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この時計を見たことがない人は、けっこう多いかもしれない。いや、これは一点ものでもなければ戦闘機部隊のような特定のグループのためにつくられた特注モデルでもない(とはいえ、IWCがそういう時計を出したことも過去にはある)。たしかに、IWCはこれまでにもホワイトセラミックを使ったモデルを何度かリリースしており、ヴィンテージのなかにも存在している。そのためホワイトセラミック自体が珍しいわけではない。今回の本題はそこではなく、Watches & Wondersの期間中にIWCがこの新しい41mmサイズのホワイトセラミック製パイロットウォッチをこっそり発表していたのに、それをほとんど誰にも知らせていなかったということなのだ。
“いや、この時計のことは知っていたよ”なんて言う人もたくさんいるだろう。それはそれで素晴らしいことだが、きっと知らなかった人も少なくないはずだ。正直に言えば、もし“SecretDiaryOfAWatchGirl”というInstagramアカウントを運営しているエミリー・マースデン(Emily Marsden)がいなければ、自分もしばらくはこのリリースに気づかなかったかもしれない。彼女はIWCとそのホワイトセラミックのファンであることを公言しており(なかでも、あるヴィンテージモデルを聖杯としている)、ブランドに強い思い入れを持っている。そんな彼女がトレードショーの会場で、この新作の情報を伝えるリール動画を投稿してくれたのだ。そのおかげで自分のアンテナに引っかかったというわけだ。だからこれを私の目に留まらせた、彼女の功績は大きい。その動画を見た瞬間、これは自分で触れてみなければと思った。
セラミックは、IWCのDNAにおいて1986年のダ・ヴィンチ Ref.3755以来欠かせない存在となっている。このモデルは、ゴールド製のプッシュボタンとラグにジルコニアセラミック製ケースを組み合わせた業界初の試みだった。セラミックはスティールよりも軽くて硬く、キズ、1000度までの高温、湿気、さらには酸にも強いという特性を持つ。ただし、製造時にセラミックは収縮するためムーブメントにぴったり合うケースを作るには、その縮み(『となりのサインフェルド(原題:Seinfeld)』的な意味ではなく)を計算に入れる必要がある。セラミック使いの代表格といえば、やはりIWCとオーデマ ピゲの2ブランドだろう。正直なところ、セラミックが好きな人なら両ブランドの一本を持つことを夢見る価値はある。たとえ実際に手に入れられなくても、あるいは購入の機会が回ってこなかったとしても。仕上げの面ではオーデマ ピゲに軍配が上がる。というのもこちらはマットだけでなく、ポリッシュやヘアライン仕上げといった複雑な表面処理が施されているからだ。一方でIWCは、セラミックを歴史上で初めて時計に取り入れたという点で評価されるべきであり、昨年発表された夜光セラミックのような新技術を予告する姿勢にも、革新性が感じられる。
ここ数年、IWCはカラーセラミックという進化的なアイデアを積極的に展開してきた。すでに成功を収めたケース素材を、ほかのサイズやモデルへと広げていくというアプローチだ。“モハーヴェ”と名づけられたサンドカラーは、もともとビッグ・パイロットやビッグ・パイロット・パーペチュアルカレンダーに採用されていたが、現在では41mmのパイロット・クロノグラフにも登場している。“ウッドランド”と呼ばれるグリーンカラーは、いまやタイムゾーナー、パーペチュアル・カレンダー、44.5mmのクロノグラフといったモデルにも採用されている。そしてホワイトセラミックの“レイク・タホ”はというと、その広がりはさらに均等だ。41mmのクロノグラフから始まってパーペチュアル・カレンダー、そして今回登場したねじ込み式リューズを備えた41mm径×11.4mm厚のモデルにまで展開している。
この時計には、ほかのトップガンモデル、特に41mmのトップガンシリーズに共通するデザイン要素がしっかりと盛り込まれている。たとえば12時位置のトライアングルインデックス、マットブラックのダイヤル、同色で整えられた日付表示、大ぶりな剣型針とアラビア数字のインデックスなどだ。それもあって視認性はきわめて高く、パイロット向けとして理にかなった設計となっている。またこのモデルでは“TOP GUN”の赤いロゴが省かれており、全体をモノクロームに統一したデザインに一層のまとまりをもたらしている。なかでも、ケースが全面ホワイトセラミック製であることにより、その印象はひときわ強烈だ。加えて従来モデルと同様に、ダイヤル上のすべてのアワーインデックスには夜光塗料が施されており、暗所でも確実な視認性を確保している。
このリファレンス(IW328104)を同じケースサイズのブラックセラミックモデルと比べてみると、価格にけっこうな差があるのがわかる。ホワイトセラミックは127万2700円、一方のブラックは99万5500円(ともに税込)だ。その違いがケースの色だけではないにしても、正直、多くの人にとってはそこまで差があるのかと思うかもしれない。
とはいえ新しいホワイトセラミックのトップガンは、防水性能が従来の60mから100mにアップしているし、どちらのモデルにも耐磁性のある軟鉄製インナーケースが使われている。そのなかに収められているムーブメントは新しいものだが、スペック上はそこまで大きな違いは見当たらない。どちらも2万8800振動/時の自動巻きで、パワーリザーブはたっぷり120時間。もしかしたら見落としているポイントがあるかもしれないと思って、IWCに確認しているところだ。
このホワイトセラミックモデルには、ブラックセラミック版のパイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41 トップガンに搭載されていた、独自のEasX-CHANGE®ストラップシステムが付いていない。理由はホワイトのラバーストラップが使われているから。その結果、ストラップを簡単に交換できる機能が省かれてしまっている。つまり、見た目のインパクトは大きく変わったがひとつの機能がなくなり、さらに新しいムーブメントのぶん、もしかすると価格も上がっているかもしれない。それは普通の買い手にとってどれくらい重要なのだろう?
正直なところはっきりとは言い切れない。こういう場面になると、いつも少し立ち止まって思い返す。私たちは市場に出ている時計について情報を届けるためのウェブサイトを運営しているが、すべての人がこうした細かな違いに気づくわけではないし、そもそもこの記事を読むとは限らない。そもそも、こういう違いが一般的な買い手にとって重要かどうかも分からない。結局のところこういう時計は自分がどう感じるかとか、それをつけて楽しめるか、あるいはつけることを想像してワクワクできるかに尽きると思う。厚さ11.4mmで、軽いセラミックケース...このモデルを数日間着用したが、つけ心地に関しては何も不満はなかった。むしろすごく気に入ったくらいだ。
正直、派手な時計はちょっと、とか目立ちすぎるのは苦手と何度も言ってきた。ただ心のどこかで“いや、実は少しくらいパンチのある時計も欲しいかも”なんて思ったりする。そういう時計は、自分のなかでは“夏の時計”というイメージがある。明るいカラーで、いつも選びがちなフォーマルで落ち着いた雰囲気のモデルとは違い、もう少し気楽に楽しめる1本という印象だ。実在するレイク・タホという場所自体は、いわゆる夏っぽいリゾート地というイメージではないかもしれないが、この新作のレイク・タホ パイロットは、夏につけたら楽しそうだなと思わせてくれるモデルだった。
最近つけた時計のなかでも、ここまでつけていて楽しくて、返すのが惜しいと思った1本はなかなかない。結局、時計ってそういうものだろう? 楽しむためのものなのだから。
詳しくはIWC公式サイトをご覧ください。
Photos by Mark Kauzlarich
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