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Hands-On ロレックス ヨットマスターII Ref.116680を実機レビュー

ロレックス ヨットマスターII:自分自身がロレックスの愛好家であると考えている人にとって、それはこのブランドが作り出す最も意見の分かれる時計の1つだ。しかし、この比較的大きな時計には、見た目以上のものがある。我々は、この技術的にユニークでプログラム可能なフライバック ヨットタイマー クロノグラフを、独自のやり方で見つめてみたい。 これまでに製造された、最も個性的なスタイルで機械的にも優れたロレックスの1つを、これから紹介したいと思う。

※本記事は2015年6月に執筆された本国版の翻訳です。

 正直に言うと、私はこの時計に否定的な反応があることを完全に覚悟していた。それは、標準的なロレックス、つまりサブマリーナー、GMTマスター、デイデイトを好む愛好家にとって頭痛のタネと言える。考えてみよう。まず第1に、とにかく大きい。これは44mmの時計であり、44mmの時計として生まれ、44mmの時計として生きる。これは誰にも変えられないのだ。素材の金属は4種類から選べる。重量は軽い順に、スティールから、ゴールド×SS(前者より重い)、無垢のイエローゴールド(さらに重い)、そしてプラチナとホワイトゴールドの組み合わせ(シュワルツェネッガー級)となる。この時計は見事なブルーのセラクロムベゼルをもち、その下3分の1ほどに大きく“YACHT-MASTER”と書いてある。まあ、これこそがヨットマスターだということを、周囲の小船の船長の心の中で疑念の余地がないほどにアピールしているかのようだ。どう考えても、消極的な時計とは言えないだろう。

 その上、ヨットマスターIIには時計好きな人間でもどう使っていいか、また何のためにあるのかわからないような複雑機構が搭載されている。それが、この上なくニッチな複雑機構といわれるレガッタタイマーだ。時計マニアを集めれば、レガッタタイマーよりも“時の方程式”といった方が明快な説明を受けられる可能性が高い(これは相当だ)。それは、この時計の機能の相対的な分かりづらさと、特にヨットマスターIIのニッチさを物語っている。我々がこの時計をオフィスに持ち込んだ時に、5人の時計愛好家が知恵を絞ったが、誰もその操作方法を完全に覚えていなかった。要するに、根っから昔の時計が好きな人なら嫌がるような時計かもしれない。そうだろう?

 だが実際には、そうではない。少し話を戻そう。

 まず第1に、これは技術的に非常に興味深い時計であり、時計学的な問題解決の面白さだけでも注目する価値がある。レガッタタイマーは、ヨットの船長が自分の船がいつスタートラインを通過できるかを判断するために使用する。ヨットはレースのスタートラインで止まっていることができないので、レース委員会は、ボートが実際に横断せずにスタートライン近くで進路を調整している間にカウントダウンの時間を決める;例えば、早く横断すればペナルティがあり、あまりにも慎重に遅く横断すれば、前にスタートしたボートの後ろにつくことになる。ルールやレースに応じて、5分から10分の間のどこからカウントダウンを始めるかを設定することができる。

 ヨットマスターIIは、プログラム可能なフライバックレガッタタイマーで、カウントダウンの間隔を1分から10分まで選択することができる。さらに、カウントダウンの開始が早かったり遅かったりした場合は、レースのスタート時に通常聞かれる2つの音声信号のうち、2番目の信号を聞いた時に、時計を“臨機応変に”同期させることができる(カウントダウンの始まりを告げる信号が先に来て、通常、その後スタートの信号が来る)。以下に、その仕組みを説明しよう。

 カウントダウンタイマーをセットするには、ベゼル(ロレックスでは“リングコマンドベゼル”と呼んでいる)を左に4分の1回転させる。これにより、下側のクロノグラフプッシュボタンがロックされ、三角の赤いカウントダウン針がセットされる。その後、リューズを最初の位置まで緩め、カウントダウン針をセットする。針は一方向のみにしか操作できないが、10分経ちリューズを回し続けるとカウントダウン針が1に戻り、希望の分数になるまで続けることができる。終わったら、リューズを元の位置までねじ込み、ベゼルをスタート位置に戻す。これでレガッタタイマーの準備は完了だ。

 最初の銃声(または他の可聴信号)が聞こえたら、カウントダウンを開始する。さて、ここでひっかかりやすいのは、何らかの理由で、カウントダウンを開始するのが早すぎたり、遅すぎたりする可能性があるということだ。 その場合、2発目の銃(信号)を待ってリセットボタンを押すだけでいい。 秒針がゼロ位置に戻り、すぐにカウントダウンを開始する。分針も分単位で一番近いところまで戻り、再度カウントダウンを開始する。それはフライバックがゼロではなく、最も近い分に行くという事実は、正しいカウントダウン時間とカウントダウンを再同期させることができるということを意味する。このことが、ヨットマスターIIに多くの実用性を与え、技術的にも興味深いものにしているのだ。

 確かに技術的には面白いが、美学的にはどうなのか? 私が言えるのは、非常に驚いたことに、あらゆる意味で着けていてとても楽しかったということだ。見るからに外向的な時計ということが、魅力の秘密なのだ。 重さは問題ではなく(少なくとも私にとっては問題ではないし、SS製なら気にならない)、全体的なサイズにもかかわらず、不快感なく1日中着けていられた。  私の7in(約17.8cm)の手首に快適にフィットする下向きに湾曲したラグのおかげもある。明確なコントラストをもたらす深いブルーの針、白いダイヤル、赤いカウントダウン針、そして鮮やかなブルーのベゼルが、時計全体に華やかで航海的な雰囲気を与え、見ているだけで楽しくなる(夜間の視認性は非常に良い;ダイヤルと針の蛍光は非常に明るい)。

 そう、これは外向的な時計なのだが、非常に明快で非常に高いクオリティ(ロレックスの場合はいつもそうだが)をもつ。私が普段身につけているものとは正反対で、これを着けていると、まるでウォルター・ミティ(無能な夢想家)のファンタジーが現実になったかのような気分になる。ブルーのスーツにネクタイを締め、4ドアのベンツに乗って人生を送ってきた男が、ある日、なぜか破れたジーンズとボロボロのフライトジャケットを着て、古いショベルヘッドのハーレーに乗って曲がりくねった補助道路をクルージングしている自分を見つけて、突然、「神様、無駄な年月だったんだな」と思っている自分を発見したような気がしたのだ。 最終的には、ヨットマスターIIの派手さに異議を唱えるのは愚かであり、自己中心的でさえあると感じ始めた。ラース・フォン・トリアーのアートシアター系の涙を誘う映画を期待して、ジョス・ウェドンのアクション映画を観に行ったとしても、おそらく自分自身を責めるしかないだろう。

 合理的に考えて実用的なツールウォッチか? と私は聞かない。実際に1936年にヘレショフのクラシックヨット(ヨットデザインの革新者として知られるナサニエル・グリーン・ヘレショフ。彼の手掛けたヨットは1893年から1920年にかけてアメリカズカップ優勝者を次々に輩出した)を所有していてレガッタコースに出ていた人が、ヨットマスターIIをどう思うか、あるいはそれが役に立つかを評価できるかということと同じように、私に評価できる訳はないからだ。ただ、とても楽しい時計だと言うことはできる。その理由の大部分は、多くの人が最初に反対すること、つまり、この時計が大きくて目立つことから来ているのだ。

 成功するスタイルを実践するための最も重要な要素は、信じることの勇気だ:あなたが断固として40mmよりも小さい時計が好きで、上品さにこだわった男だと自分自身を思うなら、この時計をぜひ着けてみてほしい。驚くほど新鮮な変化を感じ、自分自身が堂々と大きくなったような気がするはずだ。

ロレックス ヨットマスターII Ref.116680、179万6000円(税抜)、ケース径44mm、904Lステンレススティール。双方向に回転可能な“リングコマンドベゼル”とブルーセラクロムインサート、100m/10気圧防水。

ムーブメント、ロレックス自社製のCal.4161 自動巻き  機械式メモリー機能を備えたプログラムカウントダウン機能、シンクロナイゼーション機能、プログラムしたカウントダウン時間を維持してリセット可能。耐磁性ブルー パラクロムヒゲゼンマイ。 

ブレスレット、オイスタ ー(3列リンク) 、 セーフティキャッチ付きオイスターロック、イージーリンク機能。

詳細は、もちろん、ロレックス 公式サイトで。