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A Week On The Wrist カルティエのパンテール ドゥ カルティエを1週間レビュー

女性用の時計は小さすぎると文句を言っていたわたし、カーラ・バレットは、小さな時計への愛を取り戻した。パンテール ドゥ カルティエのおかげだ。


本稿は2017年4月に執筆された本国版の翻訳です。

告白しなければならないことがある。女性用の時計は小さすぎると文句を言い、36mmはどんな女性にもぴったりのサイズだと主張してきたわたし、カーラ・バレットは、小さな時計への愛を再発見した。わかっている、偽善だってことは! しかしファッションやスタイルとはそういうものだ。波はあるし流れもある。それは時計も例外ではない。この小振りウォッチへの新たな関心について言えば、原因がひとつある。それは新しいパンテール ドゥ カルティエだ。

panthere de cartier

パンテール ドゥ カルティエの新作トリオ。左からツートンのスモール、スティールのミディアム、ローズゴールドのミディアム。

 この1月(2017年1月)に、カルティエはアイコニックな(と、本気で言っている)パンテール ドゥ カルティエを再リリースした。この時計は、1980年代の名だたる顧客に向けて販売されていたマスト ドゥ カルティエ時代に初めて発表されたもので、それ以来、常に定番ラインとして位置付けられている。この新しいバージョンを見たとき、わたしはすぐにこの時計を理解し、一刻も早く手首につけてレビューしなければならないと思った。


ちょっとした歴史

 タンクと違い、パンテールの知名度はそれほど高くない。華やかな全盛期である1983年に初めて発表されたパンテールは、その洗練されたデザイン、隠しクラスプ、連結されたリンクブレスレットが賞賛された。そして、男女問わず名だたるセレブリティのあいだで瞬く間に大ヒットし、その著名なオーナーのなかにはピアース・ブロスナン(Pierce Brosnan)やキース・リチャーズ(Keith Richards)などのセレブもいた(下のブロスナンの写真が好きでたまらない)。スタジオ54が街で最もホットなナイトクラブであり、華やかさがすべてだった時代に、この時計がヒットしたのも当然だろう。

 このような時計の影響を十分に理解するためには、当時の状況を知ることが重要である。1964年にピエール・カルティエ(Pierre Cartier)が亡くなったあと、彼の2人の子どもと甥が家業の売却に乗り出した。その結果、会社はカルティエ・ニューヨーク、カルティエ・パリ、カルティエ・ロンドンの3つの半独立企業へと分割され、それぞれが異なる時期に異なる製品を生産するようになる。これによりブランド戦略にばらつきが生まれ、それぞれの拠点が独自性を発揮できるようになった。その一例として、カルティエ・ニューヨークが1971年に金メッキのSS製タンクを150ドル(当時の相場で約5万3000円)で販売し始めた。当時としては前代未聞のことであり、多くの長年の愛用者の目にはブランドイメージを大きく損なうものに映った。

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pierce brosnan watch

パンテール ドゥ カルティエを着用するピアース・ブロスナン。Photo: courtesy of Revolution

keith richards and mick jagger watches

パンテール ドゥ カルティエを着用したキース・リチャーズ。奥にいるのはミック・ジャガー(Mick Jagger)。Photo: courtesy of Revolution)

 当時、カルティエは究極のラグジュアリーブランドであり、1970年代までは超高級品かつ天文学的な価格で、非常に高品質なものを製造していたと覚えておく必要がある(例えばミステリークロック、個性的なシャッターウォッチ、華麗なシガレットケースなどを手がけていた)。そのため金メッキの時計を売ることは、たとえその時計が商業的にかなりうまくいったとしても冒涜的な行為であった。イメージは損なわれたものの、カルティエが投資家グループに買収されたあと、この安価な時計のアイデアは、1977年のマスト ドゥ カルティエ コレクションにつながった。同コレクションはジョゼフ・カヌイ(Joseph Kanoui、投資家グループを集めてカルティエ・パリを買収した)、アラン・ドミニク・ペラン(Alain Dominique Perrin)、ロベルト・ホック(Robert Hocq)の発案によるものである。コレクションはさまざまなシェイプで展開され、また金メッキされたシルバーで生産されていたため、よりリーズナブルな価格設定を実現していた。それはブランドを再構築し、より幅広いユーザーにアピールするための方法であり(今日、モンブランやタグ・ホイヤーがスマートウォッチを製造しているように)、そしてクォーツムーブメントが登場したことで、それはより一層身近なものになった。

panthere de cartier medium steel

SS製で、独特のねじ込み式ベゼルを備えたミディアムサイズのパンテール ドゥ カルティエ。

 ではこれがパンテールと何の関係があるのか? 念のため言っておくと、パンテールはマスト ドゥ カルティエのコレクションには含まれていない。だからこそ、特定の顧客層には大ヒットしたのだろう。さらに、当時は市場に出回る新鮮なデザインがそれほど多くなかったため、パンテールはさらに魅力的に映ったのだ。しかし1983年にパンテール発表というタイミングで最も興味深いのは、シンプルなレディスウォッチでありながら、手頃な価格の時計が増えつつあった時代にカルティエがリリースしたものであり、世界市場で足場を取り戻そうとしているヘリテージメゾンにとっては救世主的なコレクションだったに違いないということだ。ミニサイズ、スモールサイズ、ミィデアムサイズ、ラージサイズが用意され、ツートン、イエローゴールドカラー(1991年にはSSモデルも登場している)が発売された。しかしパンテールは2000年代初頭に姿を消し、カルティエのラインナップに穴を開けたまま現在に至っていた。


新しいパンテール

 パンテールは、初代サントスをベースにしたかのようなレディスウォッチだが、カルティエはそのような説明は一切していない。ただサントスと同じようなスクエアケースに、8本の小さなネジで固定されたベゼルが特徴だ。クラシカルなフラットホワイトの文字盤に細長いローマ数字、そして10時の“X”には秘密の“カルティエ”シグネチャーをあしらっている。

 デザインは大胆だが控えめであり、実用的である。これが成功の秘訣であり、多くの人を魅了する理由なのだ。サイズはスモールサイズ(22mm)とミディアム(27mm)があり、RG、YG、SS、ツートンカラーで展開。ほかにもブラックラッカー仕上げのリンクがついたものなど、いくつかのバージョンがあるが、それらはハイジュエリーの領域に入っている。今回のレビューでは、SSのミディアムサイズに焦点を当てているが、わたしにとっては最高の普段使いの選択のように思う。

cartier panther steel watch

クラシカルなホワイト ダイヤルには、10時位置の“X”に隠れたシグネチャーをはじめ、カルティエに求められる小さなデザイン上の工夫が随所に施されている。

 これは一般的なスクエアケースに見えるかもしれないが、そうではない。スクエアウォッチはニッチな層しか魅力を感じないことが多いが、パンテールはそのデザインの複雑さと精巧さによって、より普遍的な魅力を演出している。特に湾曲したエッジと、すぐにそれとわかるねじ込み式ベゼルは、この時計を際立たせているものだ。

 ダイヤルは角が丸みを帯びたSS製スクエアベゼルで囲まれており、先ほど述べたように8本のネジで固定されている(裏蓋にも同じものがある)。ケースデザインで興味深いのは、カーブしたラグとリューズガードである。どちらも見た目は流動的で、取るに足らないものに感じるかもしれないが、時計全体のデザインを引き立てている。これらがなければ躍動感はまったく感じないだろう。

cartier caseback

パンテール ドゥ カルティエの裏蓋には、ベゼルと同様に8本のネジを配している。

 この時計で2番目に重要なのがブレスレットだ。このブレスレットが発売された当初、人々は汎用性と、その洗練された外観を称賛した。サテン仕上げの大きなセンターリンクを持つパンテールのブレスレットは、工業的な雰囲気を持つタンクのブレスレットと異なり、小さなレンガのようなリンクでつながれている。これらはレンガパターンに配置され、リンクの上部と下部で内部的に互いに取り付けられている。さらに重量が軽減されたリンク自体がカーブしているため、より多くの動きが可能になり、快適に着用できるようになっているのだ。

panther cartier steel on the wrist

SS製のミディアムサイズのパンテール ドゥ カルティエは、しなやかかつ軽量なブレスレットのおかげもあり、常に優れたつけ心地を提供している。

 この時計にはカルティエの定番のクォーツムーブメントを採用している。同社はコストを抑え、コレクションを可能な限り入手しやすく、商業的に成り立つものにしたいと考えていた可能性が高いため、この選択はわたしにとって驚きではない。覚えておいてほしいのは、わたしたちが話しているのはニッチな製品ではないということだ。そのためこの時計がクォーツであることは少しも気にならない。高級時計はこの時計が目指すものではないし、この時計がそうでないと装ってはいないことを高く評価したい。


手首の上で過ごしてみて

 パンテールで最も気に入っているのは、かっちりとした装いの女子大生にも、流行に敏感なファッショニスタにも同じように似合うことだ。誰にでも着こなせるタイムレスな品質で、さまざまな素材とサイズで展開されている。どんなにシンプルに見えても、この時計を自分だけのものにすることができるのだ。

 わたしのお気に入りは一辺が27mm径の、SS製のミディアムサイズだ。RGも美しいが、SSのほうが汎用性が高く、カルティエの最も人気のあるモデルになりそうだ。価格は4600ドル(編注:当時の販売価格は税込で51万300円)と、カルティエウォッチのなかでは低価格帯の部類に入る。

cartier de panthere on the wrist

ミディアムサイズのSS製パンテール ドゥ カルティエは、合わせるものによってカジュアルにもドレッシーにもなる。

 手首に巻いた感触は最高だった。それほどシンプルだということだ。スポーティで洗練されており、エレガントで着用しやすい。これをつけてテニスをしたり(そうできるよう心の準備をしている。このような時計はそう扱うべきだ)、あるいはあまり招待されないブラックタイのガラパーティに出席したりする自分が目に浮かぶ(メットガラ、君のことだ)。この時計と一緒にいる時間が長くなればなるほど、当初発表されたときに人気を集めていた理由がわかった。

Panthère de Cartier steel

リューズのサファイアカボション、先の尖ったリューズガード、ケースのカーブなど、ちょっとしたディテールがこの時計の特徴である。

 先ほども言ったように、ブレスレットがこの時計の魅力の50%を占めている。見た目ももちろん素晴らしいが、つけやすさも重要である。リンクがどのように配置され、またどう相互に接続されているかによって、ブレスレットは手首を挟むことなくフィットし、さらにクラスプの近くにあるスクリューネジでリンクを簡単に調整できる。デプロワイヤントクラスプはオリジナル同様見えないようになっており、片手で簡単に外すことができる。唯一の不満は、ブレスレットのエンドリンクがラグの端ではなくケースに接続されていることだ。これによりラグがほんの少しはみ出し、奇妙な出っ張りができることもあるが、たいしたことではない。

panthere de cartier up close

ダイナミックなSS製ケースとクラシックな文字盤をクローズアップ。細部にまでこだわりが感じられる。


競合モデル

 では、SS製のパンテール ドゥ カルティエに対抗できる時計は、ほかにどんなものがあるだろうか。いくつか候補がある。一番わかりやすいのはカルティエ タンク フランセーズだろう。

large cartier tank francaise

SS製のカルティエ タンク フランセーズ ラージ。

 タンク フランセーズも、ブレスレットが付いたカルティエのスクエア(のような)型SS製ウォッチという意味で似ている。その美しさは熟練された目には審美的にまったく異なるかもしれないが(サテン仕上げ、重厚感のあるブレスレット、レクタンギュラーケースなど)、明らかに同じ系統のものである。しかし、これらの時計は主に審美的な理由で人々に販売されており、その点では、誰かがどちらか一方を望む例がたくさんある。手首につけてみると、タンクとパンテールはまったく違って見え、後者のほうがずっと女性らしい。なお、ミディアムサイズのSS製タンクの価格は3750ドル(当時の相場で約40万7000円)で、同等のパンテールは4600ドルだ。結局のところ、これは個人のスタイル(それと850ドル)にかかっているということだ。

rolex oyster perpetual 36mm

ロレックス オイスターパーペチュアル 36mm。

 市場に出回っていて、パンテールに対抗できるもひとつの時計は36mmのロレックス オイスターパーペチュアルだ。オイスターパーペチュアルはパンテールよりもはるかにスポーティで、価格も5400ドル(当時の相場で約58万7000円)と高いが、SS製ブレスレットが付いたデイリーウォッチとして、役割を簡単に果たすことができるだろう。この時計はまた、自動巻きムーブメントとロレックスの名前の両方をもたらすが、どちらも特定の顧客にとっては明らかに状況を一変させるものだ。

rolex lady datejust

SS製のロレックス レディデイトジャスト 28mm。

 よりいい比較は、2017年のバーゼルワールドにて、3つの新しいバージョンで再発表されたSS製レディデイトジャスト 28mmかもしれない。ピンク文字盤とローマ数字のSSバージョンは、パンテールの繊細な女性らしさに近づくかもしれないが、これもまたカルティエ特有の美学とはかけ離れている。希望小売価格は6300ドル(当時の相場で約68万5000円)と、価格帯も高めだ。

 これらの比較が少し異例で、直接競合しているように感じられないとしたら、それは本当に競合するものが何もないからである。SS製のパンテールはほかでは見られないカルティエのスタイルがすべて詰まっている。正直に言うと、カルティエの時計が欲しい人のほとんどは、カルティエの時計だけが欲しいのだ。人々が購入しようとしているのはスタイル、ブランド、そして歴史なので、ほかのものでは満足できない可能性が高い。


最終的な考え
Panthère de Cartier steel medium bracelet

パンテール ドゥ カルティエは、特定の市場に向けていかに時計を製造するか、そしていかにそれをうまくやれるか、研究したモデルである。

 1983年に発表されたパンテール ドゥ カルティエは、当時のほかの市場と比べて高級な時計であったことは、大きな反省点のひとつだ。今日に至っては、まったく同じ時計が同じ業界でほぼ主流になっている。さらにパンテール ドゥ カルティエが最も得意とするのは、特定の購買層にアピールすることである。これらの購買層は時計マニアではないし、ハイエンドムーブメントを搭載しているか気にしているわけでもない。さらに言うと、一般的なレディスウォッチのほとんどには興味すらないかもしれない。ただ、だからこそ、こんなに楽しんでつけられたことに驚いたのだと思う。女性用の機械式時計が不足していると何年も文句を言っていたわたしだが、今回、27mm径のレディスクォーツウォッチを手にして、それが大好きになった。

 パンテール ドゥ カルティエは優れたデザインと装着性が、勝負の半分以上を占めていることを再確認させてくれた。これにはカルティエも理解を示しており、すべての製品に応用していることである。これは明らかに有効な戦略だ。わたしは昔からカルティエの大ファンだが、パンテール ドゥ カルティエはそれを強固たるものにしてくれた。そう感じているのは、わたしだけではないと確信している。

パンテール ドゥ カルティエの詳細については、カルティエ公式サイトをご覧ください。

写真:ミディアムのRGは2万1200ドル(当時の販売価格は税込で255万9600円)、スモールのツートンSS&YGは7350ドル(当時の相場で約80万円)、ミディアムのSSは4600ドル(当時の販売価格は税込で51万300円)。