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Hands-On 34mmのA.ランゲ&ゾーネ 1815を実機レビュー

“サイズがすべてではない”という信念を持つ時計愛好家に捧ぐ。


1ヵ月以上前に開催されたWatches & Wonders期間中にHODINKEE Radioを聴いたなら、A.ランゲ&ゾーネの最新作について耳にしているだろう。新しいロレックス ランドドゥエラーについて軽く話したあと、我々の初日のポッドキャストで最初に取り上げたブランドがランゲであった。それほど話題の中心にあったのだ。同僚のマライカ・クロフォードは“HODINKEEで働いている人間はみんなランゲに夢中よ”と語っており、それはおそらく誇張ではない。このブランドは、カタログのほぼすべての時計で愛好家の心をつかむ特別な力を持っている。ベン(・クライマー)がごく簡潔に言い表したように、“我々は時計とは何かをわかっているからだ”と。

Lange 1815 34mm

 A.ランゲ&ゾーネといえば、時計フェアでの新作発表において常軌を逸した複雑機構が“中心”に据えられていると想像してしまうことが多い。文字どおり“中心”に、しかも特大サイズで表現されるのが常だ。今年のミニッツリピーター・パーペチュアルのように、時にはブース内のスピーカーからチャイム音を鳴らすこともある。しかし意外な展開として今年話題をさらったのは、控えめな佇まいの1815だった。絶妙なバランスを突いた34mm径のケースに刷新され、すべての人々の関心を引きつけたのである。厚さ6.4mmとスペックも申し分ない。そしてグランド・コンプリケーションに対してもエントリーモデルに対しても、1ミクロンの精度まで注ぎ込むことで知られるこのブランドにとって、新Cal.L152.1の登場は驚くべきことではない。34mmの1815は、ここ数年で2万5000ドル(日本円で約360万円)以下の価格帯におけるランゲで最も魅力的な新作である。

 ランゲのプロダクト・ディレクターであるアンソニー・デ・ハス(Anthony de Haas)氏は、猛烈で情熱的なエネルギーを持つ人物である。彼の製品プレゼンテーションのためにランゲのブースに足を踏み入れることは、まるでスポーツイベントに参加するかのような感覚だ。ただしそのスポーツとは、ひとりの男が頭のなかにある無数のアイデアを選び取り、それを流麗な文章として紡ぎ出し、舌先にまで押し出してくるというものだ。彼の時計、そしてランゲに対する知識はいかなるマニアックなコレクターをも凌駕する。こうしたプレゼンテーションの場においては、驚くほどまれな資質である。今回の34mm 1815は、まるでデ・ハス氏にとって最愛の息子のように感じられる。その存在そのものへの賛美をあまりにうれしそうに語るので、思わず彼が最新作のランゲを毛布にくるんであやし始めるのではないかとすら思ったほどだ。彼は新キャリバーに注がれた情熱を語りながら、父親のように誇らしげな表情を浮かべていた。そしてはっきりと言い切った。この開発は、“小型モデルが求められているから1815のケースを縮めて、既存のムーブメントが入るか試してみよう”といった安易な発想ではまったくないのだと。

Lange 1815 34mm
Lange 1815 34mm
Lange 1815 34mm

 週末にはクラシックカーのMGを運転するような、80歳の祖父のような格好をした8歳の子どもに会ったことがあるだろうか? 誰もが“ちびっ子”と呼ぶ、あの子である。それこそが34mmの1815なのだ。

 ランゲの最も象徴的なモデルは、もちろんシンプルなランゲ1だ。しかし、このブランドが熱狂的な愛好家たちから盲目的なまでに支持される理由の多くは、その複雑機構にこそ集約されている。たとえば新作のミニッツリピーター・パーペチュアル、クラシックなダトグラフ、あるいは2018年のトリプルスプリットなど、ランゲはあらゆる機構を全部盛りにした時計をつくることにかけて卓越しており、その魅力はたいてい裏蓋側からこそ真価を発揮する。極小の部品すべてが惜しみなく見せつけられる構造になっているからだ。それを理解し、鑑賞できることは確かに重要である。しかしひと目でそれとわかる禁欲的なまでに簡潔な1815を生み出す力もまた、ランゲというブランドの本質を語るうえで欠かせない要素である。

Lange 1815 34mm

 1961年、BMWはフランクフルト国際自動車ショーにて3200 CS1500を発表した。そこで特徴的に用いられていたのが、いわゆるホフマイスター・キンクである。このセダンの後部ピラー下部に入った鋭角の前傾カーブは、BMWが発明したものではないにせよ今やブランドのアイデンティティとなっており、より広義には“ラグジュアリーカー”の識別子としても知られる。BMWのデザイン責任者だったヴィルヘルム・ホフマイスター(Wilhelm Hofmeister)は、おそらく初期のキャデラックやランチアのデザインに着想を得たと思われるが、このキンクをBMW流に昇華させた。これがドイツ的な特徴であるかどうかはさておき、A.ランゲ&ゾーネにおけるホフマイスター・キンクとは、まさにランセット型の針である。このディテールこそが、時計愛好家はもちろん一般の観察者にもこれはラグジュアリーウォッチであると伝えるサインなのである。ランゲのCEOが元BMWの幹部であるという事実も、もはや驚きではないだろう。

 時計が優れたつくりであるかどうかは、さまざまな要素によって決まる。しかしキンクと同様に、針をよく見ればその時計がいいものかそうでないものかはすぐにわかる。形状、バランス、仕上げの質、そして全体としてのエレガンス、それらが複合的に作用しているのだ。ランゲの針はカタログ全体をとおして非常に一貫しており、これらすべてを高いレベルで備えている。ブランドの過去のカタログを見ると、これといって印象的な針のデザインが存在していたわけではない。これについては、1994年のブランド復活に向けた準備段階で、デザイナーたちも同様に認識していたに違いない。ホフマイスター的なアプローチとして、当時のランゲのチームが“ラグジュアリー”ウォッチの最高峰からインスピレーションを得たのではないかという予感がある。ランゲのランセット針には、パテック フィリップのRef.3796や3940の要素が、そしてヴァシュロン・コンスタンタンのスケルトン永久カレンダー Ref.43032の雰囲気もわずかに感じられる。

Lange 1815 34mm
Lange 1815 34mm
Lange 1815 34mm

 そう、ランゲには非常に明確で、いかにもドイツ的なデザイン言語がある。そしてドイツ人はこうした美意識に対して頑ななところがあるが、最も優れている点は最初に正しいものをきちんと選び取り、そのあともそれを愚直に守り続けるところにある。ランゲの真価はランゲらしさから大きく逸れることを頑として拒む姿勢にこそある。ただし重要なのは、その“中核”となる美学や設計原則が決して手放すべきでないほど優れているという点だ。だからこそランゲは、今回の新しい1815のようにきわめてシンプルな時計をつくっても、コレクターの度肝を抜くことができるのである。

 ではスペック面からいこう。Cal.L152.1は、ランゲにとって通算75番目の自社製ムーブメントである。ブランドの再興からわずか31年しか経っていないことを考えれば、この数字は驚異的である。構造はおなじみの4分の3プレートに手彫りのテンプ受けを備え、4つのネジ留め式ゴールドシャトンが、このムーブメントに完全に再設計された輪列が採用されていることを物語っている。38.5mmバージョンに搭載されているL051.1と比較すると、香箱の位置はリューズにより近づいており、クリックもキーレスワーク(リューズ機構)から移動されてスペースが確保されている。このクリックの配置変更こそが、HODINKEE編集部のデスクを囲んだ面々が夢中になって語り合う、L152.1特有のヴィンテージ感あふれる巻き味の心地よさに直結している可能性がある。ただ手応えが心地よいというだけでなくこの新しい輪列設計は、パワーリザーブの向上という実用的な成果にも結びついている。L051.1の約55時間から一気に伸びて約72時間となり、週末に耐えうるどころか長い週末にも耐えうる性能を備えるに至った。

Both current Lange 1815 movements

(左)ALSキャリバーL.152.1。(右)ALSキャリバーL051.1

 この新キャリバーにおける小さいディテールのひとつが、スタッドブリッジである。これはダトグラフ・パーペチュアルリヒャルト・ランゲ “プール・ル・メリット”といった、ブランドの上位機種から取り入れられた設計であり、L152.1にはこのスタッドブリッジが採用されていることで、調整がしやすくなっている。スワンネック型スプリングによって緩急調整を行う際、スタッドブリッジに設けられた溝付きネジを緩める構造になっており、この設計は38.5mmの1815やランゲ1には見られないものだ。ネジが張力を保持した状態で調整できるため、精度調整の作業が格段に容易になる。ニューヨーク在住の経験豊富なランゲ認定時計技師が語ったように、“ビート誤差をゼロに合わせやすくなったし間違いなく優れた設計だが、そのぶん製造コストは上がっているはずだ”とのことである。

 ケースの外観は見慣れたものではあるが、実際に手首にのせてみるとほかの多くのランゲとはプロポーションが異なることに気づく。全体の厚さ6.4mmという、いわば“薄さ”がその大きな要因であるが、個人的にはラグ幅が17mmに設定されている点にも注目したい。というのも38.5mmの1815はラグ幅が20mmであるため、同じ比率でスケールダウンするなら34mmケースには18mmラグが妥当と考えられる。だが、あえて1mm狭く設定されているのだ。この選択は一見些細に思えるかもしれないが、装着感においては確かな違いを生むディテールである。ケース素材のバリエーションについてはホワイトゴールドとピンクゴールドの2種。好みに応じて選ぶとよいだろう。

Lange 1815 34mm
Lange 1815 34mm
Lange 1815 34mm

 ランゲのカタログでおなじみのブルートーンを基調としたダイヤルは、わずかに段差のついた構造で構成され、アラビア数字がその外周を縁取り、スモールセコンドにはごく控えめなスネイル仕上げが施されている。そしてこれまでにも触れてきたとおり、ケースに合わせたランセット型の針がその外観を完成させている。シンプル、抑制的、禁欲的、あるいはいかにもドイツ的と呼ぶべきか。ランゲの美学は少なくとも一貫している。それは1980年以前のパテック フィリップのほぼすべてのモデルが、祖父の腕時計のように見えながらも、時計ブランドを3つしか知らない人ですら部屋の向こう側からでもヴィンテージパテックだとわかるような、そうした一貫性と個性の共存に似ている。ランゲもまた、そのようなブランドとしての存在感=ブランド・カシェ(信頼資産)を確実に築きつつある。

 では、34mmというドイツ的完成度の結晶にいくらかかるのか? その価格は2万4500ドル(日本円で約350万円)だ。ランゲのカタログ内において、この新しい1815は上位モデルにあたる38.5mm版の1815(税込で444万4000円)より6600ドル(日本円で約95万円)安く、一方で真のエントリーモデルである37mm サクソニア・フラッハ(税込で336万6000円)より1000ドル(日本円で約15万円)高い位置づけとなっている。小径ケースを求める特定の層にとっては、この価格帯で競合となるモデルは他ブランドを見渡してもほとんど存在しないだろう。

Two Neo-vintage Langes, a Saxonia and an 1815

(左)サクソニア Ref.102.001(1994年)Image courtesy of The Keystone. (右)1815 Ref.206.021(1995年)Image courtesy of Mr. Watchley

 今回の主題はサイズである。時計のモデル名にケース径を明記する必要がある。それも絶対に、というケースは極めてまれだ(ロレックスを除けばだが)。とはいえ、ランゲは控えめなケースサイズに慣れ親しんできたブランドである。たとえば、1994年にブランド復活を告げた伝説の4本のひとつ、サクソニア Ref.102.001は33.9mm。そしてその翌年に登場した初代1815のRef.206.021は35.9mm。いずれも私のお気に入りである。

 だがタンタン(・ワン)がIntroducing記事で指摘していたように、ここ数年のランゲは小径モデルの多くをディスコン(廃番)にしてきた。リトル・ランゲ1の各種モデルや、35mmのサクソニアなどがその例だ。つまり何か新たな動きがあることは察せられた。そして多くの人が予想していたその何かは、おそらく36mmあるいは37mmだったはずだ。

 時計愛好家であれば、新作に触れたときに“これはすごくいい……でもあと数ミリ小さければなあ”と感じることがよくある。自身もブランド担当者にそうしたコメントを伝えた経験があるが、返ってくるのはたいてい“一般消費者の好みはマニアとは異なります”という説明である。だがランゲは、時計マニアのためのブランドであることを隠さない。だからこそHODINKEEのオフィスはランゲファンであふれているし、だからこそ34mmの1815が存在するのだ。ランゲは、まさにこのような時計をつくるべくしてつくれる希有な立ち位置にあるブランドであり、そして生産できる分だけ確実に売ることができる。

 BMWが“究極のドライビングマシン”をつくるのであれば、ランゲは“究極の時を刻むマシン”をつくるブランドである。

 詳しくは、ランゲ公式サイトをご覧ください。

Photos by Mark Kauzlarich