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2人の男性が同じ町で同じ日に、同じ種類の時計を買ったが、1人は95万ドル多く支払った - より良い取引をしたのは誰?

先日面白い出来事があった。2人の男性が同じ生産年のダイヤルのタイプも同じ - 実際にシリアルナンバーも17しか離れていない - ピンクゴールドのロレックス Ref.6062を、同じ町で同じオークション形式に則り、ほんの数時間差で購入した。その何がおもしろいのか? 2人のうちの一方は、もう一方より94万9250スイスフランも多く支払ったのだ。なぜか? 一見して片方がより優れたコンディションであったからである。このストーリーで、私はこの2つの落札の詳細を紹介し、みなさんに、時計を愛する人々に問いかけたい。この話に納得できるだろうか? オリジナルを保った時計は修理された時計の3、4倍の価値があるのか? この点について一緒に探ってみよう。

※本記事は2015年11月に執筆された本国版の翻訳です。

 私が週に3回以上の頻度で個人的に受ける質問がある:「サブマリーナーの5513に対していくら払うべきか?」

 この質問に答える際に6つ未満の注意点しか添えないとしたら、質問者だけでなくヴィンテージウォッチ界にも損失を与えることになる。近年のホワイトゴールドのフチが付いた5513についてなら、答えは1つだ。だが、初期のマットダイヤルであれば答えは違う。ギルトダイヤルについても別だ。アンダーライン入りもまた別であり、軍支給品の5513なら、またさらに変わってくる。エクスプローラーダイヤルも別だ。おっと、それにこれらのどれもが箱とギャランティ付きのNOS(ニュー・オールド・ストック)であれば、3倍の価値があることもある。このように、ヴィンテージウォッチの特徴は時計の全カテゴリーに対する“市場価格”が存在しないことで、これこそが初心者のウィンテージウォッチ愛好家の方々に最初に理解してほしいことなのだ。そして、そのために今回は2015年11月8日にジュネーヴで起こったことをお伝えするのであり、人々がそもそも確立不可能な一般的想定を求めたりしないように、このマーケットがどれだけワイルドであるかを示したい。ただその前に、こういった出来事がなんら新しいことではないということもお伝えしておこう。下の2つの時計は2011年12月に私が書いた、今回とまったく同じような出来事を伝える記事からのものである。 

Rolex Stelline Ref. 6062

この写真は2011年12月のもので、この時、2つの“同じ”ロレックス 6062が48万ドル(約4960万円)の価格差で売却された。


11月8日にジュネーヴで起こった面白い出来事

 では、本題に移らせてもらおう。

 あなたは、ロレックス最高の時計 -  おそらく20世紀におけるロレックスデザインの最高峰 - といえるRef.6062 のトリプルカレンダー ムーンフェイズを探しているとする。そして“ステッリーネ(Stelline)”と呼ばれるスターダイヤルのピンクゴールドに心を決めているとしよう。さて、そうなるとあなたは幸運であったといえる。なぜならば、ひと月の間にジュネーヴ オークションで、その時計が2本出品されたからだ。書類の上では、この2本は同一で、実際のところ、シリアルナンバーにしても17しか離れていなかった。しかし、そのうちの1本は126万5000スイスフラン(約1億5465万円)、もう一方は31万5750スイスフラン(約3860万円)で売却された。なぜこんな価格差があるのか? 94万9250スイスフラン(約1億1605万円)、つまり100万ドル程もある。それはなぜか? これは昨今の価格設定の格差を示すほんの一例であるが、ここから少しでも何かを学んでもらえるように、今から簡単にその説明をしてみたい。よりよい取引をしたのはどちらの購入者か? 正直に言って、時計収集の今後がどうなるかによって、その答えはどちらでもあり得るかもしれない。

ロレックス 6062 ステッリーネ シリアルナンバー788634 – 31万5750スイスフラン 2015年11月8日午後
Rolex Stelline 6062 Pink

このピンクゴールドの6062は、アンティコルムにおいて約32万ドル(約3310万円)で売却された。

 2015年11月8日にジュネーブで先に売却された6062について見ていこう。その時計は疑いなくロレックスのスターダイヤルをそなえたピンクゴールドの6062であり、その日のアンティコルムオークションに出品された。全体的に時計そのものの見た目は全く悪くない。 この時計が少しおかしい可能性を示す唯一の点はダイヤルの大きな夜光ポイントであり、夜光が塗り直されたことを示している。

Rolex Stelline Ref. 6062

大きくて顕著に鮮やかな夜光ポイント。この時計が手直しされたことを示している。

 多くのコレクターにとって - とりわけ何千万円もするような、コンプリケーション ロレックスのマーケットに参加するコレクターにとって、夜光塗料の塗り直しは重大な意味をもつ。実際、私が知っている熱心なコレクターの多くは“夜光の塗り直し”と聞いた途端にどんな時計にも背を向けるだろう。

 この時計の他の部分は、確かにミントコンディションではないが、良好なコンディションに見える。オークションの結果は31万5000スイスフラン(約3685万円)以上の値が付き、どう考えても時計の値段としては大金だ。しかし、同じ日にこの後、 車でほんの13分ほどのところで、 これと全く同じに見える時計がおよそ4倍の価格で売却された。

ロレックス 6062 ステッリーネ シリアルナンバー788617 – 126万5000スイスフラン 2015年11月8日夜
Rolex 6062 Stelline Phillips

126万5000スイスフラン(約1億4800万円)で売却されたオリジナルダイヤルを備えたフィリップスで売却された6062。

 2夜にわたるフィリップス オークション2日目の夜には、素晴らしい最高級のコンプリケーション ロレックスが数点揃っていたが、ここで紹介しているPGの6062がハイライトとなった。またも、PGケースにスターダイヤルをもつ1951年製のロレックス Ref.6062が登場したのだ。こちらはケースと同じPG製のブレスレット付きであり、その点に数千ドル以上の価値を認めることができるが、しかし、それ以外はフィリップスに出品された時計とアンティコルムのものは同一である – 書類の上では。

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Rolex Stelline 6062 pink

はっきりと見えるケースの刻印。

Rolex Stelline 6062

完璧にシャープな状態を保つラグ。

 なんと、フィリップスの時計とアンティコルムの時計は、同じ年の同じ製造ロットで作られたものだった! この2つの時計はケースのシリアルナンバーによると、たった17本違いで製造されたものである。しかし、フィリップスのそれは、その“クオリティ(コンディション)”によって特別なものとなり、そのオリジナリティによって100万ドル(約1億円)以上の価値を見いだされ、売却されたのである。

Rolex 6062

フィリップスの6062における、小さいがオリジナルの夜光ポイントに注目。

 素人目には、アンティコルムの6062のダイヤルには、前述の通り、大きな丸い夜光ポイントが付いており、このフィリップスの時計よりも状態が良いように見えるかもしれない。フィリップスの時計の夜光ポイントは小さく、色褪せていて、傷が付いている部分もある。しかし、ご承知のように、こちらが本来のオリジナルの姿であり、それがこの時計が100万ドル(約1億円)以上で落札された理由の一部なのだ。

Rolex Stelline Ref. 6062

本来のケース仕上げとオリジナルのリューズに注目。

 さらに、この時計の来歴が明らかであることは、時計にどんな手が加えられているのかという潜在的な買い手の不安を大いに和らげるのに大いに役立っているということだ。アンティコルムのほうは、いつどこでこの大きな夜光ポイントが付け足されたか、他にどんな手が加えられているか、そして、誰の手によって行われたのかといった来歴が多かれ少なかれ謎に包まれているが、一方、こちらの6062は2人のオーナーに所有された。この時計は最初に半世紀以上にわたって傷の付かない状態で保管され、それから2004年にクリスティーズで売却(36万3808ドル(約3760万円)で落札)した家族と、そこでこの時計を購入した男性か女性がオーナーである。11年前にクリスティーズで購入されて以来、この時計はほとんど着用されずに安全に保管され、ジョン・ゴールドバーガー(John Goldberger)氏が著書『100 Superlative Rolexes(100本の最上級ロレックス)』(彼のコレクションをご覧になるにはこちらをクリック)に載せる写真を撮るという目的のためにだけに金庫から持ち出されたと伝えられている。PG製のブレスレットは、この直近の11年の間に付けられたものだ。

Rolex Stelline Ref. 6062

 さて、ここに2つのとても似通った時計 - 書類の上では同一の - 時計がある。それらが同じ日に同じ町で、同じ形式で販売され、約95万スイスフラン(約1億1110万円)の価格差が付いた。一方は夜光塗料が塗り直されていて、背後情報は謎に包まれており、もう一方は全く手を加えられておらず、来歴が証明されている。この価格差は妥当だろうか? それともフィリップスの時計は心配性のバイヤーとフィリップス オークションへの信望によって価格が跳ね上がったのか? ちょうど3年前に、1本の素晴らしい時計が59万ドル(約6095万円)で、PGケースの6062の世界最高額を記録したが、この3年間で相場が2倍になったということだろうか?

“クオリティ(コンディション)”は、
    時計の価格を指数関数的に増やすに値する要素か?
       昨今のマーケットにおいてはそのようだ。
     しかし、それはいつまで続くだろう?

 さらにまた、 アンティコルムの時計を購入した紳士は、もしかすると人々の中でもっとも賢かったのか、それとも愚かだったのか? 考え方によっては、もし本当にこの2つの時計の違いが夜光塗料の塗り直しだけならば、彼はお得な買い物をしたのかもしれない。しかし、別の見方をすれば彼は愚か者である。というのも、この先彼が持つステッリーネの6062を欲しがる人が果たしているだろうか? 時計収集のこのところの方向性を考えると、率直に言って分からない。

 ここで紹介したように、高値がつくのは新品同様のオリジナルを保った時計であり、A+以下のクオリティ(コンディション)はほとんど無価値としてことごとく敗北することになる。もちろん、本当に価値がないというわけではないが、売るのは難しくなるだろう。時計の“クオリティ(コンディション)”は、31万5000スイスフラン(約3685万円)の時計を、120万スイスフラン(約1億4020万円)の時計にしてしまうほど重要なのだろうか? 昨今のマーケットでは、明らかにそうである。こういった状況について私が恐れているのは、これが長くは続かないかもしれないということだ。フィリップスの時計は、本当にアンティコルムの時計の4倍の値打ちがあったのか? 常に最高のクオリティ(コンディション)にお金をかける。しかし、明確なコンディションの違いがあるにしても、2つのとても似通った時計がある場合、どこまで高値を付けるかについては、よく考える必要があると思う。

 新品同様の時計と、いうなれば、それ以外の全ての時計の間にあるこの大きな格差に関するさらなる記事を今後数週、数カ月の間に書きたいと思う。なぜなら、私はこの件に心を奪われ、そして恐れているからだ。

読者の皆さんにお聞きしたい。
      どちらがより良い買い物をしたと思うだろうか
    – 11月8日の午後にピンクゴールドの6062に31万5000スイスフランを支払った男性か、
   それとも11月8日の夜にピンクゴールドの6062に126万スイスフランを払った男性か?