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WATCH OF THE WEEK 3本目のポールルーターは、レッドバーのキャスリーン・マクギブニー氏を魅力する逸品だ

ラジウム夜光に引かれる私を誰も止められない。離婚やコロナ禍でさえも。

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HOINKEEのスタッフや友人に、なぜその時計が好きなのかを解説してもらうWatch of the Week。今週のコラムニストは、レッドバー・グループのCEOであり、ベイリー・ハウスの理事長であり、ギャザーのカスタマーサクセス担当重役でもあるキャスリーン・マクギブニー(Kathleen McGivney)氏だ。

時計コレクションで私が選ぶときの決め手には、常にいろいろな要素が混ざり合っています。特定のブランド、時代、機能、美的感覚へのこだわりはなく、それぞれの分野で多少の好みがあるくらいです。私の時計すべてに共通するのは、手首にちらっと目を向けたときに喜びを感じる点であり、私のヴィンテージウォッチ、ユニバーサル・ジュネーブのポールルーターもその例外ではありません。

 ポールルーターには愛すべき要素がたくさんあります。ほかでもないジェラルド・ジェンタ(Gérald Genta)のデザインであること。そしてパイロットが極点上空を飛ぶときに遭遇する磁場にも耐えられる防磁設計。また、うっとりするようなその全体の魅力とスリムな外観は、ヴィンテージのツールウォッチには通常見られないものです。特に私のもっているポールルーターは、キャップゴールドケース、シャンパンゴールドカラーのダイヤル、ラジウム夜光を施した幅広のアロー型針など、手首につけたときにひときわエレガントだと感じるのですが、突き詰めれば同時に、実用的で機能的なパイロットウォッチでもあるのです。そしてそうしたパイロットたちと同様、私がこの時計を手に入れるまでの旅も興味深いものでした。

Kathleen McGiveny Polerouter

 これの前に、私は2本のポールルーターを所有していました。1本目は、元夫である写真家のアトム・ムーア(Atom Moore)との共有コレクションの一部でした。2020年初頭に友好的に別れることをふたりで決断したとき、私たちは時計コレクションを全部取り出し、どちらが何をとるかを決める作業に取りかかりました。そのほとんどは簡単でした。私が所有する一品もののアーノルド&サン HMパーペチュアルムーンのように、明らかに私のもの、そして明らかに彼のものとはっきりしているものが多かったからです。最後に、ふたりとも欲しい2本が残りました。いずれもヴィンテージ品で、いずれも特別なものでした。1本は、ベゼルの退色具合が理想的で私たちが“ゴースティー(幽霊みたいな)”のニックネームで呼んでいたチューダーのサブマリーナー、そしてもう1本が、ダイヤルのパティーナが素敵なユニバーサル・ジュネーブのポールルーターでした。

 私がその2本を欲しかった理由は、率直にいえば、ラジウム夜光がダイヤルにもたらす“パティーナ”という特別な経年劣化に私はとてもこだわりがあり、その2本はそうした点で美的な喜びを与えてくれるものだったからです。しかし彼にはもっと個人的な感情を伴う思い入れがあり、どちらの時計も、彼がAnalog:Shiftのチーフフォトグラファーを務めていた時代に私たちが手に入れたものでした。私は、いつかほかのもので代用が効くような物質的な問題で騒ぎ立てるのも意味がないと考え、それらは2本とも彼のコレクションに収まりました。

 私にとって、すぐさま代わりのポールルーターを購入することは優先事項にはなりませんでした。2020年初頭は非常に多忙だったのです。レッドバーの世界規模の次期オフ会を計画するためにロンドンに出張したり、ベイリー・ハウスの年次チャリティーパーティの開催にも携わったりしていました。また、男性とのお付き合いも再び始めていました。しかし当然、そうしたほぼすべてはコロナ禍で一変しました。

Kathleen McGiveny Polerouter

 ベイリー・ハウスのチャリティーパーティは2020年3月5日に開催され、その数日後に私はロンドンへと飛んでいましたが、もちろん、今から考えればそれは賢明な行動ではありませんでした。3月14日に帰国すると、私はそのまま隔離措置を受けました。ロックダウンは2、3週間、長くても1、2ヵ月で終わるだろうと誰もが思っていました。しかし数カ月経ってもロックダウンの解除はなく、ニューヨークの自宅アパートに引きこもっていた私は、ちょっとした買い物セラピーが必要だと決心しました。

 コロナ禍のあいだ、レッドバーの仲間たちとはずっと連絡を取り合っており、時計愛好家のグループである私たちは、お互いに時計の購入を応援したり買えるように取り計らったりと、リモートで親身なやり取りを続けていました。自分のコレクションから抜けたポールルーターの代わりとなる理想的な1本を手に入れたいと思っていた私は、やがて、1956年製の美しいポールルーターを見つけました。丸く曲がったラグ、ゴージャスで完全なラウンド形をした、パティーナが素晴らしい理想的な夜光。到着したとたんにとても気に入り、膨らんだ小さな夜光を私はルーペでずっと眺めていました。

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 しかしやがて、それをつけている時間が減り始めました。自宅でのリモートワークで頻繁につけなかったという理由だけではなく、なんとなく、これが私に“ぴったり”の時計だとあまり感じられなくなったのです。

 そして話は2022年春へと飛びます。私は空想の世界を探ってみるような軽い感覚で、ネット上でポールルーターのさまざまなバリエーション(ネタバレすると、それはもう山のようにあります)を検討していました。その過程で、自分がいつもゴールドバージョンに引かれていることに気づきました。そこで、Analog:Shiftの創業者であり、スイス時計ヴィンテージ・中古部門のバイスプレジデントである友人のジェームズ・ラムディン(James Lamdin)氏にテキストメッセージを送り、どんな在庫があるかを尋ねました。

Kathleen McGiveny Polerouter

 私は当初、ジェームズがきっかけで時計のダイヤルのラジウムに出会い、やがては本格的にこだわるようになったのです。2016年だったと思いますが、Analog:Shiftのオフィスをぶらぶらしたとき、ダイヤルに染みのある時計がトレイの上に乗っているのに気がつきました。ジェームズから、この時計は何年も触れられないまま引き出しにしまい込まれ、ダイヤル上で針が位置していた部分にラジウムの“影”が残ったのだと聞かされました。このちょっとした出会いから、私はラジウムについて、そしてラジウムを時計に活用したことについて、学べるだけ学ぼうと決意することになりました。そして延いてはそれが、2017年10月にニューヨーク時計協会で、『私がいかにラジウムダイヤルへの憂慮をやめ、それを愛するようになったか』というレクチャーをするところまで至ったのです。

 ジェームズは今でも、私の財布にとっては明らかに危険な存在です。それを十分承知の上で、それでも私はテキストメッセージでこのシンプルな質問をしました。「ゴールドのポールルーターはある?」

 5分も経たないうちに、彼は3本の見事なポールルーターの写真を送ってきました。1本は金無垢、2本は金メッキのものでした。私はたちまちハート型の目をした絵文字と化し、それらすべてを試着しに行くからと予約を入れました。3本はどれもがゴージャスでしたが、幅広のアロー型の針、そして日付窓がないという組み合わせのこの時計に私は魅了され、完全にやられてしまいました。


 これこそまさに私にぴったりのポールルーターだったのです。

Kathleen McGiveny Polerouter

 それは店に入ったばかりのもので修理が必要だったため、私は果てしなく長い時間の別れに耐えました(実際にはたぶん1カ月)。待っているあいだに私は、エルメスのエメラルドグリーンのストラップを選びました。大事なゴールドの宝物がついに修理から戻ってきたとき、私はAnalog:Shiftのオフィスまで飛んで行ってそれを受け取りました。新しいグリーンのストラップをつけると、私は改めて夢中になってしまいました。

 時計のマニアックな側面(防磁設計や放射性発光素材)に対する私の愛と、ビジュアル的側面(時代を超えたデザイン)とが相まって、これは私のコレクションのなかでもお気に入りのヴィンテージウォッチになりました。過去に所有した2本のどちらとも大きく違うポールルーターでありながら、これまでに装着してみたどのポールルーターよりも私らしいと感じるものです。

 つけるたびに笑顔が浮かんできます。

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HODINKEE Shopではヴィンテージウォッチを扱っており、ユニバーサル・ジュネーブのポールルーターも“時折”出ることがあります。こちらでコレクションをご覧いただけます。