体が少ない(ヴィヴィアン氏いわく、全体の3割程度なのだとか)。ブランドとしてNATO、レザーブレスに注力するなか、今作のメタルブレスの出来は素晴らしく感じた。形状としては、カーキ フィールド チタニウム オートと同じものだと思う。無垢のSS素材はひとコマひとコマが肉厚で重厚感があり、ケースの存在感と重量とのバランスもいい。また、プッシュ3つ折り式のバックルは両端が斜めにカットされており、それ自体にも厚みがあって高級感が漂う。コマ間のガチャつきもない一方で、手首に沿うようなしなやかさも併せ持っている。価格はサイズを問わずブレスレットが16万5000円、レザーストラップが15万2900円(ともに税込)となっているが、差額が1万2000円程度で本当にいいのかと疑いすら持ってしまった。

 37mm径モデルの着用イメージは、写真のとおりだ。僕の手首周りは17cmと日本人男性の平均をいっているが、ラグトゥラグも手首のうえにきれいに収まっていて、サイズのうえでは申し分ない。昨今のスモールウォッチトレンドにも合致していて、すでに38mm径のカーキ フィールド メカに慣れ親しんでいる層にもしっかりマッチすると思う。

 ただ、唯一心残りだったのはレザーストラップの強靭さだ。もちろんこの時計はドレスウォッチではないし、最初から手首に馴染むようなしなやかさを求めるのは野暮だ。加えて、少しでも分厚いほうがツールウォッチとして長寿命でもあるだろう。しかしそれをおいても、このレザーストラップは頑固だった(ラグ付近が厚さ3mmでバックル部分が厚さ2mmと、着用感のための調整がされてはいるが……、手首に食い込んでいる様子がわかるだろうか)。レッド・ウィングのアイリッシュセッターのように、あるいはホワイツのスモークジャンパーのように、使い込んでいくうちに肌に馴染んでいくものだとは思う。しかし、メタルブレスのしなやかさと比較するとどうしても気になってしまった。

 以下は41mm径のモデルの着用写真だ。ラグの短さにこだわったというヴィヴィアン氏の言葉もあったが、実際に手首に巻いてみると41mmというサイズを感じさせない。メタルブレスの柔軟さもあるだろうが、40mm未満の小ぶり時計に傾倒しつつある僕も、決して大きすぎるとは思わなかった。むしろ、視認性に優れる分、メタルブレスモデルでは41mm径のほうが適正であるようにも感じられた。今回の新作を貸し出してもらうまでは自分で購入するなら37mm径モデル一択だと思っていたのだが、その考えは大きく揺らいだ。何度も言うが、それほどブレスの出来がよかったということでもある。

 余談だが、CEOのヴィヴィアン氏は41mm派だという。「私はマウンテンガイ(山男)です。週末にはハイキングに出かけますし、バイクでの遠征も楽しんでいます。また、昔ながらの感性を持つ男性なのでビッグなものがいいとも思っています。もちろん、スモールウォッチのトレンドも理解していますけどね」。僕は決してアウトドアマンでもなければマウンテンガイでもないが……、この41mm径は正直“アリ”だと思った。サイズが大きくともデザイン的に間延びした印象がなく、詰められたラグトゥラグの設計によって、収まりも良好だった。僕と同じくらいの手首サイズの人ならば、個人のテイストによってふたつのサイズ、どちらがよいか選べばよいだろう。

 「カーキ フィールド エクスペディションは、今後数年のスパンで成長させていくコレクションです。素材、ダイヤル、デザインの面でリモデルを行いつつ、今後も何かしら新たな取り組みを行う予定です」。ヴィヴィアン氏はそう語るが、ミリタリーの路線に沿わないカーキ フィールドコレクションの新しい試みとして、今モデルはすでに相当な完成度を持っているように僕は感じている。素材に実用的なチタンを採用するのか、ノスタルジックなブロンズで仕立てるのか……、はたまたNATOへの換装やPVD によるオールブラック化を図るのか……、妄想は膨らむが、近いうちにハミルトンからその答えをもらえることは間違いない。聞けば、従来のカーキ フィールドコレクションもアウトドアに寄せた提案を行うつもりだという。復刻に注力するブランドも多いなか、新たな提案を続けるハミルトンは稀有な存在だが……、インタビュー中にヴィヴィアン氏は「未来に残り得るであろうインスピレーションを、今作っているのです」と言った。将来参照するべきアーカイブを今作る。未来に向けた挑戦を続けるその姿勢はとても尊く、ただでさえプロダクトとして優れるカーキ フィールド エクスペディションを所有する意味を示してくれるものだと思う。

ハミルトン カーキ フィールド エクスペディション。直径37mm×厚さ10.45mm、直径41mm×厚さ11.5mm、ラグからラグまでは44.5mm、48mm、100m防水。ステンレススティールケース、サファイアクリスタル風防。ブラック、ホワイト、ブルーダイヤル。Cal.H-10、80時間パワーリザーブ、時・分・センターセコンド、コンパス式両回転ベゼル。ラグ幅20mm、レザーストラップ、メタルブレス付き。価格はメタルブレスが16万5000円、レザーストラップが15万2900円(ともに税込)。

詳しくはハミルトンのWebサイトをご覧ください。