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Historical Perspectives ロレックス オイスターブレスレットはマニアックな魅力に満ちている

見落としがちなブレスレットへの理解が深まれば、ヴィンテージ・ロレックスの真価を見抜く鍵となるだろう。

数十年間の歴史しか持たないステンレススチールブレスレットを唐突に取り上げて書く気になったのはなぜか? それは、私がオイスターブレスレットとエンドリンクがロレックスの歴史を語る上で重要な役割を果たしていると考えるからだ。その影響力は、同社の防水ケースと比肩するほどだ。

 ロレックス オイスターブレスレットのシンプルなデザインは実用時計であるサブマリーナーやGMTマスターと見事に調和する。腕に巻くと装着感に優れ、一見チャチなクラスプは驚くほど完璧に開閉する。しかしながら、私たちが今日目にする非凡なオイスターブレスレットが最初から存在したかのようにみなすのは間違いである。

 その作りは小さな改善の不断の積み重ねの集大成なのだ;ロレックスはオイスターブレスレットが考えうる限り機能的にするために忍耐強く試行錯誤を繰り返しており、マイナーチェンジに至っては数年間でほとんど見分けがつかないほどだ。それゆえに、ブレスレットそのものが、細部にこそ本質が宿ると信じるロレックスの企業文化を体現しているといえる。

 私にとってヴィンテージと現行ロレックスはどちらも、一見シンプルなこのパーツの特徴からその年代を特定することができるので、マニアとしての好奇心を満たすことができる。

ゲイ・フレアー社のヴィンテージ広告にはオイスターに酷似したブレスレットが紹介されている。

 オイスターブレスレットの歴史は、ロレックスが製造したわけでも同社のオプションとして提供されたのではないという点で、ある種皮肉に満ちている。1930年代初め、ブレスレットは高価な後付けオプションで、その価格は時計の半額に達することすらあった(ツートーンのロレックス インペリアルなど)。

 ロレックスの初代のブレスレットは、当時ブレスレットサプライヤーとして有名なゲイ・フレアー社が手掛け、同社は後年オーデマ ピゲ 初代ロイヤル オークのブレスレットやゼニス エル・プリメロの穴の開いた特徴的なリンクブレスレットを手掛けたメーカーとして、よりよく知られている。当時は下の画像左端のような細いリンクが並列したボンクリップ型のブレスレット(英国Bonclip社がオリジナルの、別名“バンブーブレス”)が一般的であった。

 興味深いことに、多くのサプライヤーが同じようなブレスレットを量産していた中、ロレックスは1930年代から1940年代にかけて供給先を一本化していた。当初からロレックスの優れたブレスレットメーカーとして供給を続けた同社は1998年にロレックスに買収され、製造工程の円滑化のためにサプライヤーを買収するロレックスのやり口を内外に知らしめた。この経営戦略はロレックスの生産規模を知れば誰もが納得できるものだ。生産規模が大きく投資できるほどの余裕があれば、なおさら理解できるだろう。

オイスターブレスレット以前のモデルから無垢リンクの最新型まで左から右に時代ごとに並べた。

 同じく上の写真から、ブレスレットがオイスターへ徐々に移行したことが読み取れるだろう。ボンクリップ型の隣にはオイスターブレスレットと外観がほとんど変わらないながら、センターリンクがダブルになっている見慣れない型がある。

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 これらはオイスターブレスレットの前身にあたり、1947年2月に特許が取得され(念のため特許番号は257,185)、ロレックスの1948年のカタログに初登場した。しかし、ロレックスにとって初の自社製ブレスレットというわけではなかった。その栄誉を手にしたには、1945年に登場した新ライン「デイトジャスト」に装着されたジュビリーブレスレットである。

 当初、オイスターブレスレットは通称“バブルバック”とクロノグラフ向けに用意されており、ロレックスの製品群の中では革ベルトのオプションがまだまだ幅を利かせていた。オイスターブレスレットのデザインと構造は事実上10年間変化がなく、その間モデルの半数が対応したが、1952年には革新的なブレスレットが登場した。それまでのオイスターベルトはエンドリンクが直線状であったのだが、特許番号303,005ではようやく私たちに馴染み深い、賞賛されるべきエンドリンクに息吹が吹き込まれた。

エンドリンクはオイスターブレスレットがケースと一体化しているように見せることに一役買っている。

 エンドリンクは腕時計が完璧であるために“必要だが欠けている部品”と考える向きもあり、ブレスレットとケースの間の空間を埋めることで、その一体感を高める効果がある。もちろん、ロレックスに期待するような実用上の機能としても、バネ棒にかかる負荷を軽減し、外れてしまうことがないよう負荷を分散させることができる。驚くに値することではないかもしれないが、エンドリンクを出荷時に装着した最初のモデルは1954年にローンチされたGMTマスター Ref.6542であった。

 この選択は、そのすぐ後にエクスプローラーとサブマリーナーに搭載されたことからも分かるように、オイスターブレスレットが持つスポーティさを強調するものであった。ロレックス GMTマスター Ref.1675が新型のジュビリーブレスレットを与えられるまでの10年間、オイスターブレスレットはスポーツロレックスに与えられた唯一の選択肢であった。

3世代のオイスターブレスレットの比較。最上段はリベット付き、中段はステンレス板を折りたたんだもの、下段は無垢材。

 1950年代前半移行、オイスターブレスレットはメジャーアップデートを繰り返し、その内容は耐久性を向上させるために厚みを増したことだったが、基本的な機能は当初の設計思想から揺らがなかった。

 第一世代の型は折り込まれたリンクの中空を留めるため側面にリベットが打ち込まれたことから、一般に“リベットブレスレット”と呼ばれた。次に世代の型は“フォールデッド・リンクブレスレット”と呼ばれるステンレス板を複数回折りんだ重厚なリンクが特徴的だ。

 これらのブレスレットではピンは内蔵されていて、側面から目にすることはできない。最新型は最も厚く、無垢材から削り出されたリンクを持つ。現行型のロレックスで今日私たちが目にする標準的な仕様はこれに該当する。

リベットリンクはかなり薄いが、現行型の無垢材リンクと比べると脆弱だ。

 機能性はロレックスに冠たる価値観である―仕様変更は外観上の理由ではなされないのだ―ブレスレットのリンクは簡潔であればあるほど、長期間の厳しい環境下にも耐えうる。忘れてはならないのが、ブレスレットが壊れると、時計そのものを失ったり壊してしまうことだ。ブレスレットの耐久性が時計の死活問題に不可欠であることを理解しているがゆえに、ロレックスはそこに固執するのだ。

 余談だが、オーバーホール時にロレックスが最新の部品に“アップグレード”してしまうことは、同社のこの姿勢をよく表しているといえよう(オリジナルの状態を維持したいヴィンテージファンにとっては絶望を招くことではあるが)。

どのブレスレットの型式も取り付けられるケースにマッチするようにエンドリンクの形状が異なる。

 ロレックスのブレスレットのあらゆる世代を見ると、細部に渡るこだわりを活用して、かくも膨大な生産量をさらに加速させていることが分かる(年間生産量は100万本と見積もられている)。成り行き任せで製造されていないがゆえに、オイスターブレスレットは世代ごとに特定のリファレンスナンバーがブレスレットの末端のリンクに打刻されており、世代に加え、エンドリンク幅のサイズごとに採番されている。

 例えば、Ref.7206は20mm幅のエンドリンクのリベットブレスと合致するが、同じリベットブレスレットで19mm幅のエンドリンクはRef.7205といった調子だ(忘れてはならないレディース用13mm幅はRef.7204だ)。

クラスプにはブレスレットの製造国・製造年が刻印される。

 ことをやや複雑にするのは、各モデルにスモールサイズがいくつか存在したことで、これはしばしば製造国の都合で生じた。関税を回避するため、多くのブレスレットがアメリカ合衆国(“C&I”)かメキシコ(“Hecho en Mexico”)で製造された。初期のリベットブレスレットは2タイプ用意され、一方にはエクスパンション機構が搭載された(くどいようだがエンドリンク幅毎にRef.6634/6635/6636)。この機構は通常の固定リンクと比較して脆弱であることが早々に証明されたため、短命に終わった(脱毛器並みに腕の体毛を巻き込む問題もあったことは言うまでもない)。

エクスパンション・リンクは机上では素晴らしいアイデアであったが、実際には脆かった。

 新世代のフォールデッドリンクは1960年代後半に登場し、Ref.7834/7835/7836(サブマリーナー用にRef.9315、後年には派生型がさらに登場)と銘打たれ、エンドリンクは新ケースと新ブレスレットによりフィットするよう工作精度が向上した。さらに、この部品は固有のリファレンス番号を持つことで、ブレスレットとエンドリンクの組み合わせが取り付ける時計に適合するかを確認することができる。精密なフォールデッドリンクはリベット構造より強靭であることが証明されたが、徐々に無垢材のリンクに置き換えられていった。

 その新型ブレスレットは先代のフォールデッドリンクと同じリファレンス番号が付与されたが、末尾にゼロ桁が追加された(20mm幅のオイスターブレスレットはRef.78360といった調子だ)。無垢材で作られたブレスレットは全面サテン仕上げも、デイトナやGMTマスターⅡのようにセンターリンクが鏡面仕上げされているものもあり、私たちには馴染みのある仕様である。

 当然ながら、オイスターブレスレットには数多くのコピー品が存在する。公平に言えば、デザインそのものもロレックスに完全に帰属するとは言い難い。しかし、過去70年間において、オイスターブレスレットはあらゆるスポーツウォッチのブレスレットの指標であり続けた。例えばロイヤル オークのブレスレットのようなデザインの方がより洗練されているという議論もあるだろう。しかし、機能先行型の腕時計用ブレスレットでオイスターを凌ぐものを見出すのはやはり困難だ。それが存在するとすれば、007にとって理想的と言えるものだろう…。

改良型クラスプのオイスターブレスレットを装着した通称「ペプシベゼル」のGMTマスターⅡ。

 ブレスレットのリンクの細部から目を逸らすことは妥当ではない。なぜなら、ロレックスはリンクの耐久性は重要な要素であったものの、それだけに焦点を絞ったわけではなかったからだ。上述した進化の数々と並び、エンドリンクそのものも厚く頑丈になった。最終形は現在の無垢材が旧モデルのフォールデッド構造に取って替わった。この仕様変更はサブマリーナーのよりタフな兄弟機であるシードゥエラーに最初に適用された。

 現在は無垢材のエンドリンクはロレックスの貴金属/SS製ブレスレットの標準仕様となり、ラグホールを貫通するバネ棒の取り外しがより容易になった。繰り返しになるが、真の目的なしには何も為されないのである。

クラスプには克明にロレックスのロゴがプレスされている。

 顕著な進化はクラスプにも及ぶ。2枚のカーブした板を重ね合わせる方式は、そのシンプルさから効率的ではあったものの、強い衝撃には予期せず外れてしまう懸念があった。それはツールウォッチとして理想的といえないことは明白だ。ツールウォッチは生来、厳しい環境に晒されることを想定しているからだ(Comexや英国陸軍から受託したダイバーズウォッチのことを思い出して欲しい)。
 そこで、サブマリーナーとシードゥエラーには1969年に基本的なフォールディング機構にロック用の留め金が追加された独自のクラスプが与えられ、さらにはダイバーズスーツ用のエクステンション機構が内蔵された。

 推測の域を出ないが、サブマリーナー用の7836に強固なクラスプを追加した9315/9316(後に無垢材の93150)がオイスターブレスレットモデル専用ライン誕生の契機になったのではないだろうか。ちなみに現行型のクラスプには“グライドロック”微調整機構を追加したサブマリーナー用の93250が存在する。

ロレックスの弟分としてチューダー サブマリーナーもオイスターブレスレットの進化の恩恵を享受する。

 思いつきの製品開発とは程度遠いロレックスの、オイスターブレスレットに対する数十年に及ぶ絶え間ない注力ぶりは、同社の時計をよりよくするため、小さくもあらゆるスペックを向上させて限界を突破する姿勢を如実に表している。こうした進歩主義が時として、ヴィンテージウォッチに見られる魅力的で些細な奇抜さを犠牲にしているという議論もあるが、結果として客観的に時計がより良いツールウォッチになったことに疑いの余地はないし、未来永劫その評価は変わらないだろう。

オイスターブレスレットのシェイプと高い質感は、構造の全く異なる3世代でも共通する。

 下のチャートのリファレンス番号の列挙の裏側で、これらのブレスレットはロレックスの知られざる横顔を明らかにしている。すなわち、同社のプロダクトデザインの精巧な縮図という側面である。機能性の重視は1950年代以降、ブレスレットと時計の外観と質感をゆっくりと形成しては変更が加えられた。同時に、最新型のブレスレットが初代から脈々と受け継がれていることを感じさせる所以である。


ヴィンテージ・オイスターブレスレットのリファレンス番号毎の内訳

ライターより:この記事のために美しいヴィンテージブレスレットを提供してくれた時計ディーラーSheartime様に感謝の意を表します。